建設業界がホワイト企業に革新するための3つの方策。研修で気づきを得るのは講師の特権。

はじめに

昨日は、職長・安全衛生責任者のための2日間(14時間)研修講師の1日目だった。朝9時から夕方5時までオンライン研修の講師を担当した。安全研修の講師はこれまでも受けていたが、職長研修の講師は初めてであり、資料も頑張って作成した。研修を通じて気づいたのは、下請けの立場では元請や発注者の指示に背くことはできない仕組みだ。体育会系の文化が残る建設業界において働く職人や作業員の過重労働で困難を克服することが常態化していないか心配になった。身体的な安全や健康だけではなくメンタル面でのケアが必要なケースが増えているのではないか、それに対する方策は簡単ではないが、どのような改善策が考えられるのだろうかと思案してみた。

建設業界における死者数と死傷者数

建設業界の労働災害における死者数は、平成29年の199人から令和3年には140人に減少している。しかし、休業4日以上の死傷者数は平成29年の19,277人から令和3年には25,185人に増加している。死者数が約3割減少しているのに、なぜ死傷者数が約3割も増加しているのだろうか。2021年1月-3月の速報値を見ると、新型コロナ関連の死傷者が3,284人もカウントされていた。しかし、死者には新型コロナ関連はカウントされていない。これは、PCR検査で陽性判定を受けて、自宅や病院での隔離を受けたため、休業4日以上の死傷災害にカウントされたのだろう。幸い、新型コロナによる死者は出ていないので、死者数が3割も減少するのに、死傷者数が3割も増加するというイレギュラーな事態になったのだろう。PCR検査の陽性者と感染者を同義に扱うのではなく、明確に症状の現れている人を感染者とするべきではないかと思う。

(出典:厚生労働省

ブラック企業だったサイボウズ

サイボウズ社の2005年当時の離職率は28%だった。しかし、働き方改革を実践して、2015年の離職率は4%まで低下した。しかも、離職率が低下するだけではなく、売上高も2005年の30億円から2015年には70億円に倍増している。素晴らしい功績だ。いったいこれは何が起きたのだろうか。

(出典:サイボウズ)

ホワイト企業に革新したサイボウズ

サイボウズはかつては請負ソフトの開発を主にしていたブラック企業だった。なぜかと言えば、発注者のわがままに右往左往するためだ。要求仕様を追加したり、変更したり、発注を遅らせたり、納期を早めたりする。多少の無理を覚悟で受注しても、その後要求仕様が変わったり、前提が変わったりする。対応するSEは疲労痕ばいとなる。しかし、Kintoneなどのグループウェアが主力商品として立ち上がると状況が一変した。A社、B社、C社の要求をダイレクトに満足させるのではなく、クラウドサービスとして複数の顧客に提供して、それぞれの要求をサイボウズ社が分析、判断して、クラウドサービスのバージョンアップを行う。全てのクライアントが100%満足しないかもしれないけど、極めて合理的な判断から最適なバージョンアップを行うことで、クライアントの満足度向上を図る。同時に、開発の意思決定が自社内で行えるため、開発要員に過剰な無理をさせる必要はない。結果的に、100人に100通りの働き方を実現させながら業容拡大と従業員満足度の向上が可能となったのだと理解している。

受注生産の建設業界が脱皮するための解決策(案)

ソフト業界は、クラウド開発に軸足を移すことでブラック企業からホワイト企業に革新することができた。しかし、建設業界ではどのようにすれば、ホワイト企業を目指すことができるのだろうか。ここでは3つほど考えてみた。.

解決策1:プロアクティブな案件受注

企業や官公庁からの建設工事をゼネコンが元請けとなり、その土木工事部分や建物の建築部分、水道・ガスなどの配管工事、電力や電気通信の工事などを受注する立場では上意下達が基本であり、下請けが主導権を持つことが難しい。自社の独自技術をもち、企業や官公庁に提案して、受注していくと言うプロアクティブな提案活動と、これに基づく計画的に受注するようなことを志向したい。

解決策2:ICT活用

今日の研修でも受講生からICT建機の活用が増えているという話があった。危険な地形のダムの工事などでは無人の建機が活躍している。このような建設工事をパッケージ化して提案し、受注することができれば、前述のプロアクティブな案件受注に近づくのではないだろうか。また、さまざまなデータを蓄積して経営のノウハウを強化する取り組みも重要だ。

(出典:戸田建設

解決策3:プレ加工

プレキャストコンクリート工法とは、必要なコンクリート部材を工場で予め生産し、現場に搬入して、組み立てる工法だ。中国では部屋の内装を工場で行い、ブロック化したルームユニットを現場で組む立てることで短納期を実現していただけではなく、コストの削減、品質の向上さらには、環境への配慮も可能だ。予め想定した需要に対して、効率的に対応することができれば無理な工事を労働者に強いることも減少し、そもそも現場での工数を大幅に削減かのうだ。工場での作業はロボットを活用すれば効率的な生産と品質の向上が見込めるだろう。

(出典:外壁塗装の達人

今後の課題

プレキャストコンクリート工法は画期的な工法であるが、メリットだけではない。やはりデメリットもある。特に厳しいのが、規格外の対応が難しいことだ。全てを規格品にするのではなく、クライアントのニーズに合わせて、ある程度のカスタマイズを盛り込むことが必要だろう。それでも、全ての作業を現場で行うのではなく、工場で製造・組立を行うプレ加工は今後増加するだろうし、3Dプリンターの機能を使えば、より柔軟にクライアントのニーズに対応できるだろう。ただ、問題は、このような自動化や効率化が進むと、現場の作業員のニーズが減少することだ。人手不足が一方で叫ばれており、人手不足への解決策になると考えるならぜひ推進したいところだ。

(出典:外壁塗装の達人

まとめ

職長研修を受講する人たちは、皆建設業界の最前線で頑張っている人たちだ。その人たちの生の声を聞けるのは研修講師の特権だろう。また、2日間の研修の初日で気付いた部分で修正すべき点や反省すべき点は改善して、より良い後半の研修につなげていきたい。

以上

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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