はじめに
犬の歴史は人類の歴史と重なる。人間との信頼関係を築いた種が栄え、そうでない種は淘汰された。コロナ禍においてふれあいを求める人が増えているためだろうか、テレワークなどで在宅の機会が増えたためだろうか、コロナ禍で新たに飼われた犬猫が急速に増えている。世界規模でもペット市場は好調だ。今回は、そんな犬をキーワードとして、2回に分けて取り上げてみたい。
今回:犬の起源、犬の歴史、ペットの動向
次回:ペットの未来、AIPOのメリットと課題(明日の投稿)
犬の起源
チクシュループの衝突
犬の起源は、6,500万年前に起きた白亜紀-古第三紀の絶滅イベントの時期と考えられている。この時期に恐竜が絶滅し、最初の肉食動物が登場した。白亜紀末期には、直径10kmから15kmの小惑星であるチクシュルーブが地球に衝突した。その衝撃から鳥類以外の恐竜が死滅する一方で、多くの種の哺乳類が生き残った。生き残った理由は、穴居生活を習慣とする者がいたことや、冬眠・夏眠ができる能力があった者がいたことという説もある。大絶滅によって恐竜が絶滅したことは、哺乳類にとっては幸運なことだった。
(出典:Lecture)
アンドリュウサルクス
地球が落ち着くと哺乳類は一気に種も数も膨れ上がった。ネコやイヌの祖先であるアンドリュウサルクスなども約4,500万年前から3,600万年前にユーラシア大陸東部(現在のモンゴル)に生息した。サルは相変わらず樹上で生活していた。アンドリュウサルクスは原始的な大型肉食性哺乳類であり、蹄を持つ有蹄動物だった。推定体長は382cm、推定体重は180-450kgと巨体だった。特徴的なのは強靭な顎だ。他の肉食動物では手に負えない亀の甲羅や貝殻など大きな甲殻類を食していたという説もある。温暖な時期だったので、食料となる動物は豊富だった。しかし、約3,400万年前から約2,300万年前までの漸新世(ぜんしんせい)の時代には、北上を続けるインド亜大陸がユーラシア大陸の南岸に衝突し、ヒマラヤ山脈などの地殻の大隆起を引き起こした。ヒマラヤの本格的な造山運動とそれに先立つ噴火活動は、アンドリューサルクスが生息した地域の乾燥化を進めた。動作が鈍く、脳みそも少ない彼らは絶滅していった。約5500万年前から約800万年前に生息した鋭い牙を有する肉歯目(にくしもく)が肉食動物の新たなカーストを築き上げた。
(出典:アンドリュウサルクス)
先史時代の犬
犬の歴史は人間の歴史でもある。以前読んだ図書では、北方系の民族とともに北方系の犬が日本に移動し、南方系の民族とともに南方系の犬が日本に移動したと書かれていた。その前後関係などは、別途詳しく調べてみたい。日本列島では、少なくとも縄文時代早期の遺跡からは縄文犬が出土している。縄文中期には、体高45cm程度の中型犬が発見されている。縄文後期の犬骨は、千葉県船橋市の藤原観音堂貝塚から発掘され、復元した縄文犬は飛丸と命名された。体高40cmから42cmの小型犬で立ち耳、巻き尾といった柴犬に似た特徴を持っている。弥生時代になると犬の埋葬例は激減するが、墓に供えられた壺の中に犬の骨が入っていて、犬が人間の墓の供え物になっていた。長崎県の原の辻遺跡からは、食用に供された縄文犬と形質の異なる犬が出土した。
(出典:amazon)
アヌビス神
古代メソポタミアや古代ギリシアでは彫刻や壷に飼い犬が描かれている。古代エジプトでは犬は死を司る存在とされた。アヌビス神は、エジプト神話に登場する冥界(めいかい)の神で犬またはジャッカルの頭部を持ったと伝えられる。墓場の周囲を徘徊する犬が死者を守るという説や、ジャッカルや犬と似ていた絶滅種という説、想像上の動物がモデルとする説がある。
(出典:アヌビス)
ゾロアスター教では犬は神聖
エンメルカルは古代メソポタミア・ウルク第1王朝の王であり、ウルクを建設し、シュメール神話においては文字を発明したとされる。古代メソポタミアの時代の説話から、当時、黒や白、赤、黄、斑の色の犬が一般的だったと考えられる。古代ペルシア発祥の宗教であるゾロアスター教では犬は神聖とみなされた。イラン高原に住んでいた古代アーリア人が信仰する多神教をもとに、ザラスシュトラがアフラ・マズダーを信仰対象として創設したのがゾロアスター教のルーツである。ゾロアスター教には、善の神アフラ・マズダーと悪の神アーリマンという神もいた。善の神と悪の神の二元論を信仰していた。しかし、その後、ユダヤ教では犬の地位が下り、ブタとともに不浄の動物とされた。また、イスラム教では邪悪な生き物とされた。
