脳型情報処理機械論:#2-3(脳の運動制御系)脳、神経、筋繊維の仕組みや構造

はじめに

脳型情報処理機械論における基礎的講座として、國吉教授が2回に渡って生物的な脳に関する事項をレビュー頂いた。最初の講義では脳の構造やニューロンについて、そして2回目の講義はその残りと運動系についてだ。しかし、このテキストに含まれる内容が非常に広範囲なため、今回を含めて多分4つの投稿でカバーする。今回の投稿はその3つ目だ。それでも、かなり幅広い概念を紹介いただいている。できるだけ理解しやすいようにまとめたつもりだが、もし理解しにくい部分があれば、それは筆者の無学のせいである。ただ、興味深い概念も多いので、参考になる部分があれば幸いだ。

・その1:視覚系の情報の流れ(特に視覚系
・その2:視覚系の情報の流れ(自己組織化マップ等)
・その3:脳の運動制御系 ⇨ 今回の投稿
・その4:脳の仕組み、ロボット(次回

運動野

脳の運動制御系

下の図(左)はサルの大脳皮質と一次運動野であり、下の図(右)はヒトの大脳皮質と一次運動野である。サルに比べてヒトの大脳皮質はより複雑な形状をしているが、中心溝から運動前野にかけて、顔、手、腕、足の機能が続いているのは共通である。一次運動野は、随意運動の指令を行う場所であり、この指令が脳幹や脊髄などの下位中枢に伝える。中心溝に沿って内側部から外側に広がる緑色の部分が一次運動野である。赤文字で2野、5野と記載しているのが、一次体性感覚野(2野)と上頭頂小葉(5野)である。

(出典:一次運動野

一次体性感覚野

一次運動野からの運動指令信号が筋収縮をうながして運動が生じる。運動に対して感覚受容器が応答し、感覚情報が一次体性感覚野に送られる。同時に、一次運動野は、動きに関する事前情報を一次体性感覚野に送る。従来は、一次体性感覚野の活動は主に外からの刺激に対して応答すると考えられていたが、実験でサルにレバーを引かせると、手を伸ばしてレバーを引く動きが始まる前から一次体性感覚野の活動が上昇することがわかった。運動野と感覚受容器の活動と一次体性感覚野の活動の関係を調べると、運動野と感覚受容器の活動がそれぞれの度合いで一次体性感覚野に影響を与えていることがわかった。一次運動野は、手足の動きに先立って活動し、その後に生じる筋収縮に関連した情報を持つ。一次体性感覚野は筋収縮に関する情報を、筋肉が活動し始める前から持っている。つまり、一次体性感覚野が感覚受容器から実際の感覚信号を受け取る前に、未来の筋活動に関する事前情報を受け取っており、一次体性感覚野は筋活動に関しての事前情報と感覚受容器からの実際の感覚情報を統合していることが判明した。

(出典:AMED)

大脳皮質運動野

下の図(左)はサルの一次運動野の体部局在であり、下の図(右)はW. Penfieldらによるヒトの一次運動野の前額断面における体部位局在である。体部位局在とは、身体を構成する特定の体部位が中枢神経系の特定の領域と明確に1対1で対応することである。例えば、下の図(右)のように、大脳皮質の特定の部位には身体の特定の部位の神経を司っている。大脳皮質には、第一次体性感覚野、第一次運動野、第二次体性感覚野、高次運動野が存在する。第一次体性感覚野では、手や顔、口が実際の体部位よりも大きく、広い面積を占めている一方で体幹などは小さくなっている。対象物に接触し、識別に関わる体部位は、触覚受容器の密度も高く、再現される脳領域も広くなる。

(出典:体部位局在)

体支配配列

下の図(左)は、大脳皮質、脊髄、小脳、筋などがどのように連携しているかを示している。外部環境からの五感情報や内発的動機に応じて大脳皮質が皮質脊髄路を経由して、脳幹や脊髄に指示を出す。このメカニズムにはいくつかのフィードバック機能が実現されている。一つは、大脳皮質から大脳基底核から視床を経由して大脳皮質に戻っている。また、大脳皮質から脳幹、小脳を経由して視床から大脳皮質に戻っている。最後は大脳皮質から脊髄、小脳、視床を経由して大脳皮質に戻っている。大脳皮質に戻るのは常に視床であるのが特徴的だ。視床は、視床下部、松果体、脳下垂体とともに間脳を構成し、下の図(右)に示すように頭脳の中心にある。視床は、全身の感覚、視覚、聴覚などの感覚入力知覚刺激情報を認識し、大脳皮質、大脳基底核に伝達している非常に重要な器官である。運動神経の良い人とは、この生物の本能的な仕組みが優れているヒトなのだろう。

