GCL情報理工学特別講義IVの4回目(その2):AI+農業、AI技術による農業自動化の現状と課題

はじめに

今回は、深尾隆則教授によるAI+農業の講義を拝聴した。豊富な実践事例を踏まえた講義なので説得力がある。要素技術としてのロボティクスの研究を進めているうちに、社会的な課題である農業の実情を目の当たりにして、特に高齢化対策はなんとしても解決しなければいけないし、AIやロボットなどの技術を活用することで解決の糸口を掴めるのではないかという確かな手応えを感じ始めた頃から応用研究にシフトしたのではないだろうか。今朝の日本経済新聞の私の履歴書の中で、苗の育成と田植えという作業を不要とする乾田直播水稲栽培について言及されていた。人手による農業を前提とするのではなく、自動農協による米栽培を考える上では、田植えを自動化するのではなく、栽培方法そのものを変えるという発想と可能性に驚いた。乾田直播水稲栽培は、収穫高の向上や水の使用量の節約にも繋がるし、何より農業機械との相性が良いと思った(参考)。今回の講義で感じたことは2回に分けて投稿しており、今回はその2だ。

その1:要素技術と農業自動化の現状(前回
その2:進行中のプロジェクトと農業自動化の課題(⇨ 今回)

進行中の農業関係プロジェクト

深尾教授は数多くのプロジェクトに貢献されているが、講義の中で言及のあったプロジェクトを中心に調べてみた。

バイオガスプラント

下の図は、深尾教授が代表を務めるバイオガスプラントだ。産学官が連携して開発・実証するプロジェクトだ。牛舎は新牛舎と旧牛舎があり、糞尿等が合計毎日22トンも排水される。これを原料槽で蓄積し、発酵槽で嫌気性メタンを発酵させ、毎日600m3ものバイオガスを精製し、生物脱硫装置や除湿装置、乾式脱硫装置、ガスバッグなどを経由してバイオガス発電機で発電して電力会社に売電する。発電した電力の一部は自家消費するとともに排熱も利用する。同時に発酵槽に生じた残渣を液体と固体に分離し、液体は液肥として、個体も液体も肥料として再利用するという優れものだ。消化液の95%は水分となるため、消化液を有機液肥として利用拡大できれば、資源の有効活用だけではなく、商品の価値を高めることにもつながるように思う。このコンソーシアムでは自走式のクローラ台車に2000リータの消化液タンクや散布装置などをセットした自動散布車両も開発されていた。すごい。なお、令和元年12月には十勝において、スマート農業マッチングイベント&農研機構マッチングフォーラムin北海道が開催され、本プロジェクトを含めて、さまざまな取り組みが紹介されていた(参考)。やはり北海道は広いので、農業の自動化への熱い期待を感じる。

(出典:スマート農業推進フォーラム2021年度in北海道・十勝

大規模果樹の収穫作業自動化

深尾教授は果樹園の自動化にもチャレンジされている。牽引する車両はゴルフ用のカートを流用してコストを抑え、双腕ロボットが丁寧に果実を収穫して、コンテナに収納する。立命館大学とデンソーと農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)が協力して進めている。ロボット本体はデンソーが開発し、果実の認識技術や果実の収穫適期の判断などの制御ソフトは立命館大学が開発された。この果実収穫ロボットは、リンゴやナシ、セイヨウナシの収穫を想定いる。ゴルフカートに自動走行機能を付加した自動走行車両(UGV:Unmanned Ground Vehicle)と、2台のロボットアームが活躍する。果実の着果位置を測定したり、果実の熟度をRGB-Dカメラ4台で判定する。走行部のUGVには、2次元LiDAR(Light Detection and Ranging)が左右に1台ずつ搭載されている。自動走行には、冗長性が重要だ。このため、LiDARのセンシング情報をもとに周囲環境の認識や、果樹列のライン検出を行うが、果樹列を抜けた後は圃場内に設置された白色ポールを検出することで自己位置を把握して、指定されたルートに沿って次の樹列間に入って、作業を継続するという仕組みだ。

