わさび(その3)、嗜好の変化、水害問題、リニア中央新幹線の環境破壊というわさびに関連する3つのリスクについて考える。

はじめに

わさびについては、次のように3回にわたって投稿中の3回目だ。

・その1:わさびの効用
・その2:わさびの種類と起源
・その3:わさびのリスク(⇨今回の投稿)

3回目の今回は、わさびに関するリスクを3つあげる。一つ目は消費者の嗜好の変化という直面しているリスクだ。2つ目は近年増大する水害によるリスクだ。最後の3つ目は現在計画されているリニア新幹線による影響だ。

わさびに関係する3つのリスク

(その1)嗜好の変化

自分が小さい頃は、本わさびをすりつぶす役目をよく担った。大根おろしもよくやった。しかし、近年はねりわさびが普通になり、家庭で本わさびをすり潰して頂く人は少ないかもしれない。わさびにとってのもう一つのライバルが激辛ブームだろう。わさびではなく、唐辛子による辛さだ。日本では魚食文化が主流だった時代にはわさびが浸透した。日本は重要な動物タンパク源として魚に依存する民族となり、魚介類の料理法が発達した。江戸後期には、刺身や鮨、魚の天ぷらといった日本を代表するような料理が生み出された。素材の味をいかす料理法を好む日本人の嗜好にワサビは合致した。この時期普及した醤油との相性もよく、魚食料理にツーンと鼻に抜けるような辛味や香りや風味が広がった。19世紀の終わりには伊豆半島を中心も大規模な栽培が広がった。ワサビは江戸の食文化の成熟期に合わせて、香辛料としてのゆるぎない地位を確立した。しかし、近年の肉食文化の浸透でわさびの消費が減少している。ワサビはトウガラシや他の蔬菜類に比べて特殊な環境でしか生育できない。また、成長に時間がかかるので、大量生産も難しい。リスクのその2とも関係するけど、ワサビは生育環境を選ぶ植物であるため系統維持が非常に難しく、栽培者がいなくなれば、植物資源が失われる。自生地環境が悪化すると、野生集団が消失するという悪循環が懸念される。

(出典:Academist Journal)

(その2)水害リスク

降水量との関係

7月3日には静岡県熱海市の伊豆山で大規模な土石流が発生し、甚大な被害を伴った。この件はすでに投稿しているが、崩れた谷の上にはメガソーラが生き残っている。直接の原因ではないというが、電気を運ぶための電柱を道路沿いに建設しており、その道路に沿った形で土砂が抉られている。直接・間接を問わずしっかりと原因を究明してほしいと思う。日本は、太平洋の黒潮が運ぶ湿った空気が静岡地域や伊豆地域の山々にぶつかり、年間3,000mmを越す雨が降る。山々の地層に雨水が浸透する。高い貯水機能を発揮する豊な山林に囲まれた大量の雨水を土壌が濾過し、済んだ湧き水をうむ。水温の変動も少ない。このような環境がわさび栽培に最適な貴重な場所となっている。同時にわさび田及びその周辺の森林は自然のダムとしての水量調整機能を果たしている。

(出典:日本における年間降水量の上位地域)

好循環と悪循環

豊かな雨水と豊富な森林や多層の地下がわさびに最適な湧き水を提供し、わさび田やその周辺の森が水量調整機能を果たしている。しかし、このような好循環が崩れるリスクがある。一つは、わさびの需要が低下して、わさび田が衰退することだ。使われていない場所はメガソーラに狙われるかもしれない。水量調整機能を失った山は土石流の被害を誘発するかもしれない。逆のケースもある。つまり、日常となった異常気象により自然の水量調整以上の雨水が発生して、わさび田が崩壊することだ。わさび田が崩壊した場合の影響は多面的だ。例えば、わさび田を通じて豊富な酸素を含む湧き水は下流の稲作や清流を好む淡水魚の養殖などにも利用されている。河川に流れ込んで魚を育てて海に注ぐという豊かなエコシステムの基盤となっている。好循環をいかに維持するかは我々世代が担うべき重要な課題と言えるのではないだろうか。

(出典:わさび栽培システム

(その3)リニア新幹線のリスク

リニア中央が自然環境や社会、人体に多大な影響を与えることは以前も投稿した。その課題の一つが水資源だ。静岡県からの要請に基づいてJR東海は一定の水量を確保するとしている。しかし、それは天然の地層で濾過された美味しい水ではなく、土砂とともに流れでた汚水だ。汚水を戻されてもエコシステムは維持できない。また、流れでた水をポンプで送り返すエネルギーも半端ない。送り返すための消費電力と、その水で発電する発電量のどちらが大きいのかも気になる。下の図は、過去に東海道本線の丹那トンネルを開設した時の事例だが、やはり失った水は戻ってこなかったという。同じような失敗を繰り返すのだろうか。静岡には、豊富な水資源を活用した産業が多い。わさび田を含めて、これらの自然環境や産業を守ることも同時に考えるべきだ。

(出典:広報かんなみ

まとめ

本わさびは日本の豊な自然と豊富で清らかな水資源と関係者の必死の努力で維持されている。このわさび文化が直面するリスクとして、特に若者を中心とする嗜好の変化と天候の変化、そして無謀とも言えるリニア中央新幹線の3点を指摘した。自然との共存共栄を維持することは非常にデリケートなバランスの上で実現している。異常な気象や無理な工事などが環境の悪循環を誘起させると、それを元に戻すことが非常に難しくなるということをまずは関係者で共有することが重要だと思う。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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