災害に強い地域は、平時から人と場所と情報がつながっている―姉妹都市、神社、AIが示す新しい防災の可能性[第四弾]

はじめに

応急仮設住宅の量的側面と質的側面を深掘り、被災者に寄り添って課題を抽出した。それらに対して、何ができるのか、どのような対策が考えられるのかを思案した。まだまだ不十分ではあるけど、3つの対策案を検討してみた。

普段から使われている地域の仕組みを、災害時の支援にも活かせないだろうかという観点で次の3つを思案した。最初は少し大胆な発想かもしれないと思っていた。ところが調べてみると、これらのアイデアは、すでに各地で取り組みが始まっていた。これは嬉しい誤算だった。

  1. 姉妹都市を設定し、平時から交流し、災害時共助する。
  2. 神社や寺院を中心とする地域のつながりを平時から促進し、災害時に活用する。
  3. 平時から市民がAIを活用する環境を整備し、災害時にこのAIを利用する。

アイディア1:[姉妹都市] 平時の交流が、災害時の助け合いになる

2024年の能登半島地震では、島根県松江市が姉妹都市である石川県珠洲市を支援した。松江市は発災後の1月4日から職員3人を現地へ派遣し、食料品、飲料水、簡易トイレなどを届けた。両市は以前から姉妹都市として交流し、2012年には災害時の相互応援協定も結んでいた。

東日本大震災でも、東京都杉並区が南相馬市を支援し、杉並区と協定を結ぶ自治体が連携する「自治体スクラム支援」へと発展した。こちらは厳密には姉妹都市同士の事例ではないが、平時の関係を広域の支援網に育てた例といえる。災害が起きて初めて相手を探すのと、普段から連絡できる相手がいるのとでは、支援を始める条件が違うだろう。

遠隔地の自治体同士なら、同時被災のリスクを分散できる可能性もある。ただし、交流協定があるだけで支援が動くわけではない。連絡担当者、支援内容、避難者の受け入れ方法を確認し、平時から訓練や往来を続けることが大切だ。そして、こうした支援が被災者の安心感や生活再建にどれほど影響したかについては、さらに検証が必要である。

アイディア2:[神社・寺院] 地域の歴史を残すことが、防災にもつながる

日本各地の神社や寺院は、信仰の場であると同時に、祭りや行事を通じて人々が集まり、地域の歴史を受け継いできた場所でもある。大阪大学の稲場圭信氏・川端亮氏による2024年の自治体調査では、回答した1,143自治体のうち418自治体が宗教施設と災害時の協力関係を持ち、対象施設は2,999か所に上った。研究者らは全国では約4,500施設に相当すると推計している。これは確認された全国総数ではなく、調査結果からの推計値である。神社の立地と津波被害の関係を調べた研究もある。過去の経験が立地選定に反映されてきた可能性は興味深い。

しかし、津波で流失した神社も存在する。「神社だから安全」と考えるのは危険であり、実際の避難先にするにはハザードマップ、地盤、建物の耐震性などの確認が欠かせない。私が特に気になるのは、地域の神社が人口減少や担い手不足で維持しにくくなっていることである。歴史や祭りの記憶まで失われていくとしたら、何とも惜しい。そこで、発想を少し広げてみたい。

神社巡りや御朱印、地域の伝承を紹介するデジタルマップ、位置情報を使ったスタンプラリーやゲームなどを通じて、子どもから高齢者までが地域を歩き、歴史を知る機会を増やせないだろうか。神社の静けさや信仰への敬意を守ることは、もちろん前提である。さらに、平時は観光や地域情報のために使う通信設備を、災害時にも役立てる方法がある。栃木県日光市の「Nikko City Wi-Fi」は、世界遺産「日光の社寺」周辺にも整備され、大きな災害の際には接続手続きなしで利用できるようにしている。

ここで大切なのは、単にWi-Fiの機器を置くことではない。停電時の電源、外部回線の確保、設備管理者、維持費などを含めて考えなければならない。また、民間施設の電力や場所を公共目的で利用するには、所有者との合意と費用・責任の取り決めが必要だ。宗教施設への公的支援では、宗教的中立性への配慮も欠かせない。それでも、文化を守る活動と地域防災を結びつける余地は、十分にあるのではないか。

