日本技術士会環境工学部会に参加:ゼロ・エネルギービル(ZEB)を考える。

はじめに

技術士の特徴は、技術の部門が多様なことだ。総合技術監理部門を含めて21の部門がある。ある部門の専門家でも別の部門では全く通用しない。例えば、自分は電気・電子部門だけど機械部門や化学部門、建設部門のことは全く分からない。しかし、環境に関することはどの部門も絡んでいるし、環境工学部門にも多様な技術士が参加されているようだ。今日はそんなヘテロな環境工学部門の部会がゼロ・エネルギービル(ZEB)について講演を開催するので参加したら面白かった。

セミナーのテーマと講師

データはゼロエネルギービル(ZEB)だ。講師は、株式会社竹中工務店 東京本店設計部設備部門課長の白石晃平氏だ。下の写真に示すように聡明なイケメンだ。国内外において脱炭素に向けた取組みが進む中、ニーズが高まるZEB(ゼロ・エネルギービル)の普及拡大に奮闘されている。ZEB実現の課題を克服し、ZEBを達成した新築オフィスビルの取り組み事例を踏まえて、脱炭素について改めて考える時間をいただいた。

(出典:竹中工務店)

ZEBの意義

省エネと創エネ

省エネとは消費するエネルギーを減らすことだ。2割減や3割減は可能かもしれないが、5割減はかなり思い切ったことをする必要がある。それでも消費エネルギーをゼロにはできない。快適な生活を維持しながら、健康な環境を維持するには、省エネだけでは限界がある。このため、最近は創エネをセットにして、トータルに考えて正味の消費エネルギーをゼロにするという考え方が普及しつつある。

(出典:環境省)

ZEBチャート

ゼロ・エネルギービル(ZEB:Zero Energy Building)は、ネット・ゼロエネルギー(NZE)ビル、またはゼロ・ネット・エネルギー(ZNE)ビルとも呼ばれる。エネルギー消費量が正味ゼロのビルである。つまり、年間ベースでビルが使用するエネルギーの総量が、ヒートポンプ、高効率の窓や断熱材、ソーラーパネルなどの技術を用いて敷地外の再生可能エネルギー源によって作られた再生可能エネルギーの量と等しいことを意味する。これらのビルは、運用中の大気中への温室効果ガスの総量が少ないことを目標としている。再生不可能なエネルギーを消費し、温室効果ガスを発生させても、エネルギー消費や温室効果ガスの発生を削減することを目指す。ZEBは、環境への影響を少なくするだけではなく、費用面でも税制上の遊具措置やエネルギーコストの削減で経済的に成り立ちつつある。欧州連合やその他の賛同国で承認・実施されている同様の概念に、ニアリーゼロエネルギービル(nearly Zero Energy Building)がある。下の図に示すように、エネルギー消費量が基準の50%から100%の場合はZEB未達成となる。創エネルギー>消費エネルギーならZEB達成になる。ニアリーZEBは水色の部分で、75%以上の省エネ効果を発揮したものだ。50%から75%はZEBレディと達成という。欧州は全てのビルをnZEB基準にすることを目標にするようだ。

(出典:錢高組

東京都のエネルギー起源CO2

東京都の2012年度の報告によると、エネルギー起源CO2で見ると、約70%以上が業務部門や家庭部門などの建築物からの排出だ。この建築物からの排出を実質ゼロにすることは大きな意義があると言える。

(出典:東京都)

CO2の約7割は電気から

同様に、東京都からの情報では、エネルギーの約7割は電気からだ。そして、その多くは化石燃料を燃やして発電する火力発電などだ。CO2を排出しな自然エネルギーは17.3%ほどにとどまる。


(出典:東京都

ZEBの実例

下の図はかなり字が小さくて読みにくいが、ゼロエネルギービルも事例はあるし、ニアリーZEBも出ている。今日はそんなニアリーZEBの事例が紹介された。

ティ・エステック新本社ビル

講師の白石さんが手掛けたのが、ティ・エステック新本社ビルだ。快適性と経済性と汎用性と簡便性の4つを兼ね備えたビルを建設するのがテーマだ。このため、南側の窓は採光の機能と、中から外への眺望の機能を持たせる一方で、東西の壁は窓をなくし、防熱性を高める。さらに屋上には太陽光パネルを設置して、創エネにチャレンジする。東西の壁にはソーラを設置しないのかと質問したら、東西の壁に設置すると太陽光の反射が近隣住民に与える影響を考慮する必要があることと、エネルギー変換効率が低いため、多くのパネルを設置する必要があるため、経済性が低下する。さらにメンテナンスの問題もあるという回答だった。

