アルタイ語系のチェルク語に影響を受けたハンガリー語と日本語が似ているのはアルタイ語族仮説の証左か。

はじめに

言葉はミステリーだ。日本語は孤立した言語のように言われるが、調べるとそうでもないようだ。そもそも言葉が急に出来上がるわけがない。日本語の起源は諸説がある。そのうちの一つがアルタイ語族仮説だ。これは、日本及び琉球を同じ系統の言語として、日琉語族と呼ぶ。ジャポニック語族ともいうようだ。日本の国語学者故大野晋さん(1919-2008)の図書を好んで読むが、例えば、「日本語はどこからきたのか」では、インドのタミル語との類似性を指摘している。タミル語は古代シュメール語との類似性が研究されているし、九州大学の板橋教授は、「シュメール語は日本語,アルタイ諸語と同系か」でその類似性を指摘している。言葉には、歴史があるし、ドラマがある。今日はそんな世界を少しトライしたい。

日本語と構造が似ている言語

私は本を読みます。英語では「I read a book.」となる。文法的に言えば、日本語はS(主語)O(目的語)V(述語=動詞)だけど、英語はSVOとなる。中国語もフランス語もSVOだ。日本語に似た言語がないのかと調べると、イラン語も、ヒンディ語もネパール語もハンガリー語もSOVだった。言語学者ジョーゼフ・グリーンバーグによると、語順による比率は、SOV型が世界の約50%、SVO型が約40%、VSO型が約10%という。
出典:難度海雑纂2

日本語と英語でもよく似た発音がある

道路とRoad、坊やとBoyは似ている。たまたまなのだろうか。世界の言語をみると、中国の周辺の国々には意外と日本語と同じSVO型が多い。具体的には、アイヌ語、朝鮮語、ツングース系満州語、 モンゴル語、ウイグル語、トルコ語、インドイラニアン諸語、ドラヴィダ諸語、 フィンランド語、ハンガリー語、チベット・ビルマ諸語などだ。

世界の言語構造の分布図

SVO型がオレンジ、SOV型を緑にして世界地図にプロットしたものだ。マイナーだけどVSO型やOVS型もあるのが面白い。日本語を代表とするSOV型は図を見るとアジア、オセアニア、南北アメリカなどにも分布している。これを見ているだけで妄想が広がる(笑)。
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出典:共同体社会と人類婚姻史

ハンガリー語との類似点

自分はまだハンガリーに行ったことがない。機会を作って旅行したいと思う。パソコンのメモにハンガリー語との類似点を記録しているものがあった。ただ、この出典元をアクセスしても、現在は非公開となっていた。これが本当なのかどうかは時間をかけて精査する必要があるが、参考に巻末に引用する。大野晋先生によれば、言語と言語の類似性は単純に名詞で見るのではなく、基本語を精査すべきとある。基本語とは例えば歩く、食べる、座るなどの基本的な動詞だ。巻末に見るように結構基本語でも類似性が高い気がする。

ハンガリー語と日本語のオノマトペの類似性

ハンガリーは西暦896年に騎馬民族マジャル人が作った国だという。マジャル人の言語(=ハンガリー語)はウラル語族系であり、ウラル語族には、フィン・ウゴル語派(サーミ語、フィンランド語、エストニア語など)と、サモエード語派(ネネツ語など)に大別できる。エストニア人は、フィンランド人に近いため、バルト三国にまとめられるよりは北欧系にまとめられるのを好む。フィンランド人とエストニア人はそれぞれの言葉でもほぼ意思が通じるようだ。紀元前2000年ごろにフィンランド語・エストニア語を話す民族とマジャル族が分離した。また、紀元前1,000-500年頃に、マジャル人はアルタイ語系のチュルク語に影響を受けた。日本語もなぜかアルタイ語に酷似している。日本語とハンガリー語が近いのも何か歴史的な理由がありそうだ。
(出典:日本語とハンガリー語のオノマトペ比較に見える音感覚

まとめ

言葉には歴史がある。そして、それは過去の人々のドラマ抜きには語れない。隣接する国の言葉が全く異なるのは自国民と他国民を識別するためだ。同じ国でも地域地域で方言が違うのも仲間か外モノかを区別するためだろう。バルト三国を旅行した時に、エストニアとラトビアとリトアニアで言葉が全く異なっているのにびっくりするとともに、特に欧州の日本人と呼ばれるエストニア人と日本人は、DNAが近いような感じを受けた。以前、日本語とヘブライ語の類似性について投稿した。言葉のミステリー解明はライフワークにふさわしいテーマだ。コロナ騒ぎが治ったらまた海外に渡って諸外国を放浪してみたいと思う今日この頃だ。

