東京タワーの建設では鳶職を束ねた桐生五郎のような職人が活躍した。現在の職人の待遇改善には建設業界の多階層の是正が必要だ。

はじめに

東京タワーの着工は1957年6月であり、竣工が1958年12月なので、約1年半の突貫工事で完成したことになる。これを実現するため、日本中から優秀な鳶職が集められた。当時の大卒の初任給の数倍(4万円)の月収を払ったと言う。常時60人程度、タワー上部では6-7人が組み立てを担当し、これを束ねたのが当時25歳の桐生五郎だった。鳶職のスター的存在だった。昨日、友人と会話していて、そんな鳶職の話になった。鳶職の人は今も増えているのか?と聞かれた。鳶職を専門職としている人は少ないと思ったが、調べてみると答えた。「鳶職」を専門としている職人さんの実態は分からないけど、現在は建設関係だけでも32の技能検定職種が用意されている。「とび」もその技能検定職種の一つだ。調べてみると、検定申請者は急増していた。少し意外だったのでまとめてみた。

「鳶職」と「とび技能士」

鳶職とは、日本の建設業において高所作業を専門とする職人のことだ。スカイツリーの完成後に東京タワーから不要となるアンテナを撤去しようとしたら、ソフトボールが見つかった。きっと、休憩時間に数百mの高度でキャッチャボールでもしていたのだろう。建設業界に限らないが、労働の現場での事故をなくし、労働環境を改善するために昭和47年に労働安全衛生法が制定された。建設業においても、32の技能検定職種が規定されている。鳶職もそのうちの1つであり、「とび技能士」と言う。これは、とびの仕事全般の技能を認定する国家資格です。

とび技能士の種類

とび技能検定は3級から1級まである。また、その上位の資格として主任技術者や監理技術者として選任される道が開ける。

3級技能検定

3級はオープンな資格であり、誰でも受験できる。試験時間は2時間で、枠組、単管及び木製足場板を使用して、枠組応用登り桟橋の組立てを行う。

2級技能検定

2級を受験するには2年以上の実務経験が必要だ。試験は丸太作業が2時間5分、鋼管作業が1時間55分だ。丸太作業では、丸太又は鋼管を使用して片流れ小屋組の作業を行う。鋼管作業では、3種類の重量物の目測の作業を行う。

1級技能検定

1級を受験するには7年以上の実務経験が必要だ。試験は、2級と同じく、丸太作業と鋼管作業だけど、時間がそれぞれ2時間15分と2時間5分と長い。試験では、次の①から③を行う。① 丸太又は鋼管を使用して真づか小屋組の作業を行う。②そり(こした)にのせた重量物の運搬の作業を行う。③3種類の重量物の目測の作業を行う。実力があり、経験豊富な職人が1級に合格すると名実ともに上級者の証明となる。親方としての独立も見えてくる。

とび・土木工事業主任技術者

1級技能検定の合格者は主任技術者として選任される資格を有する。2級とび技能士試験合格者の場合には、合格後3年以上の実務経験を有していれば同じく主任技術者として選任できる。

とび・土木工事業監理技術者

主任技術者専任資格を有し、かつ2年以上の一定の要件を満たす指導監督的な実務経験を有するものはとび・土工工事業監理技術者として選任される資格を有する。

右官と左官

親戚には、1級建築士もいれば、大工もいたし、左官屋もいた。飛鳥時代にはこの左官とともに右官がいた。いわゆる左官業以外の普請業を右官といい、これが鳶職人につながる。江戸時代にはそれぞれの町に町鳶がいて、冠婚葬祭の互助活動や消火活動、祭礼、橋、井戸の屋根、つるべや上水道の枡、木管や下水道のどぶ板といった町内インフラを町大工とともに担っていた。それぞれの町ではその町の鳶職を使うことで町の中で相互に助け合った。江戸時代の消火には、素早い家屋解体が必要で鳶の者が火消衆をになったため、火消しは鳶と同義になった時期もある。 今も、その頃からの伝統を引き継ぎ、一般社団法人東京都鳶工業会は、鳶工業の近代化、合理化の推進及び技術、技能の進歩改善を通じて鳶業界並びに東京都の産業発展に寄与することを目指している。

(出典:一般社団法人東京都鳶工業会

鳶職装束(しょうぞく)

鳶職のユニフォームとも言えるのがズボンの裾が広いがった鳶装束だ。安全・安心のために足袋ではなく安全靴となっている。安全靴も軽くカラフルになっている。また、安全帯もフルハーネス型の安全帯に進化している。着脱が簡単なワンタッチバックル式や、万一の墜落時にも衝撃を吸収するショックアブソーバー付きが義務つけられている。また、いわゆる二丁掛けと呼ぶが、メインフックとサブフックを備えたもので、これなら安心だ。大手ゼネコンを中心に二丁掛け製品の使用義務化が推し進められている。

(出典:丸源

鳶職の年収の推移

建設現場の平均年収は462.4万円という調査がある(出典)。従業員規模が大きいほど高額だ。従業員規模が1,000人以上だと623.7万円、100〜999人で508.1万円、10〜99人で435.6万円だ。平成20年の408万円から、平成24年には369万円まで低下したが、平成27年には413万円まで上昇した。最近の調査がないが、年収はもう少しあげても良いのではと感じる。

(出典:年収ラボ

増加する「とび」技能検定申請者数

平成15年から平成20年と、平成25年から平成30年の数字を下の図に示す。平成15年では2,000程度だったけど、平成30年には約1.3万人が受験申請している。ただし、平成30年の合格者は8,465人だったので、合格率は65.6%だ。しっかりと検査しているので素人では合格は難しいが、実務経験を積んで試験対策すれば合格は可能だろう。高層ビルの建設需要は増加しているのだろう。有資格者は増大しているようだ。

(出典:技能検定実施状況

まとめ

かつては鳶職を専門とする職人さんがプライドをかけて仕事をしていた。近年では、建設業における技能検定が充実しており、32の建設関係の技能検定があり、とびだけでも3級、2級、1級がある。業務を行う場合には、有資格者であることを確認することになるため、鳶職として勤務するには、これらの資格にチャレンジすることが求められている。また、2級、1級とステップアップすれば、その先に主任技術者や監理技術者にもチャレンジ可能だ。そのようなキャリア育成制度が整備されているのが、鳶職を含む、現代の建設業関係の特徴だ。また、発注元(多くは自治体やビルオーナーなど)から受注する元請(ゼネコンなど)がいて、二次請け、三次請け、四次請けとつながる。以前も「建設業界がホワイト企業に革新するための3つの方策。」を投稿したが、汗した働く職人さんの待遇を改善するにはどうすれば良いのだろう。標準賃金の改善を図るのか、階層構造の簡素化を進めるべきか、付加価値を高めるべきか。人手不足への対応も必要だし、コスト削減圧力もある。職人がただ頑張るのではなくロボットやツールを活用して生産性を高めながら同時に報酬アップを要求するような改善作業を進めることが課題だと思う。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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