はじめに
スターバックス(以下、スタバ)は、日本を代表するコーヒーチェーンとして成長を続けている。しかし、その競争相手は、もはやドトールやタリーズなどの専門店だけではない。セブンイレブンなどのコンビニエンスストア、マクドナルド、さらには家庭で楽しむコーヒーまで、競争の範囲は広がっている。こうした環境で、スタバは今後も店舗数を増やすだけで成長できるのだろうか。今回は、国内市場の現状と競争環境を分析し、海外で導入されている飲料サブスクリプションを参考に、年間パスポート、月額定額制、スイーツとの組み合わせなど、新たな成長戦略を考えてみたい。中心となる問いは、「スタバはコーヒーを売る企業から、顧客が繰り返し訪れたくなる価値を提供する企業へ、どこまで進化できるのか」である。
第1章 スターバックスの国内市場と成長の現状
国内店舗数と成長率
スタバが日本に進出したのは1996年。東京・銀座に1号店を開業して以来、全国へ店舗網を拡大してきた。2026年3月末の国内店舗数は2,116店舗となり、前年同月末の2,011店舗から105店舗増加した。増加率は約5.2%である。成熟した外食市場において、現在も年間100店舗前後の純増を続けていることは注目に値する。
図1 スターバックス国内店舗数の推移
都道府県別の店舗分布と地域格差
店舗は全国に広がっているが、都市部への集中が目立つ。独立集計による2026年4月時点のデータでは、東京都が433店舗で最多、次いで大阪府173店舗、愛知県162店舗となっている。首都圏や大都市の人口、交通量、商業施設の集積が店舗立地に大きく影響していると考えられる。しかし、店舗数が少ない県に必ずしも成長余地が大きいとは限らない。人口規模だけでなく、観光客、所得、交通手段、競合店の存在などを考慮する必要がある。
表1 都道府県別の店舗密度の比較
| 都道府県 | 店舗数 | 人口10万人当たり |
|---|---|---|
| 東京都 | 433 | 3.22 |
| 沖縄県 | 37 | 2.57 |
| 愛知県 | 162 | 2.26 |
| 大阪府 | 173 | 2.05 |
| 福岡県 | 91 | 1.82 |
人口当たり店舗数から見る成長余地
人口10万人当たりの店舗数で比較すると、東京都だけでなく沖縄県や愛知県も比較的高い水準にある。沖縄県では観光需要も考慮すべきだろう。
出典:47story独立集計(2026年4月29日取得)。人口は同資料の採用値。公式の2026年3月末全国店舗数とは集計時点・方法が異なる。今後は単純な出店拡大に加え、人口密度や店舗利用目的に応じた立地別戦略が重要になる。
第2章 スタバの競争相手は誰なのか
ドトール・タリーズ・コメダ珈琲との比較
スタバの直接的な競合として、ドトール、タリーズ、コメダ珈琲店などが挙げられる。しかし、それぞれのビジネスモデルは異なる。ドトールは比較的手頃な価格と短時間利用、タリーズはコーヒーの専門性と落ち着いた空間、コメダ珈琲店はゆったり滞在できる店舗と充実したフードメニューが特徴である。スタバは、商品だけでなく、店舗空間、接客、ブランドイメージを組み合わせた体験価値で差別化してきた。店舗数ではスタバが突出しているが、店舗数の多さが必ずしも利益率や顧客満足度の高さを意味するわけではない。
図2 主要カフェチェーンの国内店舗数(2026年1月)
セブンイレブンなどコンビニコーヒーの台頭
さらに重要なのが、コンビニコーヒーの存在である。セブンイレブンでは、2026年10月時点の公式掲載価格で、ホットコーヒーのレギュラーサイズが税込約140円となっている。専門店と比較して低価格であり、買い物のついでに購入できる利便性も大きい。コンビニは快適な店内滞在を提供することを主目的としない。コーヒーの購入にかかる時間と手間を小さくすることが強みである。
マクドナルドの低価格コーヒー戦略
マクドナルドは2008年に100円のプレミアムローストコーヒーを導入し、コーヒー専門店に対抗した。その後、価格改定と品質改善を続け、2026年にはホットコーヒーSサイズが140円から販売されている。マクドナルドの強みは、コーヒーとハンバーガー、朝食、スイーツなどを組み合わせられることだ。コーヒーだけで利益を考える必要がなく、食事と合わせた来店機会をつくることができる。
