はじめに
地球規模の温暖化に伴い、海水面の上昇が懸念されていることは昨日のブログで投稿した。2013年に発表された第5次IPCC評価報告書では2100年までに26cmから82cmの海面上昇が見込まれるとあった。日本の海岸堤防の多くは2-3mの高潮を想定している。しかし、全国の砂浜の9割は海面が1m上昇すると水没する懸念が高い。さらに、グリーンランドの氷床が消滅したら海水面は7m上昇するという試算もある(参考)。水没のリスクはどの程度あるのだろう。
50m水没した場合の中国・韓国・日本
あまり想像したくないが、仮に海進が進んで、海面が50m上昇した場合にどうなるかというシミュレーションが可能だ。これでいると日本では関東、中部、関西の湾岸部や平地の部分が水没している。朝鮮半島も西側の平地を中心に水没する。被害が特に甚大なのは中国だ。中国の北京、上海、天津、重慶などの大都市も水没している。流石に50mも海進が進むことは考えにくいが最悪の事態としては理解しておきたい。
(出典:海面上昇シミュレーションシステム、電総研)
縄文海進は現在の水面より5m上昇
縄文前期の6,000年前の平均気温は現在の気温よりも2度ほど高く、その結果、海面も現在より5mほど高かったという。仮に今後の温暖化により、水面が5m上昇したとすると縄文の時代に戻るようなイメージか。もちろん土地や河川の整備などをしているので、そのまま同じではないが、水害多発地域となる懸念は高い。関東地区だけではなく、東京湾、伊勢湾、大阪湾を中心に埋め立てた0m地域の面積は580平方kmに達し、約400万人が居住している。
(出典:Yahoo News)
増大する水害
労働安全衛生法では、悪天候を次のように定義している。そして、このような悪天候が発生するもしくは、予見されるときには作業の中断もしくは取りやめを定めている。悪天候時に作業を実施するとどうしても事故などが発生する。強風時などは特に要注意だ。
強風 | 10分間の平均風速が毎秒10メートル以上 |
大雨 | 1回の降雨量が50ミリメートル以上 |
大雪 | 1回の降雪量が25センチメートル以上 |
中震以上の地震 | 震度階数4以上 |
暴風 | 瞬間風速が毎秒30メートルを超える風 |
1時間降雨量が50mm以上の大雨は全国でどの程度発生しているのかというと、2020年には350回発生してる。1976年では200回ほどなので、75%程度の増加となる。これは全国1300ヶ所あたりの発生件数だ。
(出典:気象庁)
治山治水対策費用は削減傾向
日本における治山治水の対策費用は、1993年の約2.3兆円をピークに減少傾向が続いている。災害大国日本の安全・安心を維持・強化するには治山治水対策は必須だ。すでに異常気象が日常化している。国民の安全・安心を守るには、ますます治山治水が重要となるだろう。
(出典:Prof.Nemuro)
英米では増加傾向だが、日本では減少傾向
日本における治山治水関連の予算は前述の通り減少傾向だが、海外はどうだろう。例えば、米国や英国では、1996年を基準にして上下変動はあるが、増加傾向が見て取れる。頑張れ日本!
(出典:日本の未来を考える勉強会)
浸水面積は減少傾向だが、被害額は増加傾向
天変地異が増加するのに、地産地消の予算は低減傾向にある。別に予算が少なくても効率的・効果的な対策で実施できていれば問題はない。河川の堤防などの整備が進んでいるため、総浸水面積(青色)や宅地その他の浸水面積は低下傾向にある。これは素晴らしい。しかし、浸水による被害額は2004年には4360億円だ。これは1995年の1622億円に比べると約2.7倍の増加だ。このように被害額が増大する傾向にあるのは日本だけではない。地球の温暖化により、大型の台風や前線が停滞して大規模な洪水が発生している。洪水には、河川の堤防が決壊する外水型の洪水と、排水できずに水が溢れる内水型の洪水だ。これは特に新興国に多いが、沿岸部の河口を埋め立てて工業団地や住宅地を造成することの弊害が目立つ。水害に弱いだけではなく、水はけが悪いなって洪水が起きやすくなる。
(出典:国土交通省)
解決策
水害の原因には、集中豪雨や台風などによる水害と津波や海水面の上昇による水害が想定される。つまり、河川の上流からの水害と下流からの水害がある。
大規模堤防の整備
