GCL情報理工学特別講義Iの第10回:NHKが考えるデジタル戦略(その1)

はじめに

東京大学大学院のGCL「メディアコンテンツ特別講義」の最終講義はNHK放送総局特別主幹の草場武彦さんたちによる「ネットの情報空間の中での公共メディアの取り組み」をテーマにするものだった。前回に続いて、今回もリアルとネットのハイブリッドでの講義となった。自分は、明日のゴルフが急遽中止となったこともあり、リアルで参加することにした。安倍元首相が11:32に襲撃され、17:03に亡くなるという大変な事態の中ではあったが、無事に講義は完了した。なお、いつも書いているけど、これは講義メモではない。講義の中で気になったことをネットや文献で調べて理解したことや感じたことをまとめたものだ。なので、もし内容に問題があるとすればその文責は自分にあるのでその点はご理解頂きたい。

その1:草場さんによるテレビの現状と課題(⇨ この投稿)
その2:宝木さんと鵜殿さんによるサービスと社会課題(次回の投稿

NHK

メディアコンテンツ特別講義の最終講義がNHKというのは象徴的な巡り合わせだ。NHKの沿革を確認すると、1923年(大正12年)12月20日に放送用私設無線電話規則が公布され、翌1924年(大正13年)11月29日に社団法人東京放送局が設立し、翌1925年(大正14年)3月1日よりラジオの試験送信を開始している。1923年(大正12年)9月1日11:58に関東大震災が発生し、被災者340万人を超える大災害となった。講義の中で草場講師より、「この災害からの復旧がNHK設立の出発点だった。」と言う話があり、そうだったのかと初めて知った。なお、NHKがテレビ本放送を東京地区で開始したのは1953年2月1日だ。国産メーカーの頑張りもあり、日本初の地上波テレビ放送が開始した。NHKがカラー放送を開始したのは1956年(昭和31年)12月だ。自分が生まれた昭和32年に新し物好きの父親がテレビを購入した。町内でも珍しかったようで町内の人がテレビを見に我が家に来ていたのを幼いながら覚えている。

テレビの現状と課題

今回は3名の講師によるリレー方式だ。まず最初の講師は放送総局特別主幹の草場武彦さんだった。

講師の紹介

今回の3名のゲスト講師のトップはNHK放送総局特別主幹の草場武彦さんだ。佐賀県有田町に生まれ、神戸放送局、東京社会部、ロンドン特派員などを経験し、インターネットサービスの編集長・責任者を歴任された。NHKのデジタル化を推進された立役者と言える。
(出典:Twilog)

テレビ視聴の推移

講義の中では下の図のようなテレビの年代別視聴率の推移について説明があった。調べてみると、2020年のテレビの視聴率は79%だった。これは2015年の85%に比べて6ポイントの減少だった。この減少傾向は10代、20代の若い年代で特に顕著だ。ネットサービスの浸透に伴って、ニュースはネットの方が早い、音楽はネットで自由に聴ける。見たい映像もYouTubeで検索できる。この傾向には現代人の忙しさが背景にある。昭和の時代には、テレビを何時間も見続けたりした。ドラマも面白かったし、大河ドラマなどにも興奮した。紅白歌合戦も大晦日を象徴する一大イベントだった。しかし、近年は少し時間に余裕があればYouTubeを楽しむし、数分のデッドタイムがあればTikTokを楽しむ。テレビはと言うと、興味のある番組を録画して、倍速もしくは飛ばしながら流し見する程度だ。

(出典:NHK放送文化研究所

テレビメディア広告費とデジタル広告費

講義の中で「デジタル広告費が2019年に初めてテレビメディア広告費を抜き、日本の広告費全体(約6.2兆円)の36%を占めるまでに成長」したと説明があった。調べてみると下のような広告費の推移が見つかった。テレビのNHKは主に受信料で経営しているので、広告費は直接的には関係しないはずだが、この流れは止まれないだろう。しかし、これは嘆くことではない。今後、NHKも民放もいかにネットを活用するかを検討して、推進すれば追い風にもなるはずだ。まさにピンチはチャンスだとも言えるのではないだろうか。

(出典:メディアレーダー

動画ライブラリー

NHKでは、デジタル化の一環として、動画ライブラリーを提供している。講義の中でも「様々な分野でネットサービスを展開」していることや、多彩なNHKの公式アプリについて紹介があった。調べてみると、NHKクリエイティブ・ライブラリーでは約7,000本の素材を提供していて、不定期に増やしている。調べてみると魅力的なコンテンツも多い。これはぜひ活用したい。ただし、利用にあたっては、次の4つのルールを遵守することが求められている。
ルール①:ダウンロードした映像や音声を売ってはいけません。宣伝目的に使ってはいけません。
ルール②:出典を表示する。または、「NHK CREATIVE LIBLARY」のロゴマークを残す。
ルール③:作品を作った人や関係者を含めて、誹謗中傷しない。
ルール④:利用のルールのURLを作品に表示する。利用規約を遵守する。

