はじめに
小名木善行さんや有志が推進する結美大学をご存じでしょうか?「日本をカッコよく」と言うキャッチフレーズでYouTubeなどでさまざまなトピックについて語られる。その中でオンラインセミナーが5月14日に開催されると言うことで有料だったけどエントリーして、試聴した。期待以上の部分もあるし、残念な部分もあったけど、全体としては非常に面白かったので、興味深いと感じたことをネットや文献で裏取りしながら理解した範疇でまとめておきたいと思う。
小名木善行
通称はなぜか「ねず」さんだ。小名木 善行(おなぎぜんこう、1956年1月16日生)は東京都目黒区の出身で日本の歴史に対する素朴な疑問を日本の古典文学や原典を丁寧に読み解き、そこから得た独自の視点をYouTubeやブログなどで発信している。特に、下のブログを見ると見事に毎日投稿されている。しかも、その内容も日々新しくて、深い。素晴らしいと思う。
(出典:ねずさんの学ぼう日本)
縄文以前の話
そんな小名木さんのYouTubeを視聴していたら5月14日にクローズドなオンライン動画配信があるというのでエントリーしてみた。13時から休憩を挟みつつ16時までの3時間を使って、縄文を学ぶ意義や、縄文時代以前に日本にあった文明、縄文時代に発達した文明、これからの世界を啓く縄文文明などのサブタイトルでのお話を伺った。
興味深いと感じた点
シラス統治とウシハク統治
これは小名木さんの持論の一つだ。初めてこの話を伺った時には目から鱗の気持ちになった。日本は天皇が中心となる国体だ。民衆は天皇の大御宝(おおみたから)であり、その民衆が平和に暮らせるように権力者に統治を親任する。これがシラス統治という考え方だ。天皇は民衆を統治するのではなく、民衆の健やかな生活を祈る神道の最高神官という位置づけだ。また、時の権力者は権力を預かっているので、個人の利益で動くのではなく、民衆のために活動することが求められる。しかし、このような仕組み(国体)は日本独自のようだ。世界の国々はシラス統治ではなく、ウシハク統治だ。これはつまり、その国の最高権力者が民衆を統治する。
(出典:はてなブログ)
貧富の格差
パリ経済学院(Paris School of Economics)は、2021年12月27日に世界の富の分布について調査した世界不平等レポート(World Inequality Report)発表した。これは、世界5大陸の100人以上の研究者による国際的な共同作業に基づくもので2017年に始まり、1980年以降世界中で富裕層と貧困層の格差が拡大してことを警告した。ここでは、低所得層の財産は現金や預金であり、中間所得層は預金と不動産、富裕層の財産の40%から60%は金融資産であると指摘した。さらにフランスやアメリカの超富裕層は、全財産の90%から95%が株や債権で占めているという。世界不平等レポート2022では、国別の分析も記載されている。日本人に分かりやすいように円換算したものが下の表だ。一人当たりの財産で見ると、世界の平均は約1,000万円であり、米国は4,000万円、日本や韓国は2,500万円、中国は1,200万円だ。注目したいのは米国のトップ1%が14億円と日本のトップ1%の6.2億円の約2.2倍であるが、同時に米国のボトム50%が120万円と日本のボトム50%の295万円の約4割だった。つまり、トップ1%の財産とボトム50%の財産の比率が日本の212倍や、中国の238倍であるが、米国では1,100以上だ。
(出典:ニッセイ基礎研究所)
通貨の根拠
通貨は商取引のツールだが、問題はその通貨を信頼できるかどうかの根拠だと小名木さんは指摘する。その根拠はかつては希少性だった。元王朝では、塩を専売にしてその利益が国家収入の半分を占めていたという。そして、元王朝が発行する紙幣は金本位制ではなく、塩本位制とも言えるものだった(出典)。一方、ローマでは、ギリシャのデザインを参考にしながら、紀元前300年ごろに硬貨の鋳造が始まった。グレシャムの法則に沿って金銀の包含量が減少すると悪貨が良貨を駆逐する。このため遠征先の古代ローマのガリアから大量の金を略奪して対処した(出典)。金本位制は限界を迎え、現在はドルが世界の基軸通貨とする管理通貨制度に移行している。そして、これを支えているのが、米国の圧倒的な軍事力だった。米国に対する信頼感が根拠となっているという指摘だ。世界の軍事費は2017年のランキング(出典)によると、日本の4.67兆円、英国の4.87兆円、インドの5.44兆円、ロシアの4.75兆円、中国の17.3兆円に対して、米国は62.6兆円だ。懸念は米中のGDPがいつ逆転するのか、しないのかだ。三菱総研の予測では2027年には中国のGDPが米国のGDPを抜くという予測が出ている。GDPの逆転は軍事力の逆転を意味する。そして、軍事力の逆転は、基軸通貨が米ドルから中国の人民元、もしくはデジタル人民元に移るという可能性を示すのではないだろうか。
(出典:東洋経済ONLINE)