(出典:新潟大学脳研究所

皮質脊髄

皮質脊髄路の発見の歴史

皮質脊髄路とは、前述の通り、大脳皮質から脳幹や脊髄に信号を伝えるルートである。下の図は、この皮質脊髄路の発見の歴史をチャート的に示したものだ。1970年代は錐体路(すいたいろ:pyramidal tract)の研究が活発であったが、1980年代以降は皮質脊髄(ひしつせきずい:corticospinal)に関する研究が急増している。錐体路とは、随意運動をつかさどる神経伝導路のことである。錐体路は、この神経路が延髄腹側面に膨隆している錐体の内部を集中的に通過し、皮質脊髄路と皮質核路の2系統からなる。皮質核路は皮質核線維とも呼ばれる。

(出典:新潟大学脳研究所

脊髄全角からのニューロン

脊髄全角(せきずいぜんかく)には、α運動ニューロンとγ運動ニューロンという2種類の運動ニューロンがあり、これらが筋紡錘(きんぼうすい)の内側と外側にある別々の筋繊維に接続し、運動指令を伝えている。中心的な役割を果たすのがα運動ニューロンであり、骨の周囲にあって体を動かしている骨格筋にある神経筋接合部という特殊なシナプスとα運動ニューロン末端が接合することでアセチルコリンを放出する。筋には、収縮する屈筋と伸展する伸筋があり、屈筋にアセチルコリンが作用すると活動電位が発生して収縮し、関節などの骨格筋が屈曲する。伸筋は関節の反対側にあり、屈筋が収縮すると伸展(弛緩)する。これを拮抗性(きっこうせい)をもつと言う。例えば、交感神経と副交感神経の多くは,同じ器官に分布して,ある器官のはたらきを一方の神経が促進すれば,他方の神経は抑制するという拮抗的調整をになっている。

(出典:脳とサプリのまとめ)

運動

筋肉の伸張を調整するニューロン

「脊髄全角には、α運動ニューロンとγ運動ニューロンという2種類の運動ニューロンがあり、これらが筋紡錘の内側と外側にある別々の筋繊維に接続し、運動指令を伝えている。」と前述した。下の図に示すように、α運動ニューロンは筋紡錘外側の筋繊維を、γ運動ニューロンは筋紡錘内側の筋繊維を支配し、筋収縮の度合いを調整する。α運動ニューロンが筋に興奮伝導を送り、筋紡錘の外側にある錘外筋線維が収縮します。la群線維は自らが巻き付いている錘内筋線維の長さの情報を中枢に送り、錘外筋線維が収縮すると、錘内筋線維が短くなってたるみ、長さ情報を中枢に送らなくなる。このときγ運動ニューロンも一緒に信号を送ると筋紡錘の両端が収縮し、中枢への情報伝達機能が起こる。このようにして、α運動ニューロンとγ運動ニューロンの相反する作用がバランスのとれた運動を可能にしている。すごい。

(出典:脳とサプリのまとめ)

脳内GABA濃度と運動スキル

GABAとは、γ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)の略であり、体内に存在するアミノ酸のひとつである。GABAは、特に脳や脊髄で精神を安定させる抑制性の神経伝達物質で、交感神経の働きを抑制して、興奮した神経を落ち着かせたり、ストレスを緩和したり、睡眠の質を整えたりする効果がある。抑制性の神経伝達物質は、脳の神経細胞の約30%を占めており、脳内の血流を活発にし、酸素供給量を増やしたり、脳細胞の代謝機能を高める。国立障害者リハビリテーションセンター研究所では、自閉スペクトラム症(ASD)と脳内GABAの濃度に関係性があることを調べた。ASDは、神経発達症の一つであり、社会コミュニケーションの困難やこだわり、常同行動などの行動特性を示す。また、ASDの約8割は発達性協調運動障害を伴う。靴紐を結ぶような指先の微細な動作や、球技や水泳など全身を使う運動などで困難が生じやすい。

