1.はじめに——優勝と、もう一つの印象的な出来事
2026年10月25日、韓国で開催されたBMW女子選手権で、吉田優利選手が米国LPGAツアー初優勝を飾った。吉田優利選手には、なぜかひかれる。それは彼女のアグレッシブなプレイと優しく明るい笑顔のギャップだろうか。前半9ホールで4打差を逆転したものの、後半の9ホールではボギーが先行して、苦しいプレイを余儀なくされた。その中でも、最後まで粘り強くプレーした彼女の姿は印象的だった。
しかし、私がもう一つ注目したのは、優勝後の英語インタビューである。彼女は記者からの質問に英語で答えていてびっくりした。流暢なネイティブ英語というわけではない。文法的に不自然な表現も少なくない。それでも、彼女の喜び、緊張、ユーモア、そして次の目標が、実によく伝わってくる。なぜなのだろうか。今回は公式記者会見の英文記録をもとに、吉田優利選手の英語の特徴を考えてみたい。
2.自信はなかった——質問の前提を覆す率直さ
17番ホール、48ヤードの難しいバンカーショット。記者は、あの場面でどうして自信を持って打てたのかと質問した。彼女の答えは意外だった。“Actually, I didn’t have confidence.”「実は、自信はありませんでした」そして、“Just hit, just hit.”「とにかく打とう、打とう」と考えたという。
この英語には、難しい単語も複雑な構文もない。しかし、質問者が想定していた「自信を持って打った」という前提に対して、自分の本当の気持ちを率直に答えている。しかも、”Just hit” の繰り返しによって、緊張した場面で自分に言い聞かせていた様子まで伝わってくる。ここには、文法の正確さだけでは測れない表現力がある。
3.文法は不完全、それでも意味は伝わる
例えば、自分のゴルフスタイルについて説明した場面。“So I play golf not smiling, I think.”「ゴルフをしているときは笑っていないと思います」より自然な英語なら、次のようになるだろう。”I don’t smile much when I play golf.”また、韓国選手の飛距離について、“Everybody hit long.”と説明している。自然な英語なら、”Everyone hits the ball a long way.”などと表現できる。これらの英文には、文法や語法の不自然さがある。それでも、聞き手は彼女の伝えたい内容を理解できる。
語学には、少なくとも二つの能力がある。一つは、正確な英文を作る能力。もう一つは、その場で自分の意図を伝える能力である。両者は関連しているが、同じものではない。
4.専門分野の英語は、実際の経験と結びついている
雨の影響について、彼女は次のように答えている。“I can focus on carry, not roll.”「ランではなく、キャリーに集中できます」ゴルファーなら、説明されなくても意味が分かる。雨で地面が柔らかくなるとボールのランが少なくなる。だからキャリーの距離を重視する、という説明である。この発言は、彼女がゴルフという専門分野について、英語で具体的に説明できることを示している。
一般的な英語力と、専門分野で実際に使える英語力は、必ずしも同じではない。仕事やスポーツなど、自分が熟知している分野から英語を身につけることには、大きな意味があるのではないだろうか。
5.英語でもユーモアは伝えられる
彼女は、試合中は笑っていないが、コースの外ではいつも笑っていると説明した。さらにInstagramのフォローを勧めている。この答えには親しみやすさがある。多少不自然な英語であっても、自分の性格をユーモラスに伝えることはできる。むしろ、その飾らない表現が、彼女自身の人柄を感じさせる。ただし、伝わることと、すべての質問を正確に理解し答えられることは別である。
実際の会見には、質問に対して回答が部分的にずれている場面もある。聞き取りの問題なのか、自分が話しやすい内容を選んだのかは、記録だけでは判断できない。英語力を過大評価するのではなく、長所と限界の双方を見る必要がある。
6.日本の英語教育に何を問いかけるのか
私たちは英語を学ぶとき、文法上の間違いや発音の不正確さを気にしすぎてはいないだろうか。もちろん、文法は重要である。特に、技術的な説明、契約、医療、安全に関する意思疎通では、正確な表現が不可欠になる。しかし、日常のコミュニケーションでは、完璧な文章を作ることにこだわるあまり、発言そのものをためらってしまうこともある。
吉田選手のインタビューは、この問題を考える材料になる。重要なのは、英語の正確さを軽視することではない。不完全でも伝える力を育てながら、伝わった経験を通じて正確さを高めていくこと。この両立こそが、実用的な英語学習の一つの方向性ではないだろうか。
7.英語力とは、何を測る能力なのか
英語の能力を一つの点数で表すことは便利だが、それだけでは見えないものがある。文法、語彙、発音、聞き取り、即応性、そしてコミュニケーションの目的を達成する能力。これらは相互に関係しながらも、異なる側面を持っている。吉田選手の会見記録からは、基本的な語彙を使って自分の経験を説明し、感情を伝え、ユーモアを表現する能力がうかがえる。
一方、発音や流暢さ、詳細な聞き取り能力については、文字記録だけから判断できない。大切なのは、英語を「知っている」ことと、英語で「できる」ことを区別して考えることなのだろう。
8.おわりに——夢をかなえ、そして次の夢へ
最後に、私が最も印象に残った言葉を紹介したい。“I really want to get more wins.”「もっと優勝したいです」初優勝という大きな目標を達成した直後の言葉である。単純な英文であり、特別に洗練された表現ではない。しかし、そこには次の目標を見据えるアスリートの意志がある。
英語は、何かを伝えるための道具である。その道具が多少不完全であっても、伝えたいものが明確であれば、相手の心に届くことがある。もちろん、正確さは大切だ。しかし、正確に話せるようになるまで、話すことをためらう必要はない。
吉田優利選手の優勝インタビューは、そんな当たり前で、しかし忘れがちなことを改めて考えさせてくれた。
資料
- ASAP Sports, Yuri Yoshida — Press Conference, BMW Ladies Championship, October 25, 2026.(FastScripts Transcript)
- LPGA公式動画「Yuri Yoshida Winning Press Conference — 2026 BMW Ladies Championship」
https://www.lpga.com/videos/2026/yuri-yoshida-winning-press-conference-2026-bmw-ladies-championship
※英文の評価は公開された文字起こしに基づくものであり、発音・流暢さを含めた総合的な英語力の判定ではない。