はじめに
第7回のメディア概論を受講した。サイバーエージェント(CA)の毛利さんによる講義の前半は前回投稿し、CAの革新的なチャレンジと更なるチャレンジについて概況したい。
その1:ネット広告の現状とサイバーエージェントの躍進 (6月3日の投稿)
その2:ネット広告へのサイバーエイジェントの継続的な挑戦(⇨ この投稿)
CAの革新的チャレンジ
ネット広告は、前回投稿したように基本は運用型広告だ。そして、運用型とは広告枠を確保すれば展開できる予約型広告と異なり、広告ランクを高める必要がある。広告ランクは、クリック単価と品質スコアできまる。広告代理店としての腕の見せ所はこの品質スコアを高めることだ。このために、CAでは実際に流れている既存の広告に勝てるかどうかをシミュレーションするツールを開発して、活用している。ネット広告のもう一つの特徴はターゲティングだ。きめ細かくターゲットを絞り込むほどに刺さる広告を打つことも可能だが、その品質を高め、かつ多様性を広めようとすると制作するコンテンツ数が指数関数的に増大する。このため、この課題を解決するために、GAN(敵対的学習)を用いて様々なコンテンツを効率的に制作する仕組みを開発した。今回は、メディアの授業だけど、AIの授業のようだった。
極予測AI
CAはAIを活用し、革新的な制作プロセスで広告を制作し、広告効果が出た時のみ制作費を成功報酬とする極予測AIの提供を開始したと2020年5月15日に発表した。このコア技術は、事前に広告配信効果を予測する効果予測AIだ。通常の制作プロセスによるクリエイティブの勝率に比べると、極予測AIによる制作プロセスによるクリエイティブの勝率は、約2.6倍になったという。極予測AIは、配信中かつ最も効果が出ている既存クリエイティブと新クリエイティブの効果予測値を競わせ、AIによる効果予測値が既存1位を上回った新クリエイティブのみ広告主に納品、広告配信を行う仕組みだ。極予測AIの事前予測ロジックは、AI研究開発組織AI Labと共同で研究・開発している。学生からは「広告の評価をAIができるようになると作成される結果が似てくる傾向はあるのか」という質問があり、毛利さんからはクリエイターが主となって広告を考えることが大事だと回答があった。
(出典:AI Trend)
効果改善実績
CAは、AIを活用した革新的な制作プロセスで広告クリエイティブを制作する極予測AIを2020年5月に提供開始し、その後順調に導入アカウント数が増大し、提供開始から3ヶ月後の2020年8月には500件を突破したと発表した。極予測AIを活用して制作した動画広告では、獲得件数が2.5倍に増加する例もあるという。
(出典:CyberAgent)
極み予測TD
CAは、AI事業本部において検索連動型広告の検索キーワード全てに対し広告文を自動生成する極予測AIを開発し、革新的な広告テキスト制作プロセスで検索連動型広告の効果を改善する極予測TDの提供を開始すると2020年5月22日に発表した。先行テストでは、新広告テキスト配信時の検索キーワード品質スコア(QS)上昇率比較において、通常の制作プロセスによるQS上昇率と極予測TDによる制作プロセスによるQS上昇率を比較した際、極予測TDが通常プロセスの2.3倍という結果が出た。極予測TDの自動生成および効果予測ロジックは、AI研究開発組織AI Labと共に研究開発している。
(出典:サイバーエージェント)
極予測LP
CAは、AI事業本部において、検索連動型広告におけるCVR改善を目的に効果予測AIで配信前にランディングページの広告効果予測を行う極予測LPの提供を開始すると、2021年6月23日に発表した。運用型広告では、広告効果を維持するために大量の広告クリエイティブの制作・運用や、広告テキストの品質評価の改善が重要である。このため、制作プロセスで広告効果最大化に向けサービス提供している極予測AIや極予測TDに加えて、効果予測AIで配信前に広告効果予測値の高いランディングページを広告グループごとに制作し、前述の通り広告効果がでた時のみ制作費を成功報酬とする極予測LPの提供を開始した。極予測LPでは検索連動型広告で配信さる各アドグループにあわせてランディングページの個別最適化を行う。極予測LPで大量に制作したランディングページのCVR効果予測値を競わせ、既存よりも予測値が上回った新クリエイティブのみを配信する仕組みだ。これにより、制作から配信開始までの時間をおおよそ半分に短縮できるという。
(出典:サイバーエージェント)
極予測LED
CAは、AIを活用し広告クリエイティブを制作する極予測AIの効果予測技術を用いて、効果が出るまでAIでリアルタイムに効果予測しながら、動画や静止画など広告効果の高いクリエイティブ素材を撮影し続ける極予測LEDを提供開始すると、2021年1月に発表した。高精細なCG背景空間で撮影が可能なLED STUDIOを背景に用いることで、バリエーション豊かなCGを自由自在に変更することが可能となる。これまではあらゆる場所・時間・人物モデルなどを手配の上、広告クリエイティブに使用する映像や写真素材の撮影が行われていたが、この極予測LEDを活用すれば、効果が出るまでリアルタイムに改善や補正を繰り返し、広告効果の高いクリエイティブ素材を制作することが可能となる。
