その3:モビリティの多様化と将来の可能性(普及の障壁は技術より法律か)

はじめに

前回は進化する電動アシスト自転車の新たなチャレンジなどを概観した。

その2:電動アシスト自転車の新しいチャレンジの動向(回生充電など機能の高度化は続く)

今回は、その3としてモビリティの多様化と将来の可能性について探ってみた。

その1:電動アシスト自転車の現状や課題(前々回
その2:電動アシスト自転車の新しいチャレンジの動向(前回
その3:モビリティの多様化と将来の可能性(⇨ 今回)

モビリティの多様化

キックボード市場

自転車よりもっと手軽な移動手段として、電動キックボードや電動スクータが注目されている。特に、Luupなどが提供する電動キックボードのシェアリングサービスは、2017年後半に米国で生まれ、さらに世界中へと広がった。日本でも2021年4月から実証実験が東京、横浜、大阪、京都、福岡などの都市で始まっている。米国では2017末時点ですでに10万台を超えている。グランド・ビュー・リサーチによれば、電動キックボード市場は2015年の148億ドル規模から2024年には約2.5倍の380億ドル規模に成長する見込みだ。

(出典:ビジネス+IT

ヘルメットなしで利用可能なLUUP

東京都渋谷区に本社を置く株式会社Luupは、自転車や電動キックボードのシェアリングサービス及びそのアプリを提供している。LUUPアプリで気軽に電動キックボードを選択して利用することができる。2021年10月時点で東京23区の一部と横浜市の一部、大阪市、宇治市、京都市などでシェアリングサービスを提供している。本来なら電動キックボードは原動機付自転車扱いなのでヘルメットの着用が必要だけど、今回は実証実験という形なのでヘルメットの着用は任意と柔軟な対応となっている。ヘルメットなしでもOKなら手軽に利用することが可能だ。

(出典:fashion snap

大きなタイヤで圧倒的な乗りやすさ

Luupが提供する電動キックボードは女性でも利用可能なおしゃれな感じだけど、もっとパワフルな電動キックボードも欲しい。そんなニーズを満足させる商品を開発しようというプロジェクトは、2020年3月3日に募集を開始したところ、目標の10万円の約10倍の約119万円の資金を集め、2020年4月29日に募集を終了した。走行距離も45kmだ。こんな電動キックボードで颯爽と車道を走る人が増えるのだろうか。

(出典:fashion snap

子供が乗れる電動キックスクーター

大人向けの電動キックボードではなく、キッズ向けの電動キックスクータも輸入販売するのが株式会社ダッドウェイだ。開発・製造するGlobberは2014年に立ち上がり、現在は世界85カ国以上で発売されている。Globberでは下の写真のように小さな子供から10代の子供も大人も使えるようなラインナップを揃えている。

(出典:Globber

電動キックボードに対する各国の法制度

ほとんどの先進国は、電動キックボードを自転車に準じたものとして扱っている。しかし、日本では電動キックボードは道路交通法上は原付きバイクと同じ扱いとしている。このため、公道での走行は車道に限定され、運転免許証の携帯やヘルメットの着用が義務づけられ、ナンバープレート、サイドミラーなどの装着も必要となる。しかし、米国をはじめ諸外国では電動キックボードは法律上、自転車と同様に扱われている。対象年齢の制限はあるものの免許は不要で、ヘルメットの着用も「任意・推奨」だ。車道だけでなく、自転車専用レーンを含める形で、安全面と利便性を両立した利用環境を整えている。電動モビリティの開発スタートアップ企業「KINTONE」が電動キックボードを利用した243人を対象に行った調査では、65.8% が「自転車専用レーンでの移動手段として使いたい」と回答している。自転車よりも簡便な移動手段となる電動キックボードが日本でも普及するかどうかは日本の法制度上の位置付けをどうするかに強く依存する。
(出典:Sankei.Biz

有識者委員会が検討する新ルール

国内でも規制緩和の検討を進めている。有識者委員会では、下の図に示すように最高速度に応じて通行場所や条件を決める。しかし、最高速度の定義が微妙だ。規制緩和が進めば、シェアリングサービスの広がりや宅配業界の人手不足の解消につながる可能性があるが、予断を許さない。時速15km以下のモードと時速15km超のモードを切り返すような電動キックボードが現れるのだろうか。世界でルール整備が手探りのなか、日本でも新サービスの普及と安全を両立させるルール整備が求められている。

(出典:日本経済新聞

セグウェイ

電動キックボードが主役に躍り出る前には、セグウェイが注目された。しかし、転倒の危険性を伴うソフトウェアの不具合が発見されるなど危険なイメージがセグウェイに出鼻を挫いた。2010年9月には、セグウェイ社オーナーであるヘセルデンが自宅近くの森でセグウェイ(x2)を運転していて、林道から9m下のホウォーフ川に転落し、死亡するという事故も発生した。このため、日本では公道での利用は見送られ、空港の警備や観光ツアーなどの業務利用にとどまり、20年の歴史の中で累計販売台数は約14万台にとどまっている。バルト三国を旅行したときに、ラトビアではミニセグウェイがスーパーで売られ、街中で家族で移動している風景もあった。日本では、そのような姿を見るのは難しいのかもしれない。

(出典:セグウェイ

ユニカブ

本田技研工業(ホンダ)はパーソナルボビリティのコンセプトモデルとしてユニカブを開発した。下の図はホンダの小型電動スクータ・ユニカブだ。車輪は2つあり、前方向に進むための大きな駆動輪と、これと90度の角度で並ぶ後続の操舵輪があり、横方向への移動も可能だ。重さは25kgで、最高速度が時速6km、走行距離は最大6kmだ。残念ながら市販には至っていないが、ホンダは活用法や価格設定に応じた需要やデザインの改良などを進めている。この技術はモビリティとしての利用に加えてロボットの移動としての利用も考えられる。

(出典:ユニカブ

電動シニアカート

高齢化社会に向けては高齢者向けの安全・安心な移動手段も必要だ。パワフルな自動車に乗る必要はなく、電動シニアカートでゆっくりと移動する方法もあるだろう。電動シニアカートは、ヘルメットの着用は不要で、運転免許証も不要だ。なぜかといえば、道路交通法では電動機を用いる身体障害者用の車椅子という位置付けのためだ。高齢者に優しい日本社会の妙技と言える。しかも、福祉用具とされているため、購入に当たって消費税を支払う必要もない。ちょっとやり過ぎの感じがするのは自分だけだろうか。

(出典:アマゾン

まとめ

電動アシスト自転車に加えて、新たなモビリティが色々と世界中で開発されている。しかし、日本では道路交通法がハードルとなっている。しかし、よく調べるとシニア向けの電動カートは身体障害者用の車椅子の位置付けなので、免許もヘルメット着用も消費税の支払いも不要だ。若者や子供向けのモビリティについても法律の解釈論で普及に弾みをつけるようなことはできないものだろうか。せっかくの技術のシーズが法律的な問題のため普及を阻害されるのは勿体無い気がする。しかし、日本は高齢者に優しいだけではなく、外圧にも従順なので、国産のユニカブはダメでも、GlobberやLuupには便宜を図るのかもしれない。個人的には45km走行可能なパワフルなモータと大容量バッテリーを搭載する電動キックボードで公道を疾走したいという気持ちはあるけど、そのためにはバックミラーとナンバープレートが必要か。うーん。困った。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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