はじめに
海洋エネルギーの利用に関しては以前投稿したが、TED-Edの動画を見ていたら波力発電についての動画が目に止まった。視聴しているうちに関心を持った。海岸線が最も長いのはカナダの20.2万kmで、インドネシア、グリーンランド、ロシア、フィリッピンと続き、日本は6位で約3万kmだ。しかも、日本列島は暖流と寒流の両方が流れ込む。豊かな海洋資源国である日本にとっては、狭い国土にメガソーラをひきつめるよりも、人の多い海岸線での発電効率を高める方法もありそうな気がした。興味のある方はぜひ動画を視聴してみてほしい。
(出典:TED動画)
波パワーの可能性
日本の波パワーは3,600万kW
日本周辺の波パワーの総平均量は3600万kWと言われている。日本を囲む仮想の折れ線の長さ5200kmで除すと約7kW/mとなる(出典)。波パワーは太平洋岸の関東以北や日本海側の北陸・東北沿岸で大きい。波パワーは季節でも変動するし、24時間でも変動する。特に日本海側の波パワーは冬が荒れそうだ。太陽光発電と異なり、波パワーは時間による変動はあって24時間発電可能だ。問題はコストだ。1987年に浮体式波力発電装置海明の研究開発行った時の発電コストは63.2円/kWhだった。その後、さまざまな研究が進み、Wave Energy Technology社によると発電コストは5~7円/kWhまで下がっている。2019年の世界全体の発電において再生可能エネルギーの占める割合は27.3%であり、そのうち水力発電が15.9%,風力5.9%,太陽光2.8%,バイオマス2.2%となっている。波力エネルギーはEUにおいて2018年に500kW設置、2010年から現在までの累積2.9MW設置された(出典:海洋エネルギー研究所)がまだまだ開発途上だ。
日本周辺の波パワー
下の図は、日本の海岸における海岸線距離と波パワーだ。日本周辺の波パワーの平均値は約6kW/mである。波パワーは有義波高の二乗と周期の積に比例する。日本海側は季節変動も大きい。例えば、山形の酒田港では夏季はほぼ0に近い日が続くが、冬期は20kW/mを超える日が多い。有義波(ゆうぎは)とは、ある地点で連続する波を1つずつ観測したとき、波高の高い方から順に全体の1/3の個数の波を選び、これらの波高および周期を平均したものをそれぞれ有義波高、有義波周期と呼ぶ。
(出典:湾岸技研資料)
海洋エネルギーの活用
世界の開発競争
海洋発電は、風力や太陽光よりも天候などの条件に左右されることが少なく、比較的安定して発電できるとされている。海洋発電には、潮力発電や波力発電のほか、海洋温度差発電や海流発電などがある。下の図はNEDOの再生可能エネルギー技術白書からの引用で世界の技術開発件数(2011年)だ。潮流発電の技術開発はイギリス、特にスコットランド北部で熱心に研究が進んでいる。これはスコットランドの周辺海域が欧州全体の聴力の4分の1、波力の10分の1を占めるという地政学的な意味合いもある。二位が米国、三位がカナダ、四位がノルウェイで、日本は五位以下の第二集団だ。
(出典:マイ大阪ガス)
主な波力発電方式
波のエネルギーを利用した発電装置は19世紀ごろから開発が進められてきた。福岡出身の海洋開発技術者の益田善雄(大正14年3月17日生)は、防衛庁技術研究本部勤務をへて昭和51年海洋科学技術センター研究主幹となり、1957年に係留式浮体型波力発電の試験を行い、50Wの発電に成功している。また、1964年(昭和39年)には、航路標識ブイの電源として世界初の波力発電に成功している。波力発電システムには、下の図に示すように、振動水柱型、可動物体型、越波型などがある。
(出典:国土交通省)
ダクト型波力発電方式
下の図は、沖縄科学技術大学院大学が沖縄県内で2018年から実証実験をしているダクト型波力発電方式だ。モルディブでは直径35cmのタービンを備えたハーフサイズ波力発電では1時間当たり約100Wの電力を生み出した。今回設置したものは1時間で平均1kWの電力を目指しているが、漏電や錆などの問題も確認されている。
(出典:琉球新報)
越波型波力発電方式
越波型波力発電も研究開発は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が東海大学海洋学部や民間企業と連携して2013年から2016年まで実証実験を行なったはずだが、その結果はあまり公表されていないようだ。
(出典:日本経済新聞)
可動物体型波力発電方式
船の油圧操舵機の場合には、電気エネルギーで油圧ポンプを動きして、ラダー(舵)を左右に動かす。波力発電所の場合は、これの逆を行う。つまり、波のエネルギーによりラダーを前後に動かし、このパワーで油圧シリンダーの往復運動を促し、そのパワーで発電する。東京大学が開発し、文科省東北復旧プロジェクトとして岩手県久慈市の久慈波力発電所で研究が進んでいる。前述の通り、油圧装置は船舶用の油圧操舵機の技術を応用しているため、構造はシンプルだ。
(出典:平塚海洋エネルギー研究会)
可能性と課題
防波堤との兼用
波の力を活用するため、防波堤や消波ブロックの代替として設置し、さらに発電まで行うことが期待される。発電装置は海中ではなく、陸上に設置できるので、設置や保守が容易となるというメリットや、送電線も陸上の架電設備で対応できるというメリットがある。
(出典:日本エネルギー学会)
離島での発電エネルギー
総務省統計局の日本統計年鑑によれば、日本を構成する島は6,852アある。うち9割以上が無人島で、有人島は300強だ。人が住むには電気が必要なため、小型の火力発電機で発電して対応している例が多いようだが、波力発電が可能となれば、島の電力事情は格段に改善する。また、発電の利用事例が増えれば、コストも低減し、結果的に発電コストも低下すると期待される。
(出典:TriEn+)
台風・嵐への対応
波力発電機が平常時にどれだけ安定して発電できるかと同時に、台風や豪雨、津波などでも耐用性を担保できるかどうかも問題だ。先の波力発電ならラダーを水平に固定するなどで過負荷がかからないような工夫と対策が必要だろう。
まとめ
今回は波力発電について調べてみた。さまざまなトライアルが進んでいることがわかった。特に海中に設備を設置する方式は錆や漏電の問題もありそうだし、その解決も簡単ではないし、コストもかかる。現在、岩手県久邇市で行なっているラダー式の波力発電には期待をしたい。原理的には船のラダーを動かすのではなく、波の力でラダーを動かして、そのパワーで発電するのであれば、船でも発電できるのではないか。太平洋を横断するヨットもゼロエミッションと言えるかもしれないが、必要に応じて発電したり、電力で駆動したりする船なども知恵を絞れば実現するのではないかと期待する。
(出典:海と日本プロジェクト)
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