通信網のタフネスを高める3つの提言と3つの自己防衛手段

5G

はじめに

通信網は高速化への対応と信頼度の向上との戦いでもある。2022年7月2日の未明に発生したauの障害は大規模かつ長時間の障害となった。全国でほぼ回復したと発表したのが発生から62時間経過した7月4日の午後4時だった。7月21日の11時にはマイクロソフトのTeamsが世界規模で使えなくなる障害が発生した。マイクロソフトは、午後2時すぎにサービスの大部分が復旧したと発表した。おかげで11時以降に予定していたTeamsによる会議はことごとく取りやめになった。今日はそんな情報通信網の障害が起きても大丈夫なようにするにはどうすれば良いのかを考えたい。

通信事業者としての責務

ここでは網側の対策として考えられることを3つ示す。アイデアレベルの提言だけど、携帯電話網の大規模障害は10年に一度程度のペースで発生しているため、短期的な改善策だけではなく、中長期的な観点からの対策を着実に進めることが重要なのではないかと思う。

輻輳の未然防止対策

トラヒックの増加が前年度比54%アップが10年間継続すると75倍になる。エリクソンの発表によると、2021年時点でのグローバルでの携帯電話加入者数は、90億になることが予想されている。また、これに伴い発生するトラヒック量はグローバルでモバイルで52EB/月 (160Tbps)、有線で150EB/月(463Tbps)になるという予測だ。つまり、トラヒックは指数関数的に増加する。7月2日の障害は、ルータの定期整備として、ルータを交換するときに異常トラヒックが発生して、その輻輳を抑えるために通信規制をかけたが輻輳が収まらず、さらに規制を拡大した結果、4000万人弱の利用者に多大な影響を与えることになった。そのトリガとなったのが音声だ。第4世代以降のモバイルネットワークでは、音声もデータの一つとして取り扱っている。これをVoLTE(Voice over LTE)と呼んでいる。VoLTEは優先電話の仕組みも実装しているが、大規模な輻輳対策のために広い範囲で規制された。異常トラヒックが発生した場合に通信規制をかけないとインフラがパンクして、大規模なTSD(Total System Down)を誘起する懸念がある。しかし、これを回避するために大規模な通信規制をかけると後半のトラヒックに影響を与える。異常トラヒックを防ぐために大規模規制を行い、大規模規制が異常トラヒックを誘起するという負のスパイラルに陥るとなかなか元に戻ることができない。今回は、異常トラヒックを発生している回路を完全に閉じることによって、トラヒックが安定化した。このような事態を回避するにはどうすれば良いのだろうか。一つのアイデアとしては、連続再発信を規制することだ。つまり、昔のダイヤルアップなら再接続に数十秒はかかった。かけ直す時も少し時間が経過してから行う。しかし、機械的な利用の場合には、どのようにプログラムを実装しているのかによるが、最悪1秒間に数十回という再接続のコールをおこともできる。それが数百台、数千台あれば、一発で異常トラヒックの発生となる。今回の提案は、通信の接続要求を受ける場合にも、連続発進をピンポイントで規制することができれば、異常かつ頻繁な再接続を行いほとんどの利用者は際限を感じることがない。課題はどのように実装するかだ。

(出典:ITU-R)

ダイレクト通信の早期実現

2014年10月1に香港では民主化のための要求デモに数多くの若者が参加した。その時に活用されたのがFireChatと呼ばれるアプリだ。通常のSNSは通信事業者のネットワークを経由して、サーバー経由で他のデバイスとの通信が可能となるが、このFireChatは端末と端末が直接通信する仕組みだ。これをダイレクト通信やD2D通信と呼ぶ。このようなダイレクト通信であれば、通信事業者の網を経由しないので、政府当局でモニターすることが不可能となる。このため、香港の若者はFireChatを活用して中国政府の検査を遅らせて大規模デモに踏み切った。課題は、他人の通信トラヒックを自分の端末経由で処理される可能性を許容するかどうかだ。他人の通信のために自分の端末を使わせたくない人には向かない。お互い様の感覚で、お互いのリソースをシェアリングするという発想が重要だ。

