(長文)修論のテーマを模索するために社会の各種課題の把握にトライ。

はじめに

この記事は、2020年2月12日にはてなブログに投稿した記事を一部アップデートしたものだ。当時は、MBAの修論の主査を担当頂く指導教授が決まる時期だった。それぞれのセミ生が考えているプロジェクトのテーマについて発表しあった。医療x観光のテーマ、大学経営x事務のテーマなどだ。自分は当時は貧困x幸福論=ベーシックインカムの有効性と限界のような研究テーマにしようと考えていた。それぞれメンバーが考えるテーマが異なるので、指導教授は大変だけど、それぞれ興味深いし、刺激になる。MBAでベーシックインカムはやはり異色だし、正直否定的な意見が多かった。まあ、そうだろう。事前のオープンドアで複数の教授に相談した。比較的前向きに捉えてくれそうな教授でも賛否は半々だった。何が問題かと言えば、仮設設定だ。どのような課題に対して、どのような仮説を設定して、それをどのように検証するのかというシナリオが見えない。関係する課題は広範囲なので、まずこれを絞る必要がある。そして、それに対する解決方法なり、仮説を設定し、それが本当に有効なことを示す必要があった。結局、テーマは二転三転することになるが、ベーシックインカムに関する研究や活動はライフワークとして続けていきたいと思っているし、当時検討したことをレビューするのも意味があるだろう。

幸福論と貧困問題

いろいろな教授に相談したが、必ず聞かれるのがなぜこのテーマを選んだのかだ。人によってはテーマを途中で変更する場合もあるが、基本的に1年間そのテーマを深掘りするので、壁にぶち当たる。展望が見えない。その時にどこまで頑張れるかは、やはりその動機がパワーの源泉となる。なので、いつも聞かれる。自分自身はITを推進する立場の技術者であり、技術士だ。そしてIT化を推進するのは、何かやはり社会的な課題を解決するためだ。良かれと思ってIT化をどんどん推進した結果は、当然今より良い世の中になっていて欲しい。しかし、そうとは限らないかもしれない。いわゆるAIやビッグデータが飛躍的に進展した場合に、日本や世界はユートピアになっているのか、それともディストピアになっているのか。そのような課題を解決する方法としてベーシックインカムが浮上していて興味を持ったのが経緯だった。

10年後には無くなっている仕事と残っている仕事

AIが進化すると今ある職業が奪われるという危機感を持つ人が多い。例えば10年後にはなくなっている仕事と残っている仕事などはよく報道される。どれが残って、どれが無くなるかは分からない。しかし、確実に言えることは、AIの進化で必要となる仕事と不要となる仕事が生じることだ。変化することは確実だ。その時に、合理化される仕事とは、それを自動化することでコストパフォーマンスの高い仕事だ。言い換えると中間的な難易度で量が稼げる仕事はターゲットになる。自動運転による公共バスなどはかなり普及しているだろうし、小売店のレジの自動化は当たり前になっているだろう。医者の業務でもレントゲンやCTスキャンから病巣を発見するような仕事はAIに取って代わるだろう。そして、残るのは、AIの活用を推進したり、企画したり、開発するようなより高度な仕事と、自動化する価値が低くかつ複雑な仕事は残るだろう。
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出典:https://ameblo.jp/ss1203hh/entry-12181395451.html

拡大する貧富の格差

中間的な難易度の仕事がAIで自動化されて、残る非常に高度な仕事を担当するのは、高いスキルと最新の技術と見識を備えた人材だ。当然報酬も高い。最近だと増大するビッグデータを的確に処理するデータサイエンティストになれば2-3千万円の年収も夢ではないと言われる。ベンチャーキャピタルも投資すべき案件を探しているので非常に魅力的な案件を開発すれば膨大な資金を調達して、開発や事業展開を進めることが可能かもしれない。しかし、問題はそのような仕事に従事できる人は少数だということだ。多分、全人口の1割もいらないだろう。数%の才能豊かな人材が頑張れば社会はさらに革新するだろう。

価値の低い仕事

非常に複雑だけど自動化の価値が低い仕事とはどんな仕事だろう。典型例は警備や清掃業、家事代行、マンション等の管理人だろうか。これらは下の図にあるように体力がピークをすぎた高齢者でも比較的頑張れば対応できる仕事だ。これ以外にも介護系の仕事はニーズが高いだろう。清掃ロボットや家事ロボット、警備ロボットなども開発され、それなりに普及されるだろうが、最後の仕上げやチェックはやはり人手には敵わないだろう。ただ、問題はこれらに対する評価が低く、報酬も低い点だ。
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出典:https://success-job.jp/senior/

現金給与総額の推移

一人当たりの月給が下がり続けている。1997年には平均37.2万円だったが、2012年には31.4万円まで低下した。現金給与がなぜ下がるのかと言えば、やはり非正規社員の増大が最も大きな要因ではないだろうか。
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出典:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/seirousi/dai2/siryo3.pdf