アイディア3:[AI] 必要な人に、必要な情報を届ける

災害時には、避難所、給水、医療、住宅、罹災証明、各種支援制度など、必要な情報が次々に変化する。被災者も支援する行政職員も、情報の多さに圧倒されがちだ。2026年7月の熊本地震では、デジタル庁が被災自治体などに生成AI「ガバメントAI 源内」を緊急提供した。9月30日時点の公表値では、148機関・団体の325アカウントが利用し、入力・実行は計1,305回に達した。災害情報の整理や行政業務の支援に、AIが実際に使われた例である。

また、熊本では避難者自身が生成AIを使って生活情報の共有サイトを短時間で作り、16万人を超える利用があったと報じられた。必要な情報を行政だけが発信するのではなく、住民が共有する動きも生まれている。私が期待するのは、AIが人間を置き換えることではない。例えば、支援制度を分かりやすく説明する、避難先の情報を整理する、相談を適切な窓口につなぐといった補助的な役割である。

特に、災害後には不安、遠慮、孤立など、表面には見えにくい心理的な問題がある。AIとの対話が相談のきっかけになる可能性はあるものの、被災者の心理的負担を実際に軽減できるかは、まだ十分に実証されていない。生成AIの誤回答、偽情報、個人情報の保護にも注意が必要だ。通信が途絶したり、スマートフォンを使えなかったりする人もいる。電話、紙、対面での支援と組み合わせ、人が最後に確認する仕組みが必要だろう。

[三つを結びつける] 人、場所、情報を平時から育てる

ここまでの三つの取り組みは、一見すると別々の話に見える。

しかし、共通する考え方がある。

  • 姉妹都市や交流自治体は「人と人のつながり」をつくる。
  • 神社・寺院などの身近な施設は「集まれる場所」を支える。
  • AIや通信技術は「必要な情報へのつながり」を助ける。

これらを平時から組み合わせておけば、災害が起きた際に、新たな支援の経路として機能する可能性がある。例えば、普段は神社の歴史を紹介する地域マップが、非常時には周辺の避難情報を確認する入口になるかもしれない。姉妹都市との住民交流が、避難者の受け入れや遠隔地からの支援につながるかもしれない。AIは、それぞれの拠点や自治体に集まる情報を整理する手助けができるかもしれない。もちろん、こうした連携が実際にどれだけ有効かは、まだ検証されていない。応急仮設住宅の供給や行政の正式な避難体制を、そのまま代替するものでもない。だからこそ、小さな地域で試し、使われ方や課題を確かめ、改善していく価値があると感じる。

[まとめ] 防災を特別な活動にしない

今回調べて意外だったのは、姉妹都市による相互支援も、宗教施設の防災利用も、AIによる災害対応も、すでに現場で始まっていたことだ。必要なのは、まったく新しい仕組みを一から発明することだけではない。すでに地域にある資源を見直し、平時の価値と災害時の役割を結びつけることではないだろうか。地域の歴史を訪ねる。離れた町の人々と交流する。新しい技術に親しむ。そんな普段の活動が、いつか誰かの助けになる。

災害に強い地域とは、施設や物資が充実した地域であると同時に、日常の中で、人と場所と情報がつながっている地域なのかもしれない。縄文時代の人骨を調べた研究では、暴力による受傷の痕跡が比較的少ないことが報告されている。日本列島は、古来から自然災害の多い土地であった。津波、台風、地震、火事、山崩れ、洪水。油断すれば、いつ襲ってくるか分からない。

山も川も海も、普段はおとなしいのに、時として荒れ狂う。そんな大自然を敬い、尊ぶとともに、災害時には皆で力を合わせて生き延びる。私は、そうした営みが長い歴史の中で繰り返され、日本人の助け合いの文化を育んできたのではないかと思う。周囲を気遣い、迷惑をかけまいとし、互いに協力し合う。そんな日本人の美徳も、自然と共存する長い歴史の中で培われてきたのかもしれない。

ただし、災害時には「迷惑をかけたくない」という遠慮が、必要な支援を受ける妨げになることもある。困ったときには助けを求め、余裕のあるときには誰かを助ける。助けられることも、助け合いの一部なのだ。そうした文化を大切に継承し、さらに発展させていきたい。災害時に皆で助け合って生き延びるだけでなく、平時にも誰もが生き生きと、楽しく、笑顔で生活できる社会を築きたい。心からそう願っている。


主な参考資料

本文中にも関連する出典へのリンクを付けた。以下は調査で参照した主な資料である。行政・研究機関の公表資料および原論文を優先し、報道資料は明記している。

[姉妹都市・自治体間の支援]

[神社・寺院と地域防災]

[AI・デジタル技術と被災者支援]

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