(出典:IT Media

YouTube公式アカウント

NHKでは、YouTube公式アカウントを数多く提供されていると説明があった。調べてみると、YouTubeに「NHK番組コレクション」を2010年6月に開設された。「NHK特集」など200本以上の番組を無料で閲覧可能としたものだ。NHKオンデマンドでは、1万本の番組をいつでも楽しめるとある。非常に充実していることに感心した。ただ、無料トライアルにアクセスしようとすると、名前などお客様情報を入力する画面に遷移する。キャンペーンでは月額料金(2,189円)が31日間無料とあった。AbemaTVなど民間の動画サイトはまず無料で視聴させて、その上で、有料のプランに誘導しているのに比べると少し強引な印象を感じた。
(出典:Gigazine)

オンライン週次訪問UB数(単位:万)

講義の中で、「NHKのオンライン週次訪問UB数が、2015年の963万件から、2021年度は3,340万件と約3.5倍に増加」と説明を受けた。6年間なので平均伸び率は23%となる。これは素晴らしい。なお、UB数とは、Unique Browsersの略であり、ブラウザベースでユニークユーザー数をカウントするものだ。同一ユーザーが別ブラウザからアクセスした場合は別ユーザーとして認識される。一方、ユニークユーザー(UU:Unique User)は、一定期間内にサイトを訪問した重複のないユーザー数をいう。
(出典:NHK2021年度第2四半期業務報告

受信契約の状況

講義の中では話されなかったが、NHKの受信件数の推移を調べてみた。実際に受信料を支払っている契約数は2012年の3,815万件から2019年の4,212万件へと約1.1倍に増加した。年平均では約1.4%だけど、これはかなり頑張ったのだろう。その反動かどうかわからないが2020年と2021年は4,169万件に低下している。自分は受信料を支払っているけど、名古屋に単身赴任した時にはNHKの訪問員と名乗る人の対応が強引で恐怖を感じた。行きすぎた対応は改善する余地もあるかもしれない。名古屋から帰任する時にもNHKの解約に苦労した記憶がある。日本経済新聞も家内によれば解約するときに大変だったという。良いサービスとは、解約のハードルを高めることではなく、解約のハードルを下げて、かつ解約率を下げる努力をすることだと思う。


(出典:NHK2021年度第2四半期業務報告

自殺への対策&ハートネット

講義の中で、「9月の新学期の前日の8月31日が子供の自殺が多い。そのための対応としてぼくの日記帳などの展開を進めている。中川翔子さんにも参加してもらって新学期に学校に行くのが嫌なら無理しなくていいなだよ」というメッセージを流していると説明があった。素晴らしい取り組みだと思う。私自身も、2015年から3年間ほど名古屋を拠点にして全国の小中高を訪問して、ケータイのモラル教室の講師を担当した。年間200講座ほどだったが、リアルな学校の状況や生徒の気持ちに直接触れる貴重な機会だった。その中で感じたことは、3世代同居の多い地方の田舎の学校の小学生の子供たちの目は輝いている。生徒と先生の信頼関係も強い。講義が始まる10分前には整列して、話が始まるのを待っているぐらいだ。ふざけたりする子供もいるけど先生が注意すればすぐに解決する。逆に、悲しく感じることが多いのは都会の学校だ。東京港区の某小学校で話をした時には、予定の時間になっても先生も生徒も集まらない。生徒の目も死んでいる。講義の後に先生と話をすると、この地域の子どもたちは父親も母親も働いていることが多く、金銭的には困っていないけど、愛情に不足していると懸念されていた。都心の小学校でも生徒と先生の信頼関係がしっかりしている学校はもちろんあるし、私立の学校はしっかりしすぎるぐらいだけど、都心の公立小学校ではなぜか心配になるケースが続いた。10代、20代の死亡率のトップが自殺というのは悲しい日本の現実だ。これはなぜなんだろう。子供の社会は大人の社会の縮図でもある。日本社会のさまざまな課題が子供たちを苦しめているような気がしてならない。

(出典:NHK for School)

健康ch(健康情報をわかりやすく)

