ノーベル物理学賞受賞の真鍋淑郎さんの凄いこととよく分からないこと。海進は起きるのか。

はじめに

愛媛生まれの真鍋淑郎さんがノーベル物理学賞を受賞した。幼少から気象に関心を持ち、東大からプリンストン大学に移り、大気と海洋を組み合わせた地球規模の大循環モデルを構築し、実証した功績は大きい。特に真鍋氏は、1次元の放射対流平衡モデルをもとに計算を行い、二酸化炭素濃度(CO2)の増加が当時の濃度の約2倍(600ppm)となると、地球の平均気温が2.36℃上昇するという結論を出した。CO2の濃度が増加すると、気温上昇と水循環の活発化、成層圏の寒冷化、極域でのより強い温暖化などが起こることなどを明らかにした。この成功によって大循環モデルは気候モデルへと発展し、今日の気候研究を支える基盤となった。今回はそんな真鍋氏の功績の凄さを紐解くとともに、難しくてよく分からない点を自問自答した。

ノーベル物理学賞受賞

米国プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎さん(1931年9月21日〜)とドイツを代表する海洋学者であるクラウス・フェルディナンド・ハッセルマン(1931年10月25日〜)とイタリアの理論物理学者ジョルジョ・パリージ(1948年8月4日〜)の3名が2021年のノーベル物理学賞を共同で受賞されたことが10月5日に発表された。真鍋さんは、昭和6年に愛媛県宇摩郡新立村にて、村で唯一の医院の息子として生まれた。子供の頃から気象に興味が強かったようだ。今回の受賞は、地球の気候変動など、複雑な仕組みを理論づけたことが評価された。子供の頃の興味を生涯現役で貫かれたと言うことか。素晴らしい。賞金の1000万スウェーデンクローナ(約1億2000万円)は3名で分けられるようだ。真鍋さんらの研究ではCO2の排出量と温暖化の関係も解明されており、その意味では11月に英グラスゴーで開かれる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向けて各国の行動を後押しすることになりそうだ。

(出典:bbc)

研究の内容

気候モデルとは大気や海洋などの中で起こる現象を物理法則に従ってデータ化し、擬似的な地球をシミュレーションする計算プログラムと言える。現在の気候モデルの計算は膨大な量のデータが必要だるため、AMD社製CPU、NEC社製Vector Engine、NVIDIA社製のGPU A100などを組合せた地球シミュレータ(ES4)などのスーパーコンピュータを活用する。気候モデルには、地球の気候をそのままシミュレーションする全球モデル(GCM:Global Climate Model)と、日本付近のみなど領域を区切って機構をシミュレーションする領域モデル(RCM: Regional Climate Model)がある。気候モデルには次の3ステップがある。まずそこには自然がある。そして、自然には物理が宿り、物理には数式が宿る。さらに、数式は近似され、近似された数式をコンピュータが解く。

(出典:気候変動適応情報プラットフォーム)

大循環モデル(general circulation model)

大循環モデル(GCM)は、大気大循環モデルと海洋大循環モデルを組み合わせた総合的に機構を予測するモデルだ。大気大循環モデルでは、全球の大気の変動やプロセスを考慮して、大気の状態の時間変化を計算する。一方の海洋循環モデルでは、海洋を経度・緯度・深さ方向に格子状に分割し、各格子点に温度・塩分・速度などの値を割り当て、その値の変化を物理法則に則って計算する仕組みだ。そして、大気と海洋は相互に密接な関係がある。近年では、海や陸の炭素循環、大気の微量物質間の化学反応などを含んだ気候モデルを総称して地球システムモデル(ESM:Earth System Model)と呼ぶ。日本では海洋研究開発機構や気象庁気象研究所などが開発を進めている。第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5:Coupled Model Intercomparison Project Phase 5)の結果は、IPCCの第5次評価報告書にも利用されている。

(出典:つくばサイエンスニュース

地球システムモデル

地球システムモデル(ESM)とは、大気、海洋、陸面、氷などを含む各種気候の重要な駆動源の相互作用を定量的にシミュレートするものだ。ESMでは、土地利用など、他の種類のモデリングを連動させて、気候と生態系の相互作用を予測する。定量的な気候モデル(Quantitative climate models)は、太陽から入ってくるエネルギーと、出ていく電磁放射を考慮し、物理学、流体力学、化学の基本法則に基づいた微分方程式のシステムで計算する。大気モデルでは、各グリッド内の風、熱伝導、放射、相対湿度、表面の水文学を計算し、隣接する地点との相互作用を評価する。

(出典:Climate model)

研究成果と凄いこと

大気と海洋のGCMにチャレンジ!