価格競争ではなく体験価値で差別化する
スタバがコンビニやファストフードと価格競争をするのは得策だろうか。私は必ずしもそうは思わない。スタバの顧客が購入しているのは、コーヒーという商品だけではない。仕事をする環境、くつろぐ時間、人と会う場所、あるいは自分への小さなご褒美である。コーヒーが安く買える時代だからこそ、スタバには価格以外の来店理由を増やす戦略が求められる。
表2 主要競合の戦略比較
| 業態 | 主な強み | スタバへの影響 |
|---|---|---|
| ドトール | 価格・短時間利用 | 日常需要の競争 |
| タリーズ | 専門性・落ち着いた空間 | 店内体験の競争 |
| コメダ珈琲店 | 長時間滞在・フード | 居場所としての競争 |
| セブンイレブン | 低価格・利便性 | 持ち帰り需要の競争 |
| マクドナルド | 低価格・食事との組み合わせ | 朝食・休憩需要の競争 |
| スターバックス | ブランド・空間・商品体験 | 付加価値の維持が課題 |
競争上の特徴は筆者による定性的な整理であり、客観的な優劣や企業公式のポジショニングを示すものではない。
第3章 コーヒー市場の将来予測
国内コーヒー市場の成長と変化
日本は世界有数のコーヒー消費国である。全日本コーヒー協会によると、2025年の国内消費量は約39万7千トンで、前年比99.3%だった。量の面では大きな成長が続いているわけではない。一方、外食産業では売上の増加がみられる。日本フードサービス協会の2025年年間調査では、喫茶業態の売上が前年比9.8%増加した。ただし、売上増加には価格改定による客単価上昇も含まれる。つまり、コーヒーの消費量と、コーヒー関連市場の売上は、必ずしも同じ方向に動くわけではない。
消費者ニーズと購買行動
消費者のニーズも多様化している。安いコーヒーを手軽に飲みたい人もいれば、多少高くても快適な空間で過ごしたい人もいる。今後は、商品そのものの品質に加え、健康志向への対応、非コーヒー飲料、スイーツ、軽食、滞在環境といった要素が成長を左右するだろう。特に注目したいのが、コーヒーを飲みたいから来店するのではなく、店に行きたいからコーヒーを注文するという購買行動である。
消費税減税など政策変更の影響
日本では、店内飲食には原則10%、持ち帰りの飲食料品には軽減税率8%が適用されている。今後、税率が変更されれば、店内利用と持ち帰りの価格差も変化する可能性がある。仮に持ち帰りの税負担がさらに軽くなれば、コンビニやテイクアウト専門店の価格競争力が高まることも考えられる。一方、店内飲食を提供するスタバは、税率だけでなく、空間やサービスの価値を含めて競争する必要がある。
2029年に向けた市場予測
将来を考えるため、2025年の国内コーヒー消費量を基準に、2029年までの簡単なシナリオを作成してみた。2025年は全日本コーヒー協会公表値。2026年以降は予測モデルの仮定であり、公的な将来推計ではない。
図3 2029年の国内コーヒー消費量シナリオ
表3 2029年の市場シナリオ
| シナリオ | 年間増減率の仮定 | 2029年の消費量 |
|---|---|---|
| 縮小 | −1.0% | 約38.2万トン |
| 横ばい | 0% | 約39.7万トン |
| 成長 | +1.0% | 約41.3万トン |
重要なのは、市場全体の数量が横ばいでも、スタバ自身の売上が成長する余地はあるということだ。その成長を店舗数と価格改定だけに頼るのではなく、来店頻度、購買点数、顧客の継続利用によって実現できるかが課題になる。
第4章 海外の成功事例に学ぶ
Pret A Mangerのコーヒーサブスクリプション
海外では、飲料の定額サービスがすでに実用化されている。
