ドローンによる空の産業革命を成功させるには空のエリア化が必要だ。

はじめに

携帯やスマホを広く移動通信システムとして考えると、ほぼ10年ごとに進化している。第1世代はアナログ方式だ。小学生の先生が修学旅行のためシェルダーフォンを持参して京都では使えたけど奈良では使えなかったという話を聞いたことがあるが、そんなのどかな時代だ。自分も1989年に結婚したときに、宝塚歌劇のチケットを取るためにマイクロタックを購入した。あれもアナログだ。その後デジタル方式が1990年代に普及し、2000年代に第3世代、2010年には第4世代、2020年に第5世代へのバトンタッチしている。(出典1)。

図1 移動通信システムの進化(第1世代〜第5世代)

SFの世界は実現するか

自動運転に向かっているのは、自動車だけではなく、図2に示すようにドローン等の小型無人機についても目視内飛行のレベル1から目視内飛行(自律)のレベル2、さらには無人地帯での目視外飛行のレベル3への進んでいる。さらには、有人地帯での目視外飛行のレベル4まで視野に入っている(参考2)。子供の頃に観たSFアニメでは自由に空を飛ぶロボットが活躍していた。そんな世界が近づいているのだとしたらワクワクする。

図2 空の産業革命に向けてのロードマップ

ドローンの可能性

ドローンビジネスの世界市場規模は、2018年度時点で約1.6兆円だ。軍需用ドローンは過半を占めるが、2020年~2025年の平均成長率(CAGR)は4.1%だが、産業用と個人用を含めた民間ドローン機体はCAGRが11.7%だ。また、ドローン本体の販売に加えて、ドローンを活用した商用サービスはCAGR15.5%と高い成長が期待されている。矢野経済研究所の調べでは、20205年には2.9兆円と見込んでいる(参考3)。

図3 ドローンビジネスの市場規模

多彩な市場ニーズ

ドローンへの期待は強い。例えば、農業ではドローンの高精細カメラで野菜の虫食い状況を撮影し、虫が活動する夜間にピンポイントで農薬を散布する。必要最小限の散布で済むので、原価低減売上拡大が見込める。つまり、農薬の使用量が9割以上削減するので原価が低減する。低農薬野菜として高く売れる。これは素晴らしい応用例だ。送電線のルートをドローンのハイウェイにしようという構想もある(参考4)。これ以外に物の輸送など期待が広がる。

図4 ドローンの活用が期待される市場

携帯電話のエリアは地上

ドローンの利用場所は、基本的に屋外だ。重機を遠隔操作する工事現場はダムとか河川、湾岸などだ。道路や鉄道、橋梁の安全管理にもドローンの利用は期待されている。球技場やテーマパークなどの大規模施設内での利用もあるだろう。ドローンはあらかじめ設定しておけば自律運行も可能だけど、やはり何らかの方法で繋がっている必要がある。小規模なエリアや屋内であればWi-Fiの利用もあるけど、広域での屋外で利用するにはどうしても携帯電話の仕組みを活用して全国で使いたい(参考5)。

図5 ドローンの活用場所

空中のエリア化の難しさ

携帯電話は地上で利用することを想定している。このため、基地局からは10%ほどの角度(これをチルト角という)で放射する。高さ30mの鉄塔から10度の角度で放射すると半径300m程度のエリアとなる。上空には放射していないが、アンテナにはサイドロープがあり、ターゲットとなる方向以外にも放射している。また、地上の電波が地上で反射するため、上空にはありとあらゆる基地局からの電波が錯綜している。携帯電話の電波を飛行機内で測定(出力はゼロ)したことがある。本当に多くの基地局からの電波が見えていて、どれを掴めば良いか判断に困る状態だった。分かりやすくするために図6では周波数f1とf2としている(参考6)。このモデルで言えば、基地局Aからのf1と基地局Cからのf1の区別がつかない点が問題だ。インターネットの仕組みであればどのルータを経由したかはIPアドレスでユニークに管理可能だ。しかし、携帯電話ではどの基地局かをユニークに識別する識別子がないために問題が生じる。

図6 携帯電話の上空利用の問題点

過疎地は意外と問題が少ない

日本には約2万校の小学校があるが、どの小学校でも携帯電話は利用可能だ。熊本の高千穂峡の小学校を訪問した2015年当時に、ホテルの前でスループット調査をしたら最高速度を記録した。具体的な速度は正確には覚えていないけど、ほぼスペック値だった。きっと早朝だったので、そのエリアでスマホ通信をしていたのは私だけだったのだろう。それから地方の学校を訪問した時には、デジタルデバイドの話をするようにしている。携帯電話の基地局のスペックは全国ほぼ同じだけど、利用者は都心ほど多い。このため、利用者の少ない地方ほど携帯電話を快適に利用できるという話だ(笑)。そんなエリアをカバーしているのは、利用者も少ないので、広域のマクロ局だ。このため、他の基地局からの干渉の問題なども少ない。ドローンを活用するなら過疎地が良いかもしれない。電波が弱ければ、レピータで増幅してエリアを作ってあげれば良い。

都心の上空は大変

逆に都心は大変だ。渋谷の上空などひどいものだ。高層ビルの電波対策をしたことがある。完璧に整備したはずなのに、近隣に高層ビルが新たに建設されるとそこからの電波が干渉源となってしまう。このため、電波状況を改善しようと増幅する。そうするとそのビルの問題は解決するけど、そのビルの近隣のビルでは干渉波が増大して品質が劣化する。このため、品質を改善しようと電波を増幅する。キリのない悪循環だ。都心部の上空をドローンが飛行しようとした時に、携帯電話の電波を利用しようとしてもうまくいかないだろう。

上空をかばするための方法論について考えてみたい。次の3つの方法ぐらいだろうか。

マクロ局でのカバー

上空での利用トラヒックはまだ少ない。上空を飛行するエリアを特定し、そのエリアに向けて地上から電波を放射する。しかし、問題は地上向けに放射した電波が地上で反射して上空に飛来するためこれらと同じ周波数を利用するのだと干渉に打ち勝つほど強くする必要があるが、それはドローンからも高出力を強いることになる。地上向けとは別の周波数を上空に向けて活用することができれば、これは解決策になるが、周波数の利用効率を考えると可能性は低い。

地上局からのビームフォーミング

5G向けの周波数は3.6GHzや28GHzなどだ。周波数が高いので、従来の800MHzといった周波数に比べると直進性が高いが、それ以上の電波伝搬損失が高い。このための解決策がビームフォーミングだ。多数のアンテナを並べて、ビームの鋭くすることで遠方まで飛来できるようにする。ドローンの飛行に合わせてビームを切り替えることができれば高速通信も可能だ。しかし、安定的な通信を可能とするには、制御(C)信号はマクロ局でカバーし、情報(S)信号はビームフォーミングで高速化するようなC/S分離技術は必須だろう。

低高度衛星との通信

現在の飛行機や船舶はインマルサット衛星や専用衛星を経由して通信している。ただ、コスト(料金)の問題、バッテリーの問題、カバレッジや通信速度の問題があるので、ドローンの通信方式に採用できるケースは多くは何だろう。

まとめ

ドローンや空飛ぶ自動車が上空を自由に飛行するような世界は実現するのだろうか。普及するまでには課題も多いが、その一つが通信方法だろう。バッテリー問題もあるので、低消費が期待される。しかし、リアルタイムでの映像配信などを実現するには、5Gでの新エリアの整備に期待される。東京電力とゼンリンが送電線のスペースを活用してドローンハイウェイを実現しようと構想が検討されているが、この場合にも通信をどのように実現するかを十分に考えておく必要がある。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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