脳型情報処理機械論:#2-2(自己組織化マップ、メゾ回路など情報処理法のまとめ)

はじめに

前回は、視覚系の流れの前半として特に網膜から一次視覚野を経由して大脳皮質や下頭側皮質に向かうことをまとめた。今回は、その情報を処理する方法として、ガボールフィルターや自己組織化マップ、メゾ回路、オプティカルフローなどについてまとめた。

視覚系の情報の流れ 前回は視覚系の前半。今回はその2として情報処理論をまとめる。
・脳の運動制御系 ⇨別途
・脳の仕組み、ロボット ⇨別途
(英語タイトル:Development of Embodied Brain, Behavior and Cognition)

Gabor Filter

ガボールフィルタ(Gabor filter)は、画像処理のテクスチャー解析等に用いられる線型フィルタの一種である。画像の各点周りの局所領域において、方向毎に特定の周波数成分を抽出することができる。ハンガリー系イギリス人の物理学者ガーボル・デーネシュ (1900年6月から1979年 2月)に因む。自分の話になるが、学生時代に、パターン認識の研究を担当した。海外ではサインの自動照合の研究が進んでいたため、印鑑の自動照合とした。その時に、印影の線を細くしたり、太くすることは簡単だったし、興味を持った。空洞化処理なども簡単にできた。入力画像をすべてのガボールフィルタで畳み込むと、下の図のように、パターンが簡単に強調される。ガボールフィルタを画像に適用するとエッジやテクスチャが変化する箇所で最も高い応答が得られる。もっと頑張って画像処理の研究を続けていたら、今頃は木崎フィルターという名前もあったかもしれない(笑)

(出典:Anuj stah)

Kohonen自己組織化マップ

自己組織化マップ(SOM: Self-Organizing Map)は、フィンランドの工学博士コネホン教授(Teuvo Kalevi Kohonen:1934年7月11日生)が開発した。コネホンは、学習ベクトル量子化アルゴリズム、分散連想メモリと最適連想マッピングの基礎理論、学習部分空間法、冗長ハッシュアドレッシングのような記号処理の新しいアルゴリズムなど、人工ニューラルネットワークの分野に多くの貢献を残した。自己組織化マップは、コホネンが提案した教師なしのニューラルネットワークアルゴリズムで、高次元データを2次元平面上へ非線形写像するデータ解析方法である。自己組織化マップは、入力層と出力層により構成された2層のニューラルネットワークである。入力層には分析対象となる個体j の特徴ベクトルをx j ( x j1 , x j2 , … , x jp )、出力層には 個のユニットがあるとする。下の図(左)に示すように、出力層における任意の1つのユニットは、入力層における特徴ベクトルのすべての変数とリンクする。初期段階では下の図(右)に示すように、乱数により各変数との間に重みm i ( m i1 , m i2 , … , m ip ) が付けられている。

(出典:フリーソフトによるデータ解析

特徴マップの自己組織化

特徴マップの自己組織化(SOM)は下の図に示すように次のステップでSOMのモデルが完成する。
① 重みにランダムな値を与える:重みには何かしらの初期値を与える必要がある。モデルの偏りや局所的最小解に陥りにくくするために、値の与え方は基準化された形でランダムに設定する。
② データ(1レコード)を入力する:SOMは逐次学習法を採用するため、レコードをまず1つだけ入力する。このとき、各々の変数は平均0、分散1に基準化する。
③ 勝ちニューロンを決定する:入力レコードと1つのニューロンに接続する重みとの誤差を計算する。それをすべてのニューロンに対して行い、最も誤差の小さいニューロンを“勝ちニューロン”とする。
④ 勝ちニューロンと接続された重みを修正する:勝ちニューロンと接続された重みを、入力データに近づけるように修正する。
⑤ 近傍のニューロンに接続された重みを修正する:勝ちニューロンに隣接する近傍のニューロンを入力データに近づけるように修正する。勝ちニューロンよりもその修正幅は小さくなる。
⑥ すべてのデータに対して同様の学習を行う:すべてのレコードを入力して同様の重みの修正を行う。すべてのデータについて学習が終わったら、重みの修正量を減らし、あらかじめ定めた回数、または誤差に達するまで同様のプロセスを繰り返す。

(出典:High FAIシステムトレード

情報量最大化(Infomax)

東京大学大学院新領域創成科学研究科能瀬聡直教授は、比較的少数のニューロン集団からなる「メゾ回路(メゾスコピック神経回路)」を従来研究が困難だったミクロとマクロの中間層に切り込むことを可能とするモデル機能回路として捉え、その解析を通じて脳の情報処理基盤を探る。このため、分子遺伝、光生理、数理などの先端技術を融合的に適用し、脳回路の機能単位となるメゾ回路を同定し、従来不可能だった包括的な脳回路研究を推進している。