英国のPret A Mangerは、2020年に月額料金で一日最大5杯の飲料を提供するサービスを開始した。しかし、2024年には制度を変更し、現在の英国向け「Club Pret」は月額5ポンドで対象飲料を一日最大5杯、50%割引で購入できる仕組みになっている。注目したいのは、無料提供から割引提供へ変更されたことだ。定額制によって来店動機をつくりながら、利用するたびに顧客が一定の料金を負担する仕組みである。これは、利用回数が極端に多い会員への費用集中を抑える設計として参考になる。
Panera Breadの飲料定額制
米国のPanera Breadも、飲料サブスクリプションで知られる企業である。同社の「Sip Club」は、かつてUnlimitedという名称を使用していたが、2026年8月からは原則30日間で最大30回の引き換え制限が導入された。2026年10月の公式規約では、通常料金として月額14.99ドル、年額119.99ドルが記載されている。これは定額サービスを一度導入したら終わりではなく、利用実績を見ながら継続的に制度を見直す必要があることを示している。
海外事例の成功要因と採算性
飲料サブスクには、顧客との継続的な接点を確保し、来店を習慣化できる可能性がある。一方で、頻繁に来店する会員ほど提供コストが増える。顧客がもともと購入していた飲料を無料にしてしまえば、既存売上が減る可能性もある。成功を判断するには、単なる会員数だけでなく、来店頻度、併売商品の購入額、既存売上への影響、退会率などの検証が不可欠である。
表4 海外の飲料サブスク比較
| 比較項目 | Pret A Manger(英国) | Panera Bread(米国) |
|---|---|---|
| 主なサービス | Club Pret | Sip Club |
| 通常月額 | 5ポンド | 14.99ドル |
| 飲料の提供方式 | 対象飲料50%引き | 対象飲料を追加料金なしで引き換え |
| 利用上限 | 一日最大5杯 | 原則30日間で最大30回 |
| 追加条件 | 原則30分以上間隔 | 対象飲料・参加店舗等に制限 |
| 参考にしたい点 | 割引型による費用管理 | 回数制限による費用管理 |
2026年10月時点の公式公開条件。対象商品、店舗、キャンペーンなどには例外がある。
日本市場への応用可能性
日本のスタバに導入するなら、海外の制度をそのまま移植する必要はない。日本にはすでにスターバックス リワードがあり、Starをためて飲料やフードと交換する仕組みがある。既存の会員制度と連携すれば、顧客の利便性を高められる。さらに、利用時間帯や対象商品を限定すれば、店舗の混雑を抑えながら新しい需要を取り込める可能性がある。海外事例から学ぶべきなのは、無料で何杯も提供することではなく、顧客が継続的に来店したくなる仕組みをつくることである。
第5章 年間パスポートとサブスク戦略
年間パスポートと月額サブスクの違い
スタバに新しい成長戦略を導入するとしたら、年間パスポートはどうだろうか。例えば、一定の年会費を払えば対象ドリンクが割引になる、あるいは月に数杯まで無料になるという仕組みである。ただし、年間契約では最初の支払いが大きくなる。その点、月額サブスクなら加入のハードルを下げられる。気に入れば継続し、使わなくなれば解約できる柔軟性もある。私は、最初から年間パスポートを導入するより、月額サブスクで利用実績を検証し、継続会員に年額プランを提供する方法が適していると考える。
無料提供型と割引型の比較
サービスは大きく分けて、対象ドリンクを一定回数無料にする方式と、毎回割引する方式が考えられる。無料型は魅力がわかりやすく、来店する動機も強い。一方、利用回数が増えるほど費用も増える。割引型は一杯ごとの販売収入を確保できるため、原価管理が比較的容易である。表5は、筆者による企画案。スターバックスが実際に提供している料金・サービスではない。対象飲料や他の特典は別途設計が必要。
表5 スタバ向けサブスクの料金案
| プラン | 月額換算 | 5杯利用時の通常価格との差 |
|---|---|---|
| ライト | 980円 | 最大1,000円の割引に対し会費980円 |
| スタンダード | 1,980円 | 520円お得 |
