5G/IoT通信展で印象に残った7つの展示と講演会での7つの新技術。

5G

はじめに

コロナ禍もやっと沈静化して展示会にも多くの人が集まるようになった。今回は、幕張メッセで10月27日から29日まで開催されている展示会に足を運んで見た。幕張の展示会を見に行くのは多分10年ぶりぐらいだと思う。かつては大メーカーが大きなスペースを確保していたが、今回は大手メーカーも規模を縮小する一方で、中小やベンダー等約120社が出典していた。AI関連はベンチャーの熱い意気込みを感じた。全般的にノベルティや説明する女性などの派手さは抑え気味で、コストパフォーマンスを高めている感じだった。

5G/IoT通信展

今回の最大の狙いは5G/IoT通信展だ。5Gは2020年に各社が頑張って提供を始めて1年半が経つ。ローカル5GやIoTなどの自営設備の整備も進みつつある。業界の動向の生の動きを感じ取りたいと考えた。5G/IoT通信展は、通信・放送Week2021の枠内で開催されていた。

(出典:ameba)

通信・放送Week2021

通信・放送Week2021の枠内では、今回のターゲットである5G/IoTに加えて、光通信、4K・8K映像技術、映像伝送などの最新技術が一堂に出展されていた。通信事業者、通信システムメーカーなどの事業者に加えて、放送事業者、医療、セキュリティ、イベントなど産業分野の事業者が出典していた。

(出典:RX Japan

Japan IT Week 秋

今回の特徴は大規模な同時開催だ。通信・放送Weekと並行して、ビッグデータ活用展、データセンター展、IoT/M2M展さらに第21回光通信技術展、第5回映像伝送EXPO、第4回4K・8K映像技術展、AI人工知能EXPO秋、XR総合展秋などが同時開催されていて、どれかに参加すると、会場内では横に繋がっていて、他の展示ブースにも自由に訪問できる。すごい動員力だった。

(出典:Japan IT Week)

加速する5Gの未来

今回は、状況が許せば、27日に開催された総務省の講演とシスコシステムズの講演、さらに28日に開催されたソフトバンクの講演とKDDIの講演を拝聴したかったが、結局参加できたのは最後のKDDIの講演のみであった。講演者は佐藤達生執行役員技術開発本部長だ。個人的にも交流はあるが、講演は非常にわかりやすく明瞭だった。大体知っていることが続き、少し妄想の世界に行きそうになったが、7つのテクノロジーの話が興味深かった。

(出典:筆者が現地で撮影)

セルフリーマッシブMIMO

従来の携帯電話ではセルラー方式と呼ばれるように全国に設置した基地局がそれぞれのテリトリーの利用者との通信を司る。いわばゾーンディフェンド方式だ。これは単一の周波数でカバーしている時代は合理的であった。しかし、現在は、従来からの800MHzや2GHzに加えて、3.8GHzや28GHzなど様々な周波数の電波が使われていて、それぞれの周波数で伝搬特性や帯域が異なる。このため、考案されたのがセルフリーマッシブMIMO方式だ。そして、以前も投稿したのでここでは詳しい説明を割愛するが、これを実現するのがC/S分離という技術だ。つまり、端末と基地局の間の制御信号(C信号)とユーザ信号(S信号)を分離し、C信号はマクロ局からのプラチナバンドで安定的に行い、S信号は最寄りの高速通信可能な基地局を自由に選択する。これにより、高速で低遅延な通信を安定的に提供することが可能となる。


(出典:impress)

メタサーフェス反射板

800MHzの基地局は、事業者によっても異なるが2-3万局あればほぼ全国をカバーできる。2GHzはエリアが狭いので、トラヒックの多い都心部を中心にやはり数万局設置されている。5Gのようにサブ6帯やミリ波を使う場合には直進性が高いため、どうしてもビルの影などのエリアは通信状態が低下する。これの打開策がメタサーフェス反射板だ。これは単なる反射板ではなく、反射の角度を任意に変化させることができる優れものだ。これを設置することでエリアの穴を埋めたり、より高速な通信を安定的に提供することが可能となると期待されている。

(出典:impress)

光ファイバー無線技術

これは実は3Gの時代から使われていた技術であるが、基地局から放射する電波信号をそのままアナログ信号として、伝送する方式だ。これを活用することで無線局を簡素化できるため、多数設置するアンテナ設備の小型化や低廉化に役立つ。また、装置自体を簡素化することで設置工事が簡単になるので、工事費用も低減させることができる。このような技術を活用すれば、例えば、主要な道路の街路灯や信号機に5GやBeyond5Gの基地局を多数設置することが現実的になってくるだろう。

