はじめに
東京大学大学院の科目履修生として、2022年の春期には2科目を履修している。一つはAI関連で先に投稿した。もう一つがメディアコンテンツだ。メディア系のさまざまな企業の第一線で活躍される方々をゲスト講師としてお話を聞ける貴重な機会だ。今回はDMM GamesでVR Gamesを推進する藤井室長のお話を拝聴した。担当教授である相澤清晴とや喜連川優と藤井室長とのやりとりなども興味深かった。簡単にレビューしておきたい。
学部横断型プログラム
GCL
メディアコンテンツは、GCL特別講義Iの位置付けだ。GCLとはグローバル・クリエイティブリーダの略で、東京大学での学問分野の垣根を超えた学際的な取り組みだ。ステークホルダーのコンセンサスを得て、世界トップレベルの専門家集団を率い、戦略的プロジェクトマネジメントのもとに、オープンスパイラル型の実践方法論で強靭に推進•達成する能力等を有するリーダを育てるという壮大な構想だ。
(出典:東京大学)
指導教官
メディアコンテンツの指導教官は、相澤清晴教授と喜連川優教授だ。相澤教授は1983年に東京大学工学部を卒業後、イリノイ大学の客員助教授などを経験して、2006年からは情報理工学研究科の教授として、画像処理系の研究に牽引されている(出典)。一方、喜連川優教授は大阪市の出身で1978年に東京大学工学部を卒業後、生産技術研究所のセンター長を経て、国立情報学研究所所長を歴任されている。専門分野はビッグデータやデータベース。電子情報通信学会東京支部長や情報処理学会会長も歴任されている。年代的には、自分が師事した秋山稔先生や浅野正一郎先生とも面識がありそうな感じがする。
講義の進め方
開始時間がよく分からず18:30にログインしたらほとんど誰もいなかった。授業開始直前には、18:43の49名から18:45の90名まで一気に受講者が増えた。講義は、18:45開始で講演1時間、質疑応答30分という流れだ。4月はオンラインによる講義だけど、5月からはハイブリッドとなる。できれば講義をリアルで受講したいと思う。受講レポートを翌週の月曜日の17時までに提出することが求められている。前期に脳型情報処理機械論を受講したときには、基本英語だったし、脳の仕組みの話など専門外の話題が多く理解を深めるのが大変だった(参考)けど、今回は日本語だし、専門分野にも近いので分かりやすいし、気づきの多い講義だった。ありがたい。
藤井隆之室長
本日の講師は、DMM GAMES VRゲームプロジェクト室の藤井室長だ。コンソール制作・販売が20年と経験豊かだ。そのうち海外での制作も5年ほど対応されていた。だから英語も上手なのだと納得した。今日はVRゲーム制作から見たメタバースの現在と未来予想がテーマだ。
(出典:ファミ通.com)
今回の講義で理解した内容
藤井室長は短いキャッチーな言葉で注意を引き付けながら講演を展開していくのが得意技のようだ。非常にテンポ良くて、分かりやすい。
面倒臭いを解決する便利さ
必要は発明の母と言うが、藤井室長はめんどくさいを解消することでメディアやSNSが進化してきたと説明された。確かにその通りだ。会いにいくのが大変なので手紙ができた。手紙を書くのが大変なので電話ができた。電話しても繋がらないのでどこでも繋がる携帯ができた。話すのが面倒なので、チャットやSNSができた。自分も人一倍「めんどくさがり」なので、この論法はよく理解できる。共感しかない。
(出典:笑うメディア)
デジタルで集う
ヒトはなぜ集うのか。ヒトが集うのはヒトの本能だと説明された。ヒトは本来それほど強い生き物ではない。でも、言葉を使い、仲間とコミュニケーションを取りながら、助け合うことで生き延びてきた生物だ。特にこのコミュニケーション能力は男性よりも女性が高い。VRやメタバースなどでも女子高生(JK)など若い女性が飛びつくような仕組みができればそれがデフォルトになるのだろうと思う。
(出典:Insta Lab)
百聞は一見に如かず
百聞は一見にしかずという。あれこれ噂を聞くよりも実際に会いに行って、自分の五感で確かめた方が早いし確実だ。ただし、眼に見えていることは事実とは限らない。クリス・フロスの著書「心を作る」では、「実際に視野に入っていても、認知していないものは見えない。」、「知覚しているのは、実際の世界ではなく、脳内の世界モデルである。」、「真っ赤なトマトの色を見ていると思っていても、それは現実の色ではなく脳が予測した色である。」などの表記がある(出典)。その意味では、VRやメタバースの機能を高めることも大事だけど、本当のポイントは技術的なことではないのかもしれない。侘び寂びを知らない外人は畳の香りから何も感じないという。それはそうだろう。
(出典:column)
未解決課題はVR酔い
自分は経験はないけど、VRを長時間使っていると感覚がおかしくなって酔ったような状態になることをVR酔いというらしい。前澤友作は宇宙船で頭をたとえば時計方向に回転させると、地上ならリンパ液は一瞬動いて止まるけど、宇宙では重力がないのでリンパの液が回ったままになり、水平感覚がおかしくなるそうだ。ただ、これも慣れが解決する。たとえば、フィギャースケートの選手やバレリーナはこのような状態でも正常な感覚を維持するのではないだろうかと想像する。未解決課題の答えは慣れだろうか。
(出典:Solid Sphere)
VRとAR
VRは実際の視界を完全に遮るため危険な側面がある。つまり、リアルな世界で段差があったり、壁があったりするとそこで躓いたり、ぶつかったりして怪我をする可能性がある。その意味では拡張現実(AR)の方が、リアルな世界にバーチャルな世界を加えるので安全かもしれない。安全と言えば、VRを活用して、リアルだと危険な場所をバーチャルに再現して訓練するような用途も実用化されているようだ。