「NHKでは特に福祉のポータルで安心・信頼できる健康情報をわかりやすく提供している」と説明があった。調べると、きょうの健康などで有用な情報を提供している。このようなきめ細かな対応もNHKらしい良いところだと思う。なお、死亡原因の30代までは自殺や不慮の事項だけど、40代以上は癌(悪性新生物)で、90代が心疾患、100歳以上は老衰だという(出典:厚生労働省)。その意味では、心の健康と身体の健康をいかに維持して高めるかが重要だ。西洋医学は病気を治療することが目的であり、東洋医学は健康を増進することが目的だと以前「東洋医学」で投稿した。年齢を重ねると身体にガタが出てくる。例えて言えば、60年も使い続けた愛車のようなものだ。あちこちで故障するので、定期メンテしたり、部品を取り替えたり、修理したりする。しかし、修理が目的化すると、新車を購入するよりも高価になるので、通常は騙し騙し愛用する。これは個人的な感想だけど、人間の心身も徐々に劣化するだろう。大事なことは、許容できない問題や急性の問題は適切に治療(修理)すべきだけど、軽微な問題や慢性の問題は付き合っていくべきだと思う。大事なことは、適切な運動と、腹八分目のバランスの取れた食事と生きがい・居場所を持つことだ。薬や治療に頼ることが必要なケースはもちろんあるけど、それに頼りすぎることなく、できるだけ自立・自律して健康寿命を全うしたいと思う。

(出典:NHK「きょうの健康」

for School(学ぶ楽しさ)

「NHKラーニングというサービスと、シーズンラボというサービスを提供している」と説明があった。確かに、NHKの強みはその豊富なコンテンツだろう。例えばfor schoolをアクセスすると日本史シリーズがあった。第1回の縄文時代と弥生時代を視聴すると、よくまとまっている。個人的にはこの縄文時代にロマンを感じる。縄文人をテーマにするだけでも10回分ぐらいのコンテンツにはなるのではないだろうか。稲作は弥生時代に外国から持ち込まれたという説もあれば、縄文時代から稲作はしていて弥生時代にこれが大規模化したという説もある。穀物に集まる害虫(ゾウムシ)は従来の考古学の記録では7000年前とされていたが、熊本大学の小畑弘己巨樹はそれより古い約1万年まえの世界最古のゾウムシを確認し、ゾウムシと人との関わりは縄文時代早期(11,500~7,300BP)であることを示唆している。なお、BPとはBefore Present(もしくはBefore Physics)の意味で現在から何年前かを示す。ただし、14C年代では、1950年を基点にしているので注意が必要だ。また、漢字が持ち込まれるまで日本には文字がなかったという説と、古代から日本ではさまざまな神代文字が使われていたという説もある。日本はアジアを侵略したという説があれば、日本は植民地化されたアジアを独立に導いたという説もある。何が本当なのかが分かりにくい現代だけど、自ら考えて、判断する力は持っていたい。自分の父やその父、さらに祖先の人々がどのように考えて生きてきたかはもっとよく知りたいと思う。日本人がどのような思想で自分磨きに努めてきたのかは、実語教を読めばよくわかる。詳しくは「千年の歴史をもつ道徳教育『実語教』日本人の魂だ」に投稿したけど、こういった歴史に基づく啓蒙教育を広めていくべきだと思うし、自らも何かできることをしていきたいと思う。

(出典:NHK「for school」

NHK World-Japan

「日本の情報を世界に発信する英語のサイトにも力を入れている。特に災害情報などでもわかりやすくなるようにしている」といった説明があった。確かに、海外でもNHKの番組を見ることができる。2000年の前後には香港に赴任していたけど、その時も見れた。大晦日も仕事で追われるほど忙しく、ゆっくりとテレビを視聴する時間はなかったけど、日本からの放送を視聴する時間は家族で癒されたひとときだった。NHKでは、放送法第15条において次のように規定されており、その中に国際放送が含まれている。国際放送の財源は受信料ではなく日本政府からの交付金だというのも今回調べていて初めて知った。

放送法第十五条 協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。
(国際放送等の費用負担)第六十七条 第六十五条第一項の要請に応じて協会が行う国際放送又は協会国際衛星放送に要する費用及び前条第一項の命令を受けて協会が行う研究に要する費用は、国の負担とする。
2 第六十五条第一項の要請及び前条第一項の命令は、前項の規定により国が負担する金額が国会の議決を経た予算の金額を超えない範囲内でしなければならない。


(出典:NHK

まとめ

今回でメディアコンテンツ特別講義は終了となった。第1回から第10回までそれぞれに非常に興味深い講義だった。今回は、3名のゲスト講師のリレー方式だったが、その1としてまず草場さんの講義を中心にまとめた。その2では、宝木さんと鵜殿さんの講義を中心にまとめたい。こちらも大変興味深いお話をビビッドに聞かせていただいた。ありがとうございました。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

参考:次回(その2)の投稿

1.サービス担当の思い
_講師の紹介(宝木太郎さん)
_サモトラケのニケ
_沖縄・広島
_違う価値観の許容
_NHKラーニング
_シチズンラボ

2. 社会の課題解決に向けて
_講師の紹介(鵜殿良さん)
_クローズアップ現代(クロ現)
_性暴力裁判(私は被害者ではなく意思を持った一人の人間です)
_課題解決型ジャーナリズム
_オープンジャーナリズムへの展開

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