(出典:ティー・エステック新本社ビル

ZEBの課題

快適さを保ちつつ省エネを推進

ひとは過去にも戻れない。快適な生活を捨てて不便な世界に戻るのではなく、現在の快適な生活を維持しながらも、無駄なエネルギー消費を見直し、経済的にも成り立つような仕組みを考えることが大事だ。また、特別な技術を導入するのではなく、汎用的な技術で解決することもコストを抑えながら効果を発揮するためには必要だという。

(出典:講演会資料)

設計外気温を超えた対応

このティー・エステック本社ビルは埼玉県朝霞市にある。下の図は2018年の夏期の屋外の最高気温の推移だが、設計気温の36.8°Cを超える日が26日もあった。想定以上に暑い日が来ることも想定する必要がある。そのような時にどうするかは今後さらに必要になるだろう。

(出典:講演会資料)

明るく快適なオフィス

省エネルギーと節電は似て非なる考え方だ。今年の冬は電力供給が需要を下回る懸念があり、節電が呼びかけらている。東日本大震災の時にも節電が求められ、オフィスの照明を間引きした。節電とはピーク時に問題が起こらないように使用する電気量を節約することだ。一方、省エネはピーク時の対応ではなく、消費するエネルギーの無駄を排除することで、エネルギー安定供給確保と地球温暖化防止することを狙っている。最もわかりやすいのは照明を蛍光灯からLEDに取り替えることだろう。PCもデスクトップ型をノートPCに変更することだろう。出勤を必須とせずテレワークを奨励することだろう。

(出典:日研設計

解決策

省エネの推進

ティー・エステック新本社ビルでは、蛍光灯をLEDに変更し、デスクトップPCをノートPCに変更した。前者の措置で空調負荷は8W/m2から5W/m2に減少したが、騎乗面の照度は変わらない。蛍光灯を利用していた時に比べると空調負荷は4分の1に減少だ。また、後者のPCの置換により、同じく空調負荷は設計値の10W/m2から5W/m2以下に減少している。また、ビルの断熱材を適切に配置することで空調効率を高めている。エレベータの利用の抑制させるために、階段を利用しやすいようにフロアの中央部に設置して、利便性を高めるととものに省エネを図っている。細かな部分まで配慮が行き届いている。

(出典:普及型ZEBの研究

雨水再利用水を活用した屋外機の散水

想定以上に暑い日が続くとついクーラーをつける。それは自然なことだが、その場合にも雨水をためておいて、その雨水を散水したり、室外ユニットに散水することで気化熱による冷却効果を最大限に活用することは効果的だ。

(出典:XTECH)

省エネ達成度をサイネージ表示&エコランプ

省エネの効果がどの程度あったのか、十分なのか、まだ十分でないのかをオフィスの利用者にフィードバックすることはモチベーションを高めるためには効果的だ。食堂にはサイネージが設置されている。しかし、これだと食堂にいる時にしか分からないということで、各フロアーには簡便なエコランプがあり、省エネを達成している場合にはランプは消灯しているが、消費電力がオーバーしている場合には「節電してください」と黄色のランプが点灯する。特に供給量のピークを超えるような場合には、電力需給が不安定になるため、急いで節電を強化しないといけない。そうならないように普段から省エネと創エネを心がけたい。

(出典:講演会資料)

屋上に太陽光パネルの設置

ビルの屋上には293Wのパネルが300枚設置された。発電量は計画では8.8万kWh/年だったが、2018年4月から2019年3月の実績ちでは10.2万kWh/年と計画を上回った。これはパネルの設置角度を30度ではなく、5度に抑えたことも大きいという。つまり、30度にすると発電効率が高くなる一方で、影によるロスが発生する。さらに、30度を維持するための架台が必要となる。今回は架台が不要なため、工事費が約30%も節約できた。通年の電力自給率は、季節に左右されるが、平均でも45%を誇っている。

(出典:講演会資料)

今後の対応

ウェルネスオフィス評価(CASBEE)