(出典:日刊工業新聞)
未来はチョットヨクワカラナイ
携帯・スマホは20年で1000倍の性能に進化した。利用者のニーズは小さく、軽く、薄くだけど、同時に画面は大きくだ。このため、一部のベンダーでは折り畳みのスマホなどを発売しているが、市場はまだ大きくは動いていない。アップルがたとえばiPhone-Wとして折りたたみを出せば、日本の消費者は使い出すかもしれない。残念ながらサムスンや華為ではイノベータ層が試しに使う程度だろう。信頼性と安定性と耐久性と価格のバランスの取れた商品が投入されるのはまだ数年先だろうか。個人的にはスマートグラスのリベンジにも期待したいけど、なかなみ未来は見えない。
(出典:Yahoo News)
想像力と創造力
藤井室長は講演の最後に、大事なことは想像力と創造力であると説明された。想像力は英語では”Imagine”なので、イメージする力と言える。一方の、創造力は英語で”Create”だ。つまり、世の中にないものを創り出す力だ。その意味から言えば、困ったり、面倒臭いと感じたことをどのようにすれば解決するのだろうと考えることが創造力であり、それをどのように実現するかをイメージする力が想像力と言える。左脳と右脳が連携して、創造と想像をコラボさせる。これができれば最強だろう。
(出典:日本社会事業大学)
質疑応答
乳牛への応用
ロシアでは乳牛にVRを装着する実験を行ったところ食欲が増進して1日に22リットルの牛乳しか取れなかったのが27リットルも取れるようになったという。日本でも乳牛は広い牧場ではなく、工場のような場所でカプセルホテルのように仕切られた狭いところで養育されていることが多いようだ。せめて、VRで雄大な牧場で幸せに暮らしているという錯覚を抱かせることができれば、牛は刹那的だけど幸せを感じて食欲も増進するのだろうか。そんなことを質問しようとしたけど、途中で間違って送信してしまった。最初の質問に取り上げてもらった。藤井室長からは、農学部などと連携して、実験するのは面白いのではないかと肯定的なコメントをいただいた。VRでなくてもたとえば養鶏場の壁にプロジェクションマッピングで鶏が自由に駆けめぐれるような空間をバーチャルに提供したりすると効果はあるのだろうか。都会のカラスの撃退にも天敵が近づいてきたような映像と音を組み合わせれば効果はあるかもしれない。リアルな課題をバーチャルな仕組みで解決するのは痛快だ。
(出典:engadget)
スポーツへの応用
VRやARをスポーツに活用するのは有望だし、実際さまざまなスポーツへの応用やゲームも検討されているようだ。スポーツの世界で頂点を極めるのは大変なことだが、頂点に近づくほど対戦相手がいなくなる。しかし、バーチャルな世界であれば、世界チャンピオンと対戦することも可能だ。個人的には、ゴルフのスウィングの矯正などのレッスンに活用すれば効果も大きいと期待する。仕組みをしっかりと作ればビジネスにもなりそうだ。
(出典:DCD Blog)
感想
メタバースはバズワード
facebookはメタバース企業へのピボットを目指して社名をMetaに変更した。現時点で年間1兆円以上の投資を行い、さらに投資を加速する見込みだ。センセーショナルに打ち出したLibraプロジェクトも、世界の中央銀行や既得権益の壁を崩せず、Diemに名称を変更して再チャレンジするが、トーンダウンは否めない。FBがmetaに社名変更して、うまく19億人の利用者をメタバースの世界に引き込めるかどうかは容易ではない。なぜならFBに求めることと、ホライゾンワールドに求めることは同じではないし、どちらかと言えば全く異なる。前途多難だろう。
(出典:4gamer.net)
大事なことはビジネスモデルと市場戦略
世界中のIT企業がメタバースに将来の可能性をかけて勝負をかけてくる。大事なことはビジネスモデルをうまく構築できるか。主要のターゲットセグメントをどこに置くか。ゲームの前提だと男性の若者のイメージだけど、若い女性が夢中になるようなコミュニケーション型のメタバースを実現できるかどうかがポイントな気がする。韓国企業は、そもそも韓国の国内市場が小さいので、最初からグローバル市場をターゲットにする。日本企業も国内市場だけではなく、世界市場を最初から狙って戦略を打つべきだ。日本経済新聞の私の履歴書(3月)でMetaMoJiの浮川和宣社長が、起業時の目標を日本一ではなく、世界一にしておけば、また違う世界だっただろうと書いていたことを思い出す。
柔軟な発想とあほな行動が大事
1990年代中盤から2010年代中盤生まれの世代をZ世代という。このZ世代は生まれた時からiPhoneがあるようなスマホネイティブだ。頭の固い大人と違って柔軟な発想で新しいことにチャレンジしてほしいし、このGCL講座もそんな学際的な活動をリードする人材の育成を狙っている。専門性を高めることも大事だけど、複数の専門バカが集まって、一見アホなことのように見えることを真剣に極めると何か面白いことが産まれるものだ。そんな経験はこれまでもしてきたけど、まだまだこれからもあると信じたい。
まとめ
今回はGCLの特別講座I「メディアコンテンツ」の最初の講義を拝聴した。いろいろなことを考えさせる大変貴重な講義だった。講師の藤井室長に敬意を表したいし、相澤教授と喜連川教授にも感謝したい。来週以降も興味深いゲスト講師陣の予定が決まっている。もう期待と楽しみしかない。次回もよろしくお願いします。
以上
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
拝