GCL情報理工学特別講義IVの5回目:AIと医療。まさにイノベーションの渦中だと感じた。

はじめに

今回は、AIと医療というテーマで国立情報学研究所(NII)の佐藤真一教授の講義を拝聴した。2017年にプロジェクトが始まった時には内視鏡の画像データの分析など二件のテーマだったのが、2020年は38件のタスクに増え、既にテーマ数は40件を超えているという。多分、AIと医療に関してならいくらでも話すネタはありそうな感じだけど、今日はそのエッセンスを話していただいた。なお、いつも記載するが、これは講義ノートではない。講義の中で気になったキーワードをネットや文献で調べて理解した範疇でまとめたものだ。なので、もし問題があればその文責は自分にあり、逆に分かりやすいとすれば佐藤教授のおかげだ。

佐藤真一教授

東京大学工学部を1987年に卒業し、同大学大学院工学系研究科の博士課程を1992年に終了して工学博士となる。その後、学術情報センターに勤め、1998年には助教授、2000年には国立情報学研究所の助教授、2004年には教授に就任し、現在に至る。1995年から1997年までは米国カーネギーメロン大客員研究員として映像ディジタルライブラリの研究に従事された。米国でもさまざまな経験をされたのだろう。AIの危うさも不完全さも理解した上で、AIの将来の可能性を信じる明るさを感じた。

(出典:HBR

AIと医療

日本情報学研究所(NII:National Institute of Informatics)は、日本の大学共同利用機関である。学術情報センター(NACSIS:National Center for Science Information Systems)を前身とする組織で2000年に一ツ橋に設置された。一方、NIIは他の学会とともに日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発事業に取り組んでいて、そのために2017年11月1日に設立された組織が医療ビッグデータ研究センター(RCMB:Research Center for Medical Bigdata)だ。ここでは、全国の学会・医療機関から大量の医療画像データを収集し、機械学習のための計算資源を利用して迅速な医療AIの研究開発を行っている。佐藤真一教授は、RCMBの副センター長も務められている。下の写真はRCMBのNIIメンバーだ。なんだか楽しそうだ。
(出典:RCMB)

深層学習

深層学習については、これまでもさまざまな教授陣からの講義を拝聴した。特に、このGCL特別講座IVでは第二回の原田教授による講義が詳しく、その1その2その3に投稿した。また、説明可能なAI(XAI)についても別に投稿したので、ここでは詳しい説明は割愛する。

(出典:BRIDGE

SINET6

佐藤教授が、全国の大学や研究機関を接続するSINET(Science Information NETwork)の話の時に、なんだか誇らしげで楽しそうだった。やはり工学博士だなあと思った。SINETとは、NIIが提供・運用する学術情報ネットワークのことだ。2016年4月に運用を始めたSINET5を964機関が利用している。全ての都道府県にSINET DC(データセンター)を設置し、その間を100Gbps回線で接続している。2019年12月には東京−大阪間を400Gbpsに増強し、さらに全国のネットワークを400Gbpsに増速し、オランダ、米国、シンガポールなどの海外とも100Gbps超で接続するのが2022年4月に運用開始したSINET6だ。2021年10月時点でクラウド基盤で取り扱いっている画像データは2.8億枚を超えている。今では3億枚を超えていうという。その多くはCTスキャンのデータだ。

(出典:business.network

40を超えるタスク

NIIでは、全国の大学や研究機関とネットワークで接続されている。特に画像解析のタスクでは、東京大学、名古屋大学、九州大学、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)、中京大学、名城大学、名高大学、NIIなどとのタスクが並行して走っている。CTスキャン画像や超音波画像、MRI画像、内視鏡からの画像などの画像データをAI機能を活用して分析することで成果を多くの上げている。

(出典:NII

GAN(敵対的生成ネットワーク)

GANとは、敵対的生成ネットワーク(Generative adversarial networks)の略だ。医療データの場合に、健常者からのデータは大量にあるが、疾患者のデータはその100分の1もなかったりする。このため、疾患データから特徴点を抽出し、疾患者のデータのような画像データを生成する技術だ。例えば、MRIによる脳腫瘍検出において、リアルな脳と疾患の画像を生成し、学習データを増やすことで精度が向上した。具体的には2,813画像では83%だったが、GANで4000画像を追加することで91%まで改善した。また、眼底画像解析においても、学習データ量を2-3倍に増やすのと同等の効果を達成している。これは、AIの判定根拠を眼科医に提示し、その根拠があっているかどうかのフィードバックをAIに与えるという手法によるものだ。
(出典:iMagazine

