はじめに
メタネーションという用語をご存知でしょうか?これは、自然エネルギーを活用して生成した水素(H2)と発電所や工場等で発生した二酸化炭素(CO2)を合成して、メタン(CH4)と水(H2O)を製造する技術だ。変換効率も従来の55-60%から85-90%に向上する技術も開発されている。カーボンニュートラルを実現するには、CO2の排出量を削減するだけではなく、CO2を蓄積したり、活用することが不可欠だ。環境省では、2050年を目標をカーボンニュートラルを目指しているが、これの有言実行は将来の日本のビジネスチャンスを広げるためにも必要と期待されている。エネルギー問題については過去にも投稿しているが、今回はメタネーションについて解説したい。
世界のエネルギー事情
世界の経済成長と電力消費量の関係
地球の温暖化が課題とされている。なぜか。それは世界各国の経済成長すると電力消費量が増大するためだ。下のグラフは、世界のGDPと発電電力量の関係だ。相関係数(R2)は0.9984と非常に高い数値を示している。生の相関関係があると言える。日本ではGDPの成長率は非常に低いが中国などの新興国を中心に経済成長が進めば、必然的な電力消費量が増大し、発電するためのエネルギーによりCO2の排出量が増大し、結果的に地球の温暖化が加速するという図式だ。
(出典:国際エネルギー機関(IEA)統計、2019)
CO2排出量の国別シェアと主要国のGHG排出量の推移
2017年時点の世界の二酸化炭素(CO2)の排出量合意系は約328億トンだ。国別に最も多いのは中国の28.2%であり、ついでアメリカの14.5%だ。インド、ロシアに続き、日本は5番目に多く全体の3.4%となっている。下の右図に示すように、2000年ごろまでは米国がトップで、インド、中国と続いていた。しかし、2000年ごろに中国がインドを抜き、さらに米国を抜き、2018年時点での温室効果ガス(GHG)の排出量では、中国は米国のほぼ倍となっている。
(出典:2050年に向けたガス事業の在り方研究会)
パリ協定に基づく国別貢献CO2限界削減費用推計
2015年にパリで開催された気候変動問題に関する国際的な枠組み「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意された協定(通称「パリ協定」)では次の2つの長期目標を掲げた。
1) 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
2) そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる。
日本も批准手続きを経てパリ協定の締結国となったが、日本は2030年までに2013年比で26%の削減をコミットする事態に追い込まれた。一方、世界の3割を排出する中国はGDP単位当たりのCO2排出量を2030年までに05年比65%余り削減し、GHGを実質ゼロにするカーボンニュートラルを2060年までに実現する努力目標を示すにとどまった。これでは世界的なCO2の排出量は減らないのではないかと疑念が残る。
(出典:2050年に向けたガス事業の在り方研究会)
メタネーションへの期待と可能性
水素需要の予測
一次エネルギーの供給量では石油が最大だったが、これを削減し、2030年以降は水素をエネルギーの中核にする計画が進んでいる。
(出典:日立総合計画研究所)
カーボンニュートラルメタン
カーボンニュートラル(carbon neutrality)とは、排出されるCO2と吸収されるCO2が同じ量であるという概念だ。CO2のカーボンニュートラルを実現するには、CO2の排出量を削減するだけでは不十分であり、CO2を吸収したり、蓄積したり、再利用する仕組みが不可欠だ。CO2を蓄積する技術やCO2を活用するとしてCCUSが期待されているが、適用できる場所や条件が厳しい。最近注目されているのは、メタネーションという仕組みでCO2を吸収しながらメタンガスを生成する方法だ。2050年までにガスのカーボンニュートラル化は実現されるのだろうか。
(出典:一般社団法人日本ガス協会)
メタネーションの仕組み
メタネーションとは、太陽光発電や風力発電をベースにして水を電気分解して、水素(H2)を製造するのが第一段階だ。特に風力発電では、発電場所と消費地が物理的に離れていると、送電のための仕組みや、送電に伴うロスが大きい。その点H2であれば貯めて移送することができる。そして、第二段階は工場や発電所などで生成されるCO2との合成だ。CO2とH2を合成すると水(H2O)とメタン(CH4)が生成される。そして、このメタンは天然ガスのインフラを活用して一次エネルギーとして活用することができる。
(出典:毎日新聞)
革新的メタネーション技術
このメタネーションにも技術革新が進んでいる。従来のメタネーションでは水の電解装置やメタンを生成するサバティエ反応装置で発熱するため、変換効率は55%から60%程度だった。しかし、SOECと呼ぶ個体酸化物を用いた電気分解装置を活用すると、変換効率が85%から90%に向上すると期待されている。水素の配送インフラはないが、メタンなら都市ガスのインフラを活用して家庭に供給することも可能だ。再利用エネルギーで水素を生成し、CO2を活用してメタンにしてエネルギーとして再利用するのであればCO2の削減にも貢献できるだろう。
(出典:IT Media)
メタネーションのメリットと課題
メタネーションは、CO2の削減、自然エネルギーの有効活用、都市ガスインフラを活用可能といったメリットが多いが、課題もある。現時点では、CO2の分離回収技術やメタネーションの生成プロセスのコストが高く、より安価で効率的な技術の開発が不可欠だ。
(出典:2050年に向けたガス事業の在り方研究会)
まとめ
CO2を削減するために、石炭や石油による火力発電の代わりに、自然エネルギーを活用すれば良いのではないかと考えやすい。しかし、エネルギー問題は複雑だ。太陽光発電は風力発電は自然のエネルギーなので不安定だ。電力を供給する場合には、需要と供給が常に同じ(同時同量)である状態を維持する必要がある。需要よりも発電量が多いと過剰供給となるし、それに対応しようとすると無駄な送電インフラを増強する必要がある。逆に需要よりも発電量が少ないと供給不足となるため、差分を埋めるために火力発電等のインフラを維持する必要がある。火力発電も常に一定の発電量を維持するなら効率的に発電できるが、自然エネルギの不足分のみに対応するのではコスト増になるというジレンマもある。しかし、自然エネルギーで発電した電力は、電池等に充電して、必要な時に必要な量だけ供給する方法や、水素を生成しておく方法であれば、今回投稿したようなメタネーションの仕組みを活用可能だ。今後の技術革新に期待が募る。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