大気のAGCM(Atmospheric GCM)と海洋のOGCM(Oceanic GCM)を組み合わせて、地球モデルを構築した。この開発は、アメリカ気象局のスマゴリンスキー(Joseph Smagorinsky)を指導者とする大循環研究部(General Circulation Research Section)が1955年に設立された。この研究部は1959年にワシントンで大循環研究所(General Circulation Research Laboratory)となり、さらに1963年にプリンストン大学に移って地球物理学流体力学研究所(Geophysical Fluid Dynamics Laboratory: GFDL)となる。スマゴリンスキーは1959年に東京大学から真鍋淑郎を招聘し、真鍋氏と協力して1963年に9層大循環モデルを作った。真鍋氏はGFDLでの大循環モデルの開発を主導し、二酸化炭素を倍増させた大循環モデルや、大気と海洋と結合させた大循環モデルを開発した。米国の研究体制と日本人の叡智の組み合わせによる成果と言える。65年から58年ほど前のドラマだ。コンピュータもまだまだ黎明期の時代によく開発したと感心する。ある種の冒険心と無謀さがないと取り組めない研究テーマだったと思う。

しょぼいコンピュータを駆使!

真鍋氏がGFDLで大循環モデルを計算するときに活用した最初のコンピュータはユニバックの1108だった。1964年にリリースされた最初のマルチプロセッサ機だ。3台のCPUと2台の入出力制御装置(IOC)から構成する。主記憶は8ポートにアクセスが可能で、各CPUがアドレスとデータで2ポート、IOCが1ポートを使用した。当時の記憶装置のサイズは、なんと0.5メガバイトだった。このため、大気モデルを1回実行するのに20分ほどかかった。現在、NOAAの地球流体力学研究所(GFDL)に設置されている最新機は初期の1108の10万倍以上の演算能力を誇る。自分も学生時代に印鑑の照合を行うプログラムを開発し、母校の三菱電機製の電子計算機で処理すると夕方から早朝までかかったが、京都大学の当時の最新機では数秒で処理が終わった。これでは勝負にならないと思った。NOAAの最新コンピュータのメモリーは2,000テラバイトなので40億倍だ。現在の科学者は気候変動を調査するために世界の気候データを週単位や日単位で保存できる。将来はリアルタイムになるのかもしれない。

(出典:A-PLAT)

よくわからないこと

CO2は空気中の僅か0.04%

乾燥した空気中には、モル分率(分子数)で窒素78.08%、酸素20.95%、アルゴン0.93%、二酸化炭素0.04%、その他少量のガスを含んでいる。窒素分子(N2)は重いので100kmまではほぼ8割を占めている。熱圏(80〜700km)のうち特に300kmではアルゴンが約8割を占める。さらに外気圏(700〜10,000km)のうち特に600kmでは窒素原子(N)が8割を占める。さらに上空になると非常に軽いヘリウム(H)の比率が増大する。しかし、問題の二酸化炭素は空気より重いので地上3km程度までに分布している。つまり、地上にへばりついている感じだ。CO2などの温暖化ガスがオゾン層を破壊すると言われるが、このオゾンとは酸素原子3個からなる気体であり、高度10~50kmまでの成層圏には大気中のオゾンの90%が集まるオゾン層がある。CO2は地上3km程度ではなく、10〜50kmまで拡散するのだろうか。CO2の濃度は現状0.04%だ。1960年台の0.03%程度からは増加しているとはいえ、なぜCO2の濃度がこれほど問題になるのか。台風でも来れば一発で大気が循環するのではないか。


(出典(左):SciTechDaily、出典(右):Atmosphere of Earth)

温室効果ガス

二酸化炭素などの温室効果ガスは赤外線を吸収する分子構造を持っている。分子を構成する原子間の結合はピアノの弦の音程のように特定の周波数で振動する。光子のエネルギーが分子の振動数と一致すると光子が吸収され、そのエネルギーが分子に伝達される。温室効果ガスは3つ以上の原子を持ち、地球から放射される赤外線に対応する周波数を持っている。逆に、分子内に原子が2つしかない酸素や窒素は赤外線を吸収しないため、太陽からの短波放射はほとんど吸収されずに大気中を通過する。しかし、放射される赤外線のほとんどは、大気中の熱源となる温室効果ガスに吸収される。吸収した熱は再放射する。一部の熱は地表に戻り地表の温度を高める。曇りの日は暖かいけど、快晴の日は寒いのはこのような温室効果ガスによる影響と言える。しかし、CO2は地表に近いので、全地球的な問題というよりは、より地域密接的な問題なのではないかという気がする。偏西風の影響で中国で発生したCO2が日本に移動する可能性はあるので隣国の動向には注意が必要だ。また、日本は海に囲まれた島国なので、日本列島で発生するCO2を抑制しても世界への貢献度は限定的なのではないだろうか。

