GCL情報理工学特別講義Iの第7回:ネット広告の現状とサイバーエージェントの躍進

はじめに

第7回のメディア概論は、サイバーエージェントの毛利さんによる「テクノロジーでクリエイターを拡張させる」だった。サブタイトルが(AI+CG)×クリエイティブ最前線という方程式になっていた。AIとCGを足したものに、クリエイティブ最前線を掛け合わせると何が起きるのだろう。内容がデジタル広告だったので、受講生からも活発な質問がチャットで出され、毛利講師からは丁寧に解説頂いた。インターネット広告(以下、ネット広告)の世界は黎明期から成長期に遷移しているけど、個人的には第二の黎明期に向かっているようなワクワク感を感じた。1時間と言わず1日中話を聞きたいくらいだ。なお、いつも記載するけど、これは講義メモではない。講義の中で興味を持ったことをネットや文献で調べて理解した範疇でまとめたものだ。なので、もし内容に問題があればその文責は自分にあり、もし内容がよければそれは毛利講師のおかげだ。今回の講義は非常に興味深い内容が多いので、次の2部構成とした。

その1:ネット広告の現状とサイバーエージェントの躍進  (⇨ この投稿)
その2:ネット広告へのサイバーエイジェントの継続的な挑戦(6月4日の投稿


(出典:MarkeZin

ゲスト講師毛利真崇

毛利真崇(まさたか)さんはサイバーエージェント(以下CA)のAI事業本部AIクリエイティブDiv統括としてまさにCAにおけるネット広告を第一線で牽引するホットなキーパーソンだ。このメディア論の中でも特に人気が高い講座と評判だ。2005年にCAに新卒入社され、広告代理事業の営業を経験した後、セントラルアカウントデザイン室を立ち上げて、広告プロダクトのアルゴリズム解析および運用設計、自動化ツールのプロダクトマネージャーを担当された。さらに、 2017年にAIクリエイティブDivを立ち上げ、AIや3DCGを活用した広告クリエイティブの効果予測や自動生成の研究開発を行われている。CAでは、2016年にAI Labを設立して、マーケティング全般に関わる幅広いAI技術の研究開発を進め、さらに2019年にはAI事業本部を設立して、AIによるクリエイティブ制作支援や効果予測などの新規事業を進めている。 クリエイティブ領域において、どのようにAIを活用するかがポイントだ。
(出典:Developer Conference 2022

サイバーエージェント

CAの経営状況を外観してみたい。

3つの基幹事業と四半期決算(2021年4〜6月)

少し古いけど、2021年4月から6月の四半期決算では、売上高が前年度比70%増の1,922億円、営業利益が前年度比5.4倍の445億円と堂々たる成績だ。事業のポートフォリオとしては、メディア事業、ネット広告事業、ゲーム事業の三本柱で成り立っている。中核事業は広告事業で売上高前年度比27%増、営業利益9.7%増と好調だ。躍進が著しいのは「うま娘プリティーダービー」などを提供し、売り上げが151%増、営業利益が483%増のゲーム事業だ。そして、個人的に大好きなABEMA TVなどを提供し、営業損失を38億円計上したが、売り上げが48.7%増と成長株のメディア事業だ。

(出典:Impress Watch)

2021年度通期決算

CAは1998年3月にインターネット関連の企画営業を主目的として設立され、広告営業代理業を開始する。2000年3月には、東証マザーズ市場に上場を果たす。2004年9月にアメーバブログ(現Ameba)を開始するなどメディア事業を本格化する。現在の本社は渋谷のAbema Towerであり、サイバーエージェントの本社機能、メディア事業、ゲーム事業が入居している。2021年9月期の連結売上高では6,664億60百万円と、連結売上高10年成長率約5.6倍を果たした。また、同期の営業利益では1,043億81百万円と下の図(右)に示すように大躍進だ。前述のウマ娘プリティーダービーなど継続したヒットタイトルの創出や高い運用力で絶好調が止まらない。この成長を支えるのは、従業員全員のクオリティにこだわり抜くマインドや協力しあえる環境だという。好循環で成長している企業に働きたい人は多く、優秀な人材を吸引して、さらに成長のエンジンとなっているようだ。

(出典:サイバーエイジェント

広告のビジネスモデル

広告(advertising)とは、不特定多数の人々を対象に、商品、サービス、アイデアなどの存在、特徴、有意性を知らせ、対象の行動を変更させることを目的として、広告主が料金を支払って行うマーケティングコミュニケーションである。広告は有料メディアや広告媒体を使用した商品・サービスなどの宣伝を指し、広報は組織からの一方的な情報発信である。広報は、企業とステークホルダーとのよい関係づくりを目的とする活動PRと同じ意味で用いられる場合もある。広告媒体は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、屋外広告やダイレクトメールなどの伝統的なメディアに加えて、Googleなどの検索結果、ブログ、ソーシャルメディア、ウェブサイトなどの新しいメディアを活用したものがある。CAは後者に特化したネット広告を生業としている。2015年の世界の広告費は推定5294億3000万米ドルに達したという(出典)。なお、広告は英語ではAdvertisingというが、これはラテン語で向かっていく「advertere」が語源だ。

