労働災害を考える。中長期的には減少しているが、短期的には増加傾向にあり、原因に即した対策が必要だ。

はじめに

10月18日(火)に労働安全コンサルタントの国家試験が実施される。当日は、朝10時から12時の安全一般、13時から14時の安全法令、そして、14時30分から16時30分の専門分野の試験だ。自分は電気の区分なので電気安全を受験すべきだけど、技術士(電気・電子部門)はこの試験を免除される。実は、安全一般も技術士(経営工学部門のうち生産・物流マネジメントを選択科目とする場合)は免除さえるので、4年前には安全法令のみで受験したが、1点足らずに不合格だった。15問の問題で6割正解なら合格なに8問しか正解出なかったためだ。ただ、安全法令は難解で有名なので、今回は安全一般と安全法令を受験し、各科目を最低でも4割、合計で6割を目指している。

労働災害への取り組みを振り返る

今週の木曜日には、安全セミナーの講師を予定している。主に土木や建設系の受講者が多い。労働安全コンサルタントの勉強をしていて、興味深い論文を見つけた。それは「我国の労働災害投影資料整備の変遷と災害指標の国際推移について」と言うもので、1990年8月の土木史研究に審査付論文として掲載されたものだ。例えば次の4つについて最も古いものはどれかと問われるとなんだと思うだろう。通常なら①の法律ができて、②の規則ができて、これに基づいて③や④が実施されるが、労働災害の場合には、④が最も古くて、次に③、②、①と新しくなる。
① 労働安全衛生法の施行
② 労働安全衛生規則の施行
③ 労災保険の施行
④ 労働災害報告様式の全国統一
これはどう言うことかといえば、日本最初の労働立法である工場法は明治44年(1911年)に交付され、大正5年(1916年)に施行された。大正11年に改正工場法が交付されるが、大正12年9月の関東大震災のため施行が延期し、大正15年に施行され、職工死傷報告などにより業種別、休業3日以上、重症(2週間以上)、死亡分類、災害千人率などの統計分析と災害原因分類が始まった。つまり④は大正15年だ。そして、昭和6年に労働者災害扶助法が交付され、翌年に施行された。つまり③が昭和7年だ。さらに昭和22年に労働基準法が施行され、同時に労働安全衛生規則が施行されたので、②は昭和22年だ。そして、労働安全衛生法が施行されたのが昭和47年となる。この論文からの抜粋を以下に示す。

(出典:土木史研究

労働災害の推移

大正5年に工場法が施行されると工場主には、労働災害(休業3日以上)の報告が義務化された。大東亜戦争(太平洋戦争)が1945年(昭和20年)に集結すると、1947年(昭和22年)から1949年(昭和24)まではサンプリング調査が実施され、労働安全衛生規則に基づいて休業8日以上の死傷者の整理が行われた。1972年(昭和47年)に労働安全衛生法が交付されると災害対象が休業8日以上から休業4日以上に拡大されて、現在に至っている。死亡者数も死傷者数も1950年台をピークに減少したが、ここ最近では反転増加している。
(出典:厚生労働省

直近の傾向

令和3年(2021年)の1月から12月の確定値を見ると死亡者数は前年の令和2年より65名増加し、死傷者数も前年から18,762人増加している。新型コロナによる罹患を除くと、死亡者数は6名減少しているが、死傷者数は5,471名も増加しているこれはどう言うことなのだろう。


(出典:厚生労働省

産業別労働災害率

産業別の労働災害の度数率と強度率を次に示す。度数率は、100万延べ実労働時間あたりの労働災害による死傷者数で災害発生の頻度を示す。度数率が高いのは漁業の24.96と圧倒的である。次いで農業・林業の6.23、生活関連サービス業の4.65などが続く。製造業は1.31、建設業は0.85と低い水準だ。一方、強度率は1000延実労働時間あたりの延べ労働損失日数で災害の重さの程度を示す。強度率が高いのは漁業の1.06であり、次いで運輸業の0.22、建設業の0.21、生活関連サービス業の0.21などが続く。特徴的なのは総合好事業であり、度数は1.39と比較的低いが、強度率は0.41と高い。つまり、発生頻度は低いが、一旦事故が発生すると重篤となる傾向にあるといえる。


(出典:厚生労働省

令和3年の業種別事故型別死亡災害発生状況(確定)

死亡災害の発生状況を事故型と業種のマトリックスで精査すると、死亡者が288人と最も多い建設業では墜落・転落が110人と約38%を占めている。次に死亡者が137人と多い製造業では挟まれ・巻き込まれが54名と約39%を占めている。また、運輸交通業では道路における交通事故が41名と約37%を占めている。死亡災害を抑制し、撲滅していくには、これら墜落・転落、挟まれ・巻き込まれ、交通事故を徹底的に抑え込むことが有効だろう。
(出典:厚生労働省

令和3年の業種別事故型別労働災害発生状況(確定)

同様に休業日数4日以上の死傷災害に関して、その事故型と業種をマトリックスで精査してみる。詳細は次の表の通りだが、最も死傷者数が多いのが保険衛生業の29,153名であり、うちその他が12,793名と約43%を占めている。これはまさに新型コロナによる影響と言える。次に多い製造業では、死傷者数28,605のうち挟まれ・巻き込まれが6,501と約23%を占めている。次に多いのが商業の22,408名でうち転倒が7,176名と約32%を占めている。転倒は事故型の中でも33,672名と全体の約22%を占めていて、これへの対策は急務だ。建設業と運輸交通は共に墜落・転落がそれぞれ約30%と約25%を占めており、高所作業時や車両からの荷下ろし・荷上げ時の対策を継続して強化することが求められる。

(出典:厚生労働省

総合工事業の労働災害

総合工事業の労働災害の状況を次に示す。土木工事業と建設事業を比較すると、度数率は土木工事業の方が高い一方で、強度率は建設事業の法が高い。そして、注目したいのは、この傾向が前年の令和2年では逆だと言うことだ。これはどういうことなのだろう。また、請負金額による分類では、度数が最も高いのは5億円以上10億円未満の1.59となるが、死亡に限ってみると請負金額が少ないほど死亡の度数率が高い。これは小規模な工事や下請けになるほど危険度が高いということになる。同様に強度率も規模が小さいほど高い。今後は、大規模な工事の事故防止はもちろん重要だが、より小規模な工事に関する安全管理もより重要となると言える。

(出典:厚生労働省

まとめ

今回は、労働安全コンサルタントの受験勉強をかねて、労働災害の取り組みの経緯や、労働災害の中長期的な推移と短期的な推移、死亡事故の傾向と死傷事故の傾向などについてまとめてみた。漁業の度数率や強度率がダントツで高いことと同時に、新型コロナの影響もあり保健衛生業の労働災害が高まっていたり、小規模な総合工事ほど死亡災害も強度率も高いことがびっくりだった。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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