(出典:医療ニュース

GABA摂取の効果

GABAを摂取すると様々な効果があると指摘されている。
・ストレスの軽減:GABAを摂ると、副交感神経の働きが活発になり、α波が増加して精神的な緊張を和らげる働きがある。人は強いストレスを受けると免疫力が低下するが、GABAを摂ると、ストレス下での免疫力の低下を抑える効果もある。
・血圧の上昇抑制:GABAは血圧を抑制する効果がある。血管を通じて末梢臓器の神経伝達を抑制し、血管収縮を緩める。GABAは、腎臓の働きを活発にして、血液中の塩分をろ過し、利尿作用を促して血圧を下げる効果がある。
・睡眠の質向上:GABAを夜間帯に摂ると、自然に入眠出来たり、入眠までの時間が短くなったりする効果がある。不安やストレスなどが多く、交感神経が優位になり、グルタミン酸が増えると脳が興奮状態を持続する。GABAは脳の興奮を抑えて、気持ちを落ち着け、リラックスを促してくれる。
・中性脂肪を低減:GABAは、エネルギーの消費を高め、内臓の代謝を上げる働きがある。血液中の中性脂肪やコレステロールに働きかけ、脂質代謝を促す。GABAにより、肝臓のたん白合成が促進され、エネルギー源として体内の脂質が消耗されるためという。

良いことづくめだが、脳内GABAを高めるには、どうすれば良いのか?基本的には、ビタミンB6の多い食品を摂ると体内でのGABAの合成が促される。ビタミンB6は、にんにく、鮭、あじ、さんま・かつお等の魚、ひれ肉、ササミ等に多く含まれている。たん白質をしっかり摂ることで、ビタミンB6の必要量も増加し、代謝がさらに高まる。しっかりと栄養のあるものを食べて、運動して、良い睡眠をとると、睡眠中にGABAが体内で合成される。
(出典:ナチュラルクリニック代々木

視細胞から視経節細胞

下の図は、光が網膜に届いた時に、視細胞(photoreceptor)から水平細胞(horizontal cell)、双極細胞(bipolar cell)、アマクリン細胞(amacrine cell)、神経節細胞(ganglion cell)を経由して、大脳に信号が伝達する構造を示したものだ。電磁波である光からニューロンの電位変化という信号への変換は網膜の最外側にある約1億2,500万個の視細胞で行われる。視細胞には、杆体細胞(かんたいさいぼう:Rod cell)と錐体細胞(すいたいさいぼう: cone cell)の 2 種類が存在する。杆体細胞の光に対する感度は錐体細胞の感度よりも1000 倍ほど高い。杆体細胞は同じ視物質で構成されるが、錐体細胞には3つの異なるタイプが存在し、異なる波長の光に反応する。錐体は主に中心窩付近10°ほどに分布し,杆体は 20°付近が最大となる。

(出典:視覚情報処理)

運動神経細胞と運動単位

運動神経は、複数の筋線維を支配しているが、どの程度の筋繊維を支配するかは筋肉によって異なる。一つの運動神経が、20本程度の筋線維を支配している場合もあれば、2000本もの筋線維を支配している場合もある。一つの神経細胞が支配する筋線維の数のことを神経支配比と言う。この神経支配比が大きなものを「サイズの大きな運動単位」、小さいものを「サイズの小さな運動単位」と表現する。


(出典:陸上競技の理論と実践

運動単位数とサイズの原理

運動単位数は、筋肉によって異なると前述した。下の表(上)に示すよに、外眼筋の運動単位数はおよそ2000個だが、腓腹筋の運動単位数は580個だ。筋繊維の支配数では、外眼筋はおよそ13であり、腓腹筋ではおよそ1720 と報告されている。スキルを必要とする外眼筋は神経支配比が小さく、運動単位数が多く大きな力を必要とする腓腹筋はその逆となる。また、運動単位の種類は、下の表(下)に示すように、S型とF型があり、F型にはさらにFR型とFF型がある。S型の運動単位はニューロンサイズが小さく、神経支配比も小さくなる。逆に、F型はニューロンサイズが大きく、神経支配比も大きくなる。S型は筋線維タイプⅠをF型は筋線維タイプⅡを支配し、タイプⅠの筋線維はいわゆるマラソンランナーで、筋張力は低いが疲労しにくい特性を持ち、タイプⅡの筋線維はスプリンターで張力は高いがすぐに疲労する。力を徐々に入れた場合、まずサイズの小さな運動単位(S型)から活動を開始し、ついでF型の運動単位が参加する順序を持ち、これをサイズの原理と言う。

