東京大学先端技術セミナー:海洋プラスチックゴミ問題の解決に向けてを受講して。

はじめに

東京大学の講義は毎週水曜日と金曜日の夕方だけど、今回は先端技術セミナーの案内があり、ZOOMによるオンライン講義だったので参加した。開催日時は、2022年4月26日(火)の18:45から20:30の6限だった。タイトルは、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けてだった。講師はCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス事務局技術統括の柳田康一氏だった。


(出典:環境ビジネス

講師とセミナー概要

今回の講師の柳田康一は、1985年3月に埼玉大学大学院工学研究科環境化学工学専攻修士課程修了され、同年4月に花王株式会社に入社された。加工・プロセス開発研究所室長や、包装容器開発研究所室長、サステナビリティ推進部長、 ESG部門副統括を歴任された。2019年からは、一般社団法人産業環境管理協会 クリーン・オーシャン・ マテリアル・アライアンス(CLOMA)事務局 技術統括を担当されれている。現在も、花王からCLOMAに出向されているが、花王ではトイレタリー化粧品の製造技術・容器設計、ユニバーサルデザイン、レスポンシブル・ケア、ESG経営、海洋プラス チックごみ問題などに従事されていた。これらの活動を通じて海洋プラスチックゴミにどのように対応するのか、社会システムをどのように再構築すべきなのか、どのような国際貢献をすべきかなど課題も多い。豊富な経験に基づく説明と長めの質疑応答の時間を用意頂いた。
(出典:CLOMA)

CLOMA

海洋プラスチックごみを削減するためには、ポイ捨て防止の徹底をはじめとする廃棄物の適正管理に加え、プラスチック製品の3Rの取組のより一層の強化や、生分解性に優れたプラスチック、紙等の代替素材の開発と普及の促進など、喫緊の対応が求められています。上記背景を踏まえ、業種を超えた幅広い関係者の連携を強めイノベーションを加速するためのプラットフォームとして、「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」(英文名:Japan Clean Ocean Material Alliance 略称「CLOMA」)が設立されました。CLOMAは2019年1月に民間企業159社によって設立され、2020年8月には361社が参加している。CLOMAが目指すのは、海洋プラスチックごみの削減に貢献するために、「2050年までに容器包装等のプラスチック製品100%リサイクル」だ。

(出典:ラ・メール

何が問題か

ゴミの排出量の推移

一般廃棄物(ごみ)の処理の状況

下の図は環境省が発行する環境白書に示されている一般廃棄物の処理状況だ。ゴミの総排出量は2000年の5,500万トンをピークに減少傾向を示し、2019年度には4,274万トンまで減少している。同様に国民一人一日当たりのごみ排出量は、2000年の1,200グラムをピークに減少し、2019年では918グラムとなっている。しかし、減少傾向も2010年頃から下げ止まりを示しており、さらなるゴミの削減策が求められている。


(出典:環境省

ペットボトルの製造国別割合

海洋プラスチックゴミは、海洋ゴミの一種であるが、腐食しにくいという特性が逆に海洋生態系への影響などを深刻化する要因となっている。海洋プラスチックごみによる海洋汚染は地球規模で広がっている。1950年以降に生産されたプラスチック類は83億トン超で、そのうち63億トンがごみとして廃棄されたとの報告もある。毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出しているという試算もあり、これはプラスチック製品のライフサイクルでの活動を考え直すことが求められていると言える。下の図は、日本の海外に漂流するゴミを全国10の地点で調査したものだ。容積や個数ではプラスチック類が高い割合を占めていて、回収されたペットボトルの製造国を調査すると、対馬では40%が韓国産、甘味では68%が中国産だった。一方、瀬戸内海の国東では62%が日本産だった。PETボトルリサイクル推進協議会によると、2016年度の日本国内でのペットボトルの販売量約60万トンのうち50万トンがリサイクルされている。しかし、リサイクルの内訳を見ると、約28万トンが日本国内でリサイクルされ、残り22万トンは海外に「輸出」されてリサイクルされている。つまり、販売したペットボトルの44%を輸出している。中国などではリサイクルするよりも最初から製造した方が安いケースもあり、これらが不法な大量廃棄の元凶となっていないのかと心配する。もし、輸出したものが不法に廃棄されていないかどうかをしっかりと確認できない限りはゴミの輸出は自粛すべきだと感じる。

(出典:環境省

最終処分場の残余容量と残余年数

ゴミの最終処分場は全国にどの程度あるのだろう。2018年度における全国の一般廃棄物、つまりごみの総排出量は4,272万トンだ。最終処分量は前年比0.6%減少し、リサイクル率も減少し、ごみ焼却施設数も1,103施設から1,082施設に減少している。発電設備を有するごみ焼却施設数は全体の35.0%である。ごみ焼却施設における総発電電力量は増加(9,553 GWh、約321万世帯分の年間電力使用量に相当)している(参考)。2019年度末時点で、一般廃棄物最終処分場は1,620施設、残余容量は99,507千m3であり、2018年度から減少しました。また、残余年数は全国平均で21.4年となった。

