5G時代におけるインフラシェアリングを考える。

はじめに

シェアリングサービスといえば、AirbnbやUberによるシェアリングが有名だ。これらに比べると地味だが携帯電話のシステムを整備するときにも基地局やインフラを共用する仕組みがある。日本では各携帯電話事業者がそれぞれ基地局の鉄塔を建設して運用するが、海外では基地局を整備する事業者とその基地局にアンテナを設置する通信事業者が協調しながら進めることが多い。今回は、そんな携帯電話のインフラを共有するインフラシェアリングについて考えてみたい。

携帯電話の基地局設備(タワー)の種類

携帯電話を利用する場合に、携帯電話と携帯電話が直接接続されているわけではない。携帯電話は携帯電話事業者が運用する基地局やコア設備経由で接続される。基地局設備には屋外に設置されるタイプと屋内に設置されるタイプがある。屋外に設置される基地局にもタワー型と屋上設置型がある。用途やイメージを下の表に示す。

出典:みずほ銀行(参考1)

インフラシェアリングとは

インフラシェアリングには、キャリア主導で基地局を設置する類型①、基地局の一部を売却する類型②、複数の通信事業者で共有する類型③、独立系の事業者が基地局設備を設置して運用する類型④がある。日本では類型①が支配的だ。欧米では類型④の事例が増えていて、日本でも始まりつつある。

出典:みずほ銀行(参考1)

海外におけるインフラシェアリングに関する規制

自動運転車ではレベル1からレベル5までが規定されている。それと同様の定義がインフラシェアリングを定義し、かつそれに対する規制が行われている。下の表はフランスにおける定義と規制だ。レベル1は土地や建物、鉄塔設備の共有だ。レベル2はアンテナなどの共有化でここまでをパッシブインフラと定義されている。一方、レベル3から5の共有はアクティブインフラだ。例えばレベル3は基地局設備、レベル4は制御装置、レベル5は交換設備やコア設備だ。

出典:みずほ銀行(参考1)

世界的には年率3.7%で成長が見込まれるインフラシェアリング

世界的な通信タワーの新規建築数は、2016年には443件だったが、2020年には513件まで増大すると見込まれている。特に多いのが中国で全体の40%以上を占めている。残念ながらこのグラフには日本は含まれていない。

出典:ATカーニー(参考2)

全世界的に普及するインフラシェアリング

欧州の通信事業者別のインフラシェアリングで見ると下のグラフに示すようにオランダのOpen Tower Companyが860局とトップだ。同社は2009年に設立している。二番目はチェコのCRA社(Ceske Radiokomunikace)で800局で、テレビの放送用タワーを活用した事業を行なっている。

出典:Tower Exchange(参考3)

日本におけるインフラシェアリング

日本の携帯電話事業者は基本自前主義だ。基地局の鉄塔を間借りすることもあるが非常に少ない。これは事業者によって携帯電話用に割り当てられた周波数が異なるため、最適なロケーションや基地局間隔も事業者によって異なるためだ。しかし、屋内用の基地局設備であればインフラを共用するメリットはある。また、5Gの整備に向けての需要もあるだろう。そのような観点から2012年に設立したJTOWERという会社が日本でもインフラシェアリングサービスを提供している。

出典:アスキー(参考4)

JTOWERによるインフラシェアリング

携帯電話やスマホを利用するのは屋外よりも屋内の方が多い。このため大規模な商業施設やオフィスビル、ホテル、病院、マンション等でも携帯電話を利用できるように携帯電話事業者各社が必要な対策を整備している。プラチナバンドと呼ばれる800MHzの時代にはオフィスビルで言えば15階ぐらいまでは窓際で使えた。100m四方のオフィスでも中央に屋内アンテナを1基整備すればほぼ利用できた。しかし、第三世代や第四世代で2GHzを利用するようになると10階でも窓際の一部で使えるだけだ。100m四方のオフィスだとアンテナは4基から8基ぐらい整備しないと電波が浸透せずに利用者からのクレームが起きる。第五世代になると4GHz帯や28GHz帯を用いる予定だ。電波伝搬損失は周波数の二乗で増大する。つまり、4GHzの電波は2GHzの電波よりも4倍伝搬しにくい。このため、屋内であっても非常に稠密(ちょうみつ)に屋内アンテナを設置することが必要となる。100m四方に1個であれば例えば4社の携帯電話の事業者がそれぞれ設置する方が効率的だろう。100mに4個とか8個でもまあいいかもしれない。しかし、第五世代の稠密なアンテナを事業者の数ごとに設置するのはもう現実的ではないだろう。JTOWER社は、これまでインフラシェアリングを進めているが、ほぼ屋内対策だ。これは5Gに向けてさらに加速するだろう。