ラサ・アプソ
ラサ・アプソは2000年以上の暦史のある古い犬種だ。もともとは山岳地方に住む土着犬だが、チベットの聖都ラサ市で僧侶に飼われ、人の死後の魂が宿る犬として神聖視された。アプソはヤギを意味するチベット語という説と、毛がいっぱいという意味のチベット語という説がある。チベットでは門外不出だったが、1930年頃にイギリスに持ち出されたあとは、欧米の人気犬種になった。気質は、快活で意外と気が強い。また、聴覚が優れ、雪山では雪崩の前兆を察知すると重宝される。同時に、警戒心も強いため、子犬の時の躾が重要だ。運動は室内で軽く散歩する程度でも大丈夫だ。中国の皇帝や皇族にラサ・アプソを貢物として献上する習慣があり、1908年ダライ・ラマが清朝最後の宣統帝を訪れるまで続いた。ラサ・アプソと中国の宮廷のペキニーズを混血して生まれたのがシーズーである。
(出典:ラサ・アプソ)
犬の語源
最古の漢字とされる甲骨文字にも「犬」が書かれている。犬は人間の感じることのできない超自然的な存在によく感応する神秘的な動物ともされ、死と結びつけられることも少なくなかった。漢字の犬の「`」は、犬の耳を意味する。中央アジアの遊牧民にとって犬は家畜の見張りや誘導に欠かせない存在だ。モンゴル帝国のチンギス・カンに仕えた側近中の側近たちは、四駿四狗(ししゅんしく、4頭の駿馬と4頭の犬)と呼ばれた。ヨーロッパ人に発見される前のアメリカ大陸では、犬は非常に重要な存在であり、猟犬、番犬、犬ぞりの犬などとして一緒に生活を共にした。
(出典:語源)
ペット市場
ペットケアの市場予測
犬や猫は人の心を和ませたり楽しませてくれる大切なペットだ。人と人の触れ合いが減少する社会において、人はペットとの触れれ合いを通じて、愛情を感じるのかもしれない。ペットが家族同然に育てられる「ペットの家族化」により年間平均支出額が増加しています。ペットケアの市場は、2018年時点で1,250億ドルなので、約13兆円ほどだ。その後も順調に増加すると予測されている。下のグラフは、Passportが発行する「THE WORLD MARKET FOR PET CARE」のレポートからの抜粋だ。
(出典:note)
成長するペット市場
下のグラフは米国のペット市場だ。ここ10年間で1.6倍に成長している。世界のトップシェアだが。2位は中国で急成長中だ。3位は日本だ。ペットの飼育世帯は、米国が約7割、日本が約3割、中国が2割未満なので、今後の中国の発展余地が高い。
(出典:strainer)
コロナ禍で飼われ始める犬猫
コロナ禍においては、テレワークやオンライン授業など在宅の機会が増えている。ペットを飼育している人にとってはペットと一緒に過ごす時間が増えている。あたらにペットを飼おうとする世帯も増えている。このため、2018年から2019年、2020年と新たに飼い始めた犬猫は増えている。また、より付加価値の高いペットやペット用品を買い求める傾向も強まっている。反面、経済的な問題からペットの飼育を放棄する問題も広がっている。ペットフード協会が2020年年12月に発表した「全国犬猫飼育実態調査」の推計によれば、1年以内に新規に犬を飼い始めた世帯は2020年で39万5,000世帯と前年比12%の増となった。新規世帯による犬の飼育頭数は14%増の46万2,000頭となった。
(出典:エコノミスト)
まとめ
犬の歴史を調べていてびっくりしたのは宗教との関係だ。古代メソポタミアやギリシャ、古代エジプトでは犬は死を司る存在とし、ゾロアスター教では犬を神聖化した。しかし、ユダヤ教では犬を不浄の動物し、イスラム教では邪悪な生き物としたという。つまり、犬を神聖視する文化は、ユダヤ教やイスラム教にはないが、チベットでは人の死後の魂が宿るとして犬を神聖視した。民族や宗教によって犬に対する味方が180度異なるのは新鮮な驚きであり、発見だ。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝
次回:マイクロチップで安全安心
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・マイクロチップAIPO
・マイクロチップ登録数の推移
・マイクロチップの課題と展望