エネルギー問題(その4):将来への方向性はガスパイプラインとLCCMと4Rだろう。

はじめに

その1では電力のためのエネルギー確保が可能か、その2では各発電方式の環境への影響、その3では環境への影響軽減策を考えてきた。今回は、その4として、天然ガスのパイプライン構想とゼロエミッションの先を目指すLCCM構想、3Rを超える4Rの3つの方向性についてまとめてみた。

その1. 人類は必要なエネルギーを将来にわたって確保できるのか
その2. エネルギーを消費することで環境への深刻な影響を与えないか
その3. 各発電方式で環境に与える影響は軽減可能か
 その4. 将来の望ましいエネルギー活用への3つの方向性

方向性1:天然ガスパイプライン構想とスーパーグリッド構想の連携

石油とガスへの依存度のバランス

下の図は、三菱総合研究所が発表した各国の石油とガスのシェアのマトリックスだ(参考1)。1995年ベースなんで少し更新する必要があるが、これによると日本は石油ベースの社会となっている。日本が今後どのポジションを目指すかは議論の分かれるところかもしれない。現在は、天然ガスの容量を液化することで約600分の1に圧縮できるLNG(液化天然ガス)に依存しているが、輸送コスト低減にはガスパイプラインの整備が必要である。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914121324p:plain

北東アジアのガスパイプ構想

下の図は、アジアパイプライン研究会が作成した資料の引用だ(参考2)。ただ、同研究会は2009年に解散しているので、幻の構想となる。ただ、天然ガスの産地と消費地の地政学的な関係が分かりやすいの引用させて頂いた。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914122900p:plain

北東アジアのスーパーグリッド構想

下の図はNAPSNet政策フォーラム(参考3)において2015年4月13日にDavid FonHippelが提案した北東アジアでのスーパーグリッド構想だ。ロシア、モンゴル、韓国、中国、日本等を高電圧直流送電(HVDC)方式を活用して接続するものだ。この構想では北朝鮮も含まれているが、現在の政治情勢では考えられない構想だ。しかし、日本が大陸と接続するには樺太経由でロシアで接続するルートと、韓国経由で接続するルートが現実的だし、少なくとも2ルートは確保したいところだ。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914124132p:plain

アジアスーパグリッド構想

下の図は、ソフトバンクグループが提唱するアジアスーパーグリッド構想だ(参考4)。東日本大震災の後、2011年9月に発表し、2016年3月には中国、韓国、ロシアの電力系企業と企画立案のための覚書を締結している。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914125207p:plain

天然ガスパイプ構想のまとめ

天然ガスパイプの構想も、電力系のスーパーグリッド構想も陸続きのない日本が参加するには、海底ルートが不可避である。いずれの構想を壮大なものであり、かつ関係諸国の友好関係を維持できるかに大きく影響を受けるだろう。また、建設費用を抑制して、効率的で安全な運用を確保するには、この2つの構想を総合的に考慮しながら、最適な構築・運用をする着眼点が必要ではないかと思う。ただ、いずれも非常に難易度の高い構想なので、連携することで実現が遠ざかるリスクもある。今後の国家間の政治交渉から目を離せない。

方向性2:ゼロエミッションからLCCM(Life Cycle Carbon Minus)へ

国連大学が提唱するゼロエミッション

ゼロエミッションとは、家庭やビルや工場、タウン等の単位において、CO2や廃棄物などの副産物の産出をゼロにすることを目指す取り組みだ(参考5)。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914131629p:plain

ゼロエミッションハウス(ZEH)

ゼロエミッションの考え方を家に適用したものがゼロエミッションハウスだ。下の図のように自然エネルギーの利用や断熱工法を活用するものだ(参考6)。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914131919p:plain

ゼロエミッションハウス(ZEH)からLCCMへ

このZEHの考え方をさらに推し進めたものがLCCM(Life Cycle Carbon Minus)住宅だ。建設から廃棄までのライフサイクル全体でのCO2の排出をマイナスにする住宅だ(参考7)。LCCMを実現する4つの要素は次の通りだ。
1) 住宅の断熱性を高める。
2) 夏と冬で外気の活用を変えるなどエネルギーの利用効率を高める。
3) 太陽光発電や風力発電などを活用して、エネルギーを創出する。
4) 建築段階や廃棄段階もCO2排出削減を図る。
国は、長期優良住宅や低炭素住宅、ゼロエネルギー住宅などには、省エネルギー基準を満たす場合に給付金などを支給している。f:id:hiroshi-kizaki:20170914132309p:plain

