感性工学:感情を持つロボットがもたらす創造と破壊

はじめに

人は心を持つ。感情もある。意思もある。「ロボトミーの悲劇」について以前投稿したが、前頭葉と視床を切り離すと意思や感情を持たないロボットのような人間になるという。その意味では、前頭葉に心や意思が宿っているのだろうか。一方、感情を科学する感性工学の分野での研究も進んでいる。今回は、そんな感性工学を中心に展開したいと思う。また、今回は感情を持つロボットが創造と破壊と言うテーマで3回に分けて次のような内容で投稿したいと思う。
・感性工学(今回の投稿)
・ロボットの将来(⇨ 明日の投稿
・今後の検討課題(⇨ 明後日の投稿

感性工学

心理学では感情をfeelingと言い、激しい感情である情動をemotionと言う。脳科学では、意識的なものを感情(feeling)と呼び、無意識の脳内過程を情動(emotion)という。ここでは、心理学的な定義で記述する。

基本感情

感情はいくつあるのだろう。よく喜怒哀楽というが感情は4つなのか。感情の分類方法は幾つかあるが、基本は6つの感情に整理されるという。先の喜怒哀楽に愛(いとしみ)と憎(にくしみ)を加えたものだ。下の図は英語だけど、その6つの感情を示したものだ。中国の伝統的な学習書である三字経では「曰喜怒、曰哀懼、愛悪欲、七情具」といい、喜怒哀懼 (おそれ)愛 (いとしみ)悪 (にくしみ)欲の七つの感情を指摘している。同時に、中国の五情では、人間の代表的な感情を喜怒哀楽と怨(うらみ)の五つにまとめている。漢字には心を含むものは、忌、忍、怒、恐、恥、恋、悲、愁、慕、憂、怪、怖、悔、恨、惜、悼、愉、憎、憤、懐など本当にたくさんある。
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(出典:感情

基本情動

情動の分類については米国の心理学会で活発な議論があった。例えば、シカゴ大学の心理学者ジョン・ワトソンは、怒り、恐れ、愛の3つを基本情動とするが、コロンビア大学の心理学者ロバート・プルティックは、期待、怒り、喜び、受容、驚き、恐れ、悲しみ、嫌悪の8つを情動環としてモデル化した。下の図はプルティックが描く「感情の輪」と呼ばれるものだ。ピッツバーグ大学の心理学者リチャード・ラザルスは、情動をポシティブなものとネガティブなものに分類した。プリンストン大学の心理学者ハロルド・シュロスバーグは軽蔑、愛・楽しみ・幸福、驚き、恐れ・苦しみ、怒り・決断、嫌悪の6つに分類した。
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(出典:テラ・トレ

心理モデル

心理学では、感情の基本を驚き(surprise)、喜び(happiness)、怒り(anger)、恐怖(fear)、悲しみ(sadness)、嫌悪(disgust)と分類し、これを基本6感情と呼ぶ。しかし、実際の感情はこれらが単独ではなく、複数の感情が複合して表出される。心理学者のロバート・プルティックは、8の倍数論者であり、下の図のように32種類に分類した。
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(出典:感動創造研究所

感性マップ

日本では、人工知能や感性工学の分野で研究が進んだ。下の図は株式会社AGIが2011年に発表したEmotional Mapだ。感情や情動のメカニズムをこのようなマップで定義することで、人の心を定量的に測定し、分析することで感性の可視化が進んでいる。ソフトバンクが提供するペッパーもこの感情モデルを採用していると言われている。
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(出典:株式会社AGI

感性の哲学

信州大学の坂本弘教授は、その著書「感性工学への招待」の中で、感性領域での基本的な概念の構成を下の図で説明している。つまり、感受性や感覚、気分、感情、感動、想像力などは感性領域内とし、それに対する入力要素として、外部環境、生活基準、整理基準、価値基準の4要素を定義している。また、感性領域内の感覚が身体の反応を引き起こし、それが外部環境を経由して再度感性領域にフィードバックされると定義した。楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいという感情が引き起こされる。表情と感情とホルモン分泌には密接な関係があるのだろう。

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(出典:感動総合研究所

自動車の感性工学

感性工学を活用して自動車の性能をマッピングすると下の図のようになる。自動車に何を求めるか。高度成長期では走行性能が、エネルギーショックの後は燃費や経済性が重視されたのかもしれない。耐久性やファッション性なども重要だし、万一事故に遭遇したときにも安全を確保できるかどうかも必要だ。今後は電気自動車が広く普及した場合には、乗ることが楽しいかとか、移動時の空間と時間をどのように創造的に活用するかなどが求められるだろう。

(出典:autoexe

 

 

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