日本技術士会農業部会の8月度講演会「営農型太陽光発電の将来展望」を拝聴

はじめに

久しくブログへの投稿をサボっていたけど、日本技術士会の講演会や、労働安全衛生コンサルタント会での勉強会には定期的に参加している。いつも啓蒙されることばかりだけど、今回は特に興味深いと感じたので投稿してみた。

日本技術士会農業部会

日本技術士会には、19の部会がある。登録している部門に関係なく、全ての部門の部会に参加することが可能だ。今回は、農業部会の講演会において、営農型太陽光発電をテーマにした講演会が企画されたため、リモートで参加した。結論としては参加して良かった。
(出典:日本技術士会)

営農型太陽光発電とは

ちまたの太陽光発電は、農地転用型太陽光発電だ。耕作放棄地などを転用したものだけど、このようなソーラーを見ると美しくもないし、悲しい気持ちになる。もし、このようなタイプのソーラがどんどん日本列島を埋め尽くすと緑が減少して、環境破壊が進むのではないかと本末転倒の気持ちになる。しかし、営農型太陽光発電では、農業を継続し、かつ太陽光発電事業と両立することを目指す事業だ。このタイプであれば、土地はコンクリート化されることなく、自然の愛を受けながら農業を営み、さらに太陽光で発電した電力を有効活用することが可能という一石二鳥のアイディアだ。
(出典:RE100電力

営農型太陽光発電の普及状況

営農型太陽光発電の始まりはいつだろう。農水省がガイドラインを発表した平成25年(2013年)と考えられる。当初、一時転用許可期間は3年以内とされていたが、この5年後には、新たに営農型太陽光発電の促進制度を発表している。つまり、担い手がパネル下部で営農をする場合や荒廃農地・第2種農地または第3種農地を活用する場合には10年以内に延長されました。平成25年から令和2年(2020年)までの農地転用許可件数は、下の図に示すように増加傾向にあり、令和2年度までの累積で3,474件とある。


(出典:Re+)

営農型太陽光発電で栽培される農作物

営農型太陽光発電のもとではどのような農作物が収穫されているのか。農林水産省が2022年8月に発表した資料によると、下の図のように、さまざまな農作物が収穫されていることがわかる。最も多いのは、野菜等・イモ類で約35%。ついで観賞用植物が約30%。さらに果樹系が14%、穀物系が9%と続いている。
(出典:Re+)

営農型太陽光発電のメリット

安定的な収益の確保

農業のみの収益に比べて、太陽光発電による収益は安定している。定期的な収益になることは魅力だし、その収益をベースに農業にリソースを振り分けることも可能だ。

若手の人材確保

今回の講師である馬上丈司さんは、千葉大学博士後期課程を修了し、地方自治体における再生可能エネルギー政策の研究で日本初となる博士(公共学)の学位を授与された学者であるが、同時にベンチャー企業の社長であり、農業に従事する農家でもある。数えると21ほどの立場を持っているという。この馬上さんが意外なメリットとして紹介するのが、若手の人材確保だ。農業従事者には若手がいないことが課題とされるが、将来の可能性のある技術には若手を引き寄せる魅力がある。

CO2削減への貢献

無農薬の有機農作物を育てる農家は自然にやさしく、健康な農作物を育てたいという想いがあり、その延長上にCO2の削減にも貢献したいという想いがある。有機野菜との相乗効果について質問があった。そのような効果があるかどうかは不明だけど、共通の想いはあるようだ。

温暖化への対策

意外なメリットとしては、昨今の猛暑への対応だ。草刈りなどの作業は炎天下を避けて朝早くに初めて、9時ぐらいには終わらせたいところだが、営農型の農地では日差しを遮ってくれるので11時ぐらいまでやっても大丈夫という声もあるらしい。

営農型太陽光発電の課題

推進体制の不足

中国や韓国からの見学も多いようだ。これらの国では国をあげて推進しているという。日本では着手は早いけど、そのあとが続かずに、後発国に抜かれてしまうという図式が営農型の分野でもみられるのは残念だ。

構造的な問題

台風などによる被害も心配されるところだ。馬上講師によると風力計算はNEDOが実施して現在の施工法に準拠すれば想定される大型台風にも対応可能だという。ただ、問題は古い施工法によるソーラーだ。実際、被害を受けた事例はあり、今後の改善に役立てているという。

資金調達の問題

一般に農業に対する資金援助には金融関係は慎重だ。また、ベンチャーキャピタルなども農業に精通している人は少なく、営農型を始めるにしても調達資金をどう確保するかが課題となることが多いようだ。最近だとサブスク型の提案をしている企業もある。
(出典:KCCS)

盗難事件の影響

太陽光発電所から銅線などを盗難する被害が問題視されている。下のグラフは栃木県内での銅製品などの盗難件数だが、銅の価格の上昇に合わせて盗難件数も増加していることがわかる。全国規模では、2023年には16,276件と前年比で5,908件増加している。特に2,889件の茨城県、1,684件の千葉、1,464件の栃木、など関東圏での被害が目立つ。警察庁の露木長官によると、「外国人グループが複数の県で犯行を重ね、被害品をまとめて買い取り業者に売却している実態がある。」という。
(出典:下野新聞)

不法な事業者と交付金の停止

営農型太陽光発電に対しては、「再生可能エネルギー導入支援補助金」や、「農地保全事業補助金」、「農業者所得補償制度」などの交付金が支給される。しかし、経済産業省は、農地に太陽光パネルを設置して発電する「営農型」の太陽光発電事業者20社に対し、農地法違反などを確認したとして交付金を近く一時停止することが2024年8月2日に発表された。太陽光パネルの設置を巡り各地でトラブルが相次ぐ中で不正事案を一掃する狙いだ。交付金停止で違反解消狙う経済産業省は、農林水産省との調査で20の営農型太陽光発電事業者で計342件の不適切行為を確認している。一時停止される交付金額は月間約1300万円になるという。

まとめ

太陽光パネルが国土の隅々にまで普及した世界は想像したくない。しかし、営農型であれば、太陽光パネルを適切に活用しながらも国土の緑を守り、農産物の生産を守ることができる。農業ではさまざまなエネルギーを活用する。一部では小規模水力発電なども活用されているが、その多くは化石燃料に依存している。これらの依存度を少しでも減らす意味から、全ての農地ではなく、一部の農地に導入する方法もある。特に農業器具の電化も進むため、太陽光で発電した電力で農家のエネルギーや、農機具のエネルギーを確保し、さらに残った部分を売電して収益を確保しながら、農業を行うような姿はとても健全だと思う。さまざまな問題や課題はあるけど、技術面だけではなく、法制度面でもしっかり検討して、豊かな国土を実現したいものだ。

以上

 

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