2011年3月11日の東日本大震災の津波対策として大規模防波堤が整備された。しかし、美しい海岸を復活するのではなく、まるで刑務所のような塀で囲まれた街になることには、地元でも賛成意見と反対意見が真っ向から対立した。環境省の快水浴場百選にも選ばれた気仙沼の小泉海岸には、高さ14.7メートルの防潮堤が計画された。総工費223億円だったが、その後総工費は494億円に倍増した。2014年7月の説明会では、豊かな自然こそが地域活性化につながると信じて計画の見直しを求めた高校生が防潮堤に反対したが、受け入れられず「後世のためと言いながら、若い世代の意見は聞いてもらえない」と悔し涙を流した。その後、背後地にはトマトの屋内栽培施設が稼働したり、海水浴場が再開するなど、高校生の主張はその後の計画に影響を与えた。防波堤は万全ではないし、上流からの洪水には無力なだけではなく、被害の拡大の懸念さえある。
(出典:nippon.com)
0m地区からの移動
京都は北が高く、南ほど低い。このため北に向かうことを上る、南に向かうことを下がるという。名古屋では、東側が高く、西側が低い。名古屋に単身赴任した時には、自転車で色々な場所をサイクリングした。自分はイケメンゴリラで有名な東山公園の動物園の近くのマンションだったので、駅前に向かうときにはずっと下りで、逆に帰るときにはずっと上りだった。結構傾斜も強かったが、電動アシスト自転車なのでへっちゃらだった。0m地域から高台に移動すれば良いと言うのは簡単だけど、高台のエリアは土地代も高い。このため、2100年時点でも水害の懸念のないエリアでの住居建設を推奨するための税制度や補助金制度などの体系的な施策検討と法整備が必要ではないだろうか。
高床式対策
沖縄に赴任していたときに気になったのは、ピロティ構造の家屋が多いことだ。伝統的な沖縄の家屋は天井が低く、石垣塀で台風からの強風に耐える構造だ。しかし、国道58号線沿線などで目にするのは高床の住居だ。つまり、1階部分は駐車場スペースとして、住居部分は2階や3階以上にする。それ以外にも水害に備えて水害防止パネルを整備することも有効かもしれない。
(出典:国土交通省)
河川の拡幅・引堤・川底の掘削
水害の予防は河川の整備に尽きる。具体的には①引堤、②拡幅、③川底の掘削だ。また、蛇行した河川を直線に整備すると流速が早まり、水害を拡大することが分かっているため、最近は逆に蛇行化する工事も行われている。住居エリアを確保することと河川の拡幅がトレードオフになりやすい。高度成長期には、前者が優先されるケースもあったが、今後の人口減少や水害の拡大を考慮すると後者を優先する方向に大胆に施策を切り替えることが望ましい。五大引堤と言われる利根川の整備では、行田、羽生、千代田、五霞村、川辺、利島村、新郷村では約23kmの区間で約100~200m引堤し、川幅を620~640m確保する工事を昭和24年度に開始し、昭和42年度に完了している。今後とも河川の整備は国家100年の計として推進する必要がある。
(出典:国土交通省)
全国姉妹都市構想の推進
日本は災害大国だ。どこでどんな災害が発生するかわからない。全国の都市は、海外との姉妹都市提携を進めている。コロナ禍で思ったような活動ができない自治体も多いだろう。しかし、今後の日本の強靭化のためには、例えば海岸沿線の都市と山岳地区の都市の提携や、都会の都市と田舎の都市の提携などで交流をもっと活性化する方法もあるだろう。東日本大震災で住居を失った人々が全国の町にお世話になった。もし、またどこかで災害が発生したら、今度はそういう住民を受け入れてお世話する。そんな恩返しや、恩送りの文化は日本の美徳だし、お互い様という気持ちをもっと制度面でも後追しできれば素晴らしいと感じる。
(出典:産経新聞)
まとめ
異常気象は日常化している。100年に一度、1000年に一度の災害が頻発することも日常だ。特に留意したいのは、海進が着実に進む懸念があることと、その自然への影響は緩やかではなく、過激に牙を向く時期があることだ。つまり、仮に1mの海進として、全ての海が静かに1m海進するわけではない。ある場所は数mの海進があったり、満潮時にはより高い高潮となって沿岸を襲うこともある。従って、河川や海岸に面するエリアに対しては、長期的な戦略と中期的な施策と短期的な対策の実施が必要だ。まだ、思いつきレベルだけど、国内姉妹都市提携をするような草の根活動も必要かつ有効な気がする。
以上
最後まで読んでいただきありがとうございました。
拝
P.S.首都機能移転
浅学菲才の身では論じるのもおこがましいが、2100年までの日本の状況を考えると、文化、経済、政治の主たるエリアは関東から別の場所にシフトすることも考えるべきと感じる。東京一極集中への不満から文化庁の京都市への移転など中央省庁の一部移転が模索されている。双京構想は実現するのだろうか。
(出典:note)