脳型情報処理機械論10-1:予測符号化と能動推論を活用してロボットの心と技を高める。

はじめに

國吉教授の脳型情報処理機械論も今週の10日の講義で10回目だ。今回は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の谷淳教授を招聘して、「予測符号化と能動推論によるロボットの心」についての講義だ。きっと熱い講義になるのだろう。沖縄から来るのは大変だけど、オンライン授業ならZOOMで参加すれば良いので谷教授にとっても効率的だ。今回は、そんな講義を受ける前の予習をしておきたい。

その1:講義の予習(⇨ 今回の投稿)
その2:講義の概要(次回の投稿

講師は谷淳教授

早稲田大学、ミシガン大学、ソニー、東京大学、理研、韓国科学技術院、沖縄科学技術大学と着実にステップアップされている。現在の研究テーマは、ニューラル・ネットワーク・モデリング、心理学、現象学、複雑適応システム、認知ロボティクスなどだ。オックスフォード出版から「Exploring Robotic Minds(ロボットの心を探る)」を世に出している。なんとなくユーモラスな感じがする。
1981年:早稲田大学理工学部機械工学科卒業
1988年:ミシガン大学工学部電気工学科と機械工学科で修士号取得
1990年:ソニー・ラボラトリー(東京)入社
1997年:東京大学大学院工学系研究科客員准教授(2002年まで)
2001年:理化学研究所脳科学総合研究センター行動・認知研究チームのチームリーダー(2012年まで)2012年:韓国のテジョンにある韓国科学技術院の電気工学科正教授(2017年まで)
2018年:沖縄科学技術大学院大学正教授

(出典:OIST)

OISTとは

沖縄科学技術大学院大学(OIST:Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University)は、沖縄に設置された5年一貫性の博士家庭を有する大学院大学だ。リザンシーパークなどのレジャーホテルが並ぶ沖縄中部の恩納村に本部を置く。こんなところで学業や研究に専念できるとはまるで学者にとってのパラダイスだと思う。優秀な教授陣が集まっていて、研究の質も高い。2019年には、質の高い論文数で世界の研究機関をランキング付けするNature Indexにおいて、東京大学が40位だったが、これをぶっちぎり、世界9位と評価されている。素晴らしい。神経科学、数学・計算科学、化学、分子・細胞・発生生物学、環境・生態学、物理学、海洋科学に大別される7分野で学際的な研究を行っている。

(出典:Google Map)

予測符号化原理でロボットの心を探る

今回の講義のメイントピックは「予測符号化と能動推論によるロボットの心」だ。谷教授は過去20年間、予測的コーディングと能動的推論をロボットの認知構造の開発に取り組んできた。予測符号化の原理では、外界に積極的に働きかけるトップダウンの意図と、その結果として生じる予測誤差を伴うボトムアップの知覚的現実との間に、激しい相互作用が生じる。谷教授は、最小限の自己や物語性のある自己など、何らかの概念化を可能にする構成性が、ニューラルネットワーク・ダイナミクスに適用される複数の時空間スケール特性などの制約による下向きの因果関係の結果として、反復的な相互作用を介して出現しうることを発見した。また、異常な発達が自閉症スペクトラム障害(ASD:autism spectrum disorders)や統合失調症などのいくつかの発達障害を引き起こす仕組みを、トップダウン・ボトムアップの相互作用の異なるタイプの失敗によって説明することにもトライされている。

(出典:IEEE

研究分野

認知的ニューロ・ロボティクスに関する研究

谷教授は、認知エージェントが、世界との反復的な相互作用を通じて、どのようにして構造的な表現と機能を発展させることができるかを調べられている。このために、予測符号化や能動的推論のフレームワークに類似した様々なモデルを研究されている。そのような研究成果を2021年10月6日と7日にZOOMで発表されていた。これは聞きたかった。残念。

(出典:OIST)