(出典:MarkeZine)
AI Labで効果の高い広告AIの開発
CAが進めるAI Labについて動画で解説しているものがあったので参考に添付する。解説しているのはAI事業本部リサーチマネージャの山口光太氏だ。
(出典:Developer Conference 2022)
CAの更なるチャレンジ
ネット広告の分野では極予測シリーズが活躍しているが、CAのチャレンジはこれに留まらない。講義で教わったことだけではなく、独自に調べたことを含めて紹介しておきたい。
CA無人店舗
CAは、AI技術を活用した無人店舗ソリューションの提供・開発および、販促支援を行う新子会社として株式会社CA無人店舗を2021年11月19日に設立したと2021年12月14日に発表した。海外ではAmazonやWalmatなどが無人店舗の取り組みを開始し、強化している。国内においても、駅構内の店舗やオフィス内の店舗などで実証実験が行われ、無人レジや無人店舗などのリテールテック市場は2030年には8,737億円もの市場に成長するという(出典)。アマゾンが無人店舗を行う狙いは、コスト削減ではなく、マーケティング情報の獲得だという。つまりPOSデータでは購入したデータが分かるが、なぜ購入しなかったのか分からない。しかし、店舗内の人の動きを分析すれば、陳列方法が原因なのか、POPが原因なのか、価格が原因なのか、対抗製品は何なのかを全て分析することができる。この観点はすごいと思う。CAはAI技術やロボット技術、データ分析技術などを活用して無人店舗運営を丸ごと支援することが狙いだという。ネット広告で培ったデータ活用のノウハウを使って販促支援や広告事業の立ち上げを支援するのは心強いと感じるパートナーも多いだろう。
(出典:CyberAgent)
CA ABEJA
CAと株式会社ABEJA(アベジャ)が合弁で設立した株式会社CA ABEJAがAIプラットフォームサービスをSaaSとして提供すると、2019年3月5日発表した。CA ABEJAは、ABEJA Platformを活用したサービス展開を提供している。今回展開するのは、ABEJA Platform上で広告配信前にクリエイティブの効果を予測するAIモデルだ。このモデルを利用すると、A/Bテストのプロセス省力化や、広告効果の高いクリエイティブの配信開始時選択などが可能となる。また、広告主が広告クリエイティブ画像データに紐づく表示回数・クリック数・コンバージョン数等の過去の広告配信データを保有している場合は、それらのデータを用いて再学習し、広告主ごとに個別最適化したモデルを生成することも可能だ。CA ABEJAは、CAとABEJAの両社の強みを活かすことで、新世代の広告クリエイティブ制作および広告の最適化を実現するという。
(出典:CyberAgent)
店舗誘導
CAのアドテクノロジー分野におけるサービスの開発を行うアドテクスタジオは、AI Messengerが提供するLINE ビジネスコネクト向け配信ツールCA-Linkにおいて、LINE Beaconへの対応を開始したと2018年6月13日に発表した。LINE Beaconは、街中などに設置されたビーコン端末からの信号情報と連動して、LINE上でユーザーとコミュニケーションを取ることができるサービスだ。LINE広告に接触したユーザが添付への誘導に成功したかどうかを計測する。これがうまくいけば、LINEの広告サービスから店舗への誘導までのプロセスを可視化することができる。さらに無人店舗のプロジェクトと組み合わせれば、広告の配信から購買までのプロセスをつぶさに分析することが可能となる。これがうまくいけば、ネット販促の領域にまで踏み込むことになるような気がする。面白い。
(出典:MarkeZin)
広告素材のGANによる自動生成
写真素材サイトを運営するACワークスはこのほど、AIで生成した実在しない人物の顔画像をAI人物写真素材として公開すると、2019年5月23日に発表した。予め許可を得て収集した写真を用い、機械学習を用いて生成する。GANとは、敵対的学習のことで、真実のデータにわざとフェイクのデータを混ぜる技術だ。様々な表情の画像情報は予めモデルの許可を得られているので、個々の写真の使用許可を得ることなく、安全に利用できるのが特徴だ。これは次のDigital Twin Labelに繋がっているように思う。
(出典:IT Media+)
Digital Twin Label