出典:JTOWER(参考5)

屋内インフラシェアリングのメリットとデメリット

ここでは屋内に焦点を絞ってインフラシェアリングのメリットとデメリットを整理してみたい。

1) メリット

① ビルオーナーとの交渉

オフィスビルや商業施設を建設する場合に、その屋内で携帯やスマホを快適に利用できるようにすることが求められる。しかし、ビルオーナがその整備費用を負担することは少なく、携帯電話事業者が費用負担することが多い。しかし、携帯電話事業者も収入の見込みをベースに投資額を精査する必要がある。このため、どのような対策をどのような精度でいつまでに対策するのか、その費用を誰が負担するのかをビルオーナーと携帯電話事業者が協議して契約を締結する必要がある。屋内対策の費用は携帯電話事業者が負担する場合にも、その設備の設置スペースや通信機器の電気代をオーナーが負担するのか、携帯電話事業者が負担するのかといったことを含めて、細かく協議する必要がある。これが結構大変だが、シェアリングサービス会社が仲介するのであれば、オーナーとの交渉は一本化するので効率的だ。

② 竣工前の工事

携帯電話事業者から見ると、商業施設で想定される利用者数やオフィスビルに入居するテナントの利用者数などをベースに実施計画を検討する。しかし、屋内対策のためのケーブル敷設工事やアンテナ設置工事はビルが竣工した後に行うことが多い。つまり、ゼネコンがビルのオーナーから建物部分の建設工事を請け負って、工事を行い、オーナーに引き渡した後に行う。さらにオーナーは建設工事が完了した後にテナントに提供する。したがって、オーナーへの引き渡しの後と、テナントへの提供の時期の間に急いで対策する必要がある。さらに無線設備なので総務省への電波申請なども必要だ。しかし、シェアリングサービス会社が工事を行うのであれば、ゼネコンに基本的な工事部分の施工を委託して、ビルの引き渡し時期までに工事を完了することも可能かもしれない。そうすれば、ケーブルの敷設工事やEPSの縦管路設置などを何度も行うのではなく、最初から計画的に実施することも可能となる。

③ 効率的な運用と携帯電話事業者の負担軽減

携帯電話事業者が屋内対策を行う場合には、MDF室に用意されたスペースに必要な無線機設備を設置して共有設備と繋ぎこむだけだ。このため携帯電話事業者も投資費用や運用費用を大幅に削減することが可能だ。また新規参入事業者もプラグインで運用開始できるとすれば追い風になるだろう。

出典:JTOWER(参考5)

④ 利用者の不利益の減少

既存携帯電話事業者も新規携帯電話事業者も屋内対策の整備のための費用が低減すれば結果としてどの事業者も整備することが一般的となり、利用者の便益は増大する。エリアの差別化がなくなれば、より安い事業者の携帯を選択しやすくなり、結果としてユーザの負担も軽減するかもしれない。

2) デメリット

① 携帯電話事業者の費用負担と発注方式

シェアリングサービス会社が共通部分の投資を行う場合に、費用を負担する通信事業者からの利用意向に基づいて行う受注発注方式とするのか、通信事業者の利用意向を見越して行う見込み発注方式とするのかが難しい。実際は、受注発注方式と見込み発注方式の良いところを組み合わせたような方式で運用することになるのではないだろうか。かつてはNTTが受け取っていたような設備設置負担金のようなものをDoCoMoが支払うようなことになるのだろうか(笑)。もし月額料金方式にするなら、その透明性が問われることになる。WIN-WINの関係を実現出来るかどうかがポイントだ。

【受注発注方式で整備する場合】

シェアリングサービス会社はこれを希望するだろう。しかし、完全な受注発注方式とすると、オーナーとの先行的な交渉ができないし、新規参入事業者をどのように取り扱うのか、もしくは拒否するのかが問題となる。