COVID-19への対応

2020年に始まったCOVID-19では、5月29日に感染者22名が確認された。通常だと倫理承認に一年程度の時間を要するけど、データ処理の枠組みができていることもあり、4月9日に倫理申請を行い、4月24日には倫理承認が降りて、すぐにデータ収集などを行うことができた。特にCOVID-19に感染と肺炎などの炎症領域の関係を調べた研究がある。PCR検査が陽性か陰性かとの関係では有為な差は出なかったが、専門医のラベル付けで80%ほどの精度が出たと言う。

オプトアウト

オプトインとは、許可した顧客にだけメールを配信できるような仕組みだ。逆に、許可なく配信し、拒否した顧客には配信を止める仕組みをオプトアウトと言う。Googleのストリートビューは、オプトアウトの典型例だ。写真を掲載したくないと拒否の意志を示せば、当該画像は削除される仕組みになっている。ある学生から「肺炎などのデータベースは公開されているのか」と言う質問があった。本プロジェクトのデータは一切公開はしていないし、公開できないという決まりが徹底されている。
(出典:リコー

海外連携

自分は、「ベテランのノウハウをAI処理に移植することで、経験の少ない若手の医師もベテランと同等程度の診断が可能となるということと理解しました。海外との連携等の話はあるのでしょうか?」と質問した。イギリスなど海外の研究機関と連携の可能性を探ったことはあるが、やはり個人データは厳重な取り扱いを求められるため現時点ではまだ連携はされていない。しかし、研究成果の論文発表などはしているので、研究ベースの個別の連携は進んでいるようだ。

均霑(きんてん)化問題

また、自分からは、「AIによる診断水準が向上すると、大学病院と町医者の実力が乖離するように思いますが、それ以上に町医者のレベルアップと大学病院の専門性がさらに高まると期待すべきでしょうか?」と言う質問をした。これは医療分野では均霑(てん)化の問題と言われている。均てん化とは何かというと、Weblioには次のような説明が記載されていた。

主に医療政策の分野で用いられる語で、医療サービスなどの地域格差などをなくし、全国どこでも等しく高度な医療をうけることができるようにすることを指す語。「均霑」は、誰もが等しく利益を享受できることを意味する。特にがん医療に関して、地域によるがん医療の水準の偏りが生じないようにする取り組みを「がん医療の水準の均てん化」などと表現することが多い。がん医療の水準の均てん化を図る取り組みの一つとして、厚生労働省による「がん診療連携拠点病院」の指定事業などがある。
(出典:10mTV

説明可能なAIへの期待

医師や経営者、政治家は重大な意思決定を強いられ、さらにその理由や背景の説明を求められる。しかし、現在のAIは複雑な問題に対して最適解を示してくれるけど、なぜそれが最適解なのかの説明がない。このため、説明責任を求められるケースでは使いにくい。そのため、最近では説明可能なAIの研究が進んでいてこれをXAI(ザイ)と読んでいる。XAIの研究が進めば、医療の分野でもAIの活用はさらに進むのではないだろうか。また、将棋の世界の藤井聡太のように、医療系のAIやXAIを有効に活用してさらに成果を出すような医師も育つかもしれない。

(出典:日経XTECH

まとめ

今回の講義はAIと医療だった。医療系の知識が豊富なので佐藤教授は医療系のキャリアもあるのかと思ったけど、経歴を見ると純然たる工学博士だった。医は仁術であって欲しいけど、プロの仕事として従事する以上は、正当な報酬を求めるだろうし、薬品会社との関係も深い。AIが発達して、大学病院では高度な治療、町医者では迅速で的確な治療が可能になれば患者はハッピーだし、それを目指したい。しかし、実際の利用拡大や有効活用に向けては、患者に加えて、医者、病院関係者、医薬品会社、政治家にもメリットがある仕組みにしないとうまくは回らないような気がするが考えすぎだろうか。

医は仁ならざるの術,務めて仁をなさんと欲す。これは,江戸時代の中津藩藩医,大江雲澤の言葉であり,その意味は,「医を仁術たらしめるためには,文献のみならず,自らの経験と先輩や同僚の意見,なによりも患者から学ぶ謙虚さが必要であると考える」である。この言葉は,現代の医療人の心にも響く言葉といえる。医療行為を行う者は,その医療が患者に病気を良くする治療を受けさせようとした行為であったとしても,結果が悪ければ,患者にはそうとはとらえられないということを認識すべきと考える。

以上

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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