はじめに
メディアについては3回でまとめるつもりだったけど、課題だけ指摘して提言がないのは寂しいと思い、頑張って考えてみた。色々なアイデアは浮かんだけど、最終的にはパーソナルペーパーという提案に行き着いた。編集、印刷、配達などの課題もあるし、そもそも商業ベースに乗るかという問題もあるけど、マスメディアから脱皮して、情報提供事業を強化するという方向性は面白いのではないかと思う。今回は、新聞の起源から始めたい。
その1:危機的に減少する新聞の存在意義(初回)
その2:メディアの状況(前々回)
その3:新聞業界の課題(前回)
その4:新聞業界の生き残り戦略(⇨ 今回)
新聞の起源
江戸時代に新聞の役割を担ったのが瓦版だ。瓦版は、幕府から出版を禁止されていたため、売子は二人一組となって、一人は見張り役となり、もう一人が呼び込みをして瓦版を売ったようだ。しかし、庶民が全員文字を読めるわけではないので、読みながら売るという手法をとり、これが読売の由来になっているようだ。下の図は、紀州大地震を知らせる瓦版だ。遠州灘を震源とするM8.4の大地震が1854年(安政元年)11月4日に起きたことを報じている。日本に残る最古の瓦版は1615年の大坂冬の陣を記事としたものだ(出典)。瓦版は1871年にかけて印刷されたのが最後で、その後は東京最初の日刊紙である東京日日新聞(現毎日新聞)に置き換わった。瓦版の前というと、平安時代の初期に落書が貴族階級で広がった。これは「らくがき」ではなく、「らくしょ」もしくは「おとしがき」と読むようだ。往来のある場所に批判の匿名文書を掲示したものだ。鎌倉時代から江戸時代まで流行ったという(出典)。
(出典:文化遺産オンライン)
新聞業界の生き残り戦略
新聞業界の現状は以前投稿した。発行部数は1997年のピークに比べて3割以上減少し、下げ止まりが見えない。需要は、スマホによる情報検索などのデジタルメディアに移行している。現状は50代や60代以上の年齢生の購読慣習に頼っている。なにもしなければジリ貧しかない。そんな新聞業界は生き残りをかけて、記者のリストラや、電子版の普及、不動産事業などの収入源の強化を図っている。新聞各社はメディア業界の雄であり、テレビ業界各社の親会社でもある。メディアに対する自負もある。しかし、生き残りは簡単ではない。
新聞社の起死回生は可能か
新聞業界もまずは単独での生き残りが厳しい。新聞各社は値上げすると購読者が減少する。値下げをすると収益が悪化する。目先の料金戦略では解決は難しい。朝日新聞社は、2020年3月期は106億円の黒字を達成したが、2021年3月期には441億円の赤字にに転落した。朝日新聞に限らず、事態が深刻化すれば、外資が安値で買収したり、デジタルメディアが子会社化するなどの業界再編が発生するかもしれない。ではどうするか。
パーソナライズ化の可能性
一つのアイデアとして、新聞メディアのパーソナライズ化を提案したい。パーソナライズ商品とは、顧客の属性や行動などのデータに基づいて提供する最適な商品のことだ。例えば、MEDULLAはオンラインで毛髪診断を行い、サブスクの利用者に最適なシャンプーやコンディショナーを届けるサービスを行なっている。ZOZOは、パーソナルデータを集約してパーソナライズD2Cブランドとして、Spartyを展開している。コンピュータのデルも利用者の個別のニーズに基づくPCの受注生産で売り上げを伸ばした。新聞も画一的な紙面ではなく、全国共通の全国パートと、地方に特化した地方パートと、個人に特化したパーソナルパートやファミリーパートがあっても良いのではないだろうか。
(出典:ferret)
パーソナライズペーパーの魅力
個人の嗜好や知りたいことといった個人情報に基づいて最適な記事を編成するのがパーソナライズペーパだが、知りたいことを伝えるだけでは十分ではない。ジョハリの窓として知られるように、他人は気づいているが自分は知らない盲点の窓や、自分も他人も知らない未知の窓、自分は知っているけど他人が知らない秘密の窓などを適度に組み合わせることが必要だ。そして、どのようなバランスでそれを配合するかは、メディア業界の実力だろう。それをこれまではマスで展開していたが、個別に展開する。これは最強だ。
(出典:ビジネスゲーム)
パーソナライズペーパーの実現方法
電子版での実現
パーソナライズペーパーの実現方法は、電子版の方がイメージしやすいだろう。アマゾンのリコメンド機能はこのパーソナライズと同義かもしれない。やりすぎると気持ち悪いけど、盲点の窓を築かれるとついその図書を購入してしまったりする。新聞をECへのプラットフォームとすることも可能だろう。要は紙面に拘るのではなく、電子版で理想的な紙面を作成して、全てのお客様にそれぞれ最適なニュースを伝えることができれば、利用者は時間を節約することができる。