(出典:Unistyle

メディア広告とネット広告

日本における広告費は、電通の調査によると、2021年には6兆7,998億円と前年比110.4%の増と堅調に回復基調にある。広告市場を牽引しているのはネット広告であり、2019年にはテレビを抜いて2.1兆円を超え、2021年には2.7兆円を超えた。この勢いはますます加速すると思われる。ネット広告に次いで存在感のあるのはテレビ広告であるが、2019年の1兆8,612億円から2020年にかけては減少したが、2021年には1兆8,393億円まで少し戻っている。それ以外の新聞、雑誌、ラジオは減少傾向にある。

(出典:メディアレーダー

クリック率

初期のネット広告といえばバナーだ。そして、バナーを表示して、それをクリックしてもらうことが目的だった。注目されたのがクリック率(CTR:Click Through Rate)で、ユーザーに表示された回数のうち、ユーザーがクリックした回数の割合を計算しする。広告の表示が1000回で、うち10回クリックされるとCTRは1%となる。CTR が分かればその広告の成果を測ることができる。1994年にウェブサイトHotWiredにAT&Tとして初めて掲載されたバナーのCTRは44%だったが、バナー広告はユーザーから敬遠される傾向にあり、消費者が求めるものを先取りして、さりげなく提供するようなスタイルに変革しつつあるように感じる。
(出典:Keyword Marketing)

広告のインターネット化によって変化すること

レガシーな広告は、基本的には予約型広告だ。つまり、月曜日の午後9時のドラマの広告枠を確保しようと競い、確保できれば、そこに流すコンテンツを考えて、展開する。一方、ネット広告は運用型広告と言われていて、もっとダイナミックだ。つまり、ある広告枠に対して予約(入札)を行うが、入札をしただけでは広告は掲載されない。例えばYouTubeだと、広告ランクの高い広告が展開される。広告ランクとは、入札単価と品質スコアの掛け算となるので、単に入札単価を高くしても、品質スコアが低いと広告ランクは上がらない。品質スコアを決める上で重視されるのがその広告動画を視聴完了するか、30秒以上視聴するかだ。この視聴率をあげることができれば、広告ランクが上り、表示回数が増え、それが好評ならさらに品質スコアを上げることができる。視聴者=消費者の属性がわかれば、性別、年齢、職業、住居地区等等で細かく計算してターゲットを絞り込むことも可能となる。

(出典:GLAD Cube

広告ランキング

YouTubeでの品質スコアは広告ランクは入札単価と品質スコアの掛け算と前述したが、これに広告表示オプションが加算される仕組みもある。品質スコアは、対象となるキーワードに対する評価を1~10段階で表す指標を指す。Yahoo!広告では品質インデックスと呼ばれている。具体的に品質スコアの決定要因を説明する前に、広告ランクの解説をします。広告ランクは、掲載順位を決定するオークションで用いられる値となる。

(出典:COMIX)

ターゲティング広告

レガシーな広告では消費者を絞ることが難しいが、ネット広告では可能だ。例えば、女性用の化粧品の販売ならターゲットは40代以上の女性となるかもしれない。高級なEVなら環境などへの意識が高く年収の高い男性かもしれない。ネットで北海道旅行と検索すると、北海道旅行の広告が即座に表示されて気味が悪いと感じることもあるけど、便利だと感じることもある。日本では肌の色はあまり問われないけど欧米だと肌の色は人種を特定できるので有効な要素だと言う。ターゲティング広告を進めることは広告主の観点からも無駄はないし、メディアの観点からも広告枠の価値が上がる。さらに消費者の観点からも有益な情報を入手できて便利だ。しかし、きめ細かかなターゲットを決めて、それぞれの消費者に刺さる広告を作るのは大変だ。

(出典:DDDI)

効果計測

対象とするターゲットに有効な広告なのかどうかを判断するのは、従来は広告主だった。しかし、最近は広告効果測定ツールで効果測定を予めシミュレーションすることが可能だ。新しい広告を出すときには、少なくとも既存の広告よりも効果があることが条件となる。そうでないときには、作り直しだ。効果が予想されるときには、広告主に対して自信を持って提案することができる。広告効果測定ツールを使い始めた頃は、このツールに対する信頼度が低く、写真よりもイラストの方がヒットしますと説明しても、なかなか信じてもらえなかったりした。しかし、事前のシミュレーション通り、もしくはそれ以上の効果が発揮すると、広告主も広告代理店の提案を信用してくれるようになるし、広告代理店側も広告主の期待を裏切らないように頑張る。CAが四半期に作成するクリエイティブ制作数はどのくらいだろう。なんと7万本以上という。CAとクライアント(広告主)との間には、お互いの想いを客観的なツールで評価しあいながら切磋琢磨する良い関係ができているように感じた。なお、下の図は2014年当時に発表したツールであるが、現在では極(きわみ)3兄弟の極予測シリーズに進化している。

(出典:InternetCom)

まとめ

サイバーエージェントのネット広告のエンジン部分を開発し、極予測シリーズに進化させてネット広告分野を牽引する毛利さんの講義は非常にわかりやすく、刺激的だった。気になるワードが多すぎてとても1回では終わらないので、2回に分けて投稿することにした。後半はCAの革新的なチャレンジと更なるチャレンジとした。乞うご期待いただきたい。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

参考:次回の内容
CAの革新的チャレンジ
極予測AI
効果改善実績
極予測TD
極予測LP
極予測LED
AILabで効果広告AIの開発
CAの更なるチャレンジ
CA無人店舗
CA ABEJA
店舗誘導
リアル行動ターゲティング
Digital Twin Label
広告素材のGANによる自動生成
Virtual Studio「カムロ坂スタジオ」
メタバースの取り組み=バーチャル店舗

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