はじめに
食品ロスの問題について、前回は現状の分析や欧州を中心とする諸外国の対応などを概観した。今回は、食品ロスの問題解決に向けて進んでいる我が国取り組み状況として4つの動向と、さらにもう一歩踏み込んで解決するための5つの提言にトライした。
食品ロスその1:食品ロスの現状と各国の対応(前回)
食品ロスその2:食料ロス問題の4つの動向と5つの提言(⇨ 今回)
食品ロス問題の本質と日本での4つの動向
なぜ食品ロスが発生するのか、それに対して我が国はどのような対応を実施しているのかを概観したい。コロナ禍においてフードバンクの活用や、子ども食堂の活用などに も大学院在学中に関与したが、食品ロスの問題を単体で考えるのではなく、エネルギー問題やゴミ問題、CO2排出削減問題、貧困問題などとの関連を見極めて、一石二鳥を狙うような施策に個人的には関心がある。なかなかそのレベルには達しているとは言い難いが、それぞれの関係者が頑張って改善しようという熱意は感じられた。
動向1:賞味期限と消費期限
基本的な概念として、食品には寿命がある。多くの食品には賞味期限か消費期限が設定されている。しかし、当然ながら例外もある。例えば、缶ビールや冷凍食品には消費期限ではなく、賞味期限が設定されているが焼酎やアイスクリームにはどちらの設定もない。コンビニのおにぎりには賞味期限ではなく消費期限が設定されている。現在の定義では下の図のように定義されている。これを英語の表現と対比すると次の通りだ。個人的には、英語の方がわかりやすい。日本語でも、消費期限を賞味期限と呼び、賞味期限は保管期間と呼んだ方が誤解がないかと思っている。
1) 消費期限(ED:Epiration Date):安全に食べられる期限。EDは製品が開封されたかどうかに関係なく、製品の使用や消費をすべきでないとされる特定の日だ。
2) 賞味期限(SL:Shelf Life):品質が変わらずに美味しく食べられる期限。SLは適切に梱包および保管された製品が、化学的または物理的な変化を受けずに持続する時間。
3) 開封後の使用期間(Period after opening):日本語ではできるだけ早くと書かれていることが多いが、海外の場合には開封後の期間を明記していることがある。これは実用的だ。
(出典:船橋市)
動向2:3分の1ルールから2分の1ルールへ
食品廃棄の原因の一つは消費期限神話だ。例えばセブンイレブンではおにぎりの消費期限を約18時間に設定していたが、2021年3月以降はこれを順次1日半から2日程度の伸ばしている(出典)。2019年10月に施行された食品ロス削減推進法の後押しもあったのだろう。3分の1ルールで考えると、かつての18時間なら製造してから6時間以内にコンビニに配送し、コンビニでは6時間だけ販売し、購入者は6時間以内に食するというスピード感だ。これを2分の1ルールに緩和した場合には、工場で製造してから9時間以内にコンビニに配送し、コンビニでは各店舗の判断で販売する。例えば、セブンイレブンでは2019年4月10日より、加工食品の返品で業界慣行として行われている「3分の1ルール」を変更し「2分の1ルール」を適用する商品を拡大すると発表し、2019年8月からはカップラーメンにも2分の1ルールを適用する(出典)。最近のコンビニではやたらに即席麺の陳列が多いと感じるが、こんなルール変更が背景にあったようだ。
(出典:農林水産省)
動向3:レストランでの対応事例
株式会社アレフが全国展開するハンバーグレストラン「びっくりドンキー」では、各店舗から1日に約20kgから30kgの生ゴミが排出される。アレフでは、調理クズなどの生ゴミを株式会社アドマックが製造する業務用発酵乾燥式生ごみ処理機「ゼロワンダー」にて堆肥に変換し、田んぼや畑の肥料として活用している(出典)。また、各店舗においては、子供たちが残さず食べる挑戦を応援する「もぐチャレ!」を継続的に実施している。また、仕入れ食材においては、販売数に基づく在庫月数の管理や新たな産地を追加し品質不良のリスクを低減するなどし、廃棄量を抑制しています。
(出典:アレフ)
動向4:京都市での調査結果
日本では年間600万トンの食品ロスが発生し、その80万トンが外食産業の食べ残し、112万トンが家庭で廃棄された食べ残しだ。つまり食品ロスの3分の1が食べ残しだ。平成30年度に京都市が行った調査では、ごみ処理量は409,779トンであり、1人1日あたりに換算すると764グラムだった。このうちの生ゴミは約38.3%だった。京都市の調査によると家庭から出る生ごみは次の3つに分類される。
1) 調理くず: 野菜や果物の皮・芯・切りくず,魚の骨,貝殻,卵殻 等
2) 食べ残し: 手をつけていない食品,ごはん・パン・麺類,野菜類,肉類,魚類 等
3) その他:茶がら,コーヒーかす 等
下の図(左)に示すように、手付かずの食品が45.6%を占めている。その内訳は、下の図(右)に示すように、賞味期限内が37%、1週間以内が24%だった。
(出典:京都市)
5つの提言
提言内容として、白書やネットで言われているようなものではなく、自分の頭で考えて、悩んでみた。提言というには、もっと現実的なシナリオや必要な資源、想定される課題などを整理すべきだが、それらは今後深掘りしていくということでご容赦願いたい。個人的には、生ゴミを堆肥などの肥料として再利用するようなサイクルを確立できれば、ゴミの燃焼効率も高まり、ゴミ発電の効率も改善するのではないかと期待感を持っている。この辺りも引き続き注視していきたい。