紙面版での実現
ただ、残念ながら日本の社会では高齢化が進んでいる。電子版にすぐに移行できる人と、やはり紙面が良いという人がいるだろう。また、貴重な社会的な資源である紙面に印刷し、配達するのであれば、この紙面にこそ付加価値を存分に与えるべきだと思う。例えば、本当に自分が知りたかったことや、存在さえ知らなかったけど興味のあることなどを満載されている新聞紙ならボリュームは今の数分の1でも良いのではないか。その代わりに、捨てずにストックして、読み返したくなるようなそんな宝物のような新聞紙を目指すことができないものか。
パーソナライズペーパーの課題への対応
理想的なパーソナライズペーパーができれば素晴らしいかもしれないが、その実現には課題が多い。ここでは、特に、紙面版を想定して課題とその対応についてまとめたい。
個人の嗜好・関心情報の収集・蓄積
個人の嗜好や関心情報をどのように収集するか。個人情報保護法とも関係する。集めることも漏洩を防ぐことも重要な課題だ。その対策の一つは、パーソナルデータベースの構築とその充実だろう。インプットすべきは各購読者の欲しいことや興味あること、知りたいことだ。それらの情報を踏まえて、単にその要望に応じるだけではなく、その期待を超える情報を与える。そして、その反応に基づいてパーソナルデータベースを更新する。そのようなデータベースが充実すれば、AIも威力を発揮しやすくなるだろう。
編集のパーソナライズ
現在の紙面には全国版、地方版などはあるが、家族向けのパートや個人向けのパートはない。それは、紙面の編集が大変だからだ。紙面の編集を手作業で行なっていた時代では想像できないが、現在はコンピュータを活用した紙面の編集が進んでいる。今後は、個人のパーソナルデータに基づいて印刷する記事をAIに取捨選択させて編集することも可能だろう。これぐらいのチャレンジは新聞会社もすべきだと思う。
印刷のパーソナライズ
問題は紙面の印刷だ。同じ紙面を大量に印刷することを前提にしている印刷工場では難しいかもしれない。しかし、現在はコンピュータを活用した編集作業も進んでいるし、同じ日の朝刊でも印刷する時刻で微妙に記事を変えている。さらにそれを極めれば、一つ一つ異なる記事を編集して印刷することも可能だろう。さらに言えば、現在は個別に印刷して、挟み込んでいるチラシやDMも紙面の中で統合的に印刷することができれば、広告代理店から見ても、効果の高い利用者に個別にチラシを展開することができ、さらにはそのフィードバックを評価・分析することが可能となるかもしれない。これは魅力的だろう。
(出典:日本印刷新聞社)
配達のパーソナライズ
個宅用に印刷したものを各販売店に移送し、各販売店から個宅に配送することが可能か。現在の新聞社には正直難しいだろう。しかし、宅配業者はそれを実践している。ヤマト運輸の心臓部とも言える羽田クロノゲートについては以前投稿したが、技術的には可能だ。問題は商業ベースに乗るかどうかだ。また、配送業務も人手に依存しているが、今後は下の図に示すようなさまざまな手段の可能性を模索し続けることになる。
(出典(左から):東洋経済、読売新聞、Newswitch)
世論誘導の可能性への対応
マスメディアから、個々のニーズや嗜好に合わせたメディアへの脱皮ができるのかどうか。自分が本当に欲しい情報や気になる情報が送られてくるのであれば、デイリーでなくてウイークリーでも良いかもしれない。スピードや速報性に対応するのであれば電子版を活用すべきだ。それよりも、それほど急ぎではないけど、じっくりと紙面を読みたいというニーズにはパーソナライズペーパーを活用するという方法もあるのではないだろうか。先に挙げた課題も、日刊ではなく、週刊なら実現に向けてのハードルも低くなるのではないだろうか。
まとめ
新聞が配達されてもテレビ欄しか見ない人にとっては週刊で十分かもしれない。もっと即応性を求める人には電子版、もっと詳しい情報を知りたい人には紙面や電子版からの深掘りを行う。場合によっては、好きな記者を指名したり、展開してほしいトピックを指定すれば、報道活動や取材活動にも活用できるかもしれない。そんな双方向で提供者も利用者もハッピーになるような構図を実現できないだろうか。そんなチャレンジを継続する新聞社は生き残るだろう。ただ、旧態依然とした事業展開を繰り返すだけでは淘汰されるしかないと思う。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