一般知能を目指したニューロ・ロボティクス

谷教授は、ニューロ・ロボティクスに適用されるリカレントニューラルネットワークモデルを用いた予測符号化や能動的推論などの研究を進めて来られた。最近は、1つはピクセルビデオ画像とヒューマノイドロボットのプロプリオセプションの連想・統合学習や、予測符号化にインスパイアされた変分ベイズRNNモデル(PV-RNN)の開発を進められている。これらモデルを用いた予測符号化とアクティブ推論のアイデアを探求されている。ロボットと人間だけでなく、ロボットとロボットのインタラクションに関する一連の実験なども興味深い。これからはロボットと人が協調するだけではなく、ロボットとロボットが協調しながら新たな作業を遂行するような時代に向かっているのかもしれない。このような相互作用のためには、人間がロボットの意図や自由意志をどのように感じるのかを研究する一方で、ロボットが人間のためにどのようにそれを行うかも検討されている。

(出典:OIST

IS4SI 2021

国際情報学会(IS4SI:International Society for the Study of Information)が2021年9月12日から19日までオンラインで開催された。議論の内容は公開されている。持続可能な情報社会のための国際研究所は、このサミットの組織委員会に参加した。創発システムグループは、デジタル・ヒューマニズムとしてグローバルな課題の時代にデジタル化をいかに形成するかというワークショップ(DIGHUM:digitalisation in the age of global challenges)と「情報学における理論的・基礎的問題」という会議(TFP:Theoretical and Foundational Problems)を主催した。

(出典:GSIS

自己・意識・自由意志

谷教授は、自己意識(the sense of self)、意識(consciousness)、自由意志(free will)に関する主観的経験を合成ニューロ・ロボティクス研究によって統合的に理解することを目指している。中心的な議論は、自己意識が意識的に認識されるのは世界についての積極的な見方をして行動するというトップダウンの意図と、その行動の知覚的な結果との間にギャップや矛盾が生じたときというものだ。このギャップや予測エラーを最小化するための努力は、自己と外界が分離した存在であるという意識的な経験を生み出すはずである。一方で、無意識的な自己意識は、葛藤がなくすべてが順調に進むときの代理感覚(the sense of agency)の背景として働く。このように、現象的な意識がシステムの機能的側面によってある程度説明できる可能性があると考えられる。

(出典:OIST

予測エラー最小化(PEM:Prediction Error Minimization )

予測処理の知覚観では、エージェントは常に能動的に感覚刺激を予測しており、エージェントは常に積極的に感覚刺激を予測しており、予測された感覚入力から逸脱する予測エラーのみがボトムアップで処理されると考えられる。予測誤差は、トップダウンの予測に対する正しいフィードバックとなり、学習を促進する。知覚はトップダウンでの情報の流れであるが、感覚情報はボトムアップの流れであり、予測エラーを改善すると考えられる。コアとなる脳の機能の中心はこの予測誤差を最小化することであり、このプロセスをPEM(Prediction Error Minimization)と呼ぶ。一般的にPEMは、多くの機械学習アルゴリズムで使用されているスキームで、望ましい出力とネットワークが生成した出力との誤差を最小化するように多くの機械学習アルゴリズムが機能する。PEMのさまざまな戦略は、人工的なエージェントの知覚や行動制御のモデルに使用されています。

(出典:arxiv)

予測型複数時空スケールRNN(P-MSTRNN)

動的視覚のための予測符号化には、複数の時空間スケールを持つRNNモデルにおける機能階層の展開が有効だ。これをここでは、Predictive Multiple Spatio-Temporal Scales RNN(P-MSTRNN)と呼ぶ。このP-MSTRNNモデルの特徴は、神経ユニットのダイナミクスに複数の時空間スケールが課せられており、それを通じて模範例からの学習によって適切な時空間階層が発達することである。予測符号化による動的視覚の実現を複数の時空間スケールを持つRNNモデルにおける機能的階層で実現するという考えだ。階層的に定義した動作シンタックスに従って生成された全身の人間の動作パターンを学習する実験を行った。学習されたモデルを解析することで、動的な神経活動においてどのような時空間階層が形成されるのか、また、誤差最小化原理を用いてどのようにロバストな動作パターンの生成・認識を行うことができるのかが明らかになる。空間認識が可能になれば人間と協調したロボットや、ロボット同士が協調した作業などにも貢献できると期待される。

(出典:OIST

まとめ

谷教授の研究は実践的な気がする。実際にロボットを開発したり、研究したりするというよりは、その応用能力を高めることにあるような気がする。いわばユースケースを掘り起こし、ユースケースの成功事例を積み重ねることで、ロボットと人間の協調やロボットとロボットの協調の作業モデルが見えてくるのではないだろうか。期待感しかない。

以上

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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