縄文以前の世界
島根県出雲市の砂原遺跡から発掘された石器は、11万年から12万年前の石器であると学術発掘調査団(団長・松藤和人同志社大教授)は報告している。また、群馬県みどり市の岩宿遺跡からは約3万年前の磨製石器が発掘されている。青森の大平山元遺跡からは世界最古とされる16,500年前の土器が発掘されている。つまり、縄文人は1万数千年前からとされるが、そのはるか昔から日本には人類が活動していたことになる。しかし、砂原遺跡の11万年前から12万年前という時期は必然かもしれない。
(出典:Seesaa BLOG)
10万年周期での寒冷期と温暖期
縄文海進や氷河期での海退については、以前投稿した。地球は10万年の周期で温暖化と寒冷化を繰り返していることが分かっている。そして、温暖期には海面が上昇(海進)し、寒冷期には海面が低下(海退)する。直近では約2.4万年前から約1.4万年前には海面の高さは今よりも100m以上低下した。100mも海退した世界を想像するには、小名木さんがよく使うGoogleマップを見るのが一番だ。そして、注目したいのは今から11万年前から12万年前は温暖期で海面は現在とほぼ同じ水準だった。つまり、出雲の砂原遺跡に住んでいた人は、温暖化時で当時の出雲海岸近くに住んでいた人類ではないか。しかし、その後は徐々に寒冷期に移る。最大で100mも海面が下がるということは、広大な浅瀬が広がり、活動の場所もどんどん北上したはずだ。寒冷期には日本海は内海となり、浅瀬も多いため、太陽の光が海底まで届き、プランクトンが発生し、豊な漁場だっただろう。しかし、100m以上も海退が進んだ1.5万年前からは一気に海進が進んだ。いわゆる縄文海進だ。わずか1万年の間に100mも海面が上昇するという環境変化を乗り越えたのが縄文人と言えるのではないか。平均すれば毎年1cmの上昇かもしれないが、毎年毎年海面が上昇する。それまで生活していた場所がどんどん海に飲み込まれる。この恐怖は想像を絶するものだろう。
(出典:Jamstec)
縄文海進と海退
氷河期の海面が今より100m以上低くかった時代から、約7,000年前には今よりも2〜3°Cも高い温暖な時代に変遷した。当時の海の高さは今よりも3〜5mも高かった。今の関東でいえば、千葉は島だった。埼玉は大宮が入江だった。両国や荒川などは全て海の下だ。霞ヶ関などの高台はかろうじて陸地だが、九段下などは海面下だろう。埼玉では川越にまで海が迫っていたと考えられている。徳川家康が豊臣秀吉から関東の整備を任じられた頃はまだまだ湿地が広がる広大なエリアだった。下の図は以前の投稿でも引用させてもらった関東平野の変遷だ。温暖化が進めば下の図(右)のような地形になる可能性は否定できない。
(出典:茨城県霞ケ浦環境科学センター)
縄文人の高い文化
漆は縄文時代から利用されていた。下の図は、若狭町鳥浜の鳥浜貝塚で1961年に発見された遺跡だ。縄文時代の約1万4,200年前から約5,600年前までの遺跡だ。低湿地のため植物質の遺物が非常に良好な状態で残っていた。発掘時にも漆の効果で見事な色だったが、大気に触れて見る見るうちに変色したようだ。これを1万2600年前の最古のウルシの木と同定した鈴木三男東北大名誉教授(考古植物学)はこんな古い時代にウルシが日本で使われていたことに驚かれていた。漆は、土器の接着・装飾に使われているほか木製品に塗ったり、下の図のようにクシなど装身具に塗っていた。北海道函館市の垣ノ島遺跡からは約9,000年前の漆塗りの副葬品が発掘されていて、これが世界最古の漆塗り製品とされている。なお、弥生時代の遺跡からは漆製品の出土は少ないが、武器への漆塗装が見られ、古墳時代は棺を漆で塗装した漆棺が発掘されている。
(出典:毎日新聞)
まとめ
小名木さんの3時間の講演では、さまざまなお話を伺うことができた。初めて聞くトピックもあれば、すでに拝聴していたトピックもあるが、リアルタイムで聞けたのはよかった。チャットも用意されていたので、質問にも答えてくれるかと期待したが、それがなかったは残念だ。双方向性を活かさないのであれば、後から動画を見た方が効率的だからだ。なお、昨日は東京大学の総合図書館で取り寄せた図書でも読みながら小名木さんの講演を聞くつもりだったけど、5月14日と15日は五月祭が開催されていて、総合図書館は閉鎖していた。若い学生が各地にテントを張って、バザーをしたり、ステージで踊ったり、歌ったりしていた。オンラインでもリアルでも楽しめるハイブリッド型の学園祭だ。ちなみに本郷三丁目の駅前のドトール珈琲農園にはコンセント付きの席が用意されている。コーヒーが550円と高いけど、3時間以上滞在させてもらって、小名木さんの講演を無事オンラインで拝聴することができた。ありがとうございました。
(出典:東京大学)
以上
最後まで読んでいただきありがとうございました
拝
P.S. アイキャッチ画面は『地球温暖化「縄文海進地図」は「未来予想図」か』から引用させて頂きました(出典)。