ヤマトHD山内会長の講演その2:大切なことは全社員が想いを共有し、自律的にイキイキと働くこと。

はじめに

前回は、宅配便業界の動向を概観した。今回は、12月13日に行われた米倉教授の講義の学生からの提案と、山内会長からの講演のポイントを概観したい。

その1:宅配便業界の動向(前回の投稿
その2:学生からのプレゼンと山内会長の講演(⇨ 今回の投稿)

学生からの提案

今回は3つのチームからの提案があった。ポイントのみを示す。

チームA:集配センタを拠点とする地域共生社会のご提案

ヤマト運輸が有する全国4000の拠点、4万台の車両を活用して、全国の過疎地における見守り支援「まごころ宅急便」をさらに地域に根ざしたサービスとすることを提案した。これはヤマト運輸の現在の戦略と合致するものだ。社会の課題を解決するという点では意義があるが、これによってどのように収益を上げるかというビジネスモデルをもっと具体化する必要性が指摘された。成功例ができれば、横展開も可能となる。大事なことはコンセプトとそれを実現するアイデアだ。

(出典:プレゼン資料より)

チームB:限界集落をLive&Liveで元気に

ものを中心にするのではなく、地域の人を中心に考えているのが良い。また、それぞれのふれあいに物語があると良い。自動化を進める一方で、その対極としての「人と人とのつながり」を重視するのは共感する。ただ、ライブ販売などを誰がやるのか?誰が事業リスクを負うのかが不明。提案した3名が起業して、プロデュースするぐらいの迫力が必要だとの厳しい指摘が米倉教授から示された。

(出典:プレゼン資料より)

チームC:運送から運想へ

ものを運ぶ企業から想いを伝える企業というのは共感する。ハート便やマイスター便、アバター便、コモネコステーションといったアイデアも示された。高齢化社会の中で人の移動を活性化することで明るく元気に生きる社会を創れないかという想いを学生から会長に伝えられた。

(出典:プレゼン資料より)

山内会長の講演

宅急便誕生までの困難

宅急便を始めたいと考えた小倉昌男社長(当時)は取締役会で葛藤したが、労働組合の支援で前に進めた。大口のお客さまと決別して、小口の多くのお客様のニーズに応えたいと考えた。しかし、行政との闘いが待っていた。そんな宅急便誕生までの困難を逆櫓理論を用いて説明いただいた。

運送から運創へ

ヤマトグループの基本戦略は次の3つという説明があった。一つ目はお客様、社会のニーズに正面から向き合う経営の転換、2つ目はデータに基づいた経営への転換、そして3つ目は共創により物流のエコシステムを創出する経営への転換だ。これを一言で言えば運送から運創へだった。

(出典:ヤマトホールディングス

YAMATO NEXT 100

ヤマトグループは、年間約21億個の宅急便、約5,000万人の個人向け「クロネコメンバーズ」、約130万社の法人向け「ヤマトビジネスメンバーズ」にご利用頂いている。2020年度の売上高は約1兆7,000億円、社員数は約22万5,000人、トラックなどの車両は約5万7000台、全国に約3,700の事業所があり、コンビニなどの提携取扱店約18万4000店の規模だ。ヤマト運輸の創業100周年を2019年に迎え、2020年1月に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表した。次の100年を見据えた基本戦略は、下の図の通りだ。
(出典:HRテクノロジー

8次NEKOシステム

今回の講演会では触れられなかったけど、ヤマト運輸の物流を支えるインフラの一つがこの羽田クロノゲートだ。素晴らしいとしか言えない。

Yamato Digital Academy

ヤマトグループではデジタル人材の育成へ向けてヤマトデジタルアカデミー(YDA)を2021年度よりスタートした。経営層を含む社員のデジタルリテラシーの底上げと、デジタル人材の早期育成を図るための教育プログラムにより全社を挙げてデータ・ドリブン経営の実現を推進する。これはまさに3つの構造改革の2つ目のデータドリブン経営への転換の狙いだ。
(出典:yamato-dx)

KURONEKO Innovation Fund

ヤマト運輸グループは、パートナー企業との連携も活性化する。このため、物流業界のDX推進に革新的な技術や熱い想いを持つ企業への投資や経営資源、協業創出を進めている。

