はじめに
今回は食品ロスについて次のように2回にわたって考えたい。
その1:食品ロスの現状と各国の対応(⇨ 今回)
その2:食料ロス問題の4つの動向と5つの提言(次回)
食品の生産量と消費量
国際連合人口基金(UNFPA)が2021年4月14日に発表した「世界人口白書2021(The State of World Population 2021)」によると、2021年の世界人口は78億7500万人で、2030年に85億人、2050年には97億人、2100年には109億人に達すると予測されている。世界の人口が50億人を超えたのが1987年の7月11日なので、100年ほどで人口が50億人から100億人に倍増する予想だ。これほどの人口増に社会は対応できるのだろうか。まず心配なのが食料供給だ。世界の飢餓人口は最大8億1100万人という。しかし、これは食料が不足しているためではなく、世界の人々に分配されていないからだという(出典)。世界の食糧生産(穀物)は約26億トンであり、これを世界人口で割ると1人当たり年間340kgとなる。日本人の穀物の消費は年間154kgなので、マクロ的には不足していない。これまでも需要が増えれば供給量が増大している。生産して食料が無駄なく消費されているかどうかも重要だ。つまり、食品ロス問題への対応だ。
(出典:Hunger free world)
食品ロス
食品ロスには、フードロス(Food Loss)と食品廃棄物(Food Waste)がある。前者のフードロストは食品を生産し、貯蔵し、加工し、食品製造し、流通するまでに発生する食品の廃棄だ。後者の食品廃棄物は小売店から外食店、各家庭で発生する食品の廃棄だ。SDGsの12.3では後者の食品廃棄物を世界レベルで半減する目標を設定しているが、前者のフードロスは、削減するという表現に留まっている。
(出典:Yahoo)
事業系食品ロスと家庭系食品ロス
農林水産省によると日本において廃棄されている食品は年間2,531万トンにも達する。このうち、本来は食べられるのに捨てられる食品ロスは平成30年度推定値で年間600万トンだ。これは事業系食品ロスと家庭系食品ロスに分類される。前者の事業系食品ロスは商品製造業、食品卸業、食品小売業、外食産業などが含まれていて、合計では全体の54%を占める。一方、家庭系食品ロスは全体の46%だ。国連FAOの定義に沿って考えると、フードロスは、食品製造業と食品卸業の合計で約24%となる。つまり、小売業、外食産業、家庭での食料廃棄が全体の76%を占めることになる。食品ロスは国民一人当たりで見ると1日約130g、年間では約47kgとなる。これは大きい。
(出典:農林水産省)
食品ロスの推移
食べられる食品の無駄な廃棄を削減するために、令和元年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律(以下、食品ロス削減推進法」が施行された。食品ロス削減推進法の施工日に合わせて10月30日を「削減の日」としている。下の図は事業系食品ロスの推移だ。2000年度の食品ロス547万トンを2030年までに半減することを国の目標と設定されている。2016年には352万トンまで削減しているので、2030年の目標273万トンまで79トン以上の削減を実施することが求められている。一方、2000年度の家庭系の食品ロスは、432万トンであり、2016年で291万トンなので、2030年の目標216万トンまでさらに75万トンの削減が必要だ(出典)。新型コロナウイルスの影響で余剰食材が増えるなか、新たな工夫も求められている。
(出典:農林水産省)
海外の食品廃棄状況
食品廃棄物発生量の国際比較
国別の食品廃棄物と人口一人当たりの食品廃棄物の発生量は下の図の通りだ。特に、国別で見ると、食品廃棄物が特に多いのが中国の1億300万トンだ。2位の米国の5,640万トンのほぼ倍だ。残念ながら3位は日本の1,700万トンだ。ただし、人口一人当たりの食品廃棄物発生量で見ると欧州諸国が高い。特に、フランス、英国、オランダは一人150kgを超えている。米国も177.5kgと高い。アジア勢では日本の133kg、韓国の114kg、中国の75.7kgと続く。
(出典:公益財団法人流通経済研究所)