| 年間パスポート | 1,650円 | 月850円お得 |
料金設定と利用回数による採算性
定額制で最も重要なのは採算性である。仮に、対象ドリンクの通常価格を500円、原材料・容器などの変動費を一杯150円とする。月額1,980円で5杯まで提供する場合、5杯すべて使われても会費から変動費を差し引いた金額は1,230円となる。ただし、これは利益ではない。人件費、家賃、設備費などを含んでおらず、既存売上の減少も考慮する必要がある。さらに、従来から飲料を購入していた顧客がサブスクに切り替えた場合と、新たに来店する顧客では、効果が大きく異なる。
表6 既存購入を置き換えた場合の影響
| サブスク導入前の購入杯数 | 導入前後の粗い収益差 |
|---|---|
| 0杯(新規顧客) | +1,230円 |
| 2杯 | +530円 |
| 3杯 | +180円 |
| 5杯 | −520円 |
加入後は全員が5杯利用、通常価格500円、変動費150円/杯を仮定。会費と飲料の差額による簡易試算であり、税込・税抜の調整、フード併売、固定費等は省略している。この試算からわかるのは、サブスクは単なる割引制度ではなく、これまで来店しなかった顧客の利用を増やせるかどうかが重要だということだ。
平日午後など閑散時間帯の活用
店舗の混雑は、曜日や時間帯によって異なる。例えば、平日の午後など比較的空席の多い時間帯に限定した会員特典を提供すれば、既存の混雑時間帯を圧迫せずに来店を促せる可能性がある。オフィス街では午後の休憩需要、住宅地では主婦・主夫やシニア層、大学周辺では学生など、立地ごとに異なる施策が考えられる。ただし、利用可能時間を厳しく制限すると、かえってサービスの魅力が下がる。店舗の混雑状況と顧客の満足度を両立させる設計が必要になる。
スイーツ特典による来店動機の創出
もう一つ重要なのが、スイーツとの組み合わせである。コーヒーだけでは来店しない人でも、季節限定ケーキや新作スイーツに魅力を感じるかもしれない。例えば、月額会員にスイーツの割引券を提供する。飲料の無料特典を利用する際に、ケーキやパンを追加購入してもらえれば、客単価の向上につながる可能性がある。ただし、スイーツは原材料、製造、配送、廃棄などの費用がかかる。追加購入による利益が割引コストを上回るかどうかを検証する必要がある。
収益性と既存売上への影響
私は、全国一斉導入ではなく、異なる立地の店舗で試験的に実施することを提案したい。比較するのは、会員登録数だけではない。導入前後の来店頻度、フード購入率、客単価、混雑状況、会員継続率、そして店舗全体の利益への影響である。
結局、サブスクの目的はコーヒーを安く売ることではない。顧客がスタバに行く理由を増やし、その習慣を長く続けてもらうことにある。コーヒー、スイーツ、仕事環境、ポイント制度などを組み合わせれば、単なる飲料定額制を超えた、新しい会員サービスへ発展する可能性がある。
第6章 コーヒーに代わる成長商品
非コーヒー飲料の可能性
スタバの主力商品はコーヒーだが、今後の成長を考えるうえで、コーヒー以外の商品にも注目したい。すでにスタバでは抹茶やほうじ茶を使ったティーラテ、フラペチーノ、フルーツ系飲料などが販売されている。2026年には「スターバックス ティー & カフェ」の28店舗で、煎茶と抹茶を組み合わせた新商品も展開された。コーヒーを飲まない顧客にも来店してもらう取り組みである。
スイーツを来店目的に変える
私は、特にスイーツに成長の可能性があると考える。現在もニューヨークチーズケーキやアップルパイ、モンブランなどを販売しているが、スイーツを飲料の付属品ではなく、来店の主目的にできないだろうか。例えば、季節限定ケーキ、地域限定スイーツ、人気洋菓子店との共同開発などである。「新作ケーキを食べたいからスタバに行く」という新しい需要を生み出せれば、コーヒー市場の成長率に左右されにくくなる。
パン・サンドイッチ・軽食の拡充
もう一つの可能性が、朝食や昼食の需要である。スタバではドーナツ、スコーン、サンドイッチ、キッシュなどを扱っている。これらを時間帯別に組み合わせれば、朝はコーヒーとパン、昼はサンドイッチ、午後はケーキというように、一日の中で異なる来店理由をつくれる。
