はじめに
前回は可愛い犬の起源や歴史などを振り返った。今回は、動物愛護法の改正により、2022年6月より、マイクロチップ(AIPO)装着の義務化される。ただし、義務化されるのは犬猫の繁殖業者であり、それ以外は努力義務となっている。今回は、そんなAIPOのメリットと課題について考えたい。
前回:犬の起源、犬の歴史、ペットの動向(昨日の投稿)
今回:ペットの未来、AIPOのメリットと課題
マイクロチップで安全安心
日本愛玩動物協会
ペットの愛好者は増えている。日本愛玩動物協会は昭和54年に人と動物とが共生する社会の実現を目的として設立された。最近では、愛玩動物飼養管理士の認定を進めており、すでに認定登録者20万名を達成している。また、愛玩動物飼養管理士のマイページ開設なども行なっている。愛玩動物飼養管理士には準2級と2級と1級がある。ランクは分かれているが、この資格はペットを正しく育てるための知識を得ることをゴールにしている。資格を取得することが目的ではなく、「ペット飼育のスペシャリストを目指す」人を応援し、推進していると言える。
(出典:日本資格取得支援)
マイクロチップAIPO
動物の愛護及び管理に関する法律(以下、「動物愛護法」)は、昭和48年10月に施行され、動物の虐待等の防止について定めた法律である。動物愛護法の2013年(平成25年)の改正法では飼い主はペットが死ぬまで飼い続ける責務がある事などが盛り込まれた。また、2019年(令和元年)の改正では、犬や猫に所有者の情報を記録したマイクロチップ装着を義務付ける事などが決まった。動物の皮膚の下に埋め込むマイクロチップは、パッシブRFID技術を使用しており、長さ11〜13 mm、直径2mmの大きさだ。犬や猫の場合には、背中正中線の肩甲骨の間の首の後ろの皮膚の下に挿入される。挿入した場所を触ると皮膚の下に微かに存在を感じられる。マイクロチップは獣医などが埋め込む。チップが挿入されていないことを確認の上、チップをシリンジで注入する。パッシブ型RFIDなので電源は不要であり、特定の周波数に応答する設計だ。
(出典:NITTOKU)
マイクロチップ登録数の推移
犬に装着したマイクロチップは、2006年12月では3.6万匹程度だったが、2010年9月には319.7万匹まで増加している。一般の飼い主は泥区義務だが、2021年6月からブリーダーにはペットに装着することが義務化される。
(出典:ANICE)
マイクロチップの課題と展望
課題1:マイクロチップの方式の統一
マイクロチップの方式は複数の方式が認められている。ほとんどの国では、チップとスキャナーの互換性を促進するための国際規格に準拠しているが、米国では国際標準規格に加えて3種類の独自チップが競合している。代表的な国際規格は、ISO準拠の全二重タイプだ。国際標準のISO 11784およびISO 11785に準拠した2つのチッププロトコルタイプだ。3桁の国コードには、国際的なマルチベンダーに対応するため、ISOの国コードや900から998までのメーカーコードに加えて、識別用のシリアル番号を割り当てることができる。飼い主のプライバシー保護のため、各レジストリのデータベースに登録されている飼い主の情報は表示されません。代わりに、迷子のペットをスキャンしてマイクロチップの番号を特定した場合に、どのレジストリに連絡すべきかが表示されます。ただし、すべてのマイクロチップ登録会社がこのツールに参加しているわけではないので、Avid Identification System Inc.の重要なデータバンクが欠落しています(参考)。
課題2:動物への有害事象
RFIDを犬やネクの体内に挿入して大丈夫なのか。1990年代の実験用マウスやラットに挿入した研究で埋め込み部位に腫瘍が発生したと報告されている(参考)。英国では、2015年2月に有害事象報告が義務化された。2016年4月に犬へのマイクロチップ埋め込みが義務化された。マイクロチップ埋込みによる重篤な合併症の発生は100万匹に一匹程度と副作用のリスクは低いが、感染症、拒絶反応、腫瘤・腫瘍形成、死亡などがあげられている(参考)。
課題3:マイクロチップの脱落や神経障害の懸念
子犬や子ねこにマイクロチップを挿入しようとしても、体が小さく、動きも活発なため、チップが皮下で固着する前に脱落することがある。しかし、深く無理に入れようとして、筋肉や頸椎近傍の神経にあたる事故が起きてしまう懸念がある。来年6月からは毎年数十万匹単位の子犬や子猫にチップの装着を行う必要がある。首輪をつけたこともないような人慣れしていない犬猫に獣医師は安全、確実に装着できるのだろうか(参考)。
課題4:マイクロチップの所有権問題
ペットに挿入されたマイクロチップの情報はリーダがあれば読み取ることができる。その情報から飼い主のプライバシー情報を取得することができるのではないか。また、ペットに挿入したマイクロチップの所有権情報の帰属先が獣医やブリーダーなどペットの所有者ではない場合において、獣医師は、顧客の許可なくペットに関する情報を開示することは一般的に禁止されている。このため、獣医師がマイクロチップを装着した動物の手術を行う場合には、チップを登録した人の許可を得る必要がある。マイクロチップを装着した動物が捨てられたり、盗まれたりすると、問題はさらに複雑になる(参考)。
課題5:登録データの更新
マイクロチップに登録された内容が更新されていないと正しく対応できない。例えば、飼い主が引っ越ししたり、電話番号やメールアドレスが変更となった場合には注意が必要だ。誤った古い情報を持つ迷子の動物は引き取り手がなく、シェルターと処分される懸念がある。飼い主に対しては、電子メール等により定期的にリマインダーを行うことが有効だが、飼い主の個人情報の漏洩が起きないような配慮と対応が必要だ(参考)。
まとめ
コロナ禍での有名なフェイクニュースの一つは、ワクチン接種するとマイクロチップを体内に挿入されるというものだ。現在使われているマイクロチップを注射で挿入することはできないが、犬や猫などのペットには来年6月より義務化される。人体にマイクロチップを挿入することは倫理的な問題も含めて課題が多いが、技術的な問題は解決していくだろう。問題は、マイクロチップを人体に埋め込むことにコンセンサスが得られるのかどうかだ。しかし、現在のコロナ禍におけるワクチン接種の状況を見ると、世論の動向次第で変わるのだろうと懸念してしまう。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝
参考:犬の起源、ペット市場