なぜ北極のCO2濃度が高い

下の図(左)に示すように、北極の海氷の厚さを1950年代と2050年代で比較している。確かに厚さ5m程度から厚さ2m程度に減少している。真鍋博士は、ディック・ウェザナルド氏とともに大循環モデルを使って、地球温暖化という概念を検証した。その結果、気候変動が北極・亜寒帯地域は、他の地域よりも早くかつ劇的に影響を与えることが判明した。最近の研究では、極北の多くの地域で気温やその他多くの気候変数が著しく上昇している。下の図(右)に示すように1960年から1990年までに観測された地表面の気温の推移は、極域増幅(polar amplification)を示している。ただ、南極は大陸なので積滞した氷が溶けると海面が上昇するが、北極は海なので、海の氷が溶けても海面は上昇しない。温暖化とセットで海進が話題にならないのは、そのような理由なのかもしれない。

(出典(左):noaa、出典(右):A-PLAT)

CO2濃度と温暖化の関係は因果関係か?相関関係か?

過去100万年のアイスコアを調査すると、温暖な時期には二酸化炭素(CO2)の濃度が約0.028%と高かった。また、20世紀と比べて地球の気温が約4〜7℃も低い氷河期には大気中のCO2の割合は約0.018%だった。つまり、CO2の濃度が高い時は温暖で、CO2の濃度が低下すると寒冷になるという。しかし、これは因果関係ではなく、相関関係なのではないか。もっといえば、高温な時には地球も生物も活発に活動するのでCO2が高くなり、氷河期には地球も生物も活動が低下するのでCO2が低くなるという逆の因果関係かもしれない。二酸化炭素の排出量を抑制しなければ、2100年には大気中のCO2の割合が0.1%に達し、この大気の小さな一片が大きな問題を引き起こすと警鐘が鳴らされている。ただ、下の図は過去1万1千年ほどのグリーンランドの温度と大気中のCO2の濃度の推移だ。CO2は1.1万年前から7千年前ぐらいまでほぼ単調に減少し、その後増大している。しかし、温度の方はより頻繁に温度が上下している。また、CO2の推移と温度の推移に明確な相関関係があるとは思えない。特に、3000年前から1000年前まではCO2が上昇し、温度が低下しているので、長期的な構造ではない。温暖化の問題を指摘するならば、ここ数百年の急激なCO2の増加と気温の増加だけど、気温の決定要因には、太陽の活動とこれによる太陽光だろう。CO2などの温暖化ガスは、地球を温める機能があるわけではなく、太陽光のエネルギーを一旦吸収して再放射するものなので、本来は人類が暮らしやすいように温度変化を緩やかにしてくれる存在のようにも見える。もちろん、人類が人工的に生成するCO2などのガスは少ない方が大気も綺麗だし、健康的だし、賛成だ。確認すべきは、地球全体の気温が上昇しているのか、それとも熱帯エリアは温度が低下し、北極や南極などの寒冷地で温暖化しているのか。テレビや新聞の報道では前者のスタンスだけど、本当なのだろうか。この辺りは別途よく調べてみる必要がありそうだ。

(出典:skeptical science)

まとめ

真鍋氏がノーベル賞を受賞したのは日本人としても誇らしいし、嬉しい。また、人工的なCO2などの排気ガスを抑制するのは大賛成だ。今回まとめていて気づいたのは、温暖化が海進を引き起こすのではないかという危惧が杞憂かもしれないという点だ。縄文時代の6500年前には温暖化が進み、その結果海面が100mほど高かったというのは以前投稿した。そんなことが再発したら今の中国の東側はほぼ海の中だ。海面の上昇は地球全体の問題となる。しかし、温暖化が地球上で平均的に発生しているわけではなく、北極エリアを中心に温暖化が進んでいるとすれば、北極の氷が溶けても海面は上昇しない。もちろん、温暖化の影響は大きいが、海進の問題が発生するのかどうかの議論や研究は進んでいるのだろうか。地球システムモデルに海面のパラメータがどのように設定されているのだろうか。疑問は広がるばかりだ。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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