飲料・スイーツ・パンの原価率比較
ここで気になるのが原価率である。一般に、シンプルなコーヒーは原材料が比較的少ない。一方、スイーツには乳製品、小麦粉、果物、チョコレートなどの原材料に加え、加工、冷蔵配送、売れ残りによる廃棄などの費用がかかる。ただし、スタバの日本国内における商品別原価率は公開されていないため、正確な比較はできない。そこで、以下のような仮定を置いてみたい。
表7 商品別原価率の仮定に基づく収益シミュレーション
| 商品分類 | 仮定した販売価格 | 仮定した変動費 | 変動費率 |
|---|---|---|---|
| ブラックコーヒー | 450円 | 90円 | 20% |
| ミルク系飲料 | 550円 | 165円 | 30% |
| フラペチーノ系 | 650円 | 228円 | 約35% |
| ケーキ・スイーツ | 550円 | 248円 | 約45% |
| パン・サンドイッチ | 550円 | 220円 | 40% |
すべて筆者の仮定による例示であり、スタバの実際の販売価格・原価・利益率を示すものではない。原価には食材・包装等の想定変動費を含み、人件費や家賃は含めていない。計算上の価格・費用は同一税区分の仮定値として扱う。
図6 商品別の変動費率比較(仮定値)
独自シミュレーション。実際の原価率を示すものではない。このモデルでは、スイーツの変動費率はコーヒーより高い。しかし、販売価格も高いため、追加購入につながれば利益額を増やせる可能性がある。
無料・半額特典の採算性
例えば550円のケーキを、飲料のサブスク会員に半額の275円で提供するとしよう。上のモデルでは変動費が約248円なので、単品では約27円しか残らない。さらに人件費や廃棄費用を考えれば、採算は厳しくなる。したがって、スイーツ特典は半額よりも100円引きなどの定額割引とし、追加購入を促す方式が現実的ではないだろうか。
セット商品と季節限定商品の開発
特に提案したいのは、コーヒーとスイーツのセット販売である。飲料だけでは来店しなかった顧客が、魅力的なケーキをきっかけに訪れる。反対に、飲料を購入した顧客がスイーツを追加注文する。この二つの流れをつくることで、来店頻度と客単価の双方を改善できる。コーヒーが来店の目的であり、スイーツがついでだった時代から、スイーツが目的となり、コーヒーが一緒に売れる時代へ。 その転換が、新たな成長につながるのではないだろうか。
第7章 顧客層別の新しいスタバ戦略
会社員向けの仕事環境
スタバの価値は、飲み物や食べ物だけではない。くつろいだり、仕事をしたり、人と会ったりできる環境も大きな魅力である。例えば会社員にとっては、出勤前の時間、昼休み、商談前の待ち時間、仕事帰りなど、さまざまな利用場面が考えられる。こうした顧客には、朝食セット、短時間利用向けのモバイル注文、平日会員特典などが有効かもしれない。
ノマドワーカー向けサービス
ノートパソコンで仕事をするノマドワーカーにとっては、Wi-Fi、電源、座席の快適さなどが重要になる。スタバでは公衆無線LANサービスを提供しており、一部店舗では会員向けの自動接続Wi-Fiも試験導入されている。そこで、通常のカフェ空間とは別に、仕事に集中できる座席や予約制スペースを設けることも考えられる。ただし、長時間の滞在は席の回転率を低下させるため、料金設計や利用時間の調整が必要である。
子育て世代への支援
子育て世代には、ベビーカーで利用しやすい席、短時間でも楽しめる商品、親子向けイベントなどが考えられる。また、保護者がコーヒーを飲み、子供がスイーツを楽しめるセット商品は、家族で来店する動機になるだろう。
シニア層の交流と居場所
高齢化が進む日本では、シニア層にとっての居場所という価値も無視できない。コーヒーを飲みながら新聞や本を読む、友人と会話する、地域のイベントに参加する。こうした利用目的に合った店舗づくりは、平日昼間の需要創出にもつながる。例えば、平日午前のシニア向けセットや、地域交流イベントを企画してみてはどうだろうか。
