はじめに
2021年7月20日の日経新聞朝刊のタイトルが気になった。「中国中車、時速600kmのリニア完成、JR東海に肉薄」とあった。このタイトルは嘘は書いていないが、本当でもない。1面の記事でもないので、話半分だろうと思って調べてみた。
中国で時速600kmで走行できるはずのリニアモーターカー完成
記事では、JR東海が記録している最高時速603kmを記録していて、これに迫る形になるとあった。この記述を普通に読めば、中国で頑張って開発したリニアモーターカーが時速600kmで走行したものと多くの人は勘違いするのではないだろうか。翌日のNHKニュースでは、「中国の大手鉄道車両メーカー「中国中車」は20日、山東省青島で設計速度が時速600キロだとするリニアモーターカーを公開しました。」とあった。つまり、時速600kmでの走行実験に成功したのではなく、設計速度が時速600kmのリニアモーターカーを開発したと言うことだった。調べると2019年5月23日に「リニア試作車がラインオフ」とあった。二年前は試作車であり、今回が商用車と言うことなのだろうか。実際に時速600kmで試験走行する時期も不明だった。中国が着実にリニアの技術開発を進めていることは事実だけど、もう少し正確に伝えて欲しいと思った。なお、広東省によると広州と北京、香港、マカオを結ぶ路線と、深圳、広州、上海を結ぶ路線を検討しているようだ(出典:東洋経済)。
(出典:日経新聞)
時速1,000km超で走行する超高速リニアモーターカー
中国山西省では、時速1,000km以上で走行する超高速リニアモーターカー「高速飛車」の実験線の建設が始まったと言う。2021年5月より山西省大同市に実物大の2kmの実験線を建設し、2025年までに実験を重ね5km、15kmと延伸する計画だ。真空に近いチューブ内の飛行なので、秒速300m(時速1,080km)まで加速可能という。同様のコンセプトで米テスラはハイパーループ構想を提案している。
(出典:東洋経済オンライン)
時速430kmから時速300kmに減速する上海リニア
中国のリニアモーターカーといえば、浦東国際空港と上海市街地の間の約30キロを結ぶトランスラピッドは、2001年3月に建設を開始し、2002年に開業し、2004年1月より商業運行を開始している。2015年10月には最高商業運転速度として時速431kmを達成したが、2020年5月以降は時速300kmに減速している。減速の理由は公表されていない。当初は上海から杭州までの約200kmを延伸する計画があり、政府も2006年には政府も承認していたが、予定路線の沿線住民から反対があり、計画は頓挫している。住民からは磁場の発生や低周波による人体への影響があると訴えたようだ。
(出典:東洋経済オンライン)
東京とロンドンを39分で結ぶ
これは事業の話ではなく、理論の話だ。サイクロイド曲線をご存知でしょうか?ある地点Aからある地点Bに移動する場合に最速で到達できる曲線だ。その地点Aを東京、地点Bをロンドンとして、これを最速降下曲線でできたトンネルで接続し、トンネル中の空気抵抗や摩擦抵抗がゼロとして、重力だけで移動するとどうなるかと計算するとわずか39分で到着すると言う。地球の内部深くまでトンネルを掘り進むことは現実的ではないけど。停車駅は地上100mぐらいのところに設置して、駅と駅の間をサイクロイド曲線で結べば、ほぼエネルギーゼロで移動し、加速し、減速し、停車する。まるでジェットコースターに乗っているようなもので、人間は疲れるけど、物流には応用できそうな気がする。
(出典:物理のかぎしっぽ)
最短より最速
メジャーリーガの大谷翔平がホームランダービーに出場した後から少し調子を乱しているが、それでもホームラン本数35本はすごい。野球のバッティングを論じるほど野球に詳しくないけど、最短のスウィングから最速のスウェイングの有効性は議論されているようだ。この最速とは先のサイクロイド曲線だ。ゴルフでも最短距離を狙うとアウトサイドイン軌道で、フェースが被ってひっかけになるか、フェースを開いてスライスとなる。あるべきはサイクロイド曲線のように、最初は重力の力を活用してハーフウェイダウンしながら左足に重心を置き、股関節を切って身体を回転する力でクラブに推進力を与えるようなスウイングだろう。
(出典:スポチューバー)
まとめ
リニア中央新幹線が完遂するには課題が多い(参考)。静岡県が指摘するような水資源の問題だけではなく、建設時に生じた土砂問題や運行開始後の電力問題、騒音や磁気の問題などだ。中国は、その点一党独裁なので突き進むのかと思うと上海のリニアを延長させるのではなく、中国の国産技術を活用した新しいリニアでの拡張を目指しているようだ。うまくいくのだろうか。中国は日本と異なり、広大な平野が強みだけど、「50m水没した場合の中国・韓国・日本」でも示したように、温暖化で海面が上昇した時には特に中国が甚大な影響を受けることがわかっている。リニアなどの基幹鉄道網を整備する時には、海進による水没災害を想定した対応策を検討しておかないと、全てが水没するのではと懸念するが、心配のし過ぎだろうか。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