はじめに
昨日12月17日(金)は、第11回目の脳型情報処理機械論の講義を受講した。事前に予習した通り、キーワードはIITとクオリアだった。予想していた内容だったし、事前に予習したつもりだったけど、内容はなかなか難解だったけど要所要所でまとめ(outline)があり、工夫頂いていたので理解には助かった。
その1:意識の数学的理論の予習(前回)
その2:意識の数学的理論IITを紐解く(⇨ 今回)
その3:クオリアについて紐解く(次回)
意識とは
講義の中では意識とは何かという問いに対して次のような説明があった。眠ると消えるとあるが、夢の中での経験は意識ではないかと思う。まあ、細かな部分は抜きにして、これはこの通りだろう。
意識は主観的な経験である。
Consciousness is subjective experience.
私たちが眠ると消え、目覚めると再び現れるものである。
It is what vanishes when we sleep and reappears when we wake up.
物体の色と形などの物理的現実とそれを光という電磁波を通じて眼球が捉え脳細胞で主観的世界を認識する。実際に目に見えるものと意識の中で見ていると認識しているものは同じではない。DNAの二重螺旋構造を発見したイギリスの科学者フランシス・ハリー・コンプトン・クリック(Francis Harry Compton Crick, 1916年6月から2004年7月)は、1994年に、驚くべき仮説という図書を残した。
(出典:アマゾン)
驚くべき仮説(Astonishing Hypothesis)
この著書の中でフランシス・クリップは次のように述べている。魂とは何か?生物は肉体と魂との合体と述べていると理解する。面白い。魂から連想するのがソマチットだけど、これは別に投稿したので割愛する。
「魂とは何ですか?」に対して、魂とは、肉体を持たず、理性と自由意志を持った生き物のことです。「驚くべき仮説とは?」に対して、あなたの喜びや悲しみ、記憶や野心、個人的なアイデンティティや自由意志の感覚は、実は膨大な数の神経細胞の集合体とそれに関連する分子の振る舞いに過ぎないというものである。ルイス・キャロルのアリスなら、こう言ったかもしれない。”あなたはニューロンの群れに過ぎない “と。この仮説は、今日生きているほとんどの人々の考えとはあまりにもかけ離れており、まさに驚くべきものと言える。人間が世界の本質、特に自分自身の本質に興味を持つことは、どんなに原始的な民族や部族であっても、何らかの形で見られることである。それは、人間の丁寧な埋葬が広く行われていることから判断すると、文字による記録が残っている最も古い時代にまで遡り、それ以前からほぼ間違いなく続いている。多くの宗教では、肉体の死後もある種の霊魂が存在し、ある程度その人間の本質を体現していると考えられている。その霊がいなければ、肉体は正常に機能することはできない。人が死ぬと魂は肉体から離れるが、その後どうなるかは、魂が天国、地獄、煉獄(れんごく:purgatory)に行くのか、あるいはロバや蚊に生まれ変わるのか、特定の宗教によって異なるのである。キリスト教の聖書とイスラム教のコーランを比較すると、すべての宗教が細部にわたって一致しているわけではありません。宗教の違いにもかかわらず、少なくとも一つの点では広い合意がある。それは、単に比喩的な意味ではなく、文字通りの意味で、人には魂があるということです。このような信念は、今日生きている人間の大多数が持っており、多くの場合、強く、積極的に持っています。
意識の問題の3つのカテゴリー
下の図は前回の投稿でも引用したが東京大学総合文化研究科の大泉研究室を率いる大泉准教授の持論だ。これまでの神経科学では外界の赤いリンゴを見て、脳の神経細胞のシナプスが発火してと脳活動を分析する。しかし、意識の数理理論では、脳活動で生じる神経細胞集団の電気信号から主観的な意識を導出することが目的だ。意識の問題には3つの分類があるという。一つ目は量的なレベル。眠っているか、起きているか、微睡んでいるか。2つ目は質的意識、つまりクオリアだ。色とか形とか香りとか。3つめは意識の場所や境界線だ。脳のどこで活動しているか。
(出典:東京大学)
統合情報理論(IIT:Integrated Information Theory)
IITとは