(出典:MONOist

農作物に適したロボットアーム等を活用した農作業自動化技術

これは講義とは関係ないけど、調べていて面白いと思ったのがアスパラガスの自動収穫ロボットだ。アスパラガスは、2〜3年かけて大きく育つが、ットが自動で獲ってくれる「収穫ロボット」である。従来は、農家の人が大切に育成し、収穫期を迎えてアスパラを丁寧に収穫する。しかし、農家の平均年齢も67歳を超えている。そこで考えられたのが、自動収穫ロボットだ。特に大きな課題が自動走行の制御と、収穫タイミングの判断だ。前者に対しては、大規模な農園であればGPSによる位置測位が有効だけど、狭い圃場(ほじょう)を正確に走行するために、ガイドラインとなる白いラインを畝間(うねま)を走行する仕組みとした。後者に対しては、内蔵カメラが圃場に生えているアスパラガスを撮影し、アスパラの画像をディープラーニングによる画像処理技術によって判断する仕組みだ。アスパラガスは単子葉植物に属するユリ科の多年生草本植物である。食用のアスパラガス(Asparagus officinalis)は、ギリシャ語の非常に分枝する(Asparagus)と薬用になる(officinalis)が語源という。原産は地中海東部であり、江戸時代にオランダ船から鑑賞用として日本に持ち込まれ、明治になってから食用としても導入されるようになった。アスパラガスを収穫する作業は低い姿勢を維持するためにきついが、ロボットが収穫してくれれば農家は助かる。ただ、アスパラガスは下の写真のように不規則に生えているので、収穫すべきアスパラか、そうでないかを個別に判断する必要があった。
(出典:Nature Science

農業の自動化の課題

過剰な品質と適正な品質

農業の自動化に立ち塞がる課題の一つは、消費者や販売業者が求める過剰な品質だ。利用者のベネフィットに直結するような品質の向上はまだ意味があるかもしれないが、品質向上が目的化してしまい、利用者が求めていないのに品質向上を追い求めるのは本末転倒となる可能性がある。特に生鮮食料品では、味も栄養素も同じなのに、形が違っていたり、色合いが違っていたりすると規格外品として取り扱われる。例えば、野菜や果物ではJASが定めた一定の基準を満たした場合にJASマークをつけて販売できる。しかし、規格に合わない野菜はジュースにしたり、直売所で販売したり、生産者自身が食べたり、知人に分けたり、家畜の肥料にしたり、最悪は廃棄処分にされる。令和元年の野菜の収穫量が1340万7000トンに対して、出荷量は1,157万4000トンなので、なんと183万3000トンは出荷されていないことになる(出典)。最近ではネットやアプリを通じて生産者と消費者を1on1で接続するマッチングアプリも普及している。規格外品であっても、それを望んでいる消費者に届けられる仕組みが望まれる。

(出典:日経XTECH

人材確保と人材育成

農業に従事している人の平均年齢は、平成30年時点の調査で67歳だ。10年後にはこれが77歳になるのだろうか。自分のおじさんは100歳まで現役の農家で毎朝田んぼに出かけて作物の出来などをチェックした。95歳ぐらいの時に、65歳になるおじさんの息子(自分にとっては従兄弟)が勤務していた会社を定年退職するので農家を引き継ぐことになり、数年間はOJTで実地研修をしていた。基本的に農家に向いている性格かどうかは微妙なので、その後の状況を聞いてみたいけど、このような世代交代も確かに面白いローテーションだとは思う。特に、便利な機械や農機を使って農業を続けられるのであれば、年老いた両親から家業としての農業を引き継ぐというケースもあるだろう。また、複数の農家で連携するケースや、地元でまとまるケースもあるだろう。しかし、問題はそれを牽引する若い世代だ。高齢者は経験豊かだけど、新しいことへのチャレンジはどうしても弱い。ネットや自動操縦、AIなどの活用にチャレンジする気持ちと、その設備投資に踏み切れる経済力の両方をいかに実現するかが課題の一つだと思う。

(出典:SHINTOMI AGRI VALLEY

さらなる技術革新

農業には課題が山積している。例えば、日本人は柑橘系の果物が好きだし、最近は品種改良も進んでいる。下の図は、東大みかん愛好会がまとめたミカンの味と食感のマッピング図だ。例えば、四国の愛媛県西宇和地域は、柑橘産地だけど、非常に急な傾斜地で工夫しながら栽培している。しかし、高齢化が進んでいて、産地の維持が危ぶまれる状況だ。ミカンの収穫の自動化は現状ではまだまだ技術的なハードルが多い。今回の講義の対象ではないが、愛媛県の地域農業育成室では、スマート営農一貫体系を確立するため協議会を設立し、ロボット、ICT、AI等の先端技術の導入・実証を進めた結果、10a当り収量2~3割向上(温州みかん、甘平)、10a当たり労働時間2割削減(温州みかん)を実現したという。重点的に取り組んでいるのは、気象ロボットによる圃場環境の見える化や、アシストスーツによる軽労化、選果作業の労力軽減、ドローンによる農薬散布などだ(参考)。

