はじめに
その1では電力のためのエネルギー確保が可能か、その2では各発電方式の環境への影響を考えてきた。今回は、その3として、環境への影響を軽減するための方策はどのようなものがあるのかを深堀したい。
その1. 人類は必要なエネルギーを将来にわたって確保できるのか。
その2.多様な発電方式での環境への影響を考える。どの方式でも環境への影響はある。
その3. 各発電方式で環境に与える影響は軽減可能か。
その4. 将来の望ましいエネルギー活用への3つの方向性
火力発電方式での環境への影響とその軽減策
環境への影響のうちに特に温暖化の原因とされるCO2に対する対策を中心に解説する。
CCS(CO2回収・貯蔵)
構想
CO2の排出量を抑制することに加えて、発生したCO2を分離して地中深くに貯蔵するというアイデアだ。下の図は1993年に小井仁(当時早稲田大学教授)が提唱した構想だ(参考1)。
CCSへの期待
IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)において示された予測だ(参考2)。CO2の大気放散を削減するにはCCSへの期待感が最も高い。
CCSの原理
CO2を地下に貯蔵するには、地表から1000m以上の深さの貯蔵層と地上にガスが漏れないための遮蔽層と呼ばれる地層が必要だ(参考2)。
CCSの課題
CO2を安全確実に地中に貯蔵するには、次のような条件を満たす必要がある。これはI2CNER(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)における九州大学の辻さんの検討資料(参考3)より抜粋したものである。
日本におけるCCSの候補地
RITE(公益財団法人地球環境産業技術研究機構)による調査結果として、国内の候補地を次のように示している(参考4)。
苫小牧での実証実験
国内では、CCSの実証実験として、下の図のように2012年から準備を進めている(参考5)。また、2016年4月から2017年8月で約6.9万トンのCO2を圧入した。2018年まで年間10万トン以上のCO2を圧入する予定だ。2019年11月22日までで30万トンの実績を達成している。
海外におけるCCSの取り組み
CCSは海外においても研究が進められている。下の図は欧州を中心にした研究事例だ(参考6)。
CCU(CO2利用)
CO2を貯蔵するだけではなく、分離したCO2を再利用するアイデアだ。具体的には、EOR(石油増進回収)や炭酸飲料への活用、農業への利用だ。下の図は、経済産業省資源エネルギー庁の資料からの抜粋だ(参考7)。
CCSU(CO2の回収・貯蔵・利用)
CCSとCCUを包含してCCSUと呼ぶ。矢野経済研究所の推計では下の図のようにCCSUの世界規模を、2030年には1,040Mt-CO2/年、2050年には4590Mt-CO2/年に立ち上がると予想している(参考8)。
原子力発電方式での環境への影響とその軽減策
福島第一原子力発電所
下の図は電気事業連合会のホームページの「再稼働は大丈夫?原子力発電所の安全対策のいま」に掲載されていた資料の抜粋だ(参考9)。東日本大震災の被害のうち地震で起きたのは外部電源の喪失のみであり、他の被害は津波によるものであることが示されている。
安全確保のための対策
同ホームページ(参考9)では、原子力発電所の安全対策について実施したことと、今後実施することを整理して示している。過去の事例に基づいて対策を講じることは当然であるが、問題は想定外の事態の発生の可能性はゼロとは言えないこと。そして、想定外の事態が発生した場合の影響が広範囲かつ深刻かつ超長期に渡るという点が問題である。今後の原子力発電所の再稼働は、これらを慎重に検討して対応方法を検討することが必要だ。
水力発電方式での環境への影響とその軽減策
環境への影響の傾向
下の表は、経済産業省資源エネルギー庁が平成16年3月に発行した「水力発電環境保全対策ガイドブック」からの抜粋であり、昭和61年から平成13年までに報告された環境保全措置の事例である。環境要素として特に多いのは自然景観であり、全体の約32%である。一方、設備で多いのは取水ダムであり、全体の29%である。セグメントで多いのは、取水ダムへの動物被害の64件、水圧管路の景観41件、発電所の水質39件でこれら上位3項目で全体の約45%をしめている。
環境への影響の軽減策
・取水ダムへの動物被害:魚類の遡上水路の確保が対策となる。
・水圧管路の景観:管路の緑化による法面保護が斜面対策となる。
・発電所の水質:発電所の油流出防止と取水設備の濁水低減が対策となる。
小出力水力発電のメリットと課題
マイクロ水力発電のメリットと課題
マイクロ水力発電のメリットは下の図のように導入が比較的簡単で設備効率が高いことだ一方、課題は、河川法に基づく人が必要なことや、メンテナンスが必要なことだ。
発電コストの比較
水力発電と他の発電方式の発電コストを比較すると、試算の前提条件によって数値は変わるが、水力発電のコストは比較的低廉である(参考10)。
発電効率とCO2排出量の比較
水力発電は自然の河川のエネルギーを活用するのでCO2の排出が少なく、エネルギー効率も高い(参考11)。
マイクロ水力発電の可能性
例えば、富山県では、二上浄化センターの下水処理水を活用して発電する方式にトライした。最大出力は10kWで年間発電量は8万kWhにも達するという。浄水場からの水なので水利権を取得する必要がないのもメリットだ。このようにアイデア次第で発電できるのがマイクロ水力発電だ。
3.4 風力発電方式での環境への影響とその軽減策
風力発電の環境への影響は、低周波音・騒音、バードストラキング、景観の3つである。それぞれの対策イメージを下に示す。低周波音騒音に関しては、特に出力の大きいもので苦情が強いので、騒音レベルを例えば45dB以下に抑えるなど数値を可視化して、心理的な不安を解消する努力も必要である。鳥の保護については、営巣地や渡り鳥のルートを回避するような事前のサーベイは重要だ。最後の景観に関しては、客観的な評価尺度が必要だが、自然公園や住宅地の近傍を避ける配慮は必要だろう(参考12)。
太陽光発電方式での環境への影響とその軽減策
太陽光発電の最大の弊害は20年間の利益が担保された金融商品として太陽光パネルを設置し、結果として、景観に影響を与えることや貴重な森林が安易に伐採されることだろう。景観の影響は近隣の別荘地の価値が下落するというケースもある。設置も安易な場合には台風等での被害が懸念される。何らかの適切なガイドラインが必要だろう。善意でグリーンファンドに投資したのに太陽光パネルの設置が目的化して、結果的に自然の破壊が拡大したのでは本末転倒である(参考13)。
まとめ
発電は、どのような方式であれ、環境への影響を伴う。それらを如何に軽減するかは、発電方式によって異なる。環境保護のためにグリーンファンドに投資した結果、環境破壊が促進されるのは悲しい問題だ。一方、人間の生活に水は必要であり、その水のエネルギーを電力に変換するマイクロ水力発電は面白い。メンテナンスの問題があり、かつ個々の容量は小さくが、その設置数が増えれば、大きな電力をまかなることが可能ではないだろうか。エネルギー問題を解決するには、幅広く技術や社会動向に関心を持ち、可能な工夫や改善を繰り返す必要があると感じた。
以上