諸外国の少子化対策とあるべき少子化対策を考える

はじめに

日本社会の課題は少子高齢化という論調が多い。しかし、少子化は悪いことか、高齢化は悪いことか。出生後1年未満の死亡率が高い状況では子孫を残すためには多くの子供を残す必要があったかもしれないが、衛生環境、医療環境、教育環境の整った日本では多くの子供を産んで育てるのはメリットよりもリスクが大きいと考えるひとが増えるはある種自然なことではないだろうか。また、高齢化ではなく長寿化と呼ぶべきだ。長く生きたい、死にたくないというのは人が持つ普通の願望であり、それが実現した社会なのではないか。ここでは少子化は問題なのか、少子化対策をどうあるべきかを諸外国の事例を交えて考えてみたい。

少子化は問題か

AIの役割

技術の進歩に伴い多くの仕事はAIが代替できるようになるという予測がある。それに一喜一憂してもしょうがない。人間がしなくても良いような仕事、機械的に繰り返すような仕事、危険を伴うような仕事はできるだけ自動化し、AIやロボットで代替できるなら推し進めれば良いのではないかと思う。50年で壊れるようなインフラを整備するのではなく、古代ローマ・ギリシャのように数千年は大丈夫という長寿命なインンフを整備すべきだと思う。メディアアーティスト/研究者である落合陽一は、「多様性が1つの戦略となる」と2019年2月13日に開催されたAIカンファレンス『THE AI 3rd』において示唆している。

給料はあげるが人件費はあげない

アイリスオーヤマの大山健太郎会長の講演を聞く機会があった。その時に、ロボットの使い方の秘訣みたいなものがあるのかと質問したら、期待を超える回答があった。つまり、「給与はあげるが人件費はあげない。」ということだった。つまり、20年ほど前から中国の工場にはロボットを投入し、現在は7000台ほど稼働している。導入の理念が「賃金はあげるが、人件費は上げない」だった。工場の社員に対して工夫をしろと言うだけではダメだ。人の頑張りには限界があるが、アイリスオーヤマの中国工場の社員の賃金を毎年2桁ベースで上げている。それを支えるのが多機能ロボットだ。しかし、単にロボットを導入しても生産性を向上できるとは限らない。アイリスオーヤマの秀逸なところは、あらかじめ多機能ロボットを用意しておき、社員がロボットを活用して生産性を高めたら賃金をあげる。社員は賃金が上がるので、必死にロボットの活用方法を考える。用意したロボットでは不足と判断したらさらに高性能なロボットを投入する。社員はその活用を考える。その結果、社員の給料は上がるが、トータルの人件費は上がらない。アイリスオーヤマの多品種少量生産を支える経営はこんな社員の気持ちに寄り添った強かなロボット投資だった。生産性を高めれば賃金を上げるが、トータルの人件費は上げない。そんな好巡回を実現したアイリスオーヤマはやはり凄いと思う。

生産性を高める

少子高齢化に伴い働ける人口が減少すると心配する声が多い。しかし、日本人は元々働き者だ。江戸時代の引退(老衰隠居)は70歳だったという(藤井)。戦国時代の武将は戰で死ななければ長寿者が多い。江戸時代のベストセラー「養生訓」は貝原益軒が83歳の時に執筆した。江戸時代の老衰隠居は70歳だった。これまでのたとえば、20歳から60歳まで40年働くパターンから20歳から80歳まで働くパターンになれば働く人が3分の2になっても同じだ。これからは働き方も会社勤務だけではなく、自己の判断で自律的に働くような人も増えるだろう。元気だから働くのではない。働くから元気なのだというのは、高齢社のモットーだ。死ぬまで働けではなく、自分のため、社会のためにそれぞれができることに貢献するような働き方は、生き甲斐ややり甲斐にも通じる。農耕民族である日本人には違和感がないのではないだろうか。

先進事例

ロシアの少子化対策

1991年にソビエト連邦が崩壊し、ロシア連邦となった。1992年には1億4,800万人の人口が年間70万人のペースで減少した。このままでは2050年には1億1,000万人程度まで減少すると見られていた。1999年のロシアの合計特殊出生率は1.17だった。しかし、2012年には1.7まで回復したし、2014年には人口増に転じた。これはなぜだろう。死亡率が低下したこともあるが、母親資本の制度が功を奏したと言われている。母親資本とは、マテリンスキー・カピタルと呼ばれ、2007年に導入され、子供を二人産んだ家族には大金がもらえるという制度だ。大金といっても2015年当時で45万ルーブルなので、日本円では90万円程度だけど、ロシアでは少し田舎なら当時40万ルーブル程度で家を購入できた。つまり、浸り目の子供ができたら家を買えるほどの金額が支給され、家を買えるなら子供を産もうかという動機になったということだ。