CAは、タレントやアーティストなど著名人の公式3DCGモデルを制作し、著名人の「分身」となるデジタルツインをキャスティングするサービス「デジタルツインレーベル」を芸能事務所および著名人向けに開始したと2021年8月2日に発表した。2023年までに著名人500人のデジタルツインの制作およびキャスティングを目指し、デジタル空間における様々な活動を促進するという。近年はリアルな音声付き動画をAIで制作するシンセティック・メディアが注目されAI技術の研究が進むなど、広告やエンタメ、接客など様々な分野でデジタルヒューマンの活用が期待されている。学生からは、人間に近いデジタルヒューマンは不気味に感じるのではという質問があったが、CAではより高精緻なデジタル処理を行うため、不自然さはないという。デジタルツインレーベルでは、事前に著名人の全身の3DCGデータ・身体的特徴を捉えるモーションデータ・音声データなどを取得し、ご本人の分身となる高精細なデジタルツインを制作する。そして、広告プロモーションなどへのCGキャスティングや、デジタルツインを起用した企画立案などを実施する。下の画像は、世界的トップモデル 冨永愛さんをモチーフにするものだが、デジタル的に加工した結果は必ず本人に見せてOKを貰うという手続きを踏んでいる。逆に言えば、モデルの仕事は、素材の提供と処理された結果の確認だ。なので、例えば、プロのスポーツ選手が広告のために時間をとってもらうことは厳しいが、予め撮影した素材を活用して加工したものを確認するぐらいなら対応可能なので、スポーツ選手本人にとっての物理的な制約などの負荷も軽減できる効果が期待できる。例えば冨永愛さんは日本語と英語を話すけど、デジタルツインなら中国語でもフランス語でも話すように見せることができるという。学生からは権利関係は大丈夫かと質問があった。毛利さんは、権利関係はもちろんあるので、リリース前に確認して、本人の許諾をもらうのが大前提という説明があった。
(出典:CyberAgent)
Virtual Studio「カムロ坂スタジオ」
CAとCyberHuman Productionsが運営するバーチャルプロダクションスタジオがカムロ坂スタジオだ。東急目黒線の不動駅から徒歩1分のところにあり、大型LEDスクリーンを使用したバーチャルプロダクションシステムLED STUDIOが稼働開始している。2021年1月10日にプロダンスリーグD.LEAGUEが開幕したが、この開幕に向けてカムロ坂スタジオに設置されたLED STUDIOを活用し、CyberAgent Legitのプロモーションビデオが制作された。ダンスチームの監督FISHBOYさんは、CAに期待することとして、CAの社風「挑戦を止めない」「失敗を責めない」を指摘している。D.LEAGUEの方向性とも合致しているので、CAと新しい挑戦をしていきたと抱負を述べていた。まさに、CAはチャレンジし続ける企業だと思う。
(出典:Cyber Agent Way)
メタバースの取り組み=バーチャル店舗
CAが考えるメタバースはどんなだろう。ちむどんどんする(笑)。CAはバーチャル店舗開発に特化した事業会社 株式会社CyberMetaverse Productionsを設立したと、2022年2月25日に発表した。CAがこれまで取り組んできた小売企業のDX支援、AI・3DCG技術、NFT活用の技術などを総結集した事業がメタバース事業となる。株式会社CyberMetaverse Productionsでは、メタバース空間における新しい「未来のショッピング」の形として収益モデルを構築するとともに、「実店舗 × EC × メタバース」3つの商空間を複合データで繋いで販促活動を支援し、マーケティングやブランド価値向上の貢献に努めるという。4つ目の柱になるかどうかはここ数年の立ち上げ期にかかっていると思う。しかし、毛利さんは冷静だ。学生からもヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使わないと面白さは半減するけど重いしでかい。逆にスマホの画面は手軽で便利だけど制限がある。これに対して、デバイスの更なる進化は必要だし、現状の環境で安易に挑戦すると失敗する。やりたいことは没入感があって、実際に購買活動につながるような世界だという。確かに、ここでなら買いたいと思わせる店舗をメタバースで実現できるかどうか。そのためには、古典的だけどQSDCの要素が大事だと思う。つまり、品質が良くて、店員のサービスが良くて、納期が早くて、価格がリーゾナブル。サイバーの世界で言えば、自分のサイズや寸法や、趣味、好みなどを理解していて、自分でも気づかないようなジョハリーの窓を開けてくれるような店ならぜひ使いたいと思う。膨大なデータからどのような情報を吸い上げて活用するかという点ではCAの強みは遺憾無く発揮可能だろう。
(出典:CyberAgent)
質疑応答
学生からは色々な質問が出た。すでに各項目で述べたものもあるが、印象的だったのは次のようなものだ。
質問1:2022年4月より、改正個人情報の第三者提供が規制されるようになったと理解していますが、CAのビジネスへの影響はありますか?