(出典:菅沼研究室

Wi-Fiとのキャリアアグリゲーション

ダイレクト通信を行う場合に、現状ではWi-Fiが候補となるのだろう。モバイル通信の技術進化はほぼ10年ごとに世代が進化する。Wi-Fiでは5−6年ごとに新しい方式が登場している。モバイル通信が4Gから5G、さらに6Gへと世代交代するのと同様にWi-Fi通信も802.11n(WiFi4)から802.11ac(WiFi5)さらに802.11ax(Wifi6)、802.11be(WiFi7)への高度化する。そして、より高速化するために、複数の周波数のチャネルを束ねる(=キャリアアグリゲーション:CA)という技術を用いるが、このCAは実はモバイル通信とWi-Fi通信を束ねることも想定して標準化が進んでいる。これが実現すると、Wi-Fiが不安定なところではモバイル通信のみ、Wi-Fiもモバイル通信も安定するところでは両方を、逆にモバイル通信が不安定でWi-Fiが安定していたらWi-Fiのみで通信することが可能だ。現在は、これをユーザがスマホの設定などで操作するので煩雑だけど、端末がネットワークの状況を把握して、自動で適切かつシームレスに切り替わってくれればユーザのストレスは大きく軽減するだろう。そして、モバイル通信の大規模障害時にもWi-Fiが生き残っていれば、それを有効に活用して影響度を最小限にすることが可能になるはずだ。
(出典:Money DJ)

個人ユーザとしての防御策

通信網の障害はあってはならないし、発生してもすぐに復旧してほしいけど、やはり完全に無くすことは難しい。ユーザとしては、これに対する対抗手段を普段から用意しておくことが望ましい。ここでも3つほどアイデア出ししてみたい。基本はダイバーシティの確保だろう。

デュアルSIMの活用

最近の新しいiPhoneではデュアルSIMに対応している。物理的に2つのSIMを差し込む方法もあるし、一つはeSIMとしてソフト的なSIM設定もあり得る。業務用のSIMと個人用のSIMとか、通常のSIMとプリペイドのSIM、メインのSIMとバックアップのために格安SIMなどの組み合わせが考えられる。常時携帯する端末は一つで済むというメリットがある。

(出典:All About)

複数のサービス活用

今日はTeamsの大規模障害が発生した。テレワークではTeams、オンライン学習ではZOOMという使い分けをすることが多い。業務用でもZOOMを使うこともあれば、Teamsでのセミナーなどもある。それぞれ長短はあるけど、最大の違いはブレイクアウトルームの有無ではないだろうか。小グループでディスカッションをするようなセミナーではZOOMが圧倒的に有利だ。ただ、本当に大事な会議やセミナーに対しては、常に代替手段を用意しておいた方が良いかもしれない。

(出典:Business Insider

複数のデバイス活用

自分はAppleのデバイスが好きなので、iMacからMacbookAir、iPAD、apple Watch、AirPad、AirTagとApple商品に囲まれている。なので、特定のデバイスが故障したり、バッテリーがなくなってもあまり困らないし、特定のデバイスが盗まれたり、紛失したとしてもデータはiCloudで共有しているし、「探す」機能を使えば居場所がすぐにわかる。これは便利だと思う。もちろんAndroid系のデバイスでも同様の機能はあると思うけど、複数のデバイスをシームレスに活用できるのは便利だ。これはかつてのソニーやパナソニックなど日本企業の戦略だったはずだけど、いつの間にか立場が変わってしまっている。いずれにせよ、複数のデバイスを活用して、いつでも代替できるような環境を構築しておきたい。

まとめ

思いつきレベルで通信網側の対策3つと利用者としての防衛手段3つをまとめてみた。参考になる点が少しでもあれば幸いだ。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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