労働災害の反転増加を抑えるには自律的な改善活動こそが求められる。

はじめに

労働安全コンサルタントの試験が10月18日に開催された。3科目のうち1科目は免除だったので、安全法令と安全一般を受験した。それなりに手応えを感じたが、柳川先生が運営しているサイトでの予想回答に基づく安全法令は15問中12問の正答(8割)と上出来の結果だった。安全一般は、まだ予想回答が揃っていないが受験者の解答傾向と事後チェックでは30問中正答が20問、不正等が6問、不明・微妙が4問だった。なんとか「当確」と言って良いレベルだったので、家内と久しぶりの日本酒で乾杯した。

労働安全コンサルタントの役割

厚生労働省のホームページには、「労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントは、厚生労働大臣が認めた労働安全・労働衛生のスペシャリストとして、労働者の安全衛生水準の向上のため、事業場の診断・指導を行う国家資格(士業)です。」と記載されている。つまり、労働安全コンサルタントは労働安全の向上、労働衛生コンサルタントは労働衛生の向上をになっている。自分が目指しているのは労働安全コンサルタントだが、労働安全の向上とはどういうことか。それはズバリ労働災害を防ぎ、労働環境を改善することだといえる。では、労働災害の状況はどうなのか、労働環境の状況はどうなのかをまずは抑えておきたい。

労働災害の推移

労働災害の件数は、死者数も死傷者数(休業4日以上)も下の図に示すように長期的には減少傾向にある。特に例えば死者数で言えば、昭和36年の6,712人をピークとして長期的には減少している。2015年(平成27年)には972人と、統計を取り始めてから初めて1,000を切った。その後も減少を続け、令和2年度実績では778人(新型コロナ感染による罹患を含めると867人)と減少している。

(出典:建設業労働災害防止協会

近年の動向

ただし、労働災害が減少傾向を継続しているわけではない。特に4日以上の死傷者数では、2009年(平成21年)労働災害による死傷者数(死亡・休業4日以上)は、116,311人をボトムとして、反転増加傾向にあり、2021年(令和3年)では149,918人と前年度に比べても14.3%(18,762人)の増加だ。

なぜ労働災害が増加しているのか

NPU法人POSSE代表の今野晴貴さんは、労働災害の原因として、コロナ禍の影響、高齢労働者の増加、サービス産業労働者の増加の3つを挙げる(出典)。例えば宅配業界の労災の約27%が墜落・転落だ。コロナ禍で宅配の需要が増加したのも背景にあるかもしれない。労働現場の世界でも高齢化が進んでいて、高齢者による事故の増加もそうかもしれない。また、介護などの社会福祉施設や商業施設での労働災害も増加傾向にある。

労働災害が増加している真の理由

先に指摘はその通りだが、顕在化した事象やデータの裏にあるもの、もっと大きな流れも見落とすことはできない。それは次の3つだ。

法令遵守の限界

昭和30年代の建設ラッシュに伴い労働災害が急増し、これに対応するため各種法令を整備し、対策を義務つけた。法令を遵守する目的は労働災害をなくし、労働環境を改善するためだが、法令遵守が目的化していないだろうか。法律や規則を守ることはもちろん重要だが、法令を遵守するだけでは全ての事故を未然に防止することはできない。しかし、事故が起きると法令が厳しくなり、その法令を遵守することに現場のエネルギーが消費され、肝心の安全対策を疎かになってしまっているということはないだろうか。

日本の企業の多層構造

労働安全衛生法では、発注者からの仕事を最初に受注するものを元請という。そして、その元請からある部分の仕事を受注し、そのうちのある部分をさらに発注する。これが2層や3層なら問題は少ないが、大きな仕事になると多層化が進む。自分が担当したある防災無線のプロジェクトでは元請から末端まで7層だった。例えば交通整理の仕事が必要だった時に、元請が発注者に請求する金額は、実際にその労働者が受け取る金額の2倍や4倍では済まない。多重構造になるたびに管理費が上乗せされる。これでは全体のコストを抑えることも、賃金を挙げることもできない。このため、多層構造の見直しが必要と指摘されているが、改善は簡単ではない。

同調圧力

女性は本能的・反射的に嘘をつき、男性の嘘はすぐに見抜かれる。しかし、男性は立場に基づいた発言を求められるとそれに従ってしまう。国家のため、企業のため、部署のために必要と判断すれば、事実に反する説明をする姿を事故や事件のたびに目にする。世界の常識というか、特に欧米社会は契約社会なので法律が優先される。法律に反することを上司から命令されたらそれに意義を唱えることは正当な行為だ。しかし、日本の社会ではどうだろう。雇用形態の違いなのか、組織風土の違いなのか、日本では上司からの無理な命令に忠実に従う部下が重宝され、出世してい木、結果として法律よりも上司の命令が優先されるケースがないとは言えないというか、多いのではないだろうか。
(出典:picsim-blog)

より自律的・能動的・根本的な対策へ

今後、反転増加している労働災害をなくしていくにはどうするべきなのだろうか。本質的な対策と機能的な対策で考えてみよう。

本質的な対策

少子高齢化が進む日本社会では、人手に依存する作業をできるだけ自動化する仕組みを作ることを奨励し、推進することが本質的な対策につながるのではないだろうか。運送の世界でも自動運転が活用される余地は大きいし、土木・建設の世界でもICTの活用は試行されている。飲食店でも調理ロボットや配膳ロボットなどの導入事例が報道されているが、ニュースになるようではまだまだだ。なんでもロボットが担えるわけではないが、単調で継続的な仕事、危険な仕事、長時間の対応が必要な仕事などはできるだけ自動化することで効率性を高め、経済性も高め、安全性も高めることを目指したい。

機能的な対策

自動運転やロボットやICTを活用すれば全ての労働災害がなくなるかと言えば、そんなことはない。大事なことは現場での意識を高めることだ。そのためには、多層化の実態を改善し、働く人の経済的な環境を改善しながらも全体のコストを抑制するような試みは必要だろう。また、法律を遵守することは必要なことだけどそれだけで事故がなくなるわけではない。やはり安全に対する意識を高め、自律的、能動的に安全対策を強化、推進するべきである。中央労働災害防止協会の調査によると労働安全に対する費用対投資効果は2.7倍という調査結果が得られている。安全対策を強化することは、費用の支出という側面よりも高い効果があり、労働安全に投資することが効率を高め、収益性を高めるということをさらに後押しするような施策や税制が求められるのだと思う。

まとめ

イソップ童話に北風と太陽という話がある。法律や規則を強化して安全を徹底させるのは必要なことだがこれはどちらかと言えば北風戦略だろう。一方、自ら考え、自律的・能動的に対策を推進させるような仕組みを作るのは太陽の戦略と言える。ではどうすれば、自律的・能動的に企業や関係者が活動しやすくなるのか。意識を高め、スキルを高め、税制や支援策を充実する。成功事例を作り、広める。儲かる仕組みを作り、安全に投資できる経営環境を作る。いろいろな方策が考えられるし、検討して、実行していくしかない。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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