次回の投稿はじめに
敬愛する米倉教授が今度はヤマトホールディングスの山内会長を招聘された。前回11月30日のロッテホールディングスの玉塚社長へのプレゼンに続く大物経営者だ。今回も学生3チームからの提案と山内会長からの講演だったが、その前に、ヤマト運輸を中心に宅配便業界の動向について軽くおさらいしておきたい。学生からのプレゼンと会長からの講演の骨子はその2で投稿したい。
その1:宅配便業界の動向(⇨ 今回の投稿)
その2:学生からのプレゼンと山内会長の講演(次回の投稿)
ヤマトホールディングス株式会社山内会長
日本における宅配便サービスを初めて提供したのが1976年のヤマト運輸だ。その起源は、1919年(大正8年)11月29日に設立された大和運輸株式会社(当時)の創立に遡る。関東地区でまず宅配便サービスを提供したときも、運輸省(当時)が事業をなかなか認可してくれず、行政訴訟なども辞さずに不退転の覚悟で事業を切り開いた。信念の会社である。山内会長は、1961年生まれの60歳だ。長野で生まれ、長野で育ち、金沢大学を卒業して1984年にヤマト運輸に入社した生え抜きだ。現場で鍛えられ、ヤマトホームコンビニエンスを立ち上げ、ヤマトロジステティクスの社長などを経て、大和運輸の社長からホールディングスの社長を歴任して、2019年からはヤマトホールディングスの取締役会長だ。本質を抑え、フランクな雰囲気だけど、率直に話される姿勢に人格を感じる素晴らしい経営者だ。
(出典:週刊東洋経済Plus)
宅急便の取り扱い個数の推移
宅配便サービスは1976年1月に始まった。その後は、数々の試練に遭遇しながらも着実に取り扱い個数を伸ばした。電話一本で荷物を取りに来てくれて、翌日には配達されるというサービスはお客様に歓迎された。一般用語は宅配便だけど、ヤマト運輸は、「お宅に急いでお届けするサービス」という意味が込められて「宅急便」と呼んでいる。お客さまからのニーズに基づいてスキー宅急便や、ゴルフ宅急便、クール宅急便などのさまざまなサービスを開拓し、提供してきた。しかし、そんな宅急便の取り扱い個数も20億個の壁の前に少し足踏みをしている。
(出典:ヤマトホールディングス)
宅配便市場シェア
宅配便の国内シェアにおいて、ヤマト運輸の宅急便は全体の42%を占めている。2位は佐川急便で29.3%だ。3位日本郵便の22.7%で、ここまでで全体の94%を占めている。宅配便市場の中ではヤマト運輸はまさにリーディングカンパニーであると言える。
(出典:ヤマトホールディングス)
配送大手3社の平均単価の推移
ヤマト運輸と佐川急便、日本郵便の3社の平均単価の推移を下の図に示す。2010年時点のヤマト運輸の平均単価は624円と、佐川急便は483円に比べて1.29倍であった。しかし、佐川急便がアマゾンの配送から撤退し、平均単価をV字回復させ、2018年には548円まで回復した。2013年ごろから顕在化した配達員の人手不足問題に対応するため、宅配便の配達員の労働環境や待遇の改善を進め、2020年には平均単価をヤマト運輸が720円、佐川急便が636円まで増加する見込みだ。
(出典:impress)
佐川とヤマトの売上高営業利益率の推移
宅配便の取り扱い個数では、先に述べたようにヤマト運輸が全体の42%を占めるなど、佐川急便などの他社を圧倒するが、2021年予想ではあるが、利益では佐川急便が970億円とヤマト運輸の680億円を上回っている。売上高営業利益率でも、2013年まではヤマト運輸の方が佐川急便よりも高かったが、2014年に逆転し、2017年にはヤマト運輸の利益率が急激に低下している。これは、2016年11月にヤマト運輸が労働基準監督署から未払い残業代に関する是正勧告を受けるなど、セールスドライバーの過重労働の問題が発覚した。また、自社の宅配ドライバーでは対応しきれず、一部の宅配業務を外注したことで営業利益が急激に低下した。その後、一部料金の値上げや、大口顧客との料金交渉を進めて、利益率は改善傾向にある。宅配便事業が個宅から個宅へのサービスからAMAZONなどのB2Cサービスの台頭が著しく、再配達の問題やより効率的な配送、荷渡し方法の多様化や効率化への対応が待ったなしの状況となった。
(出典:ITMedia)
山内会長の経営スタンス
山内会長は、BtoC-EC市場の急増や荷渡しの多様化、ユーザニーズへのさらなる対応などを着実に実行し、ネコサポステーションの展開や羽田クロノゲートの展開、ドローンによる配送実験などを矢継ぎ早に展開されている。そんな山内会長の経営のスタンスは、下の図に示すように「変わるべかざるもの」と「変えるべきもの」のバランスをとることだと何度も力説された。そもそも経営とは紀元前8世紀に周の国の詩人が謳った「経之営之」が語源と言われている。「これを経しこれを営す」と読む。祭壇を築く時の言葉だった。土木工事の時にまず杭を立てるがそのような行為が経である。工事を始める前に外枠を決めるがそれが営だ。つまり、経は、縦糸であり、道理を示し、変えてはいけないもの。営は横糸であり、時代の変化に合わせて変えていくものという考えだ。山内会長の信念と全く同じだ意味だ。
(出典:講演資料より)
まとめ
学生からの提案や山内会長からの講演のポイントは次回に回すが、宅配業を始めたヤマト運輸は、量の変化から質の変化への対応を求められている。個宅から個宅への配送からAMAZONなどのECによる配達への対応、少子高齢化、過疎化への対応、労働力不足などへの対応は待ったなしだ。これに対しては、やはり自動化の推進、人と人のふれあいを大事にするという理念の共有と実行の両方を進める必要があると力説された。ヤマト運輸はものを運ぶサービスを通じて人に思いや気持ちやふれあいを届けるサービスを行っているという自負と意識を全社員が共有して、全ての社員が自律的に活動するようにすることこそが自分の仕事だと言われていた。もう、共感しかない。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございます。
拝