海洋エネルギーの潜在能力は十分。問題は如何にそれを活用できるか。課題が多いが可能性も大きい。

はじめに

自然は偉大だ。自然エネルギーというと太陽光発電が連想されるかもしれないが、以前3回に渡って投稿したように地下のマグマのエネルギーを活用する地熱発電がある。また、今回のテーマである海洋エネルギーを活用して発電する方法もある。国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)では、2040 年までに世界全体で 約9GWから34GWの導入が予測されている。

世界の海洋エネルギーの導入量海洋

海洋エネルギーを活用する発電方式には、潮流を活用する方式(Tidal Current Energy)、波力を活用する方式(Wave Energy)、海洋の温度差を活用して発電する方式(OTEC:ocean thermal energy conversion)などがある。世界の海洋エネルギーでは、2010年に3MW程度だったものが2017年には25MWを超えている。特に、潮流発電が17MW程度とトップで、ついで波力発電だ。現在の海洋エネルギー発電は、小規模な実証実験レベルが多いが、特に欧州において潮流発電や波力発電の本格的な導入が期待されている。

(出典:NEDO)

世界の主要な海洋エネルギー技術開発件数

下の図は世界各国における海洋エネルギーの技術開発件数だ。英国が45件とダントツのトップであり、二位の米国の3倍近い。さすが世界を制覇した大英帝国だ。英国が特に注力しているのは、潮流を活用した発電だ。英国では、潜在的な発電能力は700TWh/年であり、これは英国の電力消費量の2倍に相当する。日本の技術開発件数は残念ながらまだまだ少ないが、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)による調査では波力エネルギーの賦存量(ふぞん:潜在的発電能力)は195GWと試算されている。これは2010年における電力会社10社の発電容量合計の約207GWに相当するレベルである。

(出典:NEDO)

国内の海洋エネルギーポテンシャル

波力による賦存量は前述の通り195GWだけど、海流による賦存量は205GW、海洋温度差による賦存量は904GWだ。潮流の22GWも含めると、潜在的な発電能力は1,326GWとなる。しかし、現実に発電に活用できるのは、前提条件に依存するが、例えば離岸距離30kmまで、15kW/mまで、陸上設置のみと限定すると10GWだし、条件を拡大しても37GWだけど、活用する技術を開発して、知恵を出せば、取得できる電力量は増えていく。伸び代の大きな、将来が楽しみな分野と言える。

(出典:NEDO)

次世代海洋エネルギー発電技術研究開発

海洋エネルギーの活用に向けては、さまざまな企業や大学がチャレンジしている。①は、海中に浮遊式のブレードを並べて発電する水中浮遊式海流発電だ。②は、海表面と深層の温度差を利用して発電する海洋温度差発電だ。③は、上げ潮と下げ潮の潮流を活用する油圧式潮流発電だ。そして④は、③と同様に上げ潮と下げ潮に対応し、橋脚利用式潮流発電だ。つまり、潮の流れが早かったり、海表面温度が高いエリア、潮の満ち引きの大きなエリアではそれらを余すことなく電力に変換しようという挑戦だ。

海流・波力

下の図(左)は日本近海で海流の流れの早いところを青く示している。黒潮の流れに沿った潮流が力強い。また、津軽海峡の潮流も強い。これらを発電資源として活用するのが潮流発電だ。下の図(右)は波力の分布だ。東日本の海岸から東方での波が激しいのがわかる。日本は海に囲まれた島国だ。暖流と寒流も合流する。今後、温暖化の影響で海面が上がる(海進)可能性がある。陸上に設置した設備が海の藻屑となる可能性もある。それならば最初から海中設置に設置した方が安全で確実だろうか。この辺りは、技術的に難しい問題が山積してそうだ。

(出典:NEDO)

潮流発電実証実験

下の写真は、長崎県五島列島で潮流を活用した発電の実証実験だ。九州電力の子会社である九電みらいエナジーは新日鉄住金エンジニアリングなどと共同で2MW出力にチャレンジしている。潮流発電の特徴は、他の自然エネルギーに比べると年間を通じて安定した発電ができる点だ。下の写真のように、長崎県五島市の奈留瀬戸において2021年1月に出力500kWの潮流発電設備が海底に設置され、発電を開始した。

(出典:メガソーラビジネス

海流発電システム

株式会社IHIとNEDOは,水中浮遊式海流発電システムの100kW級実証機「かいりゅう」をIHI横浜事業所で完成させ、2017年の夏には鹿児島県十島村口之島沖の黒潮海域で海流を利用した100kW規模の海流発電の実証試験を行った。黒潮が流れる口之島北側海域の沖合約5km、水深100mの地点から浮体式発電装置のタービンで発電する。下の図に示すように海底に係留するので、送電カーブル長が長くなる反面、波浪の影響を受けにくく、船舶の運行にも影響を与えないことが利点である。

(出典:IHI)

波力発電システム

波力発電方式には、振動水柱型、可動物体型、越波型などがある。越波型波力発電システムは、下の図に示すように、海水を海岸の貯水池等に越波させて貯め、導水溝を通して海に海水を戻す際に水車を回して発電する方式だ。比重の重い海水でエネルギーを伝えるため面積当たりのエネルギーは太陽光の20~30倍、風力の5~10倍ある。また、風力に比べると波の状況は予測しやすい。今後、発電コストが安く安定的に発電する波力発電システムが実用化すると特に離島などでの生命線になるかもしれない。ただ、海水を利用するため、塩害による腐食や海洋生物による影響、波浪による破損や漏電などのリスクがある。また、漁業関係者との利害調整や漁業関係者との合意形成が重要だ。

(出典:NEDO)

益田式航路標識用ブイ

海洋エネルギーの活用は日本が世界に先駆けて、1965年に浮体式振動水柱型装置の益田式航路標識用ブイ(最大出力30W~60W)を実用化させ、現在でも国内外で数千台のブイが稼働中だ。

(出典:三池海上保安部

波力発電の現状と導入目標

現在、日本では波力発電の導入目標は掲げられていない。しかし、海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J)は2020年までに51MW、2030年までに554MW、2050年までに7350MWの導入目標を掲げている。特に、有望な海洋温度差発電では2050年までに8,150MWを発電するというロードマップまで示している。

(出典:スマートジャパン

まとめ

自由民主党の総裁選挙戦では4人の候補者がそれぞれに政策をアピールしている。エネルギー問題にはどの候補者も苦慮している。しかし、日本は海に囲まれた島国だ。暖流も寒流もある。地球の温暖化で海面温度も上昇している。このエネルギーを活用する技術を開発すれば、国内の需要に対応するだけではなく、特に東南アジアなどへの技術協力や輸出展開が見込める。海水を活用するため、耐久性の問題や保守性の問題が障壁となる。また、海の生物への影響も気なるが、日本メーカーならこれらの課題を解決して、実用化することも可能ではないだろうか。将来の可能性に期待感が膨らむ。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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