GCL情報理工学特別講義IV(ユーザのためのAI入門)の初回受講

はじめに

東京大学大学院の科目履修生として、2022年度は2科目の履修登録をした。その一つが本日の講義だ。水曜日の16時50分から18時30分までだ。この講義は基本ZOOMによるオンライン授業だけど、途中で学生による発表なども盛り込まれている。昨年度に初めて視聴した講義は基本英語による講義だったので、理解を深めるのに非常に苦労したけど、今回の講義は日本語なので助かる。今後、どのように内容が広がるのか楽しみしかない。

AI入門

今回の参加者は58名だった。自分は情報理工学系だけど、学際情報の学生、工学の学生、工学系、医学系など多様な学生が参加している。海外からの留学生と日本人はざっくり半々程度だろうか。今回の講義は、AIの応用例を概観しつつ、ユーザの立場から、AI技術との関わり方やより身近な活用の仕方を学ぶこと目標としている。5Gも同じだけど、サービスを提供するための技術開発よりも、サービスをいかに活用するのかを研究することがより重要になっている。その意味では共感しかない。

AIセンター

東京大学は総合大学である。AIセンターは、学内17部局との連携により、文理を超えて、将来の社会、産業、経済、文化、学術を駆動する組織だ。特に、次の3つを目的としている。
1.次世代知能科学の推進
2.知能社会将来ビジョンの提案
3.人材育成
(出典:東京大学AIセンター

國吉康夫教授と講義の全体像

この次世代知能科学研究センター(AIセンター)を率いるのが我らが國吉康夫教授だ。全13回の講義では、本日と来週でAIに対する概観を説明いただき、その後、農業や医療、アニメ、文学、社会、ゲーム、信頼性などの各分野でのAI活用についてそれぞれの専門の先生から講義いただく。また、AIユーザとしての実践として、専門家からの講義2回と学生からの発表2回を予定している。学生によるグループワークや課題発表、ディスカッションも予定されており、大学院らしい双方向の講義となると期待される。

松原仁教授とAI

國吉教授に続いて、AIの過去、現在、未来と題した講義をAIの第一人者である東京大学AIセンターの松原仁教授より説明いただいた。講義では、AIが3回目のブームであることや、AIを理解する上で重要なフレーム問題や記号設置問題についても言及されていた。そもそもAIと言う用語は1956年のは“The Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence (人工知能に関するダートマスの夏期研究会、以下「ダートマス会議」)で、Artificial Intelligence(AI:人工知能)という言葉がアメリカ合衆国の計算機科学者であるジョン・マッカーシー(John McCarthy, 1927年9月4日から2011年10月24日)により初めて使われた。Artifitialの対語はNatureである。「Artifitial」は「自然な(Nature)」に対して人造の、人工的な、模造の、造りものの、不自然な、偽りの、わざとらしい、気取った、きざななどの意味がある。日本語にするときに偽の知能とか、偽りの知能と訳さず、人工知能と訳されたことに感謝したい。また、1956年生まれの松原教授の目標イメージは鉄腕アトムだという。

フレーム問題

子供の頃親から「人には迷惑をかけるな」と躾けられる。しかし、この命令は厳密に考えるとなかなか難しい。人に迷惑をかけるなとはどう言うことか、そもそも迷惑と感じるかどうかは主観的なものであり、人によって定義が異なる。定義が明確でないことに対して、どのように処理するのか。人間であれば、常識の中で対応するが、人工知能にこれを教えるのは意外と難しい。松原仁教授は、フレーム問題を説明するときに、「人に迷惑をかけるな」を例にわかりやすく説明いただいた。フレーム問題とは、人工知能においてFOL(First-order logic:一階論理)を使用する際の問題点を表す。AIの命名者であるジョン・マッカーシーと英国の計算機科学者パトリック・J・ヘイズ(1944年8月21日生)は1969年の論文「Some Philosophical Problems from Standpoint of Artificial Intelligence」でこの問題を定義している。フレーム問題とは、ロボット環境を記述するための適切な公理の集まりを見つける問題であるとも言われている。コンピュータの性能が有限の場合には、解けない問題があることを示している。哲学においてはより広い意味を持つようになり、行動に対応して更新しなければならない信念を制限する問題として定式化された。論理的な文脈では、行動は通常、他のすべてのフレームは変更されないという暗黙の前提のもとで、変更するものによって特定されるのだろう。


(出典:@IT

記号接地問題

人間はリンゴと言う言葉(記号)とリンゴの実態がつながっている。しかし、コンピュータは人間のように概念がつながっているわけではない。深層学習によって猫の写真を見て、猫と判断することが可能となったと言っても、それは単にパターン認識として猫の写真を他の写真と異なると言う分類をしているだけで、猫を連想しているわけではない。人間のように可愛い猫の写真を見て、可愛いという感情を持つわけではない。このような問題を記号設地問題(Symbol grounding problem)という。ハンガリー生まれのステバン・ロバート・ハーナド(Stevan Robert Harnad, 1945年7月2日生)は、1990年の論文「The Symbol Grounding Problem」の中で次のように明確に指摘している。