増大する非正規労働者

1990年には20.2%だった非正規労働者の割合は2012年には35.2%に拡大している。この流れは止められないものか。
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出典:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/seirousi/dai2/siryo3.pdf

性別・配偶関係別の非正規労働者数

非正規労働者で最も多いのは有配偶者の女性、つまりパートで働く主婦だった。1992年には約600万人だったが、2012年には784万人と1.3倍に増大した。最も増大したのは、無配偶者の男性だ。1992年の81万人から2012年の246万人へと3倍に増大している。有配偶と無配偶を含めた男性合計だと、1992年の234万人から2012年の526万人へと2.25倍に増大している。
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出典:https://www.jeiu.or.jp/report/topic/images/2019/navi67.pdf

不本意な非正規労働者の割合

下の表は、総務省の労働調査(平成27年平均)からの抜粋だ。この調査によれば315万人が非正規労働を不本意としている。比率で見ると、特に男性の比率が高い。最も高いのは45-54歳の男性で45.1%だ。ほぼ半分の人は不本意だと表明している。それは当然だろう。結婚して、子供もいればやはり家族の生計を担うことを期待される。いわゆる氷河期に正規社員になれなかった男性の悲鳴が聞こえてきそうだ。
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出典:https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/enmusubi/pdf/s3.pdf

増大するエンゲル係数

エンゲル係数とは、世帯の家計で消費支出のうち飲食費が占める割合だ。収入の増加に伴って食費支出も増えるが、総支出に占める割合が減少することをエンゲルの法則と呼ぶ。1945年の日本のエンゲル係数は60%を超えていた。しかし、高度成長に合わせて30%を切り、2005年には22.9%まで減少した。しかし、ここに来てエンゲル係数が増大している。いろいろ議論されているが、収入が低下すればエンゲル係数が反転上昇するのはむしろ当然なのではないかと思う。
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出典:https://news.livedoor.com/article/detail/16838676/

先進国の中間層とグローバルスーパーリッチ

現代は、残念ながら、富の再生産が十分に行われている時代とは言えない。世界の1%のグローバルスーパーリッチが世界の富の半分を独占し、さらに増大する。その一方で、先進国の中間層の成長率は落ち込んでいる。日本の中間層では減少している。購買力の源泉となるこの中間層の収入が落ち込めば、消費が低迷するのは当然だろう。より低価格な商品が売れ、結果的にデフレ懸念が進む。開発途上国の最貧困層も課題だが、経済の実態を考えると、先進国の中間層の落ち込みは深刻だ。それを下の図では「像の曲線」と呼んでいる。
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出典:https://www.slideshare.net/YosukeYasuda1/ss-123797079

貧困と隣あわせのアンダークラス

早稲田大学の橋本教授が電機連合NAVIに投稿した論文では、ちょっとショッキングな呼び方だけど、正規労働者よりも低所得なグループをアンダークラスと定義して、資本家階級や新中間階級、正規労働者、旧中間階級と比較している。アンダークラスの特徴的は年収の低さと平均労働時間の少なさだ。未婚率は高い、生活に満足している人の比率や、自分は幸せだと考える人の比率は低い。橋本教授は、「このまま放置するならば、日本社会には教育、住宅、医療、福祉、社会保障などあらゆる領域で、計り知れない困難が生み出されることになるだろう。個人の自助努力に任せるなら、悲惨な結果を生むのは明らかだ」と論じている。
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出典:https://www.jeiu.or.jp/report/topic/images/2019/navi67.pdf

突発性の貧困と慢性的な貧困

主査を担当頂く藤村教授からは貧困の原因を掘り下げるように宿題が出た。貧困の理由はなんだろう。調べると、「PHIL BARTLE」さんが貧困の5つの要因として、下の図のように整理していた。つまり、無知識と無関心、依存、不正直という精神的な問題と病気という肉体的な問題を列挙した。
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出典:http://cec.vcn.bc.ca/cmp/modules/emp-povj.htm

突発的貧困

これは私見だけど、貧困には突発的貧困と慢性的貧困があると思う。先の5つの要因で言えば、病気だ。家族の収入を担っていた人が病気で倒れたり、死亡した場合の家族への影響は非常に大きい。しかし、一時的に収入が落ち込んで、赤貧を舐めるような事態になったとしても、誠実に努力し、新しいことを学び、真摯に生きようとする人はその貧困から脱出する可能性が高いのではないだろうか。

慢性的貧困

やばいのは負の連鎖を立ちきれない場合ではないだろうか。負の連鎖を断ち切るのは大変だけど、そのためには貧困の5つの要素を解決する必要があるだろう。家庭内のDVや望まれない子供として育てられたケース、生まれつき病弱だったり、障害を持っていたりするケースもあるだろう。先の橋本教授が言うように、このような負の連鎖を断ち切ることができるのだろうか。
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出典;https://smile-make-smile.com/about/15/