(出典:早稲田

水空合体ドローン

ドローンといえば空中を飛行するイメージだけど、最近は水中の映像を撮影するニーズに応えるため水空合体ドローンが開発され、活用されている。これはどういう仕組みかといえば、水中を移動する機能や撮影機能を有する本体とドローン本体を分離させたり、合体させたりすることで、陸上から調査ポイントまでは合体で移動し、調査ポイントに到着したら、分離させる。ドローン本体は水上で待機し、水中を移動する本体とは光ケーブル等で接続する。通常、ケーブルは50mとか100mなので、その範囲内であれば自由に水中を移動し、必要な情報を収集したり、映像を撮影する。水中で撮影した映像は、ドローン本体経由で携帯基地局経由で通信することも可能だ。養殖の状況を水中撮影したり、船の保守点検に活用したり、様々な用途が想定される。課題は有効なユースケースを発掘し、活用することだ。

(出典:KDDI)

次世代セキュリティ(PPM)

PPMとは、パーソナル情報を適切に活用するためのプラットフォーム「Privacy Policy Manager」の略だ。パーソナル情報とは、個人情報とプライバシー情報をあわせて概念である。個人情報やプライバシー情報は、保護されるべき情報であると同時に、有効に活用したい情報だ。例えば、「ユーザの性別・年齢や、購買履歴・情報閲覧履歴に基づいた商品の推薦」「家族構成、病歴、GPS情報などに基づいた、緊急時の要救護者の発見」「個人の移動情報に基づく公共交通の渋滞情報などの判定」などが考えられる。PPMは「ユーザーの状況に応じてサービスを最適な形で提供するための仕組み」であり、「プライバシーに配慮した透明性のある個人情報の取り扱い基盤」だ。パーソナル情報は通常、サービス提供者が個別に管理しており、異なる事業者間で共有するできない。このため、PPMに必要な技術要素として、「プライバシーポリシー設定支援のための技術」「プライバシーを考慮した情報流通のための技術」など4項目を挙げて、「PIA(Privacy Impact Assement)」「LoA(Level of Assurances)」「IAF(Identity Assurance Framework)」などの制度的措置、技術仕様を含めた検討が必要だ。そして、これにより、情報を保護しながら情報を活用するような社会像を模索している研究プロジェクトだ。

(出典:総務省

マルチコア光ファイバー技術

某中央官庁のWi-Fi工事を担当した時の基幹ルートでは400芯の光ケーブルを用いた。100芯のケーブルの束を4束が一つのケーブルの筐体に格納されている。ケーブルは真っ直ぐに入っているわけではなく、螺旋しながら格納されているが、一定の方向だと捻れが生じるため、交互に逆方向に拗らせて、どこで解いても問題なく使える工夫がされている。強度を持たせるために鉄の芯があり、保護皮膜などもあるため、直径は2cm程度だった。これを数100m敷設するのは結構大変だった。しかし、近年では一本の光ファイバーに8つのコアを実装するマルチコア光ファイバー技術も実用化されている。さらに1つのコアで複数の伝搬モードに対応したマルチモードファイバが開発されている。無線技術の発達で無線区間の伝送速度が高速化されているが、これを支えるのは実は有線区間だ。光ファイバーはテラの1000倍のペタの世界に向かっている。
(出典:住友電工

高効率・超低遅延空間伝送

5Gの特徴の一つは超低遅延伝送だろう。5Gの無線技術ではデータの送信間隔を短くするとともに、基地局との受信確認を高速で行う技術などを導入して、超低遅延通信を実現している。5Gの超低遅延をサポートする技術として、モバイル・エッジ・コンピュータ(MEC)がユーザの近くで処理する構成だ。

(出典:総務省

気になった出展物7点

ローカル5G

ローカル5Gとは、通信事業者が提供する公衆サービスとしての5Gではなく、企業や自治体が自社の敷地内や建物内で自由に使える5Gネットワークを構築する方法だ。特に想定されるのは、工場内でのローカル5Gを整備し、工場内でのロボットの操作や自動搬送機を遠隔制御するスマート工場などだ。また、鉄道や警察や自衛隊ではそれぞれ独自の鉄道無線や警察無線など独自の無線システムを構築し、活用しているが、それらのバージョンアップも一方では課題となっている。ローカル5Gの活用はその解決策の一つとなる可能性がある。なお、余談だが、ある展示会のブースで防衛の話になり、なぜ日本はもっと軍事無線の技術に投資をしないのかという話になった。追撃ミサイルを整備するよりも、例えばN国がミサイルを発射したら、その遠隔制御をハッキングして、自国に墜落するような防御体制をとれば、大いなる抑止力となるだろうという話になった。実現性や現実性は別にして検討すべきアイデアではあると思った。

(出典(左):鉄道CH、出典(右):NEC)

レスキュードローン

ミライトは、「未来の街をつくる」をテーマにして16の商品やサービスを展示している。そのうちの1つがこのレスキュードローンだ。ミライトのグループ会社であるミラテクドローンが提供するのは、純国産の無人航空機「レスキュードローンTSV-RQ1」だ。本年11月1日から受注の受付を開始する。風速18mでも飛行できる耐風性や防水性を備えており、災害対策や有事の際の利用に威力を発揮すると期待される。秋田県大館市の東光鉄工が開発、製造し、チャイナリスクを排除した。本体価格600万円だが、暗闇でも昼間のような明るさを維持する超高感度・赤外線一体カメラ、夜間の出動時に活躍する高輝度LEDライト、100m上空から地上に情報伝達可能なハイパワースピーカー、運搬最大可能重量2㎏の物資リリースユニットなどを含めたフルセットでは1000万円だ。