(出典:東京大学大学院「メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤」

Optical Flow

ここでは,Lucas-Kanade法のアルゴリズムを説明する。Lucas-Kanade法(LK法)とは、1981年にBruce D.Lucasと金井武雄氏によって提案されたオプティカルフローを求める方法である。いわゆる勾配法である。これは、輝度の空間的、時間的な勾配を用いて、山登りすることでオプティカルフローを用いる手法である。下の図のt0、t1は信号を観測した時刻、Δxは信号の位置の変化を表す。

(出典:オプティカルフロー

感受性期と誘導指数

大脳皮質の第1次視覚野は、同じ性質の細胞が大脳皮質の表面に垂直方向に集まったコラムという構造を持っている。コラム構造のひとつである眼球優位コラムでは、右目、左目からの信号が約0.4ミリの間隔で交互に配列する。ネコの第1次視覚野の眼球優位コラムの形成は、生まれてから3ヶ月の時期に片目を縫合し視覚入力を遮断すると障害される。第1次視覚野の神経細胞のほとんどが、遮断した側の目の光刺激にほとんど反応しなくなり、開いていた眼の光刺激に反応するようになる。一方、成熟ネコでは片眼の遮閉をいくら長く続けても、眼球優位コロムには変化が起きません。このように生まれてから一定の期間、第1次視覚野の発達に正常な視覚環境が不可欠な時期がある。この時期を、臨界期または感受性期と呼ぶ。下の図では、Hubel と Wiesel が行ったネコの方目を閉じた実験の結果を、Blakemore らがまとめたものだ。横軸が週齢であり、縦軸の誘導指数は開いていた眼球に視覚刺激を与えたときの応答が閉じた眼球に視覚刺激を与えたときの応答よりも強い神経細胞の比率である。1.0の場合は全ての細胞が開いていた眼の視覚刺激に強く応答したことを示す。0.5の場合は同率となる。

(出典:脳の世界

Neuron Dynamics

何十年にもわたる神経生物学の研究により、ニューロンの応答特性が動的に調節され、適応的な認知機能を支えていることが明らかになってきた。このようなニューロモジュレーションは、ニューロンの生物物理学的特性の変化によって達成される。しかし、認知機能の変化は、個々のニューロンの変調から直接生じるのではなく、メゾスコピックな神経アンサンブルにおける集団のダイナミクスによって媒介される。古典的な神経調節プロセスを神経活動のシステムレベルのモデルにパラメトリックにマッピングする計算モデルを示すことで異なるレベルの記述を橋渡しする。その結果、システムレベルの活動の重要なバランスが知覚と行動を支えているが、このマッピングに関する我々の知識はまだ不完全である。ミクロスケールの神経細胞の神経調節をシステムレベルの脳機能に結びつける定量的モデルは、知識のギャップを明らかにし、理論と実験の研究を統合するための新たな方向性を示唆している。

(出典:Nature NeuroScience)

Visuo-Motor Association Learning System

ロボットは、人間の環境で働くための信頼できるパートナーとして期待されている。その中には、物を集めたり、目的に応じて集めたり分類したりする作業も含まれる。このようなタスクでは、ロボットは環境を探索して対象物を発見し、対象物に向かって移動し、対象物を把持し、対象物を落とすために保管場所まで再び移動する。下の図では、このような複雑な動作の背後にある基本原理を、かなり単純なニューラルネットワークコントローラから得ることができることを示す。

(出典:Research Gate)

Mirror Neuron

ここ数年の神経科学における最もエキサイティングな出来事の1つは、行動知覚と行動実行を統合するメカニズムが発見されたことである。この「ミラー」メカニズムの本質は、ある行動が他人によって行われているのを観察すると、その行動をコード化する一連のニューロンが、観察者の運動系で活性化されることである。観察者は自分の運動行為の結果を認識しているので、中間的な認知的媒介を必要とせずに、相手の行為を理解することができる。下の図に示すように、ミラーメカニズムに関する最も重要なデータを紹介した後,このメカニズムの臨床的な関連性を検討する。ミラーメカニズムの障害と自閉症の中核的な症状との関係について述べる。次に、ミラーメカニズムに基づいたニューロリハビリテーション戦略の理論的原則を説明する。最後に、鏡のメカニズムと環境依存症候群のいくつかの特徴との関係を検討する。

(出典:nature reviews neurology)

まとめ

知覚やメゾ回路、自己組織化マップ(SOM)などの概念は初めて聞いたものにはなかなか難解だ。ここで紹介した内容も十分自分自身で理解したかどうか自信がない。しかし、このような研究が世界中でなされていることを知ることは非常に貴重な知見である。國吉教授の講義は英語が基本である。英語力の問題もあり、どれをどのように説明していたかを含めて、謎が多いが、少しでも理解の参考になれば幸いだ。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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