建築環境総合性能評価システム(CASBEE:キャスビー)は、2001 年に国土交通省が主導し、(財)建築環境・省エネルギー機構内に設置された委員会によって開発された建築物の環境性能評価システムである。地球環境・周辺環境にいかに配慮しているか、ランニングコストに無駄がないか、利用者にとって快適か等の性能を客観的に評価・表示するために使われている。評価対象となるのは、日本国内の新築・既存建築物である。一方、CASBEEウェルネスオフィスとは、建築物の健康性、快適性等を評価するツールとして開発されたものだ。従来のCASBEE-建築における環境品質(Q)の評価範囲を、健康増進や知的生産性向上の観点から膨らませたものであり、環境負荷低減(L)については評価対象とならず、あくまで健康性、快適性等に関する環境要因を抽出した評価ツールとなっている。従来の建築物評価に含まれていなかったビルの運営管理や、テナントリレーションオフィス専有部におけるビルやテナントの取組みなど、執務者への健康影響が大きいと思われる内容について積極的に取り込んだものだ。ティー・エステック新本社ビルのCASBEEウェルネスオフィスではランクSの78.6ポイントを獲得した。素晴らしい。
(出典:講演会資料)

ゼロ・ウオータービルへの取り組み(35%削減)

エネルギーの消費を抑え、CO2の発生を抑えることに加えて、最近では消費する水資源の有効利用にも注目が集まっている。特に、雨水を再利用するだけではなく、使用した水をグリーンインフラで使われている浸透型緑地に流し、緑や土壌の力できれいな水に変えて、その水を再利用することで緑地の価値が高まる。例えば、緑地にまいた水を土壌の中を通すことで浄化した後、水を受ける施設に貯めるイメージだ。エネルギーだったら使う場所で、たとえば太陽光発電を使って生み出す。それと同じように、水もその場所で生み出していこうという考え方だ。このような考え方は、特に水資源が貴重な国や地域では有効かつ必要だろう。

(出典:ニュースイッチ

イニシャルコストの抑制

ZEBの実現には、太陽光発電用のパネルの設置などで初期費用が必要だ。しかし、ZEBの実現により消費するエネルギーや熱源容量を削減できるためにトータルではトントンになるという。水の循環のための濾過装置や散水装置が必要だけど、変圧器容量の削減や熱源容量の削減でほぼイーブンだという。

(出典:講演会資料)

コロナ禍での省エネ実態

エネルギー収支実績

2020年は、テレワークも本格化したため、2019年度に比べるとほぼ半減した。しかし、これは消費電力が半減したわけではないという。省エネの度合いよりも、創エネが貢献したようだ。

(出典:講演会資料)

テレワークの推進

自分が勤めている会社でもテレワークを実践している。コロナ禍の前にリモートで使えるセキュアPCを全社的に導入する計画があり、それがぴたりとハマった。ネットへのアクセスは、自宅の場合には自宅のWi-Fiだけど外出先だとau経由でのデータ通信だ。Wi-Fiと遜色のない速度でアクセスできるので、ストレスはほぼない。今日は、昨日は幕張の5G/IoTの展示会を見てきた。その前後でお客様とのオンライン会議や社内のオンライン会議があったが、ほぼ問題なかった。もっと言えば、移動する電車内でもスマホで参加できる。さすが、発言は難しいが、聞くだけならほぼ問題ない。そんな傾向はこれからも続くだろう。

(出典:東京都

良好な換気環境

二酸化炭素の濃度は0.4%ほどだ。これが将来は1%まで跳ね上がるという予測もあるようだ。しかし、建築基準法では室内CO2の濃度は1000ppm以下にする必要がある。もし、外気のCO2濃度が1000ppmまで増大すると換気しても、基準をクリアできない。空気中のCO2を除去する仕組みがないと建物内での活動は息苦しいことになるのだろうか。これは問題だ。

(出典:講演会資料)

まとめ

今回の環境工学部会の講演には100名以上の人がオンラインで参加し、質問も多数でるなど、非常に活発な講演会となった。地球の温暖化とCO2の濃度には相関関係はあるが、因果関係はよく分からないというのが実情だろう。世界のCO2の排出量のうち、日本の排出量は3.4%なので、これを仮に半減しても1.7%しか減少しないと疑問の声をあげる人もいる。熱帯化は困ったことだし、寒冷化も困ったものだけど、そもそも温暖化は悪いことか?快適な温暖化で歯止めが聞けば良いが、世の中そう上手くは行かない温暖化で止まらず熱帯化や超熱帯化になる可能性もある。それを阻止するには、今回の講演会で習ったゼロエナジービルの考え方や、ゼロウォータビルの考え方は賛同を得るものだと思う。沖縄に赴任した時には、沖縄のリゾートホテル巡りをしたが、その中でもブセナリゾートは自然との調和や自然への回帰をコンセプトとしていた。先人の知恵や経験から学ぶという姿勢もこれからは求められることだと思う。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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