提言1:フードリサイクルに関する法整備(廃棄物の削減)
2019年10月に「食品ロス削減推進法」が施行された。これは大きな改善の一歩である。しかし、フランスやイタリアのように食品廃棄の禁止やフードバンクへの提供の義務化などには踏み込み切れていない。議員立法が先行して改善する欧州各国と、草の根的な企業や個人が頑張る日本とどちらが良い悪いではないが、提言2から提言5に示すような挑戦を応援し、鼓舞し、サポートするような仕組みを政府・監督主管庁として頑張ってほしいと思う。
提言2:生ゴミの肥料としての活用(リサイクル)
クロアチアとイタリアとオーストリアに囲まれたスロベニア共和国では「虫ゼロ臭いゼロ」の屋内型コンポストを開発した。日本でも2020年8月から発売を開始した。これまでびっくりドンキーのように業務用のコンポストは利用されていたが、家庭用にコンパクトなコンポストを利用可能だ。これを活用すれば家庭からのゴミの約4割を占めるが生ゴミを堆肥に変換できる。地域によっては、自治体からの補助・助成金対象となる。他の製品だけど、生ゴミを肥料に変えるバイオ式コンポスト「Bokashi Organko2(ボカシオルガンコ2)」を実際に利用したユーザは次の5点をメリットとして実感されている。
1)においがなくなる
2)ごみ出しの回数が圧倒的に減る
3)気持ちがすがすがしくなる
4)自信が増えて罪悪感が減る
5)食品ロスが減る
(出典:@Press)
提言3:ゴミ発電の有効活用
一般廃棄物の処理施設でもやしたエネルギーを活用して発電する仕組みだ。発電量は2008年(平成20年)の6,935GWhから2017年(平成29年)の9,207GWhへと1.3倍に増加している。発電効率も同様に11.19%から12.98%まで向上している。課題は生ゴミの処理だ。生ゴミを分類して、提言2に示したように堆肥として活用し、逆にプラスチックは分別せずに燃やせば火力も高まり、発電効率も発電量も増大するのではないだろうか。
(出典:Plastic Waste Management Institute)
提言4:マッチングアプリの活用啓蒙(商品価値の維持・活用)
特に北欧やフランスなどが先行しているが、食品廃棄になりそうな食品の提供者と利用者をマッチングするアプリが続々と開発され、利用されている。
アプリ1) Froodly
Froodlyはフィンランドのスタートアップが開発したフードレスキューアプリだ。食品を少しでも安く購入したい消費者と、小売店に置いてある消費期限が近い食品を結びつけ、結果として、フィンランドで毎年廃棄されている6,700〜7,500万kg食品廃棄軽減を目的としている。Froodlyのユーザは、コントリビューターとして、消費期限が近づいている食料品の写真を撮影して値引き額とともに写真をアプリにアップする。コントリビューターは写真を1枚アップするごとに10 クレジットを得られ、食料品のディスカウントや無料のコーヒーなどの報酬を得ることができる仕組みだ。面白い。
アプリ2) Too Good To Go
フランスでは食品廃棄対策アプリとして、2016年に「Too Good To Go」がサービスを開始した。フランスでは、生産された食料の3分の1が無駄になっている。この食品廃棄を削減するためにすでに9,800万人ユーザーが利用し、21,965のカフェ、レストラン、スーパーマーケット、パン屋さん、ホテルなどが参加し、すでに28,700万食の節約に成功している。食品廃棄のない世界を実現するには、アプリをダウンロードして、スマホにログインし、地元のお店で売れ残ったおいしい食べ物をゲットしよう(出典)。
アプリ3) TABETE
メイドインジャパンのアプリもある。1991年生まれの川越一麿社長が率いる株式会社コークッキングが2018年より提供するフードシェアリングアプリ「TABETE」だ。2021年5月31日時点でTABETEのレスキュー掲示板で取り扱った食品ロスになりそうな食べ物で販売に繋がったものが1万点を突破した。重さにして25,000kg以上の食材がレスキューされた。
(出典:TABETE)
提言5:スマート消費期限(保存期間の拡大)
IoTの技術が進み、RFIDが非常に安くなったら、商品一つ一つにタグを取り付けて、それぞれの消費期限をスマートに管理することも可能になるかもしれない。経済産業省の主導でコンビニ各社と連携し、コンビニ電子タグ1000億枚宣言を発表している(参考)。これが実現すれば、コンビニの各店頭にどれだけの商品があり、それぞれの消費期限を管理できる。個人的には店舗に止まらず、冷蔵庫に入っている食材で消費期限が近づいているものがあれば、それをスマホで通知するようなことにも踏み込みたい。さらに言えば、食品の消費期限は、それまでの保管状況などのに左右される。それらを加味して、適切な消費期限をスマートに表示できれば、食品廃棄も大幅に減少できるのではないか。下の図は、冷蔵庫に保管している食品の消費期限を色で表示するようなアイデア商品だ。
(出典:CNET)
まとめ
今日は、午前中に健康診断があり、午後には外出があり、夕方には歯医者で詰め物のやり直しをしてもらうということで時間が結構とられた。毎日投稿するのはやはり結構大変だけど、学生時代のレポート作成を考えれば、できなくもない。投稿日によって内容のレベルや質に変動があるのはご容赦願いたい。今日はこれぐらいにしたい。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございます。
拝