ゼロエミッションからLCCMへのまとめ

エネルギー消費量全体のうち家庭の占める比率は14%程度(2012年度)であるが、民生部門では42%をしめている(参考9)。家庭ではZEH、会社ではZEB、地域ではZET(Zero Emission Town)を目指すことで全体としての電力やエネルギーの消費量を削減しつつ、CO2の排出削減を目指すというのが国が考える方向性だろう。今後、省エネではないリニア中央新幹線を導入するとこの運輸部門の比率がさらに高まるだろう。運輸部門でもゼロエミッションを目指させるような指導が必要ではないのだろうか(参考8)。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914135553p:plain

方向性3:EVの電池の再活用・3Rから4Rへ

家庭への蓄電システムの導入

自然エネルギーや深夜の安い電気を有効活用するには家庭に蓄電システムを導入することが有効だ(参考9)。家庭においても非常時の停電対策としても有効だ。特に、電子機器の保護のためのUPS的な利用ニーズもあるかもしれない。しかし、高性能かつ大容量の電池を導入するのは価格面でも厳しい。

f:id:hiroshi-kizaki:20170914140516p:plain

EV向けのバッテリーの有効活用

今後、ガソリン自動車が急速に電気自動車にシフトすることが予想されている。まさにZEV(ゼロエミッションビークル)へのシフトだ。下の図は、ETP(Energy Technology Perspective)2012の地球の平均気温上昇を2度以下に抑える想定から導かれたものだ(参考10)。
f:id:hiroshi-kizaki:20170914141606p:plain

EVの高性能バッテリーの有効活用

下の図は日産が提唱する4Rの概念図だ(参考11)。つまり、従来のリユース、リデュース、リサイクルの3Rではなく、EV用のバッテリーとしての寿命を終えたバッテリーを他の用途に合うように再製品化し、再販売するという考え方だ。個人的には、EVの規格と家庭用電池としての規格に整合性をも持たせてプラグインで再利用可能とすべきだと思う。

f:id:hiroshi-kizaki:20170914140216p:plain

3Rから4Rへのまとめ

EV用のバッテリーを孤島の蓄電池システムとして活用する事例がある(参考12)。また、EVを家庭用の外部電池として活用するアイデアもあるが、EVを使いたい時に電池が放電していたのでは意味がない。個人的には、古くなったEVの電池を家庭用に再活用するようなリユースが定着すれば、自ずとZEHの普及を後押しすることになるように思う。

将来への3つの方向性とまとめ

エネルギー問題を解決するための方向性を色々と考えた結果、上記のようにガスパイプや広域スーパーグリッドといった国の枠を離れたマクロな観点と実行が求められていると考えた。この点ではソフトバンクグループが頑張っているが、企業努力に委ねるのではなく、国策としても後押ししていく必要があると思う。一方、ミクロの観点ではゼロエミッションに止まるのはなく、ライフサイクルカーボンマイナス(LCCB)の概念に向けて技術をさらに磨いていく必要がある。そして、そのためには、貴重で高価で高性能なリチウム電池を単にEV向けではなく、LCCMハウスでも使えるような配慮と工夫が必要と考えた。エネルギー問題は、自分の専門分野ではないため、知らないこと、分からないことが多数あったが、いろいろと調べると多くの人が検討したり、提案したり、実行したりしていることを理解した。エネルギー問題は、安全安心な社会に向けては不可避な課題であり、今後ともできるだけアンテナの感度を上げて情報キャッチしていきたい。また、自分の専門分野である情報通信の観点では、スマートグリッドやスマートハウス、コネクテドカーなど関連するプロッジェクトも数多い。今後、これらの導入や普及で世界中に少しでも貢献できるように頑張りたいと思う。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ITプロ人材のマッチングプラットフォームなら Bizlink をクリックしてみてください。
最新情報をチェックしよう!