読書感想:「日本人の脳力革命」脳梁の活用が鍵か。

はじめに

東京大学の総合図書館で図書を10冊ほど借りて読んでみた。そのうちでもっとも関心を持ったのが、久田成さんが書いた「日本人の脳力革命」だった。どこに面白さを感じたのか、少し感想をまとめてみたい。

中古で12,990円

ダイヤモンド社から出版で、初版が昭和59年1月20日だった。当時の定価が1,000円だ。しかし、Amazonで調べると流石に改訂版はなく中古品しかなかった。しかもその価格が12,900円という。ちょっとびっくりした。著者の久田成さんは、昭和11年生まれなので、元気なら86歳ぐらいだろうか。会社の大先輩で昭和11年11月11日生まれの富士暹さんと同年代だ。テレハウスアメリカの初代社長として創業時の苦難の時期を乗り越えられた方だ。話を久田さんに戻すと、昭和34年に関西学院大学を卒業し、内田洋行に入社し、社内の合理化などに尽力する。理系の側面と文系の側面を併せ持つ点に魅力を感じたのかもしれない。

脳梁をもっと活用しよう

著者の久田さんの主張はシンプルだ。「大脳の左右両半球を結ぶ約2億本の神経繊維=脳梁がある。この脳梁をもっと活用しよう!」とういことだ。一般に、左脳には論理的思考能力、右脳には豊かな感受性の能力があると言われるが、詳しく見ると日本人と欧米人では左右の分化に少し違いもあるようだ。言語や子音は左脳と音楽や楽器音は不能というのは共通だ。異なるのは、虫の音や母音、動物の鳴き声などを西欧人は右脳だが、日本人は左脳という。久田さんは学者ではないので、学術的に正確さや、仮説の検証などはしていない。思いつきで書いている部分も多いけど、読み物としては面白いと感じた。なお、脳梁を調べていると、脳梁のない分離脳の患者ではしばしば「エイリアンハンド」の現象が生じるという。つまり、右手でボタンをはめると無意識かつ自動的に左手がボタンを外すという。これは脳梁がないために生じる。我々の運動は、大脳の運動中枢からの運動指令と抑制指令が絶妙なバランスの下で成り立っているが、能力がなく、左脳の指令が右脳に届かないと、抑制指令が強くなって反対の動作をするようだ。面白い。

(出典:CHILD RESEARCH NET)

学ぶは真似ぶ

自分の仮説は、意識はもしかしたらこの脳梁と関連しているのではないかというものだった。この著書には、「人間が言葉を持たなかった時代には、大脳の左右両半球の分業は行われていなかったと推定しており、全ての問題に対して右脳的判断、すなわちパターン認識によって問題を感じ、論理的な考えるのではなく、反射的に解決してきたのであろう(p43)。」とある。意識は脳梁にあるかどうかは不明だけど、言葉は大脳の左右の両半球の分業が進む中で作られたものという点では意見は一致しているのではないか。そして、言葉は言霊という。言霊に意識が宿るのではないだろうか。

言霊

言霊とは、言葉と魂の組み合わせだ。ヘブライ語のカバラとの類似性がある。本来のカバラは、ユダヤ教の律法を遵守すること、あるいは神から律法の真意を学ぶことを目的としている。言霊は、日本の神話や神道、国学における概念だ。言霊は日本の武道の基本でもある。例えば、合気道は言霊を実践する最高の方法であるとも言われている。

日本版のロメオとジュリエット

この著者久田氏の面白い点は、日本の歴史と脳をダイナミックに組み合わせる点だ。例えば、p46には、「天津神(あまつかみ)と国津神(くにつかみ)の結婚の例は、ニニギノ命とコノハナノサクヤヒメとの結婚にもみられ、神話によれば、その曽孫が神武天皇となっている。(中略)対立している民族同士が双方のリーダの娘と息子が恋仲になることによって、その対立を解消するといったことも可能性としては十分に考えられる。」という記述がある。これが本当かどうかはもう少し検証が必要だけど、対立する2つの民族が存在し、片方の民族のリーダの娘ともう片方の民族のリーダの息子が恋に落ちるのはまるでロメオとジュリエットではないか。そして、その曽孫(ひまご)が神武天皇とは面白い!

まとめ

脳の話かと思えば、日本の古代の話にワープし、それがバラバラでもなく、それなりに連動している。学者が書く図書ではあり得ないこのダイナミックさがこの著書の面白さかもしれない。ただ、それだけに、著者の仮説や思いつきなのか、確認・検証されたものかはよく吟味する必要がある。ただ、考えるヒントにはなりそうな気がした。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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