はじめに
前回は、日本における太陽光発電システムの導入や利用の概況を解説した。発電容量は指数関数的に増大しているが、このメガソーラは自然エネルギーであり、発電力を制御することは難しい。また、大規模の開発は環境破壊に直結するだけではなく、土石流などの災害の誘因にもなりかねない。ではどうするか。今回は、東芝が中心となって2025年を目標に開発を進めているペロブスカイト太陽発電の可能性と課題について解説したい。結論としては、夢が広がる。
その1:太陽光発電の現状と傾向 (前回の投稿)
その2:ペロブスカイト太陽電池(PSC)の可能性
太陽光発電の将来予測(億円)
現在の太陽電池は、ほぼ「結晶シリコン太陽電池」だ。これらに代わって、次世代太陽電池の開発競争が続いている。特に有望なのが、ペロブスカイト太陽電池(PSC:perovskite solar cell)だ。2017年の既存太陽電池市場は5兆7830億円で、これに対して次世代太陽電池市場は3億円であった。しかし、次世代太陽電池の市場は2030年には2,433億円まで増大すると予測されている。そのうち約1000億円弱がペロブスカイト太陽電池だ。課題はコストと効率だ。既存太陽電池の販売価格は数十円/W台だ。次世代太陽電池が当面狙うのは、IoT機器やゼロエミッションの「ZEB/ZEH」のための建材一体型太陽電池(BIPV)だ。
(出典:IT Media)
建材一体型太陽光電池(BIPV)
従来の住宅向けの太陽電池は屋根にパネルを設置する方式だ。現在、検討されている建材一体型太陽光発電(BIPV:Building-integrated photovoltaics)とは、屋根だけではなく、天窓や正面デザインであるファサードなどの建築材料に太陽光発電材料を組み込む方式だ。温室を囲むビニールを太陽光発電材料を組み込んだもので代替することで発電機能を備えた温室となる。BIPV型の素材を活用することで通常使用される建築資材や追加設置コストを削減する効果も期待できる。要は建設物の設計時から太陽光発電を組み込むという考え方だ。
(出典:S-Energy)
東芝がリードするペロブスカイト太陽電池
BIPV型の太陽光発電システムが普及すれば、山間部を再開発して台地にしてメガソーラを建設するのではなく、需要地の建物等で発電した電力をその建物内や需要地内で利用すれば良いので、無駄な送電システムが不要となる。まさに地産地消だ。ただ、既存のシリコン太陽電池ではこれを実現することが難しい。そこで期待されているのがペロブスカイト太陽電池(PSC)だ。
(出典:TOSHIBA CLIP)
ペロブスカイト太陽電池(PSC)と結晶シリコン太陽電池
ペロブスカイト太陽電池(PSC)の特徴は、発電層膜の厚さが1マイクロメータ(μm)と非常に薄いことだ。これは従来の結晶シリコン太陽電池の100分の1の薄さだ。なぜこれほど薄くできるのかといえば、結晶シリコンはウエアをスライスする構造だけど、PSCは材料に溶液を塗布する構造のためだ。
(出典:日経Xtech)
曲面に設置できるペロブスカイト太陽電池(PSC)
PSCは、すでに国内でも利用されている。それは長崎のハウステンボスにある「変なホテル」だ。ここでは、2018年12月から敷地内に、曲面の薄い壁のような形状の太陽電池を配置し、看板照明用の電源として使用している。これが、ポーランドのスタートアップ企業サウレテクノロジー社が開発したペロブスカイト材料でできた太陽光発電システムだ。
(出典:Nature Digest)
ペロブスカイト構造
PSCは、ペロブスカイト構造の化合物を集光活性そうとする太陽電池である。一般的には有機-無機ハイブリッドの鉛またはスズハライド系材料を用いる。メチルアンモニウム鉛ハライドや全有機セシウム鉛ハライドなどのペロブスカイト材料は,生産コストが低く、製造も簡単だ。実験室規模の太陽電池効率は2009年の3.8%だったが、単接合アーキテクチャ方式を採用することで2020年に25.5%まで向上した。さらに、シリコンベースのタンデムセルでは29.15%まで上昇した。今後、さらに高い効率を達成できる可能性があり、製造コストも非常に低いから今後の市場が拡大することが期待されている。