教育の問題

親の収入と学歴の相関関係

下の図は、親の年収と高校生の進路についての調査だ。この調査によれば、大学への進学率と年収は非常に高い相関関係を示している。原因が年収で結果が進学率と見るべきだろう。負の相関関係を示すものが、年収と就職率だ。
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出典:https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00067/111200016/?P=4

親の収入と学力の相関関係

厚生労働省の報告書(2017年)によると、17歳以下の日本の子どもの相対的貧困率は13.9%だった。つまり、7人に一人は相対的な貧困状態にある。そして、ショッキングなのは親の収入が高いほど、学力が高いことだ。しかし、所得が最も低いグループに属しながらも上位4分の1に入った子供がいる。調査レポートでは、幼い頃に絵本の読み聞かせや読書を働きかけたり、毎朝朝食をとるなど規則正しい生活をしているという特徴が確認された。知的好奇心を持ち、感謝の心を忘れずに、親が諦めなければ、子供育つということだ。嬉しい結果だ。
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出典:https://cfc.or.jp/problem/

学校外諸活動の出費額の比較

下の図はベネッセ教育総合研究所が2013年に小学生の高学年の子供を持つ保護者に対する調査の結果だ。年収が400万円未満と、400-800万円と、800万円以上の3つのグループに分けているが結果は歴然だ。調査レポートにはないが、200万円以下や100万円以下では学校外諸活動に費用を出す余裕はないだろう。また、1000万円を超える世帯ではこんなレベルではなく学習塾に支払っているだろう。学習塾は2月に始まり、1月に終わる。小学校3年の2月に入学して、6年生の1月までの3年間を塾で過ごすような子供も少なくない。そんな子供にとっては、学校の宿題や試験や授業などすでに習ったことばかりなので、復習だ。優秀な生徒にとっては学校は退屈なものかもしれない。
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出典:https://toyokeizai.net/articles/-/179582?page=3

増大する奨学金

貧困の連鎖を断ち切ろうと頑張って子供を大学に進学させようとする。それ自体は悪いことではない。頑張って勉強して国立大学や6大学などで優秀な成績を残せば、企業から求められる人材になるかもしれない。しかし、大学に入れば幸せな人生が約束されたような時代ではない。有名校や学力の安い学校には生徒が集中する。当然、第二希望、第三希望の学校に進む子供もいるだろう。大学の授業料を払うためにお金を捻出しようにも、親世代の収入が少ないと奨学金を利用することになるのだろうか。下の図にあるように大学への進学率と同期するように奨学金の利用率が増大している。
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出典:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190205-00193052-dwdiamonds-bus_all

返還利率

銀行に定期で預金しても0.05%とか低金利だ。奨学金の金利はどうだろう。さすがに利率見直し方式だとかなり低金利だ。しかし、2007年に利率固定方式で借りた場合には、2%近い金利を払うのだろうか。当時、これほどの低金利になるとは予想できない。固定金利で借りた生徒も多いのではないだろうか。借り換えなどのサポートはしっかりしているのだろうか。
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出典:奨学金の利率算定方法を確認しよう | たかはしFP相談所

急増する奨学金の貸与額

自分が学生の時にも奨学金は活用した。その時には給付型の特別奨学金と貸与型の一般奨学金だった。金利もゼロだった。下の図の日本学生支援機構による奨学金の貸与額の推移だ。無利息の第一種奨学金は微増だが、金利をとる第二種奨学金は急増している。1998年には700億円だったものが、2008年には6500億円と9倍以上に増加している。しかも、経済的に頑張って大学を卒業しても、正規社員になれず、非正規で働くとしたら、残った借金を返済するのは大変だ。
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出典:https://f-shin.net/fsgarage/1019

まとめ

タイトルを10年後の希望と絶望とした。経営者や新中間層、さらには正規社員で活躍できる人たち、いわば勝ち組にとっては10年後の将来は明るいかもしれない。しかし、無理して大学に入っても、非正規社員だと奨学金の返済は楽ではない。乱暴に言えば、業界からカモにされているのではないかとすら心配してしまう。若者は夢を求めて、大都市に集まる。それは否定されるべきではない。しかし、2008年の東京大学の赤川准教授の調査では、下のグラフのように大都市や都市よりも、その他の地域の方が子供数の平均が大きい。地方の学校に行くと、子供の目が輝いていて、挨拶も元気にしてくれる。校長先生に聞くと、三世代家族が多く、しつけがしっかりとしていますという回答が多い。両親と祖父母と子供たちが一つの家族に住むことの有効性と必要性を我々日本人は見直す必要があるのではないだろうかと思う。
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出典:https://www.jeiu.or.jp/report/topic/images/2019/navi67.pdf

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。もう少し内容を精査すべきだけどご容赦ください。

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