フランスの少子化対策

立命館アジア太平洋大学の出口治明学長は、日本では上司が部下の女性に仕事を取るか赤ちゃんを取るかの2択を迫っていて、仕事も育児も両方必要に決まっていると主張する。そして、日本の重要な課題の一つは少子化による人口減少であり、少子化対策はシラク3原則に学ぶ必要があると指摘する。シラク3原則とは次のような原則だ。フランスではこの3原則で出生率が10年で0.4ポイント上昇して2.0の大台を回復したという。
原則1:女性が望む「本当に産みたい時に産める」支援。
原則2:保育所の待機児童ゼロ、少子化で小中学校を統廃合して、余った教室を保育園に。
原則3:育児休暇から職場復帰した人は留学と同様に賢くなって帰ってくるので、キャリアの中断やランクダウンは法律で禁止するという(出典)。

スウェーデンの少子化対策

スウェーデンは高福祉国家として有名だ。エリクソンジャパンのCTOを歴任した友人は何度も何度もストックホルムには出張して楽しんだようだ。スウェーデン国土は日本よりやや広いが、人口は約950万人、人口密度は日本の約19分の1だ。スウェーデンでは男女機会均等が出発点だ。その施作は多彩であり、結果として少子化を食い止めることに成功している(出典)。
スピードプレミアム:子どもを出産する間隔を短くすると優遇される制度。
・サムボ:事実婚、同棲制度
・父親専用の育児休暇と育児休暇の延長
・育児給付金:最初の390日は賃金の80%、残り90日は1日900円の定額給付
・育児休業取得率:女性で8割強、男性では8割弱


出典:三菱信託銀行

少子化対策の提案

学生時代に妊娠・出産

沖縄では20歳で出産して、母親の母親が育てる。子供が20歳になって出産したら今度は自分が育てる。そんな役割分担ができているので、沖縄は少子化問題がない。60歳で曾孫は珍しくない。良いのかどうかは別にして、経済的に安定する30代や40代になってから子供を産むのは生物的にはリスキーだ。それならば大学生の間に同棲して、出産して、子育てしながら学生として学び、卒業したらバリバリと働く。そんなライフスタイルをかっこいい、素晴らしいとすることができないだろうか。

就職・結婚・出産から同棲・出産・就職

つまり、これまでの価値観では学校を卒業して、就職して、良い相手が見つかったら結婚して、それから出産という順番だ。そうではなく、学生時代には、良い相手が見つかったら同棲し、避妊とかせずに生活を楽しむ。妊娠したら、中絶とかせずに出産する。育児をしながらの勉学は大変かもしれないけど、頑張って卒業したら就職するなり、フリーターで稼ぐ。生き方は人それぞれだけど、多様な生き方を許容する社会とそれを支援する社会になることだ。日本では摘出でない子の割合は1.93%と諸外国に比べて低い。大事なことは、シラク3原則の最初の「女性が望む本当に産みたい時に産める支援」かもしれない。留学生のための保育施設を整備する大学もあるが、そうではなく、学生のための保育施設を整備する大学が増えてほしい。

子供向けのベーシックインカム

ベーシックインカムとは、社会の福祉向上のために全ての人に一律の給付金を定期的に支給する制度である。少子化対策を目的とするのであれば、対象を子供に限定する方法もある。米国ジョー・バイデン大統領と、ミット・ロムニー上院議員(共和、ユタ州選出)は「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI、最低所得保障)」の導入を提唱している。ブラジルでは「ボルサ・ファミリア」と呼ぶ支援制度がある。イランには、「MINCOM(ミンカム)」という現金補助制度がある。ベーシックインカムが導入されたら少子化対策になるという短絡的な論法には抵抗があるが、少子化対策に絞った施策は検討の価値があるように思う。

まとめ

子ども笑顔を見ていると幸せな気持ちになる。近隣の子供が気軽に立ち寄れる駄菓子屋を備えた高齢施設がある。子供駄菓子屋に集まるのを見ているだけで高齢者の人たちは元気になると思うし、そこで色々な交流やお話ができれば、子供もお年寄りも幸せだと思う。出産件数は減少しているが、本来生まれるはずだった子供の数はあまり減っていないというショッキングな統計もある。つまり、戦後の人口増に対して、米国の占領下の沖縄を除いて、中絶が合法化された。その結果、沖縄では保育所が整備され、沖縄以外の本土は産婦人科が整備された。女性の直感は秀逸だ。女性が本当に産みたいと望む環境と社会にすることが大人の責務かもしれない。

以上

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