各国の法整備
食品廃棄物を半減するために、各国は次のような対策を実施している。ドラスティックなフランスでは、400㎡以上の敷地面積を持つスーパーは、賞味期限切れ食品等の廃棄が禁止されていて、その代わりに、慈善団体への寄付が義務付けられている。
(出典:流通経済研究所)
各国の対応
英国
英国の場合には、「Food waste in the United Kingdom」で詳細にレポートしており、他の国に比べると格段に分析が深い。さすがだと思う。英国における食品廃棄物は、1915年以来、環境問題や社会経済面の問題と認識されている。2007年には「Love Food, Hate Waste」キャンペーンが開始されるなど、メディアに取り上げられ、社会的な関心も高まっている。食品廃棄物の多くは家庭系食品ロスであり、2007年は670万トンだった。2009年には、英国の環境大臣ヒラリー・ベンが食品廃棄物を削減することを目的とした政府のプログラム「War on waste」を発表した。食品の賞味期限や販売期限ラベルの廃止、新しい食品包装サイズの作成、「持ち帰り可能な」リサイクルポイントの建設、5つの代表的な嫌気性消化プラントの公開が提案された。キャンペーン開始から2年後には、13.7万トンの廃棄物を削減した。
(出典:Food Loss)
フランス
フランスでは、毎年約130~190万トンの食品廃棄物が発生しており、一人当たり年間20~30kgの食品廃棄物が発生している(出典)。食品廃棄は、経済的な損失だけではなく、環境面も影響を与えている。経済面では、年間160億ユーロのコストが発生している。環境面では、食品廃棄物が1,530万トンのCO2を排出している。これは、フランス全体のCO2排出量の3%に相当する。これらの背景を踏まえて、2016年2月にはフランスでは世界で初めてスーパーマーケットが売れ残りの食品を廃棄することを禁止する「食料廃棄禁止法案」を可決した。この法案の施行に伴いフランスでは、400㎡以上の敷地面積を持つスーパーは、賞味期限切れ食品や賞味期限が近付いている食品の廃棄が禁止される。このため、廃棄する代わりに、チャリティー団体やボランティア組織などへ寄付するよう義務付けられている。ルールに違反すると、最高75,000ユーロ(約1,000万円)の罰金もしくは最大2年間の禁固刑を課せられる。多くのスーパーは、廃棄予定の製品を割引料金で販売する努力も進めている。
中国
中国は一人当たりの食料廃棄は欧米に比べると少ないが、食料廃棄の総額では前述の通り第二位の米国の倍に相当する約1億トンとダントツだ。中国における食料に関する課題は、食料廃棄物の削減に加えて食品安全の向上だ。まず食料廃棄に関しては、中国の食品廃棄物は一般廃棄物の中の食品部分と位置付けられている。基本的には、農業生産段階や製造者段階、卸・小売段階は含まれず、家庭と飲食事業者の段階のみだ。中国では、食品廃棄物の回収利用を2020年までに35%まで高めることが目標だが、回収利用率の定義などは明示されていない。一方、食品安全の向上に関しては、中国では、地溝油や、無害化しない食品廃棄物の飼料化だ。地溝油(ちこうゆ)とは、下水油やドブ油とも呼ばれる中国の闇市場で流通している再生食用油のことだ。工場の排水溝や下水溝に溜まった油を精製して食用油脂として使われる油だ。販売価格が正規食用油の半額近いため、2012年当時で生産量600万トン以上に急成長し、社会問題化している。中国では、食品廃棄物に関する定義が国や地方で曖昧であり、正確な現状把握が困難である。
ハンガリー
2016年にハンガリーは、国家レベルの食品廃棄物防止プログラムを宣言した。これは、「National Food Chain Safety Office」により、欧州連合のLIFEプログラムの資金援助を受けて立ち上げた「Project Wasteless」の調査結果に基づくものだ。Wastelessプロジェクのチームはその研究成果を食品ロスや廃棄物防止の分野の関係者と共有することで将来計画についての議論を促進することを意図している。2019年の「National Food Chain Safety Office」の調査によると、ハンガリーでは国民一人当たり年間68kgの食品廃棄物を発生させ、約半分の食品廃棄は回避可能だ。ECによるLIFEプログラムは、環境・機構変動対策のための資金調達手段であり、2014年から2020年の期間に34億ユーロの予算が組まれた。