最近、純粋な心の記号モデルの範囲と限界、および認知モデリングにおけるコネクショニズムの適切な役割について多くの議論がなされている。本論文では、記号の接地問題について述べる。形式的な記号システムの意味解釈を、我々の頭の中の意味に寄生するのではなく、いかにしてシステムに内在させることができるか?意味のない記号トークンの意味は、その任意の形状のみに基づいて操作されるが、他の意味のない記号以外にどのようにして根拠を与えることができるだろうか。この問題は、中国語/中国語の辞書だけで中国語を学ぼうとするのに似ている。解決策の候補を示す。記号的表現は、ボトムアップで2種類の非記号的表現に基づかなければならない。(1) 象徴的表現:遠距離にある物体や事象の近位の感覚投影のアナログであり、(2) カテゴリ表現:感覚投影から物体や事象カテゴリの不変の特徴を拾い出す、学習済みかつ生得の特徴検出器である。初等記号は、これらの物体や事象のカテゴリの名前であり、非記号化範疇表現を基に割り当てられたものである。高次(3)記号表現は、この初等記号を基礎として、カテゴリーのメンバーシップ関係(例えば、XはZであるYである)を記述する記号列から構成される。コネクショニズムは、カテゴリー表現の根底にある不変的な特徴を学習し、それによって名前を、それが表す遠位の対象の近位投影に接続するメカニズムの自然な候補の1つである。このようにコネクショニズムは、純粋に記号的なモデリングに対抗するというよりも、非記号的/記号的なハイブリッド型心のモデルにおける補完的な構成要素として見ることができる。しかし、このようなハイブリッドモデルには自律的な記号モジュールが存在せず、カテゴリの名前が感覚表現にボトムアップで接地される結果、記号機能が本質的に専用の記号システムとして出現することになるのである。記号操作は、記号トークンの任意の形状だけでなく、記号トークンが基づいているアイコンやカテゴリー不変量の非任意な形状によって支配されることになる。

(出典:CogPrints)

 

成績判定

成績は出席状況と毎回のレポートと最後の発表に基づいて評価される。出席は、次の講義までにミニレポートをLMSで提出する。日本語または英語で数行程度でOKと言う。最後の発表はAI製品のユーザとして、またはAI技術のユーザ落としての実践をパワポなどを活用して数分程度で発表する。どうしよう。

AIに期待すること

講義を視聴していて感じたことは、「AIを使うのは人間である。」と言うことだ。AIは日進月歩で進歩するが、その進化するAIを適切に活用するには、利用する人間が進化する必要がある。これは、例えば、自動車と人間の関係で考えるとわかりやすい。初期の自動車は案内係が誘導するような代物だったけど、現在のテスラのEVはわずか2.7秒で時速100kmまで加速する。同時に自動運転により安全に適切に人を目的地に運んでくれる。松原教授はロボットの目標イメージを鉄腕アトムと説明されていたが、それよりも「ドラえもん」を目標にした方がいいのではないだろうか。鉄腕アトムの行動の基本は勧善懲悪だ。これは悪くはないけど、個人的にはドラえもんのように自信のないのび太に寄り添って様々な課題を解決する方が好きだ。最初のAIブームではかな漢字変換もAIだった。2回目のAIブームはルールに基づくエキスパートシステムだった。3回目のAIブームはそのルールをビッグデータから自動生成するAIだ。今後の進化の方向は、これは個人的な考えだけど、人間の進化を促す方向に使われるのではないだろうか。AIによる教育やAIによる自己成長が今後のブームになるのではないかと思っている。

まとめ

今回は最初の講義で、國吉教授が講義の全体像を説明し、松原教授がAIの過去、現在、未来についてお話しいただいた。鄭銀強准教授が全体の進行役を務めていただいた。次回以降がまた、楽しみである。また、AIを如何に利用して社会に役立ているかというテーマで、第12回と第13回では学生からの発表を行う予定だ。個人的には、AI技術を利用したDeepLや英単語の習熟アプリ「TANZAM」も便利だし、活用している。自分の英語能力のレベルに合わせた読み物や動画を提示してくれるようなAI動画サイトは作れないものかと思う。また、ゴルフが上手になるAIアプリと補助具も作りたいものの一つだ。正しいスウィングのコツをわかりやすく繰り返し身体にフィードバックしてくれるようなアイテムを開発して、ゴルフが上達するならこれを歓迎する人も多いのではないだろうか。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございます。

P.S. アイキャッチ画像の出典(STORIA法律事務所

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