男女別・年代別のニーズへの対応
男女別、年代別の戦略も考えられる。ただし、性別や年齢だけで嗜好を決めつけるべきではない。重要なのは、何を購入したいかだけでなく、なぜ来店するのかを分析することである。
表8 顧客層別の新サービス提案
| 顧客層 | 主な利用目的の仮説 | 提案するサービス |
|---|---|---|
| 会社員 | 休憩・打ち合わせ | 平日サブスク・朝食セット |
| ノマドワーカー | 集中・リモートワーク | 電源席・時間制ワーク席 |
| 学生 | 学習・友人との交流 | 学割・軽食セット |
| 子育て世代 | 親子の休憩 | ファミリー席・親子セット |
| シニア | 交流・趣味・休憩 | 平日昼間の特典・地域イベント |
| 観光客 | 休憩・地域体験 | 地域限定商品・多言語案内 |
顧客ニーズは筆者による仮説であり、実際の年齢別・性別の購買調査結果ではない。
店舗立地と顧客層を組み合わせる
さらに、顧客層と店舗立地を組み合わせることが重要である。オフィス街、住宅地、駅前、大学周辺、観光地では、それぞれ顧客の目的が異なる。同じスタバでも、一律のサービスを提供する必要はない。
図7 立地と顧客ニーズから考える店舗戦略
店舗別施策の提案モデル。既存の公式店舗分類を示すものではない。スタバが提供すべきものは、全員に同じサービスではなく、それぞれの生活場面に合った価値なのではないだろうか。
第8章 アライアンスとポイント戦略
銀行・金融機関との連携
スタバが今後さらに成長するためには、自社の店舗や商品だけでなく、他企業との連携を強化することも重要だろう。例えば銀行やクレジットカード会社と提携し、スタバの利用頻度に応じてポイント還元率が高まる仕組みを導入する。逆に、金融機関の会員特典としてスタバの割引やドリンクチケットを提供することも考えられる。提携先にとっては会員の満足度向上、スタバにとっては新しい顧客との接点を生み出す機会になる。
書店・商業施設・地域企業との提携
スタバはすでに、書店とカフェを組み合わせた「Book & Cafe」など、店舗体験を広げる取り組みを展開している。さらに、書店、映画館、美術館、ホテルなどと会員特典を共通化すれば、単なる飲食店とは異なる価値を提供できるかもしれない。例えば、書店で本を購入した顧客にスタバの割引特典を提供したり、美術館の入館者が近隣のスタバで休憩できるセットプランを設けたりする方法である。
法人向け福利厚生サービス
法人市場にも可能性がある。スタバでは現在、企業が従業員や取引先に贈るためのeGiftやスターバックス カードのおまとめ注文を提供している。福利厚生や社内インセンティブへの利用も紹介されている。これを発展させて、企業が月額料金の一部を負担する法人向けサブスクを提供してはどうだろうか。社員は仕事の合間にスタバを利用でき、企業は福利厚生の充実を図れる。ただし、会員認証、費用負担、利用範囲などの制度設計が必要になる。
ポイント制度の進化
スタバには「スターバックス リワード」があり、公式アプリなどを利用した対象の支払い60円(税込)ごとに1 Starがたまる。StarはドリンクやフードのeTicketなどと交換できる。2025年には、会員同士でStarを贈る「Star Share」も始まった。しかし、ポイントの使い道はさらに広げられるのではないだろうか。例えば、提携企業のサービスへの交換や地域の文化活動への寄付などである。さらに一歩進めて、ポイントを投資信託、金、ビットコインなどの金融資産の購入に使うという発想もある。実際、メルカリのビットコイン取引サービスでは、対象の無償ポイントを暗号資産購入に利用できる。もっとも、スタバがこうしたサービスを導入するには、金融事業者との提携、法規制への対応、価格変動リスクの説明など、多くの検討が必要になる。現在のStarで金融商品を購入できるという意味ではない。
表9 アライアンス戦略の可能性
| 提携先 | 新たな顧客価値 | スタバへの期待効果 |
|---|---|---|