(出典:東大みかん愛好会

適切な法規制と育成施策

都会に暮らしていると豊かな自然に囲まれた田舎で暮らしたいという気持ちになる人が一定数いる。しかし、一方で田舎暮らしにはさまざまな不便さもある。国は農林水産物の輸出高1兆円を目標として掲げているようだけど、強い農業を実現するには、人々を支援する市町村の政策が重要だ。田舎で伸び伸びと過ごすのは、良いことばかりでもない。特に、小中高への進学時期に選択肢がないことがデメリットとして指摘されている。都心では中高一貫校への受験準備を小学校の5年生からでは遅いと言われる。地方で問題となるのは高校進学だろうか。全寮制の高専への進学などもあるかもしれないが、官民学が連携して地方の産業を盛り立てるような仕組みが全国で行われていうし、そのような活動がさらに活性化することを期待する。そこでキーとなるのは、若い学生のいる大学の推進力だろう。学生が研究したシーズと地域や企業が抱えるニーズを連携させ、支援する行政や地域が協力し合う地域が全国に広がると日本の未来も明るいものになるのではないだろうかと感じる。

(出典:産学官連携

質問

大規模農園での適用と中小規模農園

最初の質問は大規模な農園にはAIによる自動化のターゲットとなることは理解できるが、中小規模への適用は可能か?というものだった。深尾教授からの回答は、中小規模の農家への適用は現時点では難しいという見解だった。確かに、AIロボットなどを導入するには初期費用が大きい。トライアルなどではデンソーなどにも協力してもらって、ジョイントでの研究となっているが、これに係る費用を全て農家が負担するとなると現実的な費用感ではないだろう。言及はなかったけど、本来なら農協がこのようなAIロボットのトライアルに参画して、利用方法を検討するべきポジションにあるように思う。例えば、ある果実の収穫でも日本は東西にも南北にも伸びているので、桜前線が移動するように、収穫時期はエリアによって異なる。そのような時期のずれを活用して、シェアリングビジネスを検討する必要もあるだろう。また、より汎用的なAIロボットを開発して、量産効果に期待する方法もあるかもしれない。いずれにせよ、技術の成熟に伴って費用も逓減すると期待されるが、高齢化のスピードに技術革新による費用低減のスピードが打ち勝てるかどうかがポイントだと思った。

(出典:農林水産省

ソーラーシェアリングによるソーラーシェアリングによる収益性改善の可能性

AIロボットなどの高価な装置などに投資するには原資が必要だ。その原資を稼ぐ一つのアイデアにソーラーシェアリングビジネスがある。これは農地で農業と太陽光発電の両方を同時に行うことだ。農業では基本的に生産物を出荷するときしか収入を得られない。しかし、太陽光発電ならコンスタントな収入を得られる。これらをうまく組み合わせることができれば、農業を目指す人にも高収入の可能性と、そこで得たキャッシュをスマート農業に投資し、さらに農業を自動化して、収穫の拡大と、作業負荷の軽減と、収益の拡大を図るという好循環を実現できないものかと期待する気持ちから質問した。深尾教授からの回答は、大規模農家で実験をしているのは北海道が多くて、送電線のリソース不足からこれ以上のソーラは歓迎されていないという説明があった。確かにそうかもしれない。山を切り崩してメガソーラを建設することが環境に優しいとは思えない。個人的には、メガソーラではなく、ソーラシェアリングを推進する方がエコだし、農業の活性化につながると思っている。ペロブスカイトについては以前も投稿したが、例えば、ビニールハウスのビニールをペロブスカイトのソーラにするようなことは実現すれば面白いと思う。


(出典:MEGAHATSU

まとめ

深尾教授の講義は興味深かった。面白いと思ったことをネットや文献で裏取りしながら、現状と課題を2回に分けて投稿してみた。牛の糞尿から燃料を抽出して発電し、残ったものは更に水分と固体に分離して、肥料に活用する取り組みを紹介した。まさにエコな取り組みだと思った。また、自動運転では冗長性を確保することが重要とか、大規模コンソーシアムの可能性への期待など、気づきの多い講義だった。農業が抱える課題は日本の課題の縮図とも言える。今後も機会があればもっと深く研究したいと思った。貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

以上

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

参考:その1
はじめに
ゲスト講師
要素技術
フィールドロボティクス
LiDAR(Light Detection And Ranging)
農業の自動化の現状
各種農作業車両の自動運転
双腕ロボットとの連動
果実の成熟度の応じた自動収穫
ドローンによる薬剤量の低減
キャベツや玉ねぎなどの野菜の自動収穫機器
自動フォークリフトによるコンテナ運搬
無人運転トラックによる運搬
ランドマーク(ポール)設置による自動走行
まとめ

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