説明1:これは自分からの質問だ。毛利講師からは、無くはないけどほとんどない。GoogleやFBはダイレクトに影響を受けている。なぜならターゲティングしているのはCAではないためだという回答だった。
質問2:極み予測はスコアの表示だったと思うのですが、説明可能なAIみたいなところにも挑戦していますか?
説明2:これは女子学生からの質問だった。説明可能なAIをやろうとしたけどやめた。なぜならクリエイターが主人公であり、AIは支援(従)であるべき。説明可能なAIにするとAIが主になり、クリエータのレベルアップが難しくなると懸念した。ただし、今後広告を自動生成するようになれば説明可能なAIもありかもしれないという回答だった。
質問3:広告の視聴/クリック率と、実際の商品購入やダウンロードなどはどのくらいの相関があるのでしょうか?(好きなアイドルが出ているだけ・インパクトがあるだけで商品に興味ないなど)
説明3:これは質問2と同じ人の質問だった。鋭い。クリックと実際の購入・獲得の相関は基本的にはある。クリック数は広告ランクと相関度が高いので、クリック数が増えると獲得件数は増える。ただし、クリック数と獲得率の間には直接の相関関係ははないという回答だった。
質問4:極みAIでの広告画像の評価はどの程度画像内の文字やキャッチコピーを認識しているのでしょうか。デザインとキャッチコピーの相性などを評価することも可能なのかが気になりました。
説明4:バージョン1ではパタメータリンクだった。バージョン2では物体認識だった。バージョン3では文字認識だ。OCRの機能を付加して、テキストをパラメータリンクする。でも、例えば、広瀬すずさんが出た時には、女性20歳代という設営は間違っていないけど適切ではない。やはり広瀬すずさんとして認識すべきだ。
質問5:インターネット広告について、オークション型の説明がありましたが、サイバーエージェントのシェアが大きくなると、サイバーエージェントが作った広告同士での勝負になる事例も生じたりしているのでしょうか
説明5:毛利講師からは「その通り」と端的な回答だった。AIを活用した将棋では、AIがプロ棋士に買ったとかつてニュースになったが、今ではプロ棋士がAIを活用して、将棋の世界をさらに一段高いレベルに引き上げている。同じようなことが広告のクリエータの世界でも起きているように感じた。
まとめ
今回のメディア論はサイバーエージェントでAIを活用した広告の評価エンジンである極予測シリーズを世に出した毛利さんによる講義で大変興味深く拝聴した。またまだ、よく理解できていない点や理解違いの点があるかもしれないが、アウトプットしないとせっかく聞いたことが霧のように蒸発してしまいそうなので、精度よりスピード優先で投稿にトライした。これからもサイバーエージョントの躍進からは目を離せない。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝
P.S.サイバーエージェントのインターンシップ
エンジニア向けプロダクト開発インターン
2023年以降の新卒の方が対象だ。締め切りは2022年6月30日のAM12時だ。ゲームシナリオのインターンなので、ゲームの開発や創作に興味がある人にはお勧めだ。開催は随時で3~5日間程度の短期就業型インターンシップだという。場所は、オンラインまたはAbemaTowersだ。
(出典:サイバーエージェント)
研究者向けリサーチインターン
CyberAgent AI Labでは研究者向けのリサーチインターンをしている。一般学生向けと博士課程向けがある。下の図は後者のインターンだ。リサーチインターンシップ2022では、大学院博士後期課程に在学中の学生のみを対象とし、リサーチサイエンティストとして活躍する現役社員とともに、AI Labが取り組む様々な技術課題に対し、AI技術を用いた実践的かつ高度な研究テーマのもと課題解決に取り組むと言うプログラムだ。これはいい!研究成果は、各学術分野の国際トップカンファレンスへの論文投稿・採択を目指すことも可能だし、採択された場合には会合参加費は全額CAが負担してくれる。素晴らしい。例えば、積極対話領域のCoversational Agentだと次のようなテーマが示されている。これはトライするしかない(笑)
・対話エージェントにおける認識・生成・合成技術の開発
・ヒューマンロボットインタラクションのユーザ体験の向上に関する研究
・日常的に生活を共にする対話ロボットの研究開発
・買い物客の購買意欲を促進するサービスロボットの研究開発
・商品が自分自身を推薦する「自己推薦エージェント」の実践的研究
・既存キャラクタを対話エージェント化するための音声対話システム
(出典:サイバーエージェント)