| 銀行・カード会社 | 決済特典・ポイント還元 | 新規顧客の獲得 |
| 書店・映画館 | 文化体験と飲食の組み合わせ | 来店機会の拡大 |
| ホテル・商業施設 | 宿泊・買い物との連動 | 周辺需要の取り込み |
| 法人・企業 | 福利厚生・社内特典 | 継続的な法人需要 |
| 金融サービス会社 | ポイントの新しい使い道 | 会員制度の魅力向上 |
既存の提携実績の一覧ではなく、新たに考えられる提携戦略の提案。
提携による顧客価値の拡大
アライアンス戦略の本質は、単にポイントを共通化することではない。スタバを利用することで、他の生活場面でもメリットが生まれる仕組みを構築することである。
図8 スタバを中心としたアライアンス構想
第9章 5年単位で考える成長戦略
2027〜2030年:生活支援型サービスへの進化
今後の成長を考えるうえで、短期的な売上増加と長期的な企業価値の向上を分けて考えたい。まず2030年頃までは、既存店舗と会員制度を活用したサービスの拡充を優先する。例えば、飲料サブスク、スイーツとのセット販売、法人向け会員制度などである。新たに店舗を建設しなくても、既存店舗の利用率や顧客単価を高められる可能性があるただし、最初から全国展開するのではなく、異なる立地の店舗で試験導入し、採算性を検証する必要がある。
2030〜2035年:地域コミュニティ型店舗へ
次の段階では、地域との関係を強化したい。地域の書店、学校、企業、文化施設などと連携し、店舗を単なる飲食の場から地域交流の拠点へ発展させる。シニア向けの交流イベント、学生の学習支援、地域の文化活動などを組み合わせれば、生活に密着した新しい役割が生まれるだろう。ただし、イベントによる混雑や運営負担も生じるため、通常営業への影響を慎重に評価する必要がある。
2035年以降:ライフスタイル・プラットフォームへ
2035年以降は、それまでに構築した会員制度や企業提携を統合し、新たな事業基盤を確立する段階と位置付けたい。具体的には、会員情報、ポイント制度、提携先サービスを連携させ、店舗とデジタルサービスを横断した顧客管理の仕組みを整備する。さらに、法人向けサービスや提携事業からの収益を拡大し、飲料販売以外の収益源を育成する。この段階では、新規事業の収益比率、会員継続率、提携サービスの利用率などを評価指標とし、従来の店舗中心の事業構造からの転換を進める。
表10 スタバの中長期成長シナリオ
| 期間 | 戦略の中心 | 主な施策 |
|---|---|---|
| 2027〜2030年 | 既存店舗の収益力強化 | サブスク・セット販売・法人会員 |
| 2030〜2035年 | 地域との関係強化 | 地域イベント・書店や企業との連携 |
| 2035年以降 | 生活サービスへの拡張 | 提携会員サービス・デジタル連携 |
すべて筆者による将来構想であり、スターバックスの公式な事業計画ではない。
売上・利益・顧客継続率による評価
成長戦略の評価には、店舗数や売上だけでは不十分である。例えば、サブスク会員が増えても、無料飲料の提供費用が増えすぎれば利益は減少する。逆に店舗数が変わらなくても、来店頻度や追加購入が増えれば成長につながる。そこで、次のような指標を設定したい。
表11 新戦略の評価指標
| 評価項目 | 指標 | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 顧客獲得 | 新規会員数 | 新しい顧客が増えたか |
| 顧客継続 | 継続率・解約率 | 長く利用されているか |
| 来店頻度 | 月間来店回数 | 利用習慣が生まれたか |
| 商品販売 | フード併売率 | 追加購入につながったか |
| 店舗収益 | 店舗貢献利益 | 費用を上回る収益があるか |
| 店舗運営 | 混雑・座席利用率 | 通常営業に悪影響がないか |
図9 成長戦略の段階的な発展
横幅は構想する事業領域の広がりを表す模式図であり、売上規模の予測ではない。中長期の成長戦略では、各段階で明確な目標と評価指標を設定し、実証した成果を次の事業展開に反映することが重要である。短期的な収益改善から地域との連携、さらに事業領域の拡大へと、段階的に成長を実現することが求められる。
