防災(その1):まちづくりと復興を支えるのは住民の郷土愛か。

はじめに

今日は久しぶりに日本技術士会の対面講座に出席した。主催は日本技術士会の防災支援委員会で、場所はいつも機械振興会館の地下3階研修室だ。コロナ禍に対応して、対面とWEBのハイブリッド開催だった。最初に防災支援委員会の委員長である野村さんから今年度の活動報告や来年度の活動予定の説明があった。ついで、熊本大学の田中尚人准教授による「熊本地震の復興の現場からーまちづくりに活きる技術とは」についてお話を伺った。スライドを見たり、画面を見たりされる講演者も多いけど、田中教授は参加者の顔をしっかりと見て話をされる。双方向での講義や対話を重視されている方だとすぐにわかった。また、話の内容も興味深く、自分の言葉で説明されるので、非常に分かりやすかった。今日は、その中で感じたことや、ネットで裏取できたことを自分が理解した範疇で次の2回に分けて簡単に解説したい。

防災(その1):まちづくりと復興を支えるのは住民の郷土愛か(⇨ 今回)
防災(その2):熊本地震からの復興活動の事例(次回)

自然災害の動向

今回は防災の話だったので、世界と日本の自然災害の動向をネットで調べてみた。

世界の自然災害の動向(その1)

下のグラフは、EM-DAT(Emergency Events Database)が発行する世界の自然災害の動向だ。これによると、1900年から1980年ぐらいまでは自然災害は100件以下だったが、1980年ごろから急激に増加し、2000年過ぎに500件を超え、その後低下して、2017年には300件程度までに減少している。これには、干ばつ、洪水、伝染病、異常気象、異常気温、地すべり、大衆運動、地球外からの影響、山火事、火山活動、地震が含まれているようだ。

(出典:goo

世界の自然災害の動向(その2)

下の図は、アジア防災センターの資料で、1972年から2011年までを5年ごとに区切って自然災害の発生件数や死者数、被害額などをまとめている。前述のEM-DATのデータとほぼ傾向は同じで2002年から2006年の平均発生件数が800.4件とピークを示している。

(出典:データのじかん

日本の自然災害の動向

下のグラフは、EM-DATのデータを中小企業庁が活用して日本の自然災害の発生件数や被害額を示したものだ。日本では2011年から2015年と1991年から1995年の平均災害発生件数が突出して高い。これは1995年1月17日の阪神・淡路大震災と、2011年3月11日の東日本大震災によるものだ。2016年から2018年は少ないが、2019年から2021年は新型コロナに振り回されている。

(出典:中小企業庁

本日の講師

今回のメイントピックの講師は熊本大学熊本創成推進機構・准教授の田中尚人博士だ。京都大学を卒業し、岐阜大学、熊本大学、さらにフランス国立工芸院(CNAM)に1年出向し、熊本大学に帰任し、現在に至る。「災害は社会や地域コミュニティのさまざまな問題を加速させます。しかし、取り組み方次第ではピンチはチャンスになります。」がキーメッセージだ。これを実践され、実感されているのが、田中教授の強みであり、魅力だと思った。

(出典:中小企業庁

熊本地震の復興の現場から

サステナブルとは?その反対語とは?

大学の講義でも学生に人気だと思う。なぜかといえば、双方向での対話を重視されているためだ。学生に質問を投げかけて考えさせる。学生自らが答えを出したら、その答えは学生の財産になる。今回も、田中教授からはいくつかのキーワードに関して参加者への投げかけがあった。たとえばサステナビリティとはどういうことか?また、その反対語は何か?Sustainableとは、今やっていることを継続することではなく、まだやっていないけど今後やり続けるという意味だと説明される。そして、Sutainableの反対語は普通に考えるとUnsustainableとか、unbearableと思うけど、無関心だという。これは、マザーテレサの有名な言葉と同じという意味だ。

(出典:goo

復旧と復興

災害が起きると日常から非日常に生活レベルが低下する。避難や人命救助などの緊急対応とその後の活動により最低限の生活レベルまで持ち上げるのが復旧だ。そして、熊本県の蒲島郁夫知事(1947年1月28日生)は、創造的復興を提唱されている。つまり、熊本地震からの復興は復旧の延長線上ではなく、災害前よりさらに高いレベルにという思いだ。しかし、これは20世紀の日本であれば実現できたかもしれないが、少子高齢化、過疎化の問題を抱える地方では右肩上がりの復興は容易ではない。

(出典:open edition

レジリエンス

レジリエンスとは一般にはストレスや不利な状況に陥った後の前向きな適応だ。大変な事態に直面して、精神的に落ち込むが、そこから抜け出し、再起する。さらには、過去の逆境体験から教訓を得ることができればそれは素晴らしい経験となる。ロチェスター大学のこども研究所は、「壊滅的な喪失にもかかわらず希望とユーモアを持って人生に取り組むことが大事だ」と考え、そのような人々の研究を進めている(参考)。

(出典:アデコ

不易流行

何か問題があると白黒をはっきりと付けたくなるが、田中教授はそれは子供の社会だとされる。大人の社会は、白と黒以外にグレーを認めることのできる社会であるべきとされる。地域社会の活性化や自然災害からの復興にも昔からの知恵を生かしつつ、新しい仕組みも取り入れる。信念を持って柔軟に対応することが重要だと理解した。方針がグラグラだったり、行動が固定概念でガチガチで対応してはいけないけど、結構そういうことがありがちだと感じた。

(出典:I Style

シビックプライド

シビックプライドという言葉も初めて耳にしたキーワードだった。これは、自分達が住んでいる町に対する市民の誇りを示す。日本語でいえば、郷土愛とか、まち自慢だ。自分がこの町の未来を担っているという当事者意識持っている住民が多ければ、まちづくりや復興は活性化する。

(出典:宣伝会議2008

ワークショップの魔法の言葉

田中教授は自分が講義するだけではなく、受講生もお互いに意見を出し合って、考えてほしいと願っている。そして、ワークショップを愛用されれているようだけど、その時の基本的な行動として、次の3つのルールをいつも繰り返し説明されているという。自分もZOOMでブレイクアウトルームを活用して、参加者通しで話ををしてもらうことが多いけど、このような説明を最初にすべきだったと反省した。それは、「他人を否定しない」、「人の話をちゃんと聴く」、「自分の言葉で語る」の3つだ。発言するのには勇気がいる。それをいきなり否定されると発言する気持ちがなくなる。また、誰かが発言するときにはそれを聴く。無視はしない。最後の語るは仲間になるという意味もあるという。なお、熊本の言葉では、あとぜきが人気だ。これは、熊本の方言で、戸を開けたあとをせくの意味だ。せくは、古語のせく(堰く、塞く)に当たるけど、もともとは水を堰きとめるのように使われていたものが、空間を塞ぐにも使われるようになったようだ。

(出典:Twitter

まとめ

日本技術士会のCPD講演会を久しぶりに対面で受講した。講師への質問もできたし、名刺交換もさせて頂いた。個人的にはオンラインも悪くないのだけど、やはり肌感や臨場感ではリアルには及ばない。田中教授の講演の熱気をそのままにブログにしたが、一度の投稿では収まりきらないので、2回に分けることにした。次回を乞うご期待頂き、今日はこれぐらいにしたい。お疲れ様でした。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

参考:防災(その2):熊本地震からの復興活動の事例(次回)
益城町立木山中学校での活動
益城町新ふるさと総合研究所の活動
自然災害対策技術展

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