(出典:yamato-dx)

EC向け新配送商品「EAZY」の提供

再配達の問題が一時期クローズアップされた。最近では玄関や自宅宅配ボックス、ガスメータBOXなどに置き止めする方法なども用意して、お客様に選択してもらうようにしている。個宅から個宅への配送と異なり、ECサイトでの注文に基づく配送の場合には、受け取り方法や受け取り日時の指定などもきめ細く設定できるようにすることで、利用者の利便性向上と配送効率の向上の両立を狙っている。

(出典:Impress

医薬品の宅配

ものを運ぶ場合にもお客様の要求条件は様々だ。安く配達してほしい。確実に配達してほしい。指定した時間に配達してほしい。通信の世界では、「スライシング」という技術を用いて要求条件を最適に満たす手法の研究が進んでいるが、運送においても必要に応じてドローンを活用するなど新しい仕組みの導入への挑戦は欠かせない。

(出典:ヤマト運輸

サステナビリティへの取り組み

SDGsへの取り組みは、企業経営の中心になりつつある。日本ではまだまだ化石燃料に依存した発電体制である。そのような中で電気自動車(EV)を導入することのみで目的は達成できない。社会活動をトータルに捉えて、CO2の排出実質ゼロを2050年に実現することをすでに宣言している。あらゆる活動を同時並行的に実施することが求められている。もう待ったなしの状況と言える。

(出典:講演資料より)

ネコサポステーション

これは、今回の3チームの提案とも通じる面が多いが、ネコサポステーションとは、ヤマトグループの経営資源とパートナーの商品・サービスを組み合わせて、その住民の皆様の暮らしの利便性向上と地域活性化をともに進めようという取り組みだ。全国の様々なところで自律的に進めている。

(出典:ネコサポステーション)

独居高齢者の見守り支援「まごころ宅急便」

一人暮らしの高齢者の見守り支援として、月に1回行政が発行する刊行物をお届けするサービスが、まごころ宅急便だ。直接・対面の接点を活用して、配達時の受け取り情報を行政にフィードバックしている。ここで大事なことことはやはり地域住民の皆様とヤマト運輸のセールスドライバーとの間の信頼関係だ。重要な個人情報を良識をもって守るというのが大前提にあるから提供できるサービスだ。

(出典:ヤマトホールディングス

ヤマトのDNA

大和運輸の創業は1919年だが、創業者である小倉康臣が制定した社訓は、今もあせない。具体的には下に示す通りだ。「ヤマトは我なり」は全社員が自主的に自律的な行動をする全員経営体制を今も目指している。「運送行為は委託者の意思の延長と知るべし」はまさに運送は運想だ。「思想を堅実に礼節を重んずべし」は、代わるべからずものとしてあげる「世のため、人のため」、「サービスが先、利益は後」、「安全第一、営業第二」、「お客様の立場で考える」などのヤマトのDNAに通じるものばかりだ。

(出典:講演会資料より)

ヤマトの全員経営(管理型から自立型へ)

山内会長が特に強調したのが、思いを共有することだ。2万人の社員が常に同じ想いを共有することができれば、管理型の経営から自立型の経営にステップアップできる。単にものを運ぶのではなく、想いを運ぶというコンセプトを共有できれば、先のネコサポステーションやまごころ宅急便のようなサービスをもっと提供できるだろう。


(出典:ヤマト運輸

まとめ

山内会長は、最後に人材活用の肝として10人単位での小集団経営の重要性と有効性を指摘されていた。あまり部下が多すぎると、目が届かないし、サポートやケアも不足する。10人程度の単位であれば、全員の活動に目が届く。このコンセプトはAmazonのピザ理論にも通じるように思った。ピザ理論とは、アマゾンにおけるチームは1枚のピザをシェアできる程度の人数に留めなさいというルールだ。Amazonはチーム単位での活動を基本としていて、チームリーダに大きなミッションと権限を与えているのが特徴だ。ヤマト運輸は、チームでのまとまりや協力関係、思いやりや励まし合いといった人間関係を大事にしていると感じた。どちらが良いということではなく、それぞれの国民性を反映した最適な戦略を模索した結果だと感じる。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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