(出典:ミライト

8K&4K映像伝送

小型・軽量に特化したスタンドアロン型の映像伝送用ユニットだ。MPEG-4 AVC/H.264 コーデックに対応する。半二重コーデックのためエンコーダかデコーダかのどちらかで利用する。コーデック時間10msecを実現した。情報カメラでの利用やゴルフ中継での利用などで威力を発揮している。SNMPにも対応しているため、各種MIB情報からの監視や、問題発生時のSNMP Trapの発行が可能だ。IP送受信(Gigabit Ethernet)機能では、FEC、ARQ 機能などにも対応する。

(出典:IBEX)

スマートグラス

Googleは2013年に初代機を限定発売したが、プライバシーの侵害等の懸念から2015年に発売を中止した。しかし、その後もマーケットの開発を行い、2017年7月18日には法人市場に特化した「グラス・エンタープライズ・エディション」を発表している。法人向けの新端末はデザインを一部変更し、プロセッサーやカメラの性能、バッテリーなども改善している。価格は搭載するソフトや提供するサポート内容に応じて異なるという。残念ながら日本での発売は未定だ。そんな間隙をぬって、フリックなどの国内企業は物流作業の合理化にスマートグラスを活用するソリューションを提供している。スマートグラスのディスプレイやカメラと連動することで倉庫内でのピッキング作業や、棚卸しなどの業務が効率化できるという。米国でも、ゼネラル・エレクトリック(GE)や独DHL、医療機関米ディグニティーヘルスなど50社以上が使い始めているという。これからの動向に注目したい。

(出典:フリック

個人ブース

DeNAは渋谷ヒカリエの本社ビルに個人ブースを導入した。一人一人が作業に集中できるようなスタディールームは以前より整備していたが、ここでは静かにするのがルールなので近年増大しているZOOM会議などには使えない。そのため、防音機能を装備した個人ブースを導入した。個人ブースのニーズは多いと思う。自社でも提供して欲しいし、大学にも整備して欲しい。あるブースで、NTTが提供する公衆電話を個人ブースにして、PC作業等を支援する環境を整備し、ついでに電話もできるようにすれば良いのにねという話をした。その担当者は、市街地では概ね500m四方に1台、それ以外では概ね1km四方に1台の公衆電話を設置するという法律や総務省の基準があることをご存知なかった。公衆電話の代わりにブースになれば商売繁盛ですねといったら笑っていた。

(出典:V-CUBE)

脳波センサー

法政大学の大学院に通っているときに脳波センサーの研究をしようと考えたが、周辺に設備もなく、知見を有する方もいなく、ちょっと厳しいかと断念したことがある。脳波センサーを活用すれば、例えば長距離運転手等様々なドライバーの精神状況をモニターすることでの事故を防止することや、リモートワークの勤務者の脳の活動状況を把握することで生産性を改善したり、屋外労働者の疲労状況をモニターして適切な休憩の設定や勤務管理の効率化を図ることが可能となる。今回は、マクニカのブースで脳波を実際に測定してもらった。少し待つ時間に、担当者と話をするとイスラエルの会社(Innner Eye)の営業部長だったが、ぜひイスラエルにも遊びに来てと誘われた。イスラエルにも一度は訪問したいと思っている。東京大学大学院の授業の様子を紹介したら興味津々だった。人脈が広がると嬉しい。

(出典:MACNICA)

接客ロボット

最後は、しおりんという接客ロボットだ。AKB48のようなコスチュームで、比較的自然な会話をしていたので、目に止まった。しおりんは、THK株式会社と株式会社リードジェンが共同開発する遠隔操作可能なアバターアナウンスロボットだ。アバターアナウンスロボットは災害時の危険地帯や紛争地帯などでのリポートに力を発揮する。人工知能で対応しているのかと思ったら、遠隔での会話だったのか。すっかりと騙された。下の図は、RKB毎日放送株式会社において、しおりんが2019年6月にリポーターデビューした時の写真だ。配膳ロボットなども、全てを自動化するのではなく、必要に応じてオペレータが介在するアバター方式なら、ユーザの満足度をあげることも可能ではないかと感じた。

(出典:しおりん

まとめ

今回は、職場の上司の許可も得て、5G・IoT通信展を見学した。本当は朝から移動して、開幕から2-3時間いて、それから戻る予定だったけど、こういう日に限って、9時の打ち合わせ、10時の打ち合わせ、11時の打ち合わせ、13時の打ち合わせ、17時の打ち合わせが重なった。また、現地での講演会も13時半から30分ほどだ。オンライン会議や、テレワークでなんとかこれらをこなしたけど、これまでならとても無理なスケジュールも遠隔を駆使することで凌げるということに改めて威力を感じた部分ある。参考になる記事はあったでしょうか。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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