(出典:EC)
デンマーク
デンマークの環境省によると、デンマークでは農場での生産から家庭での消費までのフードバリューチェーン全体で年間70万トン以上の食品が廃棄されているという。活動家のSelina JuulのStop Wasting Food運動の働きにより、デンマークは2010年から2015年の5年間で食品廃棄物を国全体での25%削減を達成した。デンマークでは、この成功を糧にして、食品廃棄物対策の国民運動や、食品廃棄物を削減するレストラン、食品廃棄物を削減するスーパーマーケットなどが注目を集めている。政府も「食品廃棄物対策パートナーシップ」を進め、毎月のように食品廃棄物削減の新しい取り組みのためのスタートアップ企業が誕生している。食品廃棄物対策の国内法を導入した世界初の国はフランスだけれども、食品廃棄物対策の最初の国はデンマークであるという自負を持っているようだ。
(出典:Huff Post)
オランダ
ワーヘニンゲン大学によるとオランダで生産された全食品の30%から50%が廃棄されていて、少なくとも年間950万トンの食品が廃棄されていると推定されている。その価値は44億ユーロに達している(出典)。別の調査によれば、オランダでは食料の22%、重量では200万トンが毎年廃棄処分されている。これは、消費者だけではなく、生産者や小売業界によるものだ。しかし、近年は食品廃棄削減の動きが盛んだ。例えば、オランダ北部オンストウェッデにある農場では、通常なら廃棄処分にする不揃いな形のかぼちゃを12万個流通させた。5年前に事業開始した当時は興味を持たれなかったが、近年になって大手小売スーパーなどが購入を開始し、事業が軌道に乗り始めているという。廃棄処分になりそうな材料を使ったレストランも話題を呼んでいる。また、食品会社から排出される野菜クズから染料の成分を抽出して、その線量で着色した生地や製品を提供するサステナブルなプロジェクトを開始するFood Textileのような企業もある。使用する染料の90%以上が天然染料であり、化学染料の使用を最小限に抑えているため、安全な顔料としても活用できる。新しい可能性が広がっている。
(出典:Food Textile)
途上国の課題
国連食糧農業機関(FAO)の調査では、世界の食料廃棄量は年間約13億トンにも及ぶ。これは、農場等で生産した食料のうち約3分の1を廃棄していることになる。先進国では、生産や加工の工程での食料廃棄よりも小売〜外食〜家庭といった消費の工程での食料廃棄が多い。一方、途上国では、前者の生産から加工の工程での食料廃棄が多い。つまり、途上国では上流での工程の改善が、先進国では下流での工程の改善が急務だ。
(出典:環境リサイクル学習HP)
まとめ
食料の無駄な廃棄を無くす努力が地球規模で進んでいる。特にフランスではスーパーによる活用可能な食料の廃棄を禁止する「食料廃棄禁止法案」を2016年に可決して、慈善団体等への寄付を義務づけしている。イタリアもフランスに続いている。デンマークでは食料廃棄にいち早く取り組み、2010年から2015年の5年間で食品廃棄物を国全体での25%削減を達成したのは特筆に値する。食料ロスを削減するニュービジネスが活性化しているオランダは面白い。エストニアに旅行した時もオランダの大学で新規ビジネスを研究している学生と知り合った。イノベーションにより社会的な課題を解決しようという社会起業家が活躍していることは素晴らしい。一方、中国は食料廃棄量が世界トップだ。中華料理はそもそもは無駄を出さずに利活用するコンセプトだと理解していたが、経済発展とともによき文化が廃れ、地溝油のような健康に有害な油を大量に精製して販売するのは食料廃棄問題の解決以前の問題だ。世界の国々はさまざま取り組みを進めている。日本は現在、どのように対応し、将来どのように進めようとしているのか。それは次回に投稿したい。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝
(参考)次回:日本の食品廃棄物の課題と対応