(出典:酒井医療

運動単位の収縮特性

運動単位は次に示すような収縮特性を有する。すでに紹介したものがあるが、理解を深めるために列挙しておきたい。

・運動単位:骨格筋は運動系の最終共通経路である運動ニューロンによって支配される。1個の運動ニューロンが支配する筋肉のグループを運動単位と呼び、機能単位を構成する。運動単位によって筋肉はS型、FR型、FF型に分類される。
・神経支配比:単一運動ニューロンの支配する筋線維数を神経支配比といい、その比は細かい運動に関係する筋では小さく、粗大な運動に関与する筋では大きい。
・サイズの原理:運動ニューロンプール内ではそのニューロンの大きさによる興奮性の序列がある。運動ニューロンの活動は小さいニューロンから大きなニューロンの参加が起こり、逆の順で活動を停止する。
・収縮エネルギーの反応:筋収縮の直接的なエネルギー源はATPであり、クレアチンリン酸からローマン反応、嫌気性解糖系やミトコンドリア内での酸化的リン酸化によって産生される。
・酸素負債:運動すると筋肉中に乳酸が蓄積するが、これを代謝するために運動終了後に一時的に酸素要求量が高くなることを酸素負債(oxygen debt)という。
・筋肉のタイプ:骨格筋は赤筋と白筋に大別される。赤筋はゆっくりと収縮し疲労が少なく、白筋は収縮は早いが疲労を起こしやすい。生化学的には1型(赤筋タイプ)や2A型や2B型に分けられる。また運動単位によって筋肉はS型、FR型、FF型に分類される。


(出典:運動器系

筋繊維

筋繊維と筋原繊維

骨格筋を構成する筋繊維は横紋筋を構成する多核の細胞である。意思に従って動かせる随意筋である。この筋繊維は、アクチンとミオシンというタンパク質を主成分とする筋原繊維でできている。


(出典:TEKIBO)

筋小胞体と筋繊維

筋収縮は神経の興奮が神経繊維に伝わり、神経伝達物質を解して、筋繊維に伝わり、活動電位が伝導される。筋小胞体からCa2+が放出されて、Ca2+がトロボミンに結合して、ミオシン頭部がアクチンフィラメントに結合し、手繰り寄せというのが一連の処理となる。

(出典:TEKIBO)

相反性抑制

相反性の代表が膝蓋腱反射だろう。下の図に示すように、ハンマーで叩くと膝蓋腱が伸ばされる。これを筋紡錘が感知し、伸ばされすぎて切れないように筋が短縮位になる。これが伸張反射だ。筋の伸張を筋紡錘が感知すると、la群線維が脊髄へ伝え、la群線維は脊髄内でその筋を支配する運動ニューロンに直接シナプス結合し、これを興奮させる。運動ニューロンの興奮はα線維により筋に伝えられ、伸ばされた筋が収縮する。この仕組みのことを、自原性興奮という。この反射はただ1つのシナプスを介するため、単シナプス反射と言い、2つ以上のシナプス接続を介す反射は多シナプスと呼ばれる。なお、この時の「筋紡錘→Ⅰa群線維→α運動ニューロン→骨格筋」の経路を反射弓と呼ぶ。この時、Ⅰa群線維は側枝を伸ばし、抑制性介在ニューロンを介して拮抗筋のα運動ニューロンの抑制も同時に行われる。これによって拮抗筋は弛緩する。この仕組みを相反性抑制と言う。

(出典:国試対策

交感神経支配と副交感神経支配

多くの臓器は、交感神経系と副交感神経系のどちらか一方によって主に制御されている。1つの臓器に対して両方の神経系がそれぞれ反対の作用を及ぼしている場合もある。例えば、交感神経系は血圧を上昇させますが、副交感神経系は血圧を低下させる。全体として、2つの神経系が協調して機能することで、体は様々な状況に対して適切に反応できるようになっている。

(出典:自律神経系

まとめ

今回は、脳から筋肉にかけての指令の流れを中心にして、一次運動野から一次体性感覚野への信号の2ルートでの流れの話、体位局在の話、大脳皮質から脊髄、筋への流れと視床経由での大脳皮質へのフィードバックループの話、皮質脊髄路の研究の歴史、筋肉を動かす2つのニューロンの話、脳内GABAの話、運動単位や神経支配比の話、相反性抑制の話、そして最後に交感神経支配と副交感神経支配の話などをした。いずれも重要な概念だが、今回はその概略を理解することを目的とすることにしたい。なかなか興味深い内容だった。これらの知識が今後どのようにロボットにつながるのかも楽しみだ。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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