鉛を使わないペロブスカイト太陽電池
PSCは、このように製造が簡単で、発電効率も高く、適用場所が広がると期待されているが、課題もある。それは鉛を利用することだ。理化学研究所(理研)計算科学研究機構量子系分子科学研究チームの中嶋隆人チームリーダーらは、スーパーコンピュータ京を利用し、高効率な材料スクリーニングに基づいた探索により、PSCの新たな材料候補を発見した。近年では、ペロブスカイト結晶構造を持つ有機と無機のハイブリッド型ハライドペロブスカイトが注目を集めている。例えば、メチルアンモニウム鉛ヨウ素やホルムアミジン鉛ヨウ素といった鉛化ハロゲン化合物だ。鉛化ペロブスカイトは低コストで容易に合成できるが、鉛による毒性の問題があるため、非毒性元素を用いたペロブスカイト材料の開発が求められている。理化学研の研究チームは「二重ペロブスカイト」と呼ばれる「A2BB’X6型」の化合物を対象として、合計11,025個という膨大な数の組み合わせの化合物を選び出し、京を用いて、PSCに最適な材料を探索した。その結果、51個の低毒性元素だけからなる非鉛化材料の候補化合物を発見した。今後、より高効率な非鉛化PSC材料のシミュレーション設計が期待されている(出典)。
今後の太陽光発電の可能性
発電するボディ
PSCが実用化されれば、スマホの表面が全て発電可能な材料で覆われるかもしれない。電気自動車のボディをPCS対応にすれば、晴天時には発電・充電しながら走行することも可能かもしれない。
(出典:日経Xtech)
発電する道路
自動車道路や鉄道の線路が敷かれたスペースを活用してPSCで発電することも考えられる。PSCをサーファド(建材一体型)や舗装・防音壁道路でしようするも方法ある。オランダ・フランスなどではすでに、前実用化段階にきている。
(出典:極東極楽)
ひまわり型発電システム
太陽に追随するひまわりはすごいと思う。太陽の動きに合わせてPSC機能を備えたパネルを動かすことは可能だろうか。下の写真は、PSCではなく、高さ10m、40m2の集光面を太陽の位置に合わせて追随させる。晴天の日には12kWhの電力と20kWh相当の熱を供給することができるという。これほど大規模ではなく、高さ1m程度のひまわりがたPSCを大量に据え付けるようなアイデアはありだろうか。
(出典:IT Media)
課題
ペロブスカイト太陽電池(PSC)への期待が高まるが、課題はPSCの寿命だ。いかにして長寿命かを実現するかだ。以前、「液体ガラスで木材もコンクリートも長寿命化」について投稿したが、個人的には液体ガラスと組み合わせることで長寿命かできないかと考える。
まとめ
ペロブスカイトという用語を新聞で見たときには一度では覚えられなかった。ただ、その後、色々とペロブスカイト太陽電池(PSC)について調べると国内では東芝が頑張って特許を数多く申請していることがわかった。国産技術でPSCが国内外に普及する時代は来るのだろうか。太陽光発電をさらに効率的に活用するには、建材一体型太陽電池(BIPV)というコンセプトも重要だ。メガソーラだけを硬直的に考えるのではなく、PSCやBIPVなども積極的に取り込んで、環境に優しく、人にも社会にも優しいインフラを構築していきたいものだ。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝
- はじめに
メガソーラの弊害
太陽光発電の累積導入量(発電容量)
国土面積あたりの太陽光設備容量(発電量/面積)
地上設置と屋根設置のソーラ発電(申請・認定数)
住宅向けと非住宅向けソーラ(発電量)
都道府県別の住宅用太陽光発電補助金(件数)
モジュール単価の低減傾向(円/発電容量)
太陽光発電の将来予測(億円)
まとめ