(出典:環境省

どのような対策が可能か

海洋プラスチックゴミの削減にはどのような対策が必要かつ有効なのだろう。

プラスチック資源循環戦略

2019年(令和元年)5月に、政府は海洋プラスチックごみ問題、気候変動問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化の幅広い課題に対応するため、下の図に示すような、プラスチック資源循環戦略を策定して、3R+Renewableの基本原則と、6つのマイルストーンを目指すべき方向性として掲げた。利用の削減や再利用の促進、バイオマスプラスチックの活用などだ。スーパーのポリ袋の有料化やスタバのストローの紙化、分別処理など各家庭や企業で、できるところから着手という雰囲気だ。ペットボトルをリサイクルしようとして、結局それが海洋プラスチックゴミの大量廃棄につながるリスクがあるなら、ゴミとして焼却して、発電のための燃料として活用する方がスマートな気がする。
(出典:プラスチック循環資源

プラスチックのガス化

プラスチックごみを燃やして発電の燃料とする以外にも、廃プラスチックをガス化する技術も開発されている。日揮グループは、2019年7月から荏原環境プラント株式会社、宇部興産株式会社、昭和電工株式会社とEUP(Ebara Ube Process)を活用した廃プラスチックのガス化事業を検討している。廃プラスチックのから製造される合成ガスを精製処理すると水素を製造することができる。水素は気体のままでは貯蔵や長距離の輸送の効率が低いため、冷却して液体にしたり水素化合物にして貯蔵・運搬する。成分中に多くの水素を含むアンモニアは、比較的高温で液化するため、他のエネルギーキャリアより長期間の貯蔵や輸送が容易である。このため、アンモニアは、直接燃焼が可能で、かつ燃焼時にCO2を排出しないことから、水素エネルギーキャリアとして注目されているようだ。

(出典:JGC

廃プラスチックのリサイクル

2020年8月18日に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「廃プラスチックをリサイクルするプロセス技術開発事業に着手する」と発表した。この事業は、廃プラスチックを適正に処理し、資源として循環させることを目的に行われるもので、開発の詳細は以下の4つの項目とされている。
・最適な処理方法に振り分けるための選別技術
・元のプラスチック材料と遜色ない材料に再生する技術
・分解して石油化学原料に転換する技術
・材料や原料への再生が困難な廃プラスチックを焼却し高効率にエネルギーを回収・利用する技術の開発

先進諸国のプラスチックごみを受け入れてきたアジア新興諸国では、廃プラスチックを適切に処理できないとして輸入規制が強化されている。こうしたなか、日本政府が策定した「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」や「プラスチック資源循環戦略」では、2035年までに全ての使用済みプラスチックを有効利用することなどの目標が提示されていることは前述のとおりだ。一般社団法人プラスチック循環利用協会によると、日本では年間約900万トンの廃プラスチックが出ている。そのうち再生品への利用は約210万トン/年で、そのうち約90万トン/年は海外へ輸出していた。コークス炉やガス化の原料として約40万トン/年、固形燃料・発電・熱利用の熱エネルギー回収として約500万トン/年が毎年リサイクルされている。

(出典:Circular Economy Hub)

まとめ

海洋プラチックゴミの問題は根深い。講義終了後に、うなぎとプラスチックゴミの関連性について質問した。最初は意図が通じなかったが、最終的にはそれはあるかもしれないと言う見解を示していただいた。これは自分の仮説だけど、うなぎの産卵場所は、日本では西マリアナ海嶺とされている(参考)。一方、海洋プラスチックゴミは海上に浮遊するものと海底に沈むものがある。太平洋であれば海流の関係から、以前も投稿したように、その多くは海底に沈む。軽量のポリエチレンでさえ、海の生き物や生き物が出す粘液が付着して、重くなって沈む。特に海流の影響で沈殿する場所があり、水深5700〜5800メートルの深海を調査すると想像を超える大量のゴミが見つかったという報道もある。風呂桶の水を回転させると遠心力と求心力の関係から中心にゴミが集まる。うなぎの産卵場所も海底の深海部分だ。うなぎの産卵場所にプラスチックゴミが大量に浮遊しているとしたら、うなぎの成長に悪影響がある可能性もあるのではないだろうか。ただ、推進5000メートル以上の深海には簡単には行くことはできない。海洋調査では是非広い視点から必要な調査を実施してほしいと希望する。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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