【見込み発注方式で整備する場合】

携帯電話事業者が全て利用を表明するという前提で整備するとすると、シェアリングサービス会社が負担する初期投資金額が見かけ上増大する。それは事業リスクの増大に直結するため、全てのビルを先行投資することは難しいだろう。

② 工事業案件数の減少

事業者それぞれが工事をするのであれば、電気通信工事を請け負う会社が得たかもしれない収益が大幅に削減される。しかし、これはあまり考える必要がないだろう。5Gになれば必要なアンテナ数が増大するし、結果として屋内対策の整備が増えればトータルの工事件数や受注金額は増大するだろう。

③ 携帯電話事業者の独自性の低下と設備障害時の切り分けの複雑化や影響度の増大

携帯電話事業者から見ると、屋内対策の基本設計を全てシェアリングサービス事業者に委ねることになるため、独自性を発揮することが難しくなる。さらに、設備障害時にも直接アラームを検出することが難しいなど障害時の切り分けが複雑になり、結果として復旧が遅れるかもしれない。また、現状ではあれば例えばA社が故障しても、B社やC社は利用できるのでトータルダウンはなかったが、今後シェアリングサービス事業者の設備が故障すると、全ての携帯電話事業者のサービスを利用できない事態に陥る。これは避けたい。

④ 利用者の負担の増大の可能性

シェアリングサービス事業者が独占的に屋内設備を整備するなど、競争原理が働かない場合には、結果として費用低減が進まずに、利用者の負担が増大することになるかもしれない。何らかの競争原理が働くような仕組みの整備は必要かもしれない。

5G時代におけるインフラシェアリング普及のための今後の検討課題

このように多くのメリットと同時にデメリットも想定される。このため、インフラシェアリングが適切に活用され、国内で普及させるには、次のような点を十分に検討することが必要だろう。

① 競争原理の導入

海外のインフラシェアリング事業者は通常一つの国に複数あり、競争原理が働いている。今後、本格的に国内でもインフラシェアリングサービスを普及させるにはやはり複数の事業者が切磋琢磨することが望ましいだろう。ビルのオーナーから見ても、複数のインフラシェアリングサービス事業者がいれば、より望ましい事業者を適切に選択することが可能だ。

② インターフェイスの整備

屋内対策の整備は、ビルのゼネコンとインフラシェアリングサービス事業者と携帯電話事業者が協力して実施することなる。したがって、それぞれの責任分担や切り分けポイント、インターフェイスが明確である必要がある。求められる通信速度は年々増大する。10年後までは見極めることができても、20年後まで見極めることは難しい。過剰スペックでの整備もコスト増を招く。しかし、少なくとも20年程度先までの需要を見越したインターフェイスの標準化が望ましい。

③ 成功事例の積み上げ

インフラシェアリングサービスは、国内ではまだまだ立ち上げたばかりだ。成功事例を積み上げて、課題を整理して、利用者にとっても、事業者にとっても、ビルオーナーにとってもメリットのある仕組みというか、落とし所を見つけていく必要がある。そして、適切なビジネスモデルを確立することができれば、追随者が出ても先行者メリットを得られるだろう。そうでなければ追随者が成功モデルを確立することになるかもしれない。

④ グローバル対応

インフラシェアリングサービスは、欧米や中国、途上国で先行している。日本の事業者が成功モデルを確立して海外に打って出る可能性がある一方で、海外の事業者が国内に参入する可能性もある。個人的には前者の可能性を願うが、後者の可能性も否定できない。その場合には日本で実現している通信サービスや信頼性を適切なコストで提供できるのかが不安だ。

まとめ

今回は屋内のシェアリングサービスを中心に考えてみた。携帯電話の周波数が高周波化すると、実は基地局の数も増えているし、基地局のアンテナ設置場所の高さも低くなっている。5GではかつてのPHSのように電柱それぞれに設置するようなことになるかもしれない。その場合には、電柱保有者が大きなアドバンテージを持つだろう。景観の整備や災害時のことを考慮して、電線の地中化が進められているが、その場合にも電柱だけは残るのだろうか。ブサイクな基地局が古い電柱に搭載されるというよりは、景観を考慮したちょっとお洒落な、もしくは自然と溶け込むような基地局がさりげなく整備されるようなデザインにも注力する必要があるのではないだろうか。

以上

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