IITの提唱者は、米国の精神科医・神経科学者であるジュリオ・トノーニ(Giulio Tononi, 1960年生)だ。イタリアのトレント生まれのトノーニは、1985年にイタリアのピサ大学で精神医学の学位を取得後、陸軍で軍医として勤務し、睡眠の調節に関する研究で1989年に神経科学の学位を取得した。その後 アメリカに渡り、1990年から2000年まで、ジェラルド・エーデルマンの設立した神経科学研究所で研究を行う。2008年現在ウィスコンシン大学マディソン校の精神医学科教授として、睡眠医学の講座や意識科学の特別講座を持っている。2004年には、意識の数学的理論「統合情報理論(IIT)」を提唱し、その記号は「Φ(ファイ)である。統合情報理論では、物質としての脳からどのようにして主観的な意識経験(クオリア)が生じるのか、これを情報理論における情報量の観点から理論化している。米国の神経科学者クリストフ・コッホは、トノーニの統合情報理論に関して「意識についての、唯一の真に有望な基礎理論だ 」と2010年に述べている。
(出典:center for sleep and consciousness)
情報という観点から意識の量と質を数学的に定量化する試み
講義では意識の理論を構築するための4つの仮説について説明があった。次の4つだ。情報は本質的なものであり、情報がどのように生成されるかは、意識には関係ないとされる。
・ステップ1:本質的な性質を特定する。自分自身の意識の観察から、意識の本質的な性質を特定する。
その過程は情報、統合、除外、構成の4つに分解できる。
当日の投影では、情報、統合、構成、除外の順番だった。
・ステップ2:仮説の導出。本質的な特性Cに基づいて仮説を導き出す。
講義では、マトリックス(TPM)を用いた状態遷移を用いていた(参考)。
・ステップ3:数式で仮説を記述する。
・ステップ4:意識とは何かを数学的理論で解明する。システムの因果構造は意識の質に対応する。
ネットワークは構成性で意識を生成する。
他の理論との対比
意識を理論化するアプローチはIITのみではない。次のようなアプローチもある。それらとの対比に挑戦するのも面白いかもしれない。
グローバルワークスペース論(GWT:Global Workspace Theory)
人工知能には、シンボリズムとコネクショ二ズムという2つの流れがある。ディープラーニングなどのアルゴリズム後者のコネクショニズムだ。一方、詳細は割愛するがGWTは前者のシンボリズムだ。
(出典:人工知能のための哲学塾)
高次元思考論(HOT:Higher-order thought theory)
意識の高階表象理論はある心的状態を意識的なものとするメタ心的状態の様態の違いに応じて高階知覚理論(higher-order perception theories)と高階思考理論(higher-order thought theories)に二分される。詳細は割愛するが、後者はさらに現実主義高階思考理論(actualist higher-order thought theory)と 傾性主義高階思考理論(dispositionalist higher-order thought theory)に区分される。
(出典:東北芸術工科大学)
予測符号化(Predictive Coding)
予測符号化 (predictive coding) とは脳科学における新皮質の理論仮説の予測符号化(predictive coding)であり、画像符号化の手法ではない。脳は不良設定問題 (ill-posed problem)を解けると言われる。不良設定問題とは、問題を解くための条件が不足している問題のことだ。これを解く鍵が予測符号化のようだ。詳しくは別途。
(出典:知識のサラダボウル)
まとめ
外出時に迂闊にもpcの充電器を忘れた。バッテリーも残り少なくなってきたので、今回はここまでとする。第11回講義のIITについて少し理解を深めた。次回はクオリオについての理解を深めたいと思う。
以上
最後まで読んでいただきありがとうございました。
拝
次回:クオリアについて紐解く
・クオリアの構造
・クオリアと情報構造の対応関係
・5つのステップ
ステップ1:本質を見極める。
ステップ2:仮説を導き出す
ステップ3:仮説を導き出す
ステップ4:予測の検証
ステップ5:意識を評価する。