参考)ハンガリー語と日本語の類似性

korai コライ :“古来”という意味の形容詞。
kucorog クツォログ :“一人で居る”という意味の動詞だが、“くつろぐ”と同じようなニュアンスがある。
mamma マンマ :“まんま”は日本語で“ご飯”の俗な言い方ですが、この言葉は“柔らかく煮た物”だけを意味します。
okol オコル :“叱る”という意味の動詞。正しい言い方ではないが、“誰かを怒る”という言い時の“怒る”
e エ :疑問文であることを分かりやすくするために、動詞に付きます。日本語でも、“え~”を疑問文の文末に付けることがありますが、相手を強く非難することになるので、ニュアンスが違います。例: “お前がやったんだろうが、え~”
ide イデ :“こちらへ”を意味する副詞。“出でよ”の“出で”。“Ide, ide!”で、意味は“こっち、こっち”になるが、“おいで、おいで”の音に近い。
cuppog ツッポグ :泥から足を抜くときの音。福島の方言で雪に足が潜る音は“つっぽぐる”と聞いたことがある。
kan カン :動物の“オス”を意味する名詞。“暴漢”のカンか。
utál ウタール :“utál”は、“あたる”にあたります。ハンガリー語で言うと、“Ataruutálra utál.(アタル ウタールラ ウタール)”だ。“文献にあたる”でも、これを使う。
vatta ヴァッタ、ワッタ :“綿(わた・めん)”を意味する名詞。でも、ドイツ語でも似たような音だったと思う。
só ショー :“塩”を意味する名詞。
táj ターイ :“地域”という意味の名詞。“熱帯”“温帯”の“~帯”と同じような意味。ただし、使い方が違う。
szék セーク :“座るところ”を意味する名詞。音も意味も“席”に近い。
utó- ウトー :“後”を意味する接頭辞。“後(あと)”と音が近い。
tova トヴァ、トワ :“遠くの”という意味の形容詞。日本語の“とわ”のように、時間的に遠い意味でも使う。
okoz オコズ :“起こす”という意味の動詞。“事故を起こす”というときの“起こす”。誰かを“起こす”は違う。
új ウーイ :“新しい”“新鮮”という意味の形容詞。“初(うい、うゐ)”、“初々(ういうい、うゐうゐ)”しいと、音も意味も近い。旧仮名遣いで書くと、“j”が“ゐ”になるのがポイント。
áll アール :“立つ”“立っている”という意味の動詞。建物が“ある”場合にもこの言葉を使う。
ül イゥル :基本的な意味は“座る”という意味。しかし、限定的ながらも、“居る”という意味でも使う。
hull フッル :“舞い落ちる”“降る”という動詞。“Hull a hó(フッルアホー)”“雪が降る”のように、雪の場合は“降る”の意味で使う。
gurul グルル gurít グリート :“回る”という動詞。音は“ぐるり”に近い。
kicsi キチ :“小さい”という形容詞。服を試着して小さい時に“きつい”と言う意味で使える。
apa アパ anya アニャ :“お父さん”“お母さん”を意味する名詞。北東北で“お父さん”、“お母さん”はと言えば、“あや”“あっぱ”だ。ハンガリー語では、“アパ”“アニャ”になる。
sótlan ショートラン :“味が薄い”という形容詞。発音はやや違うが、状況で“塩足らん”でも十分通じる。
kor コル :“時代”“頃”と言う意味の名詞だ。
cici ツィツィ :“おっぱい”のことだが、英語やドイツ語でも似たような音なので、ハンガリー語に限った話ではない。
takar タカル :“覆う”という意味の動詞。日本語の“たかる”は、“鳥がたかる”“人がたかる”など、集まるという意味だ。
szagol サゴル :“嗅ぐ”という意味の動詞。“探る”とは意味が違うが、犬の場合、においを嗅いで探るので、ニュアンスが近い。
csoszog チョソグ :“ちょこちょこ動く”と言う意味の自動詞。北海道や東北で“ちょす”は“(物を)動かす”という意味の他動詞だ。
jár ヤール :“通う”という意味の動詞。他動詞と、自動詞の違いがあるが、“遣る(やる)”に似ている。
száll サーッル :“飛ぶ”という意味の動詞。少し強引だが、いなくなるということでは、“去る”と近い。
kór コール :“病気”という意味の名詞。肩が“こる”のは病気か?
mond モンド :“言う”という意味の動詞。“問答”と似ているが、意味が違う。
már マール :意味は“もう”。言うときに、最後の“r”は落ちる場合があり、例えば、“Gyere mar!(もう来なさい)”は最後が“マー”になる。これは、福井弁で、せかすときに使う終助詞“ま”と同じように聞こえる。例:はよ、しねま(意:早くしなさい)
jó ヨー :“良い”という意味の形容詞。“赤”→“赤し”→“赤い”と同じように“良い”も変化した。
víz ヴィーズ :“水”を意味する名詞。“ヴィ”と“み”の違い。
üt イゥト :“打つ”という意味の動詞。“ü”も“t”も日本語にはない音ですが、“う”と“つ”に近い音だ。
szakad サカド szakít サキート :“裂く”という動詞。“裂か(ない)”、“裂き(ます)”と音が近い。
harag ハラグ haragos ハラゴシュ haragszik ハラグスィク :“怒り”という意味の名詞と、“腹が立っている”という意味の形容詞と“腹が立つ”という意味の動詞。“harag”は“腹が”と音が近い。
szigorít スィゴリート szigorú スィゴルー :“厳しくする”という動詞と、“厳しい”という意味の形容詞。誰かを“しごく”という意味。
ugral ウグラル :“跳ぶ”という意味の動詞。“上がる”に近い。
kér ケール :“ください”、“して欲しい”という意味の動詞。東北で“~けれ”と言えば、“~下さい。”と言う意味だ。
megoszt メゴスト :“こぼす”という意味の動詞。北海道の方言で“こぼす”は“まがす”と言うそうです。ちょっと音が近い。
csinál チナール :“する”という意味の動詞。福井の方言で“する”の丁寧語は、“しなる”。“チ”と“し”の違いが残念。
akar アカル :“~したい”という意思を示す動詞。“食べたがる”“欲しがる”の“がる”が“akar”と近い。
kettő ケットゥー :“2”の数詞。名古屋弁で“自転車”は“ケッタ”。“自転車”は“二輪”だから“2”。
béka ベーカ:“カエル”を意味する名詞。北東北や佐賀県で“カエル”は“ビッキ”と言うそうでだ。
sapka シャプカ:“帽子”を意味する名詞。秋田県では“帽子”を“しゃっぽ”と言うそうだ。でも、フランス語の“chapeau”(シャポー)の方が音が“しゃっぽ”に近い。
arc アルツ:“顔”を意味する名詞。逆の順番で書くと“cra(ツラ)”となり、意味が一致する。

以上

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