第10章 スタバはコーヒー店から何に進化するのか
コーヒーを売ることから時間を提供することへ
スタバが将来どのような企業になるべきかを考えるとき、改めて問い直したいのは、顧客が何に価値を感じているのかということである。コーヒーの品質や価格は重要だが、それだけでは顧客がスタバを選ぶ理由を十分に説明できない。仕事の合間に気持ちを切り替える時間、友人と語り合う時間、一人でくつろぐ時間など、顧客が求める体験は多様である。つまり、スタバの本質的な価値は、コーヒーという商品を通じて、心地よい時間や空間を提供することにあるのではないだろうか。今後は、この体験価値をどこまで高められるかが重要になる。
サードプレイスの再定義
スタバが大切にしてきた考え方に「サードプレイス」がある。家庭でも職場でもない、第三の居場所という意味である。しかし、働き方や生活様式が変化する中で、求められる居場所も多様化している。ある人にとっては静かに仕事ができる場所であり、別の人にとっては気軽に会話できる場所かもしれない。そこで、店舗の立地や顧客層に応じて、異なるサードプレイスを提供する戦略が考えられる。
サブスク・商品・提携の相乗効果
これまで提案してきたサブスク、スイーツ、顧客層別サービス、アライアンスは、最終的には一つの顧客体験として結び付くことが望ましい。例えば、仕事帰りに立ち寄ったスタバで、お気に入りの飲料を楽しみ、新作スイーツを発見する。休日には提携する書店や文化施設を利用し、再びスタバでくつろぐ。こうした日常生活のさまざまな場面に、自然な形でスタバが存在することが理想ではないだろうか。重要なのは、個々のサービスの数ではなく、それらが組み合わさることで顧客の生活をどれだけ豊かにできるかである。
図10 スタバの新しい成長モデル
顧客が繰り返し訪れたくなる仕組み
スタバが目指す未来は、単に店舗数や売上を拡大することではない。顧客の日常生活の中で、なくてはならない存在になることではないだろうか。仕事をするとき、友人と会うとき、一人で考え事をするとき、あるいは自分へのご褒美を楽しみたいとき。さまざまな場面で自然にスタバを思い浮かべてもらえることが、長期的な競争力につながる。そのためには、コーヒーの品質を維持しながら、商品、空間、接客、会員サービスを通じて、顧客の期待を超える体験を提供し続けなければならない。スタバの未来を決めるのは、コーヒーを何杯売るかではなく、顧客の人生にどれだけ価値ある時間を提供できるかではないだろうか。
おわりに スタバの未来を決めるのは何か
これまで、スタバの国内市場、競争相手、海外のサブスクリプション事例、スイーツ戦略、顧客層別サービス、アライアンス、そして中長期的な成長戦略について考察してきた。国内のコーヒー市場は成熟し、コンビニやファストフード店でも手軽においしいコーヒーを購入できる時代になった。単純な価格競争では、スタバの強みを十分に生かせないだろう。しかし、コーヒー以外にも成長の可能性はある。季節限定スイーツを目的に来店する顧客、仕事の合間に利用する会社員、友人との会話を楽しむシニア、家族でくつろぐ人々など、利用目的は多様である。
サブスクによって来店を習慣化し、スイーツや軽食で購買機会を広げ、企業や地域との連携によって新しい価値を提供する。こうした戦略を組み合わせれば、スタバは従来のコーヒーチェーンとは異なる成長モデルを構築できるかもしれない。もちろん、すべての施策が成功するとは限らない。顧客にとっての魅力だけでなく、店舗運営への影響や収益性を検証する必要がある。それでも、私はスタバの未来には大きな可能性があると思う。これからのスタバの成長を決めるのは、コーヒーを何杯売るかだけではない。「スタバに行きたい」と思う理由を、どれだけ増やせるかではないだろうか。
主な参考資料
※以上の将来戦略、料金案、原価モデル、成長シナリオは筆者による独自の考察です。スターバックスの公